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第1話 貧乏だけど暇はある

 ピンポーン……ピンポーン……


「今日も来たな!」


 安いからって事故物件のマンションを選んだのは失敗だったかな、と思いながら俺は玄関へ向かう。覗き穴から見ても誰も居ない。手には交通安全のお守り。


「オラァ!」


 勢い良く扉を開けるが誰にも当たらない。お守りを天にかざし目を閉じて、第六感を研ぎ澄ますがもちろん何も感じない。


「霊感無いから当然なんだけど、だったらインターホンが聞こえるのは何なんだっつう話」

 ため息をつきながらしゃがみ込んで、下に置いた盛り塩を眺める。

「お金無いのに貴重な塩を無駄にしたな……やっぱ普通の食塩じゃなくて、清めの塩的な何かじゃないと駄目なのか?」


「あの、さっきから一体何を?」

「え……」

 奇行を見られてた!?ばっと顔を上げると隣にお住まいの女学生が不審そうにこちらを眺めていた……




 事の発端は2月前に遡る。奨学金と親の仕送りで何とか通っていた大学を卒業し急に、役者を目指す!と親に告げた所、普通の企業に就職するものと思い込んでいた父親は、


「この親不孝者! 今更役者? 無理に決まってるだろ! もう知らん、勝手にしろ! ただし今まで仕送りしていた金は返してもらう。それでも良いのか!」


 と怒りながらも最後の忠告をしてくれた。母親も悲しそうにしていたが、それでも俺は夢を諦められなかった。と言うわけでオーディションの傍らアルバイト……いや逆だな、アルバイトの傍らたまにオーディションを受ける日々。そして奨学金と親への返済で月々数万飛んでいく。当然お金が足りない。


「金がねえ」

「そればっかすね、やっさん」


 バイト中だがこの時間は客足が少ないので喋っても問題無い。このチャラ男とは何故か馬が合い良く話す。何故俺をやっさんと呼ぶのか、それは俺の本名が


 田中康タナカ ヤスシだからやっさんらしい。そして俺はこいつをチャラと呼んでいる、どうでも良かった。


「マジで金がない、バイトを増やすかもっと安い部屋に引っ越すしかない」

「まあやっさんの事情は聞きましたけど今より安いところなんて無いっしょ!」

「今の所この上なくレトロだからな……だが探せばあるはず! この際事故物件でも 構わん!」

「……いやいやヤバいっしょ! 何が起きるかわからないんすよ?」

「霊感ゼロだから大丈夫!よし、探すか」

「こうと決めたら一直線だからなこの人」

「何が言いたい?」

「尊敬する馬鹿ってことっすよ! えと……本当に事故物件住むんすね?後悔しないこと、俺を責めないこと、この2つを守るのなら俺が知ってる所紹介しますよ」


 当然速攻紹介してもらった。チャラには本当に感謝しているので、ハンバーガー屋でポテトSを奢ろうとクーポン券を握りしめながら言うと、


「気持ちだけで嬉しいっす……あとこれ良ければ」

 とその店のコーヒーのタダ券を貰った、神か。しかし何故事故物件を知っていたんだろう?いつか聞いてみるか。


 そしてマンションに到着。凄く高そうなマンションでビビっていたら管理人から、ビビるところが違います、と呆れられながら言われた。今住んでいるところより本当は家賃の桁がひとつ違うんだからビビるのはしょうがないだろ!部屋も凄い豪華だし!


 しかし一見温和そうだが喰えない感じのする管理人だ、サークルの先輩に似た人がいたな……あの人は下に凄い優しく面倒見も良かったが、下のヤツの愚痴とかを一番上のヤツに報告し、独自の地位を築いていた。それ以外にも色々あって演劇サークルを辞めたわけだが、この人も同じ匂いがするな……とはいえ、そんなに関わることも無いだろうし関係ないか。



「もう一度説明しますね。以前ここで悲惨な事件がありました。若い母娘が殺されたのです。それ以 降何人か住んだのですが、皆不思議な現象を体験したと言い張り、心身ともに弱り出ていきました。これ以上変な噂が立つとマンション自体の評判も下がり、現在住まわれている方にも迷惑をお掛けしますので貴方に最低でも半年住んで頂きたいのです」


「そして半年住めなかった場合、減額したお金は払わなければならない、動画サイトなどに投稿して評判が下がることはしてはならない、でしたよね?」



 一見マンション住民の心配をしているが実際は経営の心配か、まあ当たり前だな。半年の成約も金返せというのがケチだが許容範囲。動画サイトなどに投稿も問題ない、よし!


