哀れなる未使用
やっぱりと言うべきか。
まだ大規模な攻囲にはなっていないけれど、攻城戦は秒読みだ――と考えたのだろう。
医療品や消耗品がらみの物資がたっぷりと積まれていた。
有り難く貰っていきますね、では。
それと――総督のルキッラ様とボイオン大公へ。
ごめんなさい!
マジでごめんなさい!
本当は不正横領されたであろうこの品々を返しに行くべきなんだろうけれど、後で土下座しますから今だけは見逃して下さい!
『残るヤツらの城外の拠点は3つか……』
「実は、偵察に出ているエルフから奇妙な『共感』が来ている」
作戦会議中。
ペトロニウスが眉根を寄せて、言い出した。
「どんな異常を見付けたのだ?」
と訊ねたストラトスに、ペトロニウスは首をかしげながら言う。
「我らエルフ族の女子供は奴隷にされるだろう。そしてニンゲン共に監禁されて虐げられていた……と言うのがこれまでの普通だった」
『まあ、見た目がおしなべて良いから……さぞや楽しめるだろうな』
『カイン、大根欲しい?何百本でも用意するよー』
「それが、逆なのだ。エルフ族の男が監禁されて虐げられていて、女子供は外で過酷な労働をさせられている」
ネフェリィが詳しく説明すると、
「何じゃそりゃあ?」
「はっ?」
キプリオスのじいさんもストラトスもポカンと口を開けた。
「更に言うなら、オーガもドワーフもいない。魔幸薬の生産やその他の酷い労働をさせられているのは、エルフ族の女子供だけなのだ」
「何それ……まるでエルフ族の男が大好きな……」
そこまで言いかけて俺達は気付いた。
エルフ族の男も、やっぱり見目が大変に麗しい。
男好きな人間ならたまらないような容姿をしている、と思う。
『……ジン、あの女だ』
『……うん。ほぼ、確定』
「……中にいる元・貴族の1人を、僕は知っているかも知れない」
「「「「なっ!?」」」」
「僕の大事な婚約者を、一度自殺を試みるまで追い詰めた、笑顔が汚くて性格はもっと汚い女です」
作戦会議が終わって、出陣の準備をしていると気まずそうな顔をしたペトロニウスが俺に近付いてきた。
「その……カイン。貴様には婚約者がいるのか」
「うん。僕には勿体ないような素晴らしい人だよ」
闇ンデレ系の恐怖の爆弾女とは言わないでおく。
普段は完璧な貴族の令嬢をやっているのに、俺が絡むと突然謎のリミッターが外れるし、俺への愛が超重たくて時々しんどいけれど……でも彼女を信頼しているからさ。
『何より処女だしな』
『大根くらえ!』
「……その女を、好いているのか?」
「大好きだけど、義父予定が恐ろしいから手を繋いで踊るのが精一杯なんだ」
「義父予定が」
「娘命な人で、僕を睨むし隙あらば殴りかかってくるから……」
「殴ってくるのか」
「彼女の弟も極めつけのシスコンだしね」
「極めつけの」
「それでもどうしようもなく好きだから、僕の全面的な敗北だよね」
「まさかとは思うが……ネフェリィには、その、手を出していないのか?」
「手?ネフェリィに手を出したら、邪魔だってはたき落されそうだ。怖いね」
『ジン!貴様、また知力が!バカ!』
「いや、そう言う意味では無くて、無理矢理にネフェリィの純潔を奪って虐げたのではと」
何故か俺の脳裏に――不意に――オリンピア嬢に惨たらしく処刑される俺の哀れな末路が浮かんだ。
「……どうしてそう考えたのか聞いても良い?」
「ネフェリィが行方不明になって急に戻ってきた後、カインの命令に嫌々ながらも従っているから」
『そうだな、普通はそう考えるな。まず魔剣に支配されていると思いはすまい』
俺はとうとう顔が引きつるのが分かった。オリンピア嬢に拷問☆ぶち殺♡される俺の結末が見えたから。
「それは、その、そう、闇属性の魔法をちょっとかけてあるだけで……僕は未使用だからね!?未使用じゃないと婚約者と婚約者の弟と義父予定が僕に何をするか本当に分からないんだよ!?」
「……未使用だったのか」
「何、その哀れみと同情の混ざった視線!?」
「いや……何でも無い」
『大根に拘るからだ、このバカめ』
『やかましいいいいいいいいいいいいいい!!!』
エルフ族って、悪魔みたいに酷い連中だと思った。
俺の『未使用』と言う非常にプライベートかつセンシティブな情報を、一瞬で『共感』して情報共有しているんだから。
ガイア村の中を歩く俺に突き刺さる哀れみと蔑みの混じった眼差しが辛い。
「可哀想」
「うん、可哀想なニンゲンだ」
「まだ若いのにな……」
謂われも無い誹謗中傷の所為で、とても泣きたい。
まだ若いのにな……ってあり得ない理不尽だし意味不明だ。
『謂われはあるじゃないか』
『うるせえ。大根投げるぞ!』




