だから不法投棄は反対なんだ!
越冬のための備蓄問題も勿論あったが、拠点を陥落させて消し炭にした後、俺達はしばらく身動きが取れなかった。
思っている以上に大勢の人質が解放されたのと、彼らの健康・栄養状態が死にかける一歩手前だったから、その手当てに追われたのだ。
医療品も運んできた荷物の中に沢山入っていたから間に合ったが、もし次に狙う拠点がこのような場合だったらと想定すると……不安が生まれる。物資は無限じゃないし、越冬のために貯蓄を取っておく必要があるからだ。せめて汚れていない布だけでももう少し余裕が欲しいって事で、俺達は『現地調達』に赴いたのだった。
『略奪』とか『戦場荒らし』とか一般には言うけれど……こ、これだって間違いなく補給の一種だからな!
ごめんなさい。
「オリュンポス城への補給線は、どこもかしこもあの男が率いる軍隊が完全に抑えているようだ……」
偵察に出て貰ったエルフ達からの『共感』で情報を集めて、ペトロニウスは地面に描いた地図に次々と×を付けていた。
「この街道も、この川沿いの道も、ここの獣道もか……うん、全部だね」
俺は想定通りだったので頷いた。
「まさか……あの男が率いる軍隊の補給物資を奪うつもりか?」
ストラトスが複雑そうな顔をしている。
「それは違うよ。そんな事をしたら今度こそ命が無い。僕達があくまでも狙うのは――アイツらの物資だけだ」
じいさんがため息を吐いて、
「だったらどうするんじゃい。思い切って最後の拠点を襲うのか?」
「1点だけ……カルス大公閣下が見逃してしまっている補給線がある」
俺が指摘すると、
「そんなものが、何処にあるんだ?」
ストラトスが怪訝そうに足下の地図と俺を交互に見つめた。
「州都テーバーイからオリュンポス城を繋いでいる小道だよ」
『オーガ共と俺達が出くわしたあの道だな』
カインの言う通りに、俺達がストラトスに出くわして、そのまま拉致して貰ったあの道である。
「まさか……!」
ペトロニウスが目を見張った。俺は頷いてみせる。
「あのボイオン大公でさえ掌握仕切れていないくらい、テーバーイの州庁の中にも相当な数の内通者がいる。彼らが州都の物資を勝手に盗んでオリュンポス城に届けたとしても、何もおかしくはないでしょ。しかも表向きはカルス大公閣下への物資輸送中だと言えば、誰が疑う?」
ちなみに、本物のマリウス卿への物資かどうかの見分け方は簡単である。
俺が風呂に入って髭を剃り、あらかじめ綺麗なまま保存しておいた貴族の服やマントを羽織って、一番綺麗な鎧を着て行く。勿論、ストラトス達には鎧を着せて一見はガタイが良いだけの兵士に見えるように見せかけておくのだ。
で、荷駄部隊を後ろから追いかける。
馬がいないのはどうしようも無かったので、闇魔法を発動させて、派手な演出で誤魔化した。
これははったりで虚仮威しなので、度胸と演出が9割を占めているのだ。
「そこの者共、待て!今先ほどにテーバーイの州庁に盗賊共が押し入ったのだ!盗品が紛れていないかの検閲を行う!」
俺の貴族としての外見、かつ魔法が使えるって事で、正規の部隊ならあっさりと調べさせてくれた。
丁寧に調べる振りをした後で、
「貴君等の協力に感謝する!」
それに、後ろめたい事が無いので、正規部隊は真夜中じゃなくて昼間に移動するしな。
「……あれ、どう思う?」
月が僅かに光っている夜中。物音をできるだけ殺しているが、それでも馬の足音や車輪のきしむ音が辺りに響いている。
俺達は木陰から――これから俺達の目の前を通過する荷駄部隊を観察していた。
「怪しいな。こんな真夜中に移動させている時点で……」
「真っ黒じゃな」
「どうする、いつもの手を使うか?」
密かに相談していたが、
「っ!」
『あのバカ面は……!』
俺達は驚いた。その荷駄部隊を率いている男を知っていたからだ。
「いや、その必要は無いよ。あれは闇よりもどす黒い黒です。手筈通りに、襲おう」
樹上にいたエルフ達が器用に灯りだけを撃ち抜くと、辺りは一瞬で闇に覆われた。
「な、何だ!?」
「襲撃か!?」
声を出さない方が良いよー、目が闇に慣れたオーガ族にぶん投げられたくなかったら。
「とにかく、灯りを!」と叫んだ男の背後から俺は、ポン!と肩に手を置いた。
「久しぶり!元ロムデッサン伯爵令息のミロン君、元気だったかな?」
「――うわああああああああああああああああああああああああああっ!??!!?」
ミロン君の炎魔法が闇を明るく照らした。
四方八方をオーガ族の巨躯と俺に囲まれたミロン君のあまりにも可哀想な現状も照らし出した。
「ひっ……!ひいいいっ!!!」
「やっぱり君もそっち側だったんだね。残念だよ。君には個人的な恨みは無いけれど……」
俺以外の全員には積もり積もった恨みがあるんだよねー。
それと、ヤヌシア州を不法投棄の現場にしないで欲しい。重大な犯罪だからな?




