太陽と姫
「あなたはもう姫ではない。ただの娘だ」
それまで敬礼していた護衛が、私にそう言うなり、私を牢に放り込んだ。
私は、敵軍に押さえつけられた父王を見て、ただ愕然した。
王の顔には、涙が浮かんでて、それを見た私の目にも涙が流れた。
母は、護衛に捕まえられるのを嫌がって、私たちからさらに隔離された塔に閉じ込められた。
どうして、こうなってしまったの?
私、何かした?
お父様も、お母様も、何もしてない
突然、隣の国が襲ってきただけ。
どうして?
私は、まだ物分りがよくなかったから、何が起きていたのか分からなかった。
悲しくなることも、後悔することも出来なかった私は、ただ驚いてた。
敵軍が私達の城に乗り込んでくると、私達を守っていた兵士は突然寝返って、一瞬のうちに敵と化した。
「何してるの?どうしてあなたたちは、私を牢屋に入れたの?」
私には、その言葉しか、言えなくて。
だから余計に、怒りもこみ上げてきて。
「いつになったら、夜が明ける?教えて・・・」
私は、外で立っていた兵に聞いた。
兵は、「お前が寝ればすべて明ける。」と、言った。
全て、明ける・・・
それは、夜明けだけじゃないんだろう。
きっと、私達は殺される。
運命なんだ・・・・
これが、私達の・・・!!
何て・・・!何て短い人生だったのだろうか。
私はまだ、僅か八年しか生きてない。
人生なんて、みんなそうなの?
もう、これ以上悲しむのならば、死にたい。
天に昇りたい。
そう、考えた。
私が思っていたよりも、夜は果てしなく永くて、寂しかった。
いつも眠りについていた時刻はとうの昔に過ぎていて、眠れなかった。
「私、死ぬんだ・・・」
口に出してみると、さらに死が怖くなった。
私は、最後の唄を唄った。
ばあやに習った唄。
お父様が口ずさんでた曲。
お母様が私が寝る前に唄ってくれた子守唄。
唄っていると、悲しみと怖さが和らいで、あたたかく感じた。
喉が枯れるまで唄い続けた私は、初めて地平線に太陽が昇るのを見た。
「太陽がこんなに綺麗だったなんて、知らなかった・・・」
太陽・・・昔お父様が言っていた。
「太陽とは、人それぞれの夢である。」
今、意味が分かった気がした。
私は、立ち上がった。
目は太陽の光で輝き、髪は風で靡いた。
私は、夢を持った。
もう、心は決まった。
「おい!娘が脱獄したぞ!追いかけろー!」
「何処だ!?娘はどこにいる!」
兵が叫んだとき、私は王城の門に繋がれた馬に跨っていた。
私は、逃げるのではない。時を待つのだ。
時を待ち、そして力を身につけて、再びここに帰ってこよう。
人を守る、力を。
「そのときまで、心して待っていれ、敵軍よ!!」
私は、高らかに叫んだ。
地平線を上った太陽に負けないような、笑顔で。