1+0のイニシアチブ
[2+√-1個のトラップ]
にて、駄目を修正した時に、後書きの修正を忘れていたので修正しました。
定例会は、非常に堅実な物だった。
ふむ、これでは盛大にミスをすることもないだろうし、逆に何処かで逆転することも無いだろう。この党は、徐々に徐々に沈んでゆく浸水した客船だ。
そんなことを考えていた矢先、ついにメディアが王手を打ちやがった。それを受けて開かれた緊急会議では、幹部を始め総裁までもが明らかに同様、判断力の低下を見せていた。
訂正しよう。この党は、今まさに沈みゆくオリンピック号らしい。
やはり、見切りをつけるべきだ。
そんな事を考え、日本自由党へメールを送ろうとした瞬間、ノックの音が部屋に響く。
「私です、入っても良いでしょうか。」
びっくりした、私の秘書だ。急いでソフトを終了し、入るように促す。
「失礼します。」
「どうした」
「先生に会わせてほしいと言う方がロビーに。」
誰だ、、、?まぁ、喫緊の業務は今の所無いし普段ならあっている所だが、、、
「どんな奴だ。」
今は少し、警戒しなければいけない。
「それが、例の核融合案件で吊るし上げられている官僚のようです。」
、、、無視できなくなってしまった。
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『入れ』
「失礼します。」
消極的ではあるが、なんとか多摩の協力の元同僚の中数名に、協力してもらうことが出来た。無論、転生については伝えていない。これは諸刃の剣となってしまうだろうが、今は活用するしかない。
そこから得た情報によると、私はどうやら東京都知事担当の官僚に教育されていたらしく、何度か顔を合わせた事があったそうだ。
「、、、なんだ、君だったのか。」
ついでに、”こっちの日向隼人”が多摩の言うよう、本当に純真無垢な人間であった事も分かった。これは武器としては弱いが、おそらく永続的に使える。うまく活用していかなければ。
「ご無沙汰しております。」
「いろいろ大変だろう、まぁ座れ。」
「はい、では失礼して。」
あの後、多摩の調べていた俺の情報を元に霞が関へ行き、俺のデスクを物色してみた。すると、政治家の好みを表にした分厚い本が見つかる。
全く、ゴマを擦るというのは個人が各々の努力でするグレーな行為ではなかったのか。組織レベル、いや業界レベルで”これを行うのがセオリー”となっている。さながらインフレのようだ、衆愚政治極まりない。
だが、今の俺には都合が良かった。こいつの趣味は、、、
「実は、多摩も神崎伊予のファンでして。」
「おお、わかるのか!アレの良さが。」
「彼女にみっちり叩き込まれましたよ。」
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ー数時間前ー
「なぁ」
「、、、はい」
「これから都知事に会おうと思うんだが、彼は神崎伊予のファンらしい。」
「、、、知ってます。都知事のことについてはファンの間で、結構有名ですから。」
は、ファンの間で、、、?
「私が今聞いているこの曲、神崎伊予の曲ですよ。」
そういうと、おもむろにコードを抜き取る。すると、その板から旋律。そして、電子音で構成される、俺の世代には少々耳障りとも感じられるような、しかし美しい歌声が溢れてきた。
壮大で、雄大なのに儚く切なさすら感じる。歌詞は暗く、何処と無く病的なものだったが、何故か安心する。
大海の真ん中に佇んで、行く先と来た道を。どこまでも見通すような曲。
「この人が作っているのは曲だけではありませんよ。これを見てください。」
そういって突きつけられた画面には、水彩画のようで、しかし整った線やグラデーションの一枚絵が映し出されている。そして、字幕が曲と連動し、浮かんでは消える。動きが少なく、しかし魅了される動画。その質素さ、空白の美はまさしく日本的だが。絵自体には全く隙が無く、自然の草木や人物などで埋め尽くされている。この風景は、、
「沖縄、、、?」
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多摩、、、例の研究員の事か。
「私などは世間に疎い人間でしたから、ボーカロイドなるジャンルについてあまり知らなかったのですが、面白い分野ですね。我々と違って世渡りの才能がない人間でも、その持てる創作の才能を全面に押し出すことができる。」
わかっているじゃないか、理解力に優れた人間のようだ。
「我々と違って、、ね。」
我々政治家や官僚によって、憧れの的でもあるのだ。世渡りの才能がないとのし上がれない、そんな人種にとっては。少なくとも、私にとってはそうだった。
「なんと言うか、前にあった時にはもっと弱々しいと言うか、まだまだ駆け出しというような感じの見習い、と言う印象だった。この数カ月で、ずいぶん成長したな。」
「お褒めに預かり光栄です。」
「今回の騒動の影響か?」
、、黙りこけてしまった。
「、、、”彼女”とはどういった関係なんだ。」
さて、本題はそこなのだ。
「、、妻です。」
、、、想定し得る中で、二番目ほどに深刻な回答だ。
「、、その関係については、詳しく聞かないでやった方がいいかな?」
「助かります。」
「さて、それならここからどうするか、と言う話だな。そのためにここに来たのか?」
「はい。」
“はい”だけか。イニシアチブを取ってこない、やはり騒動で成長したとはいえ、そこまで警戒しなくても良さそうだな。
「事故の原因は、何だと聞かされている。」
「、、上層部の無理解と。」
なるほど。表情を見るに真実らしい。
「報道については?」
「過剰な社会的制裁である、と。」
なるほど?同じく嘘はついていない。疲れるから表情をみるのはよそう。
「では今後については。」
「、、、断固抵抗する、と言っています。」
なるほど、、、
「、、、正直どうなんだ、彼女の言い分は。」
「抵抗したとして、、火に油を注ぐだけのように思います。」
「そうだなぁ、、、正直、じっとしておいて欲しいのが現実だな。」
「はい、、、それに、既に様々な探りの手が私たちに入っていまして。」
まだ吸い取るか。流石は、、、いや、やめておこう。”正義”への悪態は。
「息子がいる事も、もう時期バレるでしょう。そしてー」
「私が葉桜新党御付きの官僚だと言う事も。」
ん?
、、、いや、まだ分からん。
「そ、、、うだな。非常にまずい事だ。」
「ええ。もう私には、どうしたらいいのか。」
脅している?いやまさか。イニシアチブを相手に取らせた上での脅迫なんて芸当、こいつに出来るはずが。
「お願いです!なんとか先生のお力で、少しだけで良いんです!少しだけでも、メディアを静かにしては頂けませんでしょうか!?」
私が頭の中で自己正当化をしている最中、彼はテーブルから身を乗り出して私に詰め寄り、思考を停止してくる。
「そうしないと私にも、ーそして貴方にもー、不利益だと憂うのです。」
その表情は、必死さに満ちていた。
ーーいや、笑っている、、、?
オリンピック号
タイタニック号沈没事件
1912年4月14日夜から翌日朝にかけて。イギリスーアメリカ間処女航海中であったとされる、当時世界最大の客船タイタニック号が、氷山に衝突し沈没した事件。
対して姉妹艦のオリンピック号は、第一次世界大戦においてUボートと一騎打ちを演じ見事返り討ちにするなどの活躍から「Old Reliable(頼もしいおばあちゃん)」の愛称を持つ船であるが、実はタイタニック号とのすり替え説がある。
非常に難しいすり替えであるため都市伝説の一種とされるが、しかしこの噂はSNSの普及前から世間一般に浸透し、保険金先を目的にしたものだ、と言うもっともらしい説明で定着している。
Wikipediaより引用