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私のお兄ちゃんへ

作者: 百合桜

千明沙耶(ちあきさや)には、お兄ちゃんがいます。

小さい頃からずっと私を見守ってくれている、お兄ちゃんです。

お兄ちゃんはとっても優しくて、沙耶の自慢のお兄ちゃんなんです。

いつも沙耶のことを守ってくれます。

だから沙耶は、お兄ちゃんが大好きなのです。


毎朝、起きたらちゃんとお兄ちゃんとお母さんにおはようをします。そうすると、お兄ちゃんがいい子だね、と笑ってくれるのです。沙耶はお兄ちゃんの笑った顔が一番好きです。お兄ちゃんが笑ってくれるなら、沙耶はちゃんとおはようをいいます。


それに、沙耶はいい子なのですから、おはようをいうのは当たり前なのです!


「おはよう!おにーちゃん!」


今日もちゃんと、お兄ちゃんにおはようを言いました。

お兄ちゃんも沙耶におはよう、と返してくれます。


「さや?」

「おかーさん!おはよー!」

「おはよう」


ご飯を作っていた手を止めて、お母さんは私とお兄ちゃんの方を振り返りました。

とっても美味しそうな音がするので、ぐぅ、とお腹がなってしまいます。 


「ごはんなぁに?」

「昨日の残りを工夫したものです」


お母さんが私のお腹さんの音を聞いて、楽しそうに笑って言いました。

楽しそうなのはいいことなのです。でも、あんまり笑わないでほしいです。

でもでも、笑うのはいいことなので、沙耶はもっと笑ってほしいな、とも思います。

そんなふうに言うと、お兄ちゃんはにっこりと笑って、沙耶は優しいね、と言ってくれます。

沙耶は優しい、いい子なのです。


ところで、くふう、ってなんなのでしょう。


「くふう?ってなぁに?」

「少し変えてる、ってことかな」

「かえる?ってなぁに?」


沙耶にはまだまだわからないことだらけなので、不思議なことも、わからないことも、全部お母さんに聞きます。

お母さんはちゃんと、沙耶がわかるまで教えてくれるから、とっても素敵なお母さんなのだとお兄ちゃんが言います。


「レモンがあります、そこにハチミツさんをかけると、すっぱいが、あまいになります」


だけど、お母さんの教え方は独特なのではないかと沙耶は思います。

とってもわかりやすいから、沙耶は好きなのですけれど。

今日のお母さんの教え方は、なんだかとっても美味しそうです!


「なる!」

「これを工夫といいます」

「くふう、すごいね!」


すごいね、とお兄ちゃんにも言うと、お兄ちゃんはそうだね、と返してくれました。

工夫はすごいのです!

すごいすごいと工夫さんをたくさんたくさん褒めていると、お母さんはそうだね、とお兄ちゃんと同じように言いました。

お兄ちゃんとお母さんはとっても似ています。


「そうね、沙耶…顔、洗ってきなさい」

「はーい」


そういえばまだ洗っていなかったのです。

お母さんに元気よくお返事をして、お顔を洗いに行きます。

お兄ちゃんと一緒にお顔を洗って、タオルでお顔を拭こうと思ったら、近くにタオルがありませんでした。

なのでお兄ちゃんにタオルとって、って言ったら、お兄ちゃんになまけるのはよくない、って言われてしまいました。

お兄ちゃんはちょっぴりイジワルです。


むぅ、とほほをふくらませると、お兄ちゃんにかわいい沙耶が見たいな、と言われてしまったのでやめました。

それに、また沙耶のお腹さんはぐぅ、ぐぅぅ、とご飯を求めてくるので、そんなふうにする気持ちがしゅぅぅんっとなくなってしまったとも言います。


「ごはん〜!」

「お母さんいま手が離せないなー、誰かお手伝いしてくれないかなー?お手伝いしてくれたらお母さんすっごく嬉しいなー?」

「あ、はーい!やる!おてつだいするー!」


お兄ちゃんもお手伝いする?って聞いてみたけれど、お兄ちゃんはしないらしいです。二人でやったほうが早いのに。

お兄ちゃんはこーいうとき、ひこーりつ、ってやつなのです。


仕方がないので沙耶だけでちゃんとお母さんのお手伝いをしました。

だって沙耶はいい子で優しい子なのです!


