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100%のロジック

「効率的ですね。」


総督府の隣には、食道が併設されていた。


「もともとここには市場がありましてね。我々が総督府を建設した際、経済的に掌握。出店を営んでいた人間の一部をこちらに回して運営しています。」


そう彼は自慢げに話した。しかし、彼は顔の左半分に本音が現れやすいことを知らないようだ。


「なるほど、満州油田において米国が行なっていることの縮図ですね。」


「、、、失礼。亡命希望の際の口ぶりから、この手の話題はお好みかと。」


「いや、大丈夫です。善悪という枷に囚われたりなどしません。そうならぬよう、常に自己を律しています。搾取は力を持った人間の当然の権利です。」


『全ては許されている。』


「、、、そうですね。」


「、、もしや、私に合わせて先ほどのような話題を切り出したのでは?どうにもあなたの方が苦手に思える。そうであれば気を使わせたようで申し訳ない。」


「いや、そんなことはありませんよ、、、」


フードコート形式でピエロギを取り、護衛がとっていた席に戻る。食べ始めても、なかなか微妙な雰囲気は晴れない。自らの安全確保のためにも、周囲の人間に取り込む努力は惜しむべきではないだろう。


「思うところがあればお話しください、私は人の話を聞くことだけは得意でしてね。」


「いえいえそんな、来訪者であるあなたにわざわざお話しするようなことは」


「先ほどの口ぶり、搾取の成功を誇示しているように見えて、その裏には罪悪感と自己否定が垣間見えました。察するにあなたはこの件について罪悪感を感じていて、否定してもらいたくて先ほどのような話をしたのでは?」


「、、、」


「なぁに私もよくやりました。劣等感を感じたときにはよく暗い物語を読み自分を主人公に当てはめ、見下すことでストレスを発散したものです。一種の自傷行為と言っていい。」


「ですが、そんな状態では精神安定は長く持ちませんよ。なるべく早く、だれかに言ってしまわれた方が良い。」


本来ならこんな精神的に参っている人間は、公務に付くべきではないのだろうな。おそらく数十年もして社会保障体制が構築されたなら、ガキの頃にこんな時期は過ぎるのだろう。


「、、政治信条のことなる人間が、良好な関係になるのはおかしいでしょうか。」


「、、、『健全な民主主義』に則れば、おかしいことではないと思います。多角的な視点から様々な思想を持った人間が健全に議論を行なってこそ成り立つものですからね。ただ、、、」


俺がそれ以上話す前に、彼がその先の政治理念を解説してしまう。


「国民は扇動されやすいし、健全な議論は難しく、大抵罵り合いに発展する。そんな状況では民主主義は衆愚政治と化してしまいます。それへの対処法は、国民の多くが賢くなる。もしくは民衆を統括する強いリーダーを立てること。」


「ファシズムの基本原理ですね。」


やはり彼は生粋のドイツ人らしい。勤勉で、忠実だ。


「昨今、あなたのように政治についてしっかりと理解している人間は珍しいです。久しぶりですよ、、、」

「(、、、この人になら、話しても大丈夫か。)」


「、、私の彼女は共産主義者でした。」


「それは、、、興味深いお話ですね。どうぞ続けてください。」



「彼女は共産主義者にしては珍しく、他の思想に対して寛容で『民主主義に基づいてドイツを共産主義国にする』と言っていました。普段から優しい人間で、弱者の為の福祉活動に勤しんでいました。


当時我が国は共産党とナチス党の2大政党が大論争を繰り広げていて、よく小競り合いも起きていました。そんな情勢のもとで共産主義者と全体主義者が付き合っているのです、やはり周りからの目はどうしても冷ややかでした。そんなストレスを埋め合わせるかのごとく、彼女は日々弱者への福祉を行い、時には悪意によって搾取されました。


そんなある日、私の住んでいた地区に共産パルチザンが住み着き始めました。彼らは人員不足で、各地を転々とし戦友となる共産主義者を集めていたようです。当然、彼女もスカウトの対象でした。


しかし、当然ながら彼女は度重なるスカウトを拒み続け、次第にその手段は執拗かつ陰湿になってゆきます。


彼女の周りで彼らが悪さをし始めたのです。物は盗まれ、家具は壊され、毎回被害後にはツチカマの書かれた新聞が置かれました。彼女は共産主義者だからとパルチザンと同一視され、孤立はより激化、嫌がらせも多発、、、。そしてとうとう、彼女は光の失われた目でパルチザンのテントへ姿を消しました。


あの日々を思い起こすと、ふと疑問に思ってしまうのです。いまの体制も完璧たり得てはいないのではないか、と。正義たり得ているのか?と。」


「、、、申し訳ありません。今日あったばかりの方に話すべきではありませんでしたね。」


やはり精神状態の危うい人間だ、、、が、その方が取り入りやすい。ここは適当に同調姿勢を、、、


「正義をどう捉えるか、、、という問題ですかね。最大多数の最大幸福と捉えるか、弱者を救うことと捉えるか、、、。

弱者を救ったところで、より多くの人間が不幸になることもあります。逆もまた然り。

難しい問題ではありますが、やはり私は多くの人間又は主体となる人間の幸福が論理的に立証可能な正義だと考えます。

共産主義者は自分たちの正義はマルクス資本論に基づいた完璧な理論であると語りますね。その点でナチズムと共産主義は、実は似通ったものなのかもしれない。」


ああ、心にもない話をできる自分に陶酔しそうになる。自己を律しなければ。


「、、、なるほど。そういう捉え方もできますか、、、重ね重ねすみません、だらだらと喋ってしまって。」


「構いませんよ。亡命申請のまだ通っていない危うい身としては、護衛の方と仲良くするのは必然手です。」


完璧な理論、、、か。

ツチカマ


鎌と(カマとツチ)が重なったようなシンボルの俗称。カマは農業労働者の、ツチは工業労働者の象徴であり、これらが重なったツチカマは両者の団結を意味している。ソビエト連邦の国旗や他の多くの共産主義国家国旗・国章に用いられていた。現在でも一部勢力は用いる。


共産主義運動の中で広く使われてきたが、正確にはマルクス主義ではなくレーニン主義を表したものであり、このためコミンテルン系の勢力に用いられる。


Wikipediaより引用

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