オカマな女神に会いました
仲村実琴はなんとなくの日々を過ごしていた。地元の大好きな家族、優しい友だち、新社会人として始まったばかりで、仕事は慣れないことも多いがやりがいはある。しかしモヤモヤする。
「大切な何かが欠けているような…やっぱり恋人かなぁ。カッコ良くて爽やかで笑顔の素敵なお兄さんと出会いたい…」
ここ一年半ほどリアルなトキメキとはご無沙汰である。
誰かと一緒にご飯が食べたいよ―――
家事も料理も嫌いじゃないが、ひとり飯は味気ない。一緒にご飯を食べて、自分にだけ微笑んで、デロデロに甘やかしてくれる素敵な王子様に会いたい。
そう呟きながら特売の豚肉をゲット。こいつをどう調理してやろうか。生姜焼き?アスパラの豚肉巻き?甘辛豚丼も捨てがたい。
頭の中は食べることでいっぱい。少しクセのある髪が頭の後ろで揺れている。
趣味は漫画とアニメと小説、美味しいものを食べる事作ること。
仲村実琴23歳は引っ越して間もない1Kのアパートに向かって歩いていた。
角を曲がったその時、キキーッとものすごい音がして振り向くと大きなトラックが目の前にきてるのが見えた。
そこで記憶はブラックアウト。痛みも恐怖さえも感じる暇がなかった。
「ねぇ大丈夫?起きれる??」
頬をムニムニとされる感触があるが邪魔である。
こんなにフカフカでいいにおいで気持ちよく寝てるのに。
その手を振り払い、実琴は再び夢の世界へ――――
「いろいろ確認したいの。起きれそうなら起きて!」
少し強めに揺さぶられて実琴は意識を浮上させるが、ボーッとする頭は大して働かない。
目の前にはすごく綺麗な人がいる。波打つ金髪に同じ黄金の瞳、透き通るような肌に艶やかな唇。その口から零れ落ちる自分を起こす声は野太い。ん?野太い??少しずつ頭が覚醒してくる。
「どぅおったぁぁぁぁ!!」
一気に目が覚めた。とても美しい、人生の中で出会った誰よりも美しいオカマがいた。
「え、誰??というかここどこ??」
美しいオカマに腕を引かれて起こされるなんとも言えない目覚め、かつ全く知らない場所。部屋?と呼ぶには開放的すぎる。壁のない部屋に天蓋付きのベッド、かといって屋外ではない。白くあたたかな光で包まれた部屋。
「大丈夫?平気?どこか痛いところはない?」
心配そうな顔でおにぃおねぇさんが声をかけてくるが理解が追い付かない。
「大丈夫そうね、良かったわ。私はエルカラーレ。ユースタリア王国の創世の女神と呼ばれているわ。」
優しい慈愛の溢れたほほえみを浮かべながら自己紹介をする女神(♂)。
「は?女神??」
思わずツッコんでしまった実琴に突き刺さる鋭い視線。慌てて口を慎んだ実琴は何も悪くない。が、もう何も言えない。
「こちらの都合で申し訳ないけれど、あなたを呼んだのは私のかわいい愛し子たちを救ってほしいの。あなたにしかできないことなの。」
「愛し子…?救う…?」
これはあれか…噂の異世界転移ってやつか…?
不思議な空間、目の前には絶世の美女(♂)、現実離れしすぎて納得するしかない。
流され系女子実琴は押しに弱い。そんな実琴は最近ネット小説の異世界生活ものが大好きである。
「そう、私の愛し子たち。ユースタリア王国の我が子たちを救ってほしいのよ。こちらの都合ばかりでごめんなさい。でもあなたにもきっと素晴らしいハッピーエンドが待ってると思うわ。」
ウインクしながら女神は語り掛ける。
(確かに相手にとって都合のいい話だ……)
そこまで考えて実琴はふとここに来る前の記憶を手繰り寄せる。
大きな音、まぶしい二つの光、誰かの叫び声、一瞬感じた大きな衝撃――――
「あ、あぁぁぁ。」
思い出した。
(私トラックにひかれて――)
息が苦しい、目の前がチカチカする、手の震えが止まらない。
「大丈夫。大丈夫よ。落ち着いて私の鼓動を聞いて。」
気づくと実琴はあたたかいぬくもりに包まれていた。少々硬いがいいにおいがする。
女神は実琴を抱きしめながら語り掛ける。
「ゆっくり長く息を吐いて大きく吸って。そうそう上手よ。大丈夫大丈夫。怖かったわね。でもあなたは生きている。大丈夫よ。」
何だろう。どうみたって男にしか見えない美女の腕の中はすごく落ち着く。優しい。あたたかい。ずっとここにいたい。
「お母さん…。」
思わずつぶやいた後に実琴はハッとする。何言ってんだ自分!?
フフッと女神は笑う。
「そうよ。あなたも私のかわいい子よ。私の大切な宝物。」
ゆっくりと背中をなでながら女神は語り掛ける。
「あなたを守れてよかったわ。強引に引っ張ってしまってごめんなさい。怖い思いをしたわね。もう少し早く起きていれば…。」
あぁもう関係ない。男だろうが女だろうが関係ない。この母性には勝てない!
実琴の中の警戒心はみるみるうちに小さくなっていく。
「このまま聞いてね。ユースタリア王国を守る7つの至宝があるの。その均衡が崩れると王国はたちまち滅びるわ。50年に1度あなたの国から訪れる人がメンテナンスをして繋いでいたの。」
7つの至宝、メンテナンス――
だいぶファンタジーっぽい話になってきた。
「もうどのくらいになるかしら。以前来た子がね、メンテナンスをしなくてもうまくいくようにしてくれたの。それがなぜかわからないけれどちょっとお昼寝して目が覚めたら壊れてたのよ。」
顔を曇らせながら女神は続ける。
「だからあなたを探したの。あなたに装置の不調の原因を調べて直してほしいのよ。でもお出迎えの準備をしようと思ったらなんかよくわからない大きいものにつぶされそうになっているのが見えたからあわてて引っ張ってきちゃった。大丈夫?痛くなかった?」
女神はその整った眉を寄せ、実琴の顔を覗き込む。
「大丈夫です。どこも痛くない…。」
(よくあるパターンの死んだ衝撃の異世界転移じゃないのかな? あれはただの事故? そしてこのおにぃおねぇさんが救ってくれたのか。)
なんていい人―――!!
実琴は人を信じやすいたちだ。いつか絶対騙される人No.1で有名であった…
「よかったわ、間に合って。あなたに何かあれば他の我が子もいなくなってしまう。」
ギュッと腕の中の愛しい存在を抱きしめる。少々痛いがその痛みに愛を感じて泣きそうになる。
「もっとたくさん話していたいけど時間がないの。私たちを助けてくれるかしら?」
女神に聞かれるが答えは1つしかない。
「私でよければ――――やらせてください!!」