一章 出会い
初めての投稿なのでお手柔らかに。
「入れ」ドア越しに太い声が聞こえる。
王の間は広かった。
予想と比べたいが、予想する必要があると思っていなかったし、予想なんてなかった。
いや、あるはあったのかもしれないが一回本物を見たら予想があったのかなかったのか、記憶が曖昧になってしまった。
奥の玉座には王と思われる老人が座っていた。
「失礼致します。」アナが言う。
「失礼致します。」俺も慌てて言う。
玉座の前まで行き、片膝を地面につけた。
「陛下、ご用件はなんでしょうか?」アナが当たり前のように聞く。こいつはいつもそうだ、何にでも臨機応変に対応できる。何度も練習しないとできない自分とは大違いだ。
「諸君、命令だ。転生人の従者になれ。」王はそう言った。
「以上だ。出ていいぞ。」そして俺らは王の間から出て行った。
「失礼致しました。」二人とも言う。
それだけだった。外に出ると少し冷静になる。王は転生者の従者になれと言った。
「お、おい。」アナに向かって言うと、とんでもなく嬉しそうな顔でアナが言う。
「なんだい?」
「いや、なんだいじゃねーよ!これはいったいどういうことだ?転生人の従者って確か王が選んだトップクラスの人だけだよな?」
「そう習ったな。」
「じゃあ何で俺らがやるんだよ?まだほとんど何もしてねーよ。というかまだ17歳だし。清掃人になってから一年しか経ってないし。」
「ペンの箒が良くホコリを取れるからじゃね?」
冗談じゃない。
「こちらへ。」先程の従者が自分たちを招いていた。
「あの、何で俺らが転生人の従者をやるんですか?俺らまだ17歳ですし、人違いじゃないんですか?」彼女に聞いてみる。
「今回の転生者も17歳ですので仲良くできるかと。」そんなわけないだろう。言えない事情があるのだろうか?俺らが他の人に優っていることが何かあっただろうか?心当たりが全くない。
連れていかれた部屋には二人立っていた。黒髪に金色の瞳の少年、なんとなくカッコ良さそうな顔をしてやがる。
もう一人は若干茶色がかっている短い黒髪、赤い少女、これまた優しそうな顔をしているが、俺は騙されない。
「よろしくお願いします!私はブリアナ・ブラックと言います。アナと呼んでください。」アナが先手を取る。
「どうも。俺の名はヒカルだ。」少年が言う。もう従者になるのは決定事項なのか?
もう一度王の従者の方を見る。挨拶しろと言わんばかりの顔をしてる。
「ええっと、スペンサー・スカイです。」無意識に言葉の最初にええっとが付いてしまう。付けないようにしないと。
「うーんと、よろしくお願いします。」恥ずかしい。
転生人の少女が自分の番が回ってきてとても困った顔をしている。
「あっ、あのー、よろしくお願いします。」彼女が小さな声で言った。
「名前は?」ヒカルが言う。お前は親か。
「あっ、カノです。」少し慌てて言う。
「自己紹介が終わったようなので、これからのことを説明します。」突然王の従者が喋り出す。
「これからみなさんには冒険者になってもらいます。」などと言っているが転生人や冒険者の話は学校で習っているので、考え事を始める。俺はこれからどうなるのだろうか。
転生人は魔法能力が優れているので良く大変な仕事を歴史上何回も押しつけられてきたわけだが。俺もそれに付き合わされるのか?
まぁ、清掃人なんだからさすがに戦闘には参加しなくていいだろうな?けっこう勉強も頑張って城の清掃人になったんだぞ?転生人の家の掃除をするくらいなら別に文句はないのだが。
だがやはり自分が転生人の従者になった理由が分からない。
こうして俺の平和で単純な生活は終わったのだった。
「あれ?なんで俺戦闘訓練を受けてるんだ?」
訓練場の休憩所でそんな自問をしていると、
「そりゃあ、転生人の従者になったからだろ。」アナが頭のおかしい人を見るような目で勝手に答えてくる。
「いやいや、俺清掃人なんだけど。冒険者じゃないんだけど。」
「でも冒険者になったじゃん。」
そう、俺とアナは先日冒険者になった。俺の今までの人生が水の泡だ。パーだ。王の命令?理不尽すぎだろ。なんで俺なんだよ。なんでベテランの冒険者がやらないんだよ。ありえない。
「俺の安全安心な日々を返してくれ。」
「やだねー。」アナが腹立たしい顔で決定権を持っていないのに俺の進路を決定してくる。
「休憩終わりだぞ。」ヒカルが報告してくる。
昔は冒険者のことをカッコいいと誰もが思ってた。勿論俺もだ。だから学校の戦闘訓練はみんな気合いを入れていたもんだ。その中でも道具の生成が上手かった俺は、頑丈な武器を生み出し、結構強かった。だがなんだこの仕打ちは。
ヒカルから一本も取れない。それどころか全然近づけない。というか怖い。
ヒカルの生成した光の剣から斬撃が飛んでくる。それを氷のバリアで防ぐのに精一杯だ。ヒカルもこれでは練習にならないので剣から斬撃が飛ばないよう制御しようとしている。
生成の技術は桁違いだが、まだ戦闘には慣れていないらしい。
「交代。」アナが闇の剣を生成しながら言ってきた。
「大丈夫か?アイツ斬撃飛ばしてくるからな?」
「なんとなるだろ。」一応助ける準備しておくか。
「いくよー」ヒカルが剣を構える。しかし先程俺とやりあった時と違い、剣の光が安定しているように見えた。
「あれ?」ヒカルが戸惑った顔で剣を振ってみたが斬撃が出なかった。少し考える顔をした後俺に向かって剣を構えてきた。
え?
