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オセロ  作者: 亥BAR
第四章 右手に宿る闇
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第四章 右手に宿る闇(5)

 牢屋から入る光もほとんどなくなった。おそらくもう夜になる。ここから、この部屋の冷え込みはどんどん増していくことだろう。


 ここまでなんの変化も起きてない。監視員が夜番の人と交代をした程度。ブランはアルブスに裏切られた事実を受け止める余裕もなければ、これからどうすればいいのかもわからないままだった。


ただ、言えるのはここから何か物事を訴えても何の意味もないということ。ゆえにどういう状況下におかれたかだけは理解したブランは鉄格子にけりを入れることも、監視員に訴えかけることもやめて、ただ壁にもたれかかっていた。


 裁判……まあ、判決なしに永遠牢屋に閉じ込められるわけもないだろうから、確実に裁くというイベントは起きるはずだ。でも、その時にブランは無実として釈放されることがはたしてあるだろうか?


 ブラン自身、自分が罪を犯したと思っていはいない。でも、闇を右手に宿すこと自体になんの罪悪感もなかったといえばうそだ。一部黒くなった黒い髪をバンダナと帽子で隠したことと、布で右手を厳重にくるみあげた行動が何よりの証拠。


 そして、光を操る勇者が敵対しているのは闇を操る魔王軍。敵と同じ力を持ったことに対して言及されれば、今のブランに言い返すだけの自信はない。


 裁判のところで裁判官にひたすら無実を訴えるも、すべてあしらわれる程度で聞き入れられることはないだろう。

 そんな未来が容易に想像つく。しまいには無実を叫び続けながら再び牢屋にぶち込まれ、なおも訴え続けても誰ひとりとして耳を傾けてくれないまま、喉が枯れて廃れていく姿まで想像されてしまった。


 力を求めて闇に手を伸ばした事実。それは客観的に見られたら……過ちとして捉えられることだろう。それに、今はアルブスが敵だ。裁判でアルブスがブランの不利になる発言をいくらでもすれば、こちらは間違いなく絶望的。


「このままだと、絶望的未来しか……ねえよな……」


 自身の置かれた状況下を改めて感じ、未来に闇を感じる。その闇は決してノワールのような深く美しい闇じゃない。ありとあらゆる希望という光を消し去る闇。心から恐怖で震えてしまうほどに恐ろしい闇だ。


 まるでその闇に反応するかのように右手に宿る闇が布の奥で大きくうずきだす。精神が不安定になっているからなのか、光が制御しきれず、闇が大きく力を上げ始めているのだろう。そのうずく闇を抑え込もうとする気力も湧いてこない。


「いっそ、この闇に飲まれ、無に還るほうがいいかもな……」


 力を完全に抜き切り、壁にもたれる。大きく息を吐き、ゆっくり目を閉じると右手に宿る闇をよりしっかりと感じることができる。闇は光の抑え込みから解放されはじめ、じっくりと膨張し始めているように思える。


 もっともっと闇が広がればいい。この闇に飲まれるなら……本望かもしれないな……。そんな思いが脳に走り出し、思考が闇の中へと沈んでいく。


 だが、思考が闇に落ちていくなか、一人の人物の影がうっすら思考の片隅から写りこんで生きた。浮かんできたのは……あの魔王女……ノワールの姿。


出会った初期に感じたあの混沌とした深い闇を放つその姿。あのノワールの姿は……もう見ることはできないだろう。何しろ、ここは勇者がうじゃうじゃいる拠点の一つ。こんなところに一生いる限り、もうあの闇に近づけることはない。


「……なら、ビアンカはどうなるんだ?」


 ふとつぶやいてみた。ノワールに取り込まれたというビアンカ、あいつを助けようとあの時あがいたはずなのに、今はここにいて諦めようとしている。それでいいのか? ビアンカを助けるのをあきらめて……それで自分はいいのか?


 ゆっくりと目を開けて自分の右手を見た。布は巻かれているものの、その