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 私、アイリス・ハートラルには見た目が瓜二つな金髪碧眼の双子の妹リリスがいる。

 ただし、似ているのは見た目だけで中身は正反対で、全てにおいて内向的な性格の私と違い、リリスは派手な事をするのが好きな社交的な性格である。

 ただ、それだけなら別に今時の令嬢と変わらないから問題ないと思われるが、リリスはそれに加えて他の貴族令嬢と揉めたり、結婚前なのに貴族令息と遊んだりとかなり問題を起こしているのだ。

 そのせいで、リリスには現在どこからも釣書はきていない。

 しかし、本人は全く気にしていない。

 なぜなら、本音で言っているか怪しいが、ずっとこの伯爵家で両親や兄の側にいると言ってるからだ。

 そうなると両親や兄は迷惑ではと思うのだが、その逆でむしろ喜んでいるのである。

 もちろん家族は最初はリリスに怒っていたが、ある時期から怒らなくなったのだ。

 更にリリスは人の懐に潜り込むのが上手く、迷惑をかけられているはずの家族は今では面倒だと思うどころか溺愛しているのである。

 それは、本来、私にくるべき家族の愛情をも全て持っていくほどである。

 リリスはあろう事か自分を持ち上げて私を落としたり、問題が起きても私の所為にする為、私はいつの間にか家族全員から嫌われてしまっているのだ……。

 しかも、半分いないものと扱われほとんど幽霊扱いである。

 そんな、幽霊の私にある日、フランクお父様から応接間に来いと呼び出しがあったので向かうと、応接間にはなぜか私以外の家族全員が集まっていたのだ。

 そして私が来ると同時にお父様が言ってきたのだ。


「リリスが妊娠した」


「えっ……」


 私が驚いてリリスを見ると何故か私の方を向き不敵な笑みを浮かべお腹を撫でていた。

 そんなリリスを複雑な顔でお父様は見ながら説明してくる。


「リリスのお腹がどんどん大きくなっている事に最近、侍女長が気づき、かかりつけの医師を呼んで調べた結果、先ほど妊娠しているのがわかった」


「……お相手は?」


「これから聞く。リリス、誰なんだい?」


 お父様はリリスに向き直り優しげに聞くと、リリスは嬉しそうに答えた。


「お相手はトラン様よ」


「はっ⁉︎」


 お父様は驚いてリリスを見るが、リリスは悪びれる様子もなく笑顔でお父様を見てもう一度言った。


「お腹の子の父はトラン・スペンド公爵令息よ。でも、大丈夫でしょう?」


 リリスがそう聞くと、マーガレットお母様は胸に手をあて、ほっとした表情をした。


「まあ、それなら安心じゃないのあなた」


「ま、まあ、確かにな……」


 お父様は私を一瞥した後に頷くと、ルーカスお兄様が渋い表情をしながら言ってきた。


「姉妹間の婚約者交代なら問題ないでしょうが、リリスが今までやらかした件はどうするのですか?公爵家にはバレてますよ……」


「良い手があるわ。二人の見た目は瓜二つだから妊娠したのはアイリスという事にしましょう。もちろん、スペンド公爵令息には口止めするわよ。だってリリスを妊娠させた向こうにも非があるわけだから話せば納得するわよ」


 お母様はそう言って手を叩くとお兄様は頷いて笑顔になる。


「それなら丸く済みますね。早速、彼だけ呼び出して話しましょう」


 お兄様はそう言った後、まるで物を見るように私を見てくる。

 この人は爵位が上の公爵家に嫁ぐ私を毛嫌いしていたのだ。

 きっと今は心の中で喜び踊り狂っているだろう。

 お父様もお母様も今はリリスのお腹を見ながら、孫の誕生を楽しそうに話していた。

 そんな光景をぼーっと眺めていると、お父様が急に思い出したかの様に私を見つめてくる。


「……もう、リリスとしてのお前はどこにも嫁げないだろう。要は無駄飯食らいになる。だから、しばらく生活できる金をやるから出ていってくれないか?」


 お父様はなんの感情もこもってない目でそう私に聞いてくる。

 だから、私は頷いた。


「……伯爵家からも籍を抜いて下さい。それではすぐに出ていきます。お世話になりました」


 私はそう淡々と言って頭を下げると応接間を出てすぐに自分の部屋に向かった。

 そして、部屋に入るなりトランクを引っ張り出しベッドの上で開ける。

 その際、トランクの中から、仲が良い頃の家族と旅行にいった時の写真が出てきたので、取って見つめたが何の感情も湧かなかった。

 それは、いつかこうなることがわかっていたからだ。

 私は写真をベッドの上にそっと置くと再びトランクに必要なものを入れていく。

 そしてトランクに荷物を詰め終えると、外套を羽織りハートラル伯爵のところに向かった。


「用意ができました」


「……そうか、これを」


 そう言ってハートラル伯爵は半年は生活できるお金を渡してきたので、内心驚いてしまう。

 正直、多いと思ってしまったのは、それだけ目の前の人を冷たい人間だと思っていたのだろう。


「ありがとうございます。では、失礼します」

 

 私はそう言うがハートラル伯爵はもう興味がないとばかりに、書き物を始めていた。

 きっと私の籍を外す手続きを始めたのだろう。

 私はそんなハートラル伯爵に軽く頭を下げ、さっさと屋敷を出た。

 その際、誰も私に顔を見せに来なかった。

 使用人でさえもだ。

 要は今の私は幽霊じゃなく、存在すらしてないのだろう。

 私は長年住んでいた屋敷を一瞥し背中を向ける。


「さようなら……」

 

 私はそう呟くと、フードをかぶり目の前の道を目的もなく彷徨う幽霊の様に歩きだすのだった。



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