ヒカルが剣を振るうとピッカピカの斬撃が飛んできた。ギリギリ防ぐと、ヒカルが笑っていた。
「本能的に女の子を傷つけたくないなぁーと思ったら、制御できたみたい。ははは。」
なんだこいつ。
ヒカルとアナが楽しそうに剣を交えていて喧しいが、そんな中カノは真剣な顔で生成した炎の弓で的を狙っていた。弓の生成はかなり難しいはずだがさすがは転生人だ。
真剣だがカノはあまり楽しそうではなかった。
俺も弓の生成を始めた。
成すべきことを想像し、魔力で物を生み出す。この世界ではこれで属性ごとの武器や道具を生み出せる。歴史上では約千年前初めて転生人が現れた時に彼が発見したとされている。それ以来貴族にも魔力があると分かり、生成の研究がされるようになった。今では機械なども生成されるようになり、文明が築かれた。
矢を放つ物を想像し、弓を生み出し、的を射抜く物を想像し、矢を生み出す。
生成を終えると俺はアナ達の方を見た。どうやらアナが転んだようで、ヒカルが「大丈夫か?」などと言いながら手を差し伸べていた。アナは目を光らせ、「はい。」と言っている。
何やってんだあいつら。
カノはさっきより強めの一矢を放った。
練習が終わったので家に帰っていた。アナとカノはヒカルの両隣で楽しそうに喋っている。ほんの少し、人の頭をかち割る物を想像していたら家に着いた。
家は代々転生人が使っている屋敷である。とても掃除のしがいがある屋敷だ。
二階建てだがアナと二人で掃除できない大きさではない。アナが掃除した跡を掃除しなくて良ければ一人で簡単にできる大きさだ。
まぁ、今は訓練が面倒だがヒカルとカノがちゃんと戦闘できるようになれば俺はきっと清掃に励むことができるだろう。それまでは我慢してやる。
掃除をして、部屋に戻るとアナがいた。
「なぜお前が俺の部屋にいる?」
「ペン一人じゃあ寝れないと思ってな。」
「立て。出ろ。あほ。」
「最後ただの愚痴だよね?」
(バタン)アナが出たところをすかさずドアを閉めると、ベッドに入りそのまま寝た。
翌日、ベッドの隣の床で寝ているアナは無視し、朝の掃除を始める。
「今日は依頼がきてるぞ。」朝ごはんを食べながらヒカルが言う。
え?
「お前らまだ戦闘訓練終わってねーだろ。」
「なんとかなるって。」アナが根拠皆無なことを言ってくる。
また外に出ないといけないのか。
「ちなみにどんな依頼だ?」
「採掘場に魔物がでたって。」ヒカルが軽い口調で言う。こいつらの自信はどうやって生成されのやら。
「作戦は俺に任せろ。」
「おお、ペンやる気出したのか?」
そんな愚問をアナが聞く。
採掘場に着くと、そこで働いている男に詳しい事情を説明してもらった。出たのはゴブリンで労働者達が寝ている間に奥で住み着いてしまったらしい。数は8匹。なるほど。
ゴブリンは武器を使うから遠距離攻撃に気をつけないとだな。怪我をするわけにはいかない。転生人がここで怪我をしたら世界の存続に関わるかもしれないしな。何せ未だに治療の技術はあまり発展していないし矢を食らったら命はあってもこれからの戦闘に支障が出るかもしれない。それでも世界を救えるなら転生人は要らない。
改めて考えたらとんでもなく重大な任務を受けてしまったな。まぁいい。
俺の作戦に抜かりはない。
採掘場に多少の傷はつけてもいいだろう。
「よし、作戦はこうだ。」
俺らは鉄壁の陣形で採掘場に入っていった。前には俺が真ん中に横長の小さな穴を開けた氷の壁を動かし、その後ろでヒカルが剣を構える、左右はカノとアナに見てもらう。勿論後ろ側も忘れない、俺は後ろ向きに歩く。念のため俺は定期的に上下も確認することにした。
「ゴブリンがいたぞ!」ヒカルが報告すると同時に壁の穴から斬撃を飛ばす。
ゴブリンの悲鳴が聞こえた。だが気を抜かない、このまま最深部まで進む。
「なぁ、これじゃあ戦闘訓練の意味がないんだけど。」ヒカルが弱音を吐く。
「しゃべるな、気抜くな、我慢しな。」即答する。
ゴブリンを8匹倒し、最深部に着いた。
「終わったー。」ヒカルが背伸びすると、
「何言ってんだ。帰るまで陣形を崩さんぞ。」
ヒカルも内心分かっていたのか、呆れた顔だけして元の態勢に戻った。
まぁヒカルがフラグ立てたおかげでこれからの展開は予想できる。陣形を崩そうとするような敵が出てくるのだろう。
だがしかし。この陣形を崩す理由はない。
「お前ら絶対陣形崩すなよ。絶対だぞ?」
「なんで?」ヒカルとアナが同時に言った瞬間地響きが鳴った。
壁の洞穴からかなり大きめのゴブリンが飛んで来た。皆少し驚いたが、先程俺が陣形を崩さぬよう、念を入れたため、すぐに態勢を取り戻せた。
「ヒカル、斬撃。」俺は言うとヒカルが大量の斬撃を繰り出し、大きなゴブリンがはバラバラになった。
「清掃完了」採掘場から出ると俺はそう言って皆に親指を突き立てた。
ヒカルとアナは呆れた顔をしているが、ずっと何も言わずに影薄くずっと左側を見張っていたカノは安心のため息をついた。
そのうち次も投稿したいと思ってます。