「問題ありません、よろしくお願いします! ちなみにどういった不思議な現象が起きたのですか?」


 契約書にサインをしながら聞くとこれまでは教えてくれなかった管理人だがニコニコしながら教えてくれた。やはり狸だなこのおっさん。


「そうですね……人が立っている、何かに追われる、泣き声が聞こえる、テレビが付いたり消えたりする、寝ていると金縛りに合うなどですね」

 こちらの恐怖を期待しているような顔で管理人は言ったが

「なるほどありがとうございます」

 と淡々と返したらちょっと不満顔をしていた、ざまあ。


 それから数日間は何も起きなかった。豪華な部屋をエンジョイしていたのだがある日の夜、


 ピンポーン……ピンポーン……


 とインターホンの鳴る音が聞こえてきた。


「誰だろう?」

 一人暮らしでアポの無い訪問は無視が鉄則。だがもしかしたら管理人かもしれない、そう思い一応覗き穴から確認したが、

「あれっ誰も居ない?」

 その日は質の悪いイタズラと思い気にしないことにした。


 また次の週インターホンが鳴った。曜日と時間はこの前と同じ、扉を開けて確認。しかし誰もいない。

「これが心霊現象か?にしては大したことないな」

 あの狸の管理人が言ってた怖いことは一つも起きていない。そもそも心霊現象なんて本当に存在するのか?


「一番可能性が高いのは管理人や隣人の嫌がらせだが分からんな。一応本当に幽霊っていう可能性も考えておくか」


 数日後管理人から電話がきた。


「どうですか、何か変わったことは起きてますか?」

「ははは、何も起きてませんよ。良い部屋紹介して下さってありがとうございます」


 嘘をついた。もし管理人の仕業なら何らかのリアクションがあると思ったから。ところが、


「おっそうですか!ということは居なくなったか……?とにかく何も無いならそれに越したことはあ りません。それではまた何かありましたらご連絡下さい」


 管理人の仕業ではないのか?心底安堵した様子だったな。


「確かに管理人がやる意味はないけど。てことはあとは隣人の嫌がらせ説だけど……」


 3回目の無人インターホン事件の次の日、隣人の女学生と挨拶をする機会があった。今までもすれ違う事はあっても会釈で済ませていたので今回も軽く会釈だけしようとしたのだが、向こうが話しかけてきたので少々面食らってしまった。


「こんにちは。新しい入居者の方ですよね、今更ですがよろしくお願いします」

「どうもこんにちは!こちらこそよろしくお願いします、それでは……」

「その、部屋は大丈夫なのですか?」


 えっ?と思わず聞き返す。言うか言わまいか……しかし、よく考えたら隣人と言うことはある程度情報も与えられているだろうし、以前の住民と交流があったかも知れない。インターホン以外の情報なら言っても構わないだろう。それで何か掴めるかもしれない。


「ええ、管理人さんには結構驚かされましたが、いざ住んでみると快適ですね。ラッキーです」

 にっこりと笑いながらそう言うと、

「そうですか……良かったです。あなたの顔を見ると本当に何もなさそうですね、安心しました」


 心底安打した顔でそれでは、と去ろうとする少女を呼び止める。

「以前住まわれていた方ってどんな感じだったんですか?」

 先ほどとは打って変わって固く閉じた口を無理やり開くようにして少女は

「酷かったです。」

 とだけ呟いて去っていった。


「あの感じだとあの子も犯人じゃないな、もしも犯人だったら俺より役者向きだ」

 しかし去り際の態度が気になるな……どんな風だったんだろうか。

「まあそれはそれとして幽霊対策を始めるか! 昨日はインターホンが鳴る前から外で待っていたけ ど、誰もいなかったのに鳴ったからな。もはや小細工とかよりも幽霊の方が可能性高そうだ」


 と言う訳で盛り塩というのをして冒頭に戻るのだが……

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