10人4色のデモクラシー
ー1945年4月8日ー
超大型戦艦抜錨の情報を聞きつけ、ウラジオストックより偵察に出向いていた対潜駆逐艦が、そのソナーから不審な音を探知した。
「なんの音だ?」
「何かが衝突して来た音のようですが、、、」
「浸水被害の報告は?」
「来ていません。魚の死骸か何かでしょうか?」
「、、、先の海戦で海に落ちた日本兵の可能性はあるか。」
「どうでしょう、、、該船沈没から24時間ほどが経過しています。この海域をこの時期に生き延びられるかどうか。非常に微妙な所ですが、、、」
「生きていれば尋問できるし、死体だったとしても、日本兵の多くは日記を残していると聞く。件の戦艦についての情報が何か得られるかもしれない。見張り員に浮遊物を探させろ。」
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ー2024年8月1日ー
「、、、今、籍を入れるとか言ったか?」
「はい。」
「、、、なんの利点があって?」
「それはどちらのですか?」
「両方だ。突拍子もなさすぎて何がしたいのかさっぱりわからない。」
「ではまず私のメリットから。」
そう、立ったまま語り出した。
「もう話しましたが、日本は世界で唯一の被爆経験国と言うことで核技術に対する拒絶反応が強いです。そんな中、私は核融合炉を暴発させるとゆう社会的大罪を犯してしまいました。各メディアではすでに”大舎研究員”の名前が晒し上げられています。このままでは、社会的復帰が困難なんです。食いっぱぐれます。」
「そんなにひどいのか。」
「メディアなんてそんなものです。インターネットは、質量を持った風見鶏のようにその路上にあるものを感情のままなぎ払う。テレビは、第4の権力として集団を操って自らの権力を維持する。新聞は、バイアス効果で読者の思想を凝り固める。そうやって、メディアに嫌われた人間は容赦なく社会から排斥されるんです。」
80年経って、女性の社会進出が進んでも、報道のそんな側面は変わらないのか。なるほど、それなら確かにこいつは食ってゆくことすらままならなくなりそうだ。開き直って真っ向から対峙することで生きてゆく道もあるだろうが、それはプライドが許さないだろうな。
「、、、で、それが何故籍を入れることと繋がるんだ?」
「姓を変えるんですよ。日向多摩なんて地名地名した名前になるのは癪ですが、それくらいしか社会の目を逃れる手段が今の私には無いんです。」
「そんなことが出来るのか。」
「大舎という姓の方が使い勝手が良く、広まっているんですよ。”たま”なんて名前ありふれてますし、丸い印象なのでメディアは印象を操作するためにあまり使っていないんです。」
「、、、それで、何故俺になるんだ。民間人は社会的制裁のせいで無理だとしても、研究チームの誰か適当なやつと、と言う訳にはいかないのか。」
「私は今、世間の槍玉に挙げられているんですよ。私のような幹部職員はクビになりましたが、部下たちはただの停職処分、まだJAIVAでの仕事が残ってるんです。私のことなど相手にもしないでしょう。相手にしていると知れたら、世渡りが難しくなってしまう。」
一応、筋は通っているのか、、、?あまりに理路整然としすぎて心象はあまり良くないが、、、
「次に、あなたのメリットを話しましょうか。」
「現状、あなたは見ず知らずの世界で社会的地位を築き一定の収入を得ることを必要としている。しかしはっきり言って、あなた単独の力でそれは不可能です。」
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「私が諸々のサポートをしましょう。この世界の知識も教えましょう。そうやってあなたは、この社会で一定の収入と社会的地位を手に入れるんです。自分でいうのもなんですが、私は行動力や論理分析にー」
才能が偏る、とさっき言っていたなそういえば。だったら、その考え方に合わせるか、、、
「ー偏った才能を持っています。それに、、、」
少ししたり顔になってわざとらしく囁く。
「”やりたいこと”があるんでしょう?」
「、、、」
声には出さないが、表情は確かに揺らいでいる。そう思った私は、彼の前に立って腕を広げて見せた。
「さぁ、話してください。あなたの、この世界で”やりたいこと”を。私がそれを叶えましょう。あなたの足りない才能を、私が補いましょう。」
「、、、俺がやりたいことは、、、」
そう、彼は静かに語り出した。
あ、まただ。またこの感覚がする。炉が暴発する直前にも来たこれ。何か、人生の大きな岐路がくるような予感。そんな、鳥肌が立つような、寒気のような感覚が体を走り、全身が緊張する。
この感覚のせいで、もしかしたら私の判断力は下がっているのかも知れない。けど、私はこの感覚で自らの”怖がる力”を麻痺させ、それを行動力として社会を泳いで来た。今度だって、、、
「俺のやりたいことは、この国の、民主主義という名の衆愚政治を一括することだ。不甲斐ない国民たちに喝を入れ、デモクラシーという幻想に復讐することだ。」
しかし、それは予想以上に壮大だった。
「俺が、この国に独裁者として君臨する。俺が、80年後のこの世界に、Führerとして世界にその名を示す!そして嘲笑ってやるのさ。無知な民衆が生み出すものなど、こんな詐欺師のような奴だけだとな。」
、、、私は自由主義者だ。Führer、、国家社会主義思想とは相入れない人間だ。私の自己決定権を社会的な同調圧力で侵害する人間を甚だ軽蔑するし、ファシズムもコミュニズムも、同じ様なものだとさえ思っている。
けど、私は政治自体に興味が無い。選挙にだって行かないし、世の不条理を嘆くことはあっても変えようなんて無謀なことを考えない。
それらには、ただ自分が適応するのが一番楽だ。地毛の茶髪は黒染めしたし、今思えば上層部の無理解にだって必要最低限しか抗議しなかった。
核融合についてあれだけの思想は持っているし、私の決定権を侵害しそうな人間には披露するけど、結局人類のためなどではなく好奇心から私は動いて来た。
それに、、、今は”あの子”がいる。
「、、、良いでしょう。一緒に壊しましょう、民主主義。」
「ただ、しばらくは官僚として息をひそめるべきです。そうやって根を回してから政治家という本丸にたどり着くのです。」
緊張から。本当にこれで良いのか、私はまた、ただ突き進んでしまっただけなのでは無いかと懸念しながら早口で彼にそう諭す。
「そんなことは分かっているさ。」
言い終わる前に彼がそう被せた。
「良いだろう、籍を入れることに同意する。」
落ちた、、、!
