記憶の中の父親は
「大丈夫……じゃなさそうじゃの」
ガイア村に戻ったら、キプリオスのじいさんに真っ先に心配されてしまった。
「うん、ちょっと想定外の事が起きてね」
ペトロニウスまでやって来た。
「『父親殺し』……!では、最後の拠点にいるのは……」
ああ、『共感』で筒抜けなんだったっけ。
「僕の血縁上の父親、リヴィウス・コンスタンティンだろうね」
「……カイン!」
俺は直後にストラトスに捕まって元『執務室』に連れ込まれた。
キプリオスのじいさんとペトロニウスまで付いてきて、俺を囲んで凄まじい威圧感を出す。
「何も家族を殺す必要は無いんじゃぞ!」
「そうだ!」
「家族や同胞を奪われた私達だからこそ、あえて言わせて貰う。そんな必要は何処にも無いのだ!」
『なあ、カイン。オマエにとってリヴィウスは家族?』
『いや……そう言えば俺には父親が存在していたのだな。俺の家族はデボラの母上とディーンだけだと思っていた』
「僕にとっての父親は2才児を襲って顔に一生消えない傷痕を残すような男じゃないよ」
……仕事で忙しいのに、ヘトヘトに疲れているのに、休みの日にあちこち連れ出してくれて。何度学校に呼び出されても、一度だって手を上げたりせずに辛抱強く俺を諭してくれた。俺が小学生の時に描いた似顔絵を、マジで恥ずかしいから止めて欲しかったのに、いつまでも壁に額縁に入れて飾っていて。財布をあさったら下手くそ極まりないひらがなの『かたたたたきけん(原文ママ)』が入っている。
本当にバカじゃねえのって今でも思う。俺はどうしようもないムカつくクソガキだったのにさ。……で、最後に焼け跡で見つかった時には、母親の体を庇うように、覆い被さるように死んでいたって。
『優しい、良い男だな』
『だろ?でももう二度と会えない』
『ああ。地獄のどん底にいる俺達が、天国の住人と会える訳が無い』
「心配してくれてありがとう。でも僕はあくまでもヤヌシア州の執政官で貴族だ。一族の名誉のためなら父親であろうと殺さなきゃいけない。それが貴族と言うものだから」
取りあえず真意でも無ければ嘘でも無い事を言うと、3人とも黙ってしまった。
「僕よりも今日、奴隷からやっと解放出来たみんなの手当てをしなきゃ。……僕はもう間に合わないけれど、彼らは間に合ったからね」
俺達にとっての父親はリヴィウスじゃない。
俺にとっては焼け死んだ親父だけだし、カインにとっては存在さえしていなかった。
とは言えそんな俺達の裏事情をぶちまけたって混乱を招くだけなので、最優先事項を持ち出して俺は3人を宥めたのだった。




