小さな彼
ほんの思い付き。
ヤモリを飼い始めた。
灰色で、円らな目が愛らしい、男の子だ。
私の両手の平に収まる程に小さな彼を、母は「随分と大きいね」と言った。こんなにも小さいのに、ヤモリにしては大きい方、らしい。
……今年の夏、浴室の窓向こうで見かけたヤモリは、もっと大きかったけど。
彼は、シャイな質らしい。
私の目と鼻の先、水槽の中を伸び伸びと歩き回るくせに、食事風景は頑なに見せてくれない。
エサは減っていってるのに、腹は膨れてるのに。一度も私の前では見せてくれない。
彼は、どじっ子なようだ。
寒くなって床暖を入れたら、ガラス面やら小さな植木鉢やらの間を、跳び回るようになった。ただ、アグレッシブな動きをする割に、よくジャンプに失敗する。
それでも、果敢に挑戦し続けている。
彼は、寂しがり屋かもしれない。
普段、水槽を覆い隠している布を取ると、よくガラス面に軽く激突する。鏡になったガラスに移る自分が、彼にはどんな風に見えているのだろう。
威嚇してはいないので、少なくとも敵扱いではないはずだ。
私の小さな箱庭に囚われた、小さな小さな彼。
もうすぐ冬がやって来るから、そうしたら、しばらくお休みなさい。
可愛い貴方。また、春に会いましょう。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。