「、、、ただ、お前はお前が思うより、、、いや、”思っている通り弱い”人間だ。今まで研究面でしか発表を行わなかったからか。話が論理的すぎる。今、お前は、人を口説き落とそうとしていたんだろう。」
「根を張る、、、と同時に、ドゥーチェの様に民衆に受け入れられることが必要だ。察するに、今日本の政治家は"嫌われるのが仕事"といって差し支えないだろう。政治家になる前に、支持層を確立するべきだ。俺はもともと、すぐさま政治家になるつもりなど無かったぞ?」
ああ、この人は、私の話を聞いて、あくまで論理的にメリットを取った、、、いや、私との心理戦に”勝った”んだ。思い違いをしていた。この人は、私より弱い人間なんかでは決してない。
私より強い、、、いや、私と同等。普通の人間だ。
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ー1945年4月10日ー
、、、菊は、咲かなかった。
菊水一号作戦。戦艦大和は私の故郷である沖縄へ、その身を埋め、敵軍とともに火の華を咲かせ、そして散るはずだった。
私は、故郷へ帰れるはずだったのか。と考えれば、少々名残惜しくあるかもしれない。あんな人生経験をしていながら、か。おかしな話だ。
そんなことを考えながら、毛布に包まり白湯を飲んでいると、部屋の扉が開いてきっちりとした軍服を着た将校が入ってきた。
「Привет. Как вы себя чувствуете」
「気分はどうだ。」
「、、、少し、落ち着いてきた。」
「Прямо в один…」
「、、、単刀直入に言おう。例の超大型戦艦について、君は君の知りうる情報全てを話す必要に迫られている。従わなければ、ここで処分させてもらおう。初春のオホーツク海で氷葬だ。」
「В настоящее…」
「現在はまだ、我が国は日本と正式に開戦していない。君をこうして脅迫したことが外に知られるわけにはいかないのだ。わかるな?」
「、、、つまりは、ここで死ぬか、洗いざらい吐いてマルクス・レーニン主義の犬になるかを選べ、ということか。」
「Умри здесь. Или стать…」
「наглеть. Кажется, он думает, что может жить и быть нашими спутниками.」
「、、、翻訳しないのかい?」
「…」
「、、まぁいいさ、、、少し、自分語りをさせてくれ。」
菊水作戦
太平洋戦争(大東亜戦争)末期、連合軍の沖縄諸島方面への進攻を阻止する目的で実施された旧日本軍の特攻作戦。第一号から第十号までが実施され、海軍機940機、陸軍機887機が特攻を実施し、陸海両軍を合わせ約3000名が戦死した。
一号作戦時には、航空総攻撃に呼応して、戦艦大和の水上特攻が実施された。しかし、坊ノ岬沖海戦にて左舷への魚雷集中攻撃を喰らい、あえなく轟沈した。
Wikipediaより引用。
=======追記=======
長タイトルは、前に書いてた小説の反動であんま好きじゃなかった、、、
けど仕方ないんや、、、仕方ないんや、、、
この小説のイメージに長タイトルとか無双とかが合わないのは分かる。大いに分かる!けど、このサイトのように現代の疲れた社会人が憂さ晴らしをする事に需要を置いた市場だと、こうするしかないんや、、、
というワケで、元タイトル「80年後のFührer」を「80年後のFührer ーWW2から現代転生したけど、日本の政治がクソなので無双できそうー」に改訂しました。
偏見の目で見ててごめんな長タイトル小説達。れっきとした策略だったんやな、、、
はい。以上。まる。