「わぁ、沙耶のおかげで助かったわー、ありがとう、沙耶」

「えへへ」

「それじゃあ、いただきますしようね」


椅子に座っていただきますをします。

ちゃんとお兄ちゃんのぶんのご飯も運んであげたのです。えっへん!

お兄ちゃんもありがとうって言ってくれました。ありがとうは嬉しくなります。

ありがとうはとってもいい言葉なのです。


「おかーさん、これ、これ、にがいよぉ」

「ピーマンさんも食べないと大きくなれないよぉー?」


お母さんがちょっぴりイジワルなことを言いました。むぅ。


「ならなくていいもん」


お兄ちゃんもそうおもうでしょ?って聞いてみたら、大きくなってほしいなぁって言われちゃいました。お兄ちゃんはやっぱりイジワルです。

でもでも、お兄ちゃんがそうゆうなら、頑張ってみようかなって思うのです。



「はうっ、ぅ、うぅ、にがぁい…おいしくにゃい」

「すごい!一口食べられて偉いね、沙耶ちゃん」


すごいすごいってお母さんが言ってくれました。えへへ、沙耶ちゃん、えらいです!

沙耶はいい子で、優しくて偉い子なのです!


お兄ちゃんもえらいねって言ってくれました!えへへ。


「ごちそうさまでした」


お兄ちゃんもお母さんの後に、ごちそうさまでした、と言います。沙耶もいい子で、優しくて偉いなので、ちゃんとごちそうさまを言います。


「ごちしょーしゃまでした」


だけど沙耶はいつも、ちょっぴり心配になります。

お兄ちゃんはあんまりご飯を食べないのです。

お母さんのご飯はとっても美味しいのに、もったいない、のです。


それに、お母さんは沙耶が残すともったいないオバケが出るよっていゆのに、お兄ちゃんには言わないのです。


なんだかずるいなって沙耶は思います。



だけど、沙耶はお兄ちゃんもお母さんも大好きだから、ずるいなって思うけど、こーいうときみたいに、お母さんが悲しそーにしてるときは何も言わないようにしています。


なんでだろうって思うけど、なんでって聞くとお母さんはもっと悲しいになってしまうからです。


お兄ちゃんは、沙耶は賢いね、って言ってくれます。

沙耶はいい子で優しくて偉くて、賢い子なのです。



こうやって、沙耶は少しづついろんなことを見て、知って、大きくなったのだと思うのです。

沙耶は賢い子だから、なにかが、周りの子たちと違うってわかっています。


わかっていても、沙耶はそれに、気づこうなんて思えないのです。


だってだって、沙耶は今が一番大好きなのです。














だって、気づいてしまったら、一番大好きな今が、今まで見てきたものが、崩れてしまうんだって、もうあの時の小さな沙耶ちゃんではない私は、知ってしまったから。



いい子だね、と笑ってくれるなら、優しいねと言ってくれるなら、偉いね、と褒めてくれるなら、賢いね、と微笑んでくれるなら、私はいつまでも、いつまでも、あなたに求められるまま、いい子で優しくて偉くて賢い沙耶のままでいたいのです、というのは、仕方がないことなんだと、納得してほしいなぁと思っているんだ。






いい子で優しくて偉くて賢い沙耶は、今日もちゃんとおはようを、言って、ありがとうを言って、ごめんなさいができて、どういたしましてって笑えて、いただきます、ごちそうさまをして、おやすみを言える、いい子でありたいと、そう思っているよ。











沙耶を知らないのに、知っている、沙耶の大好きなお空の上のお兄ちゃんへ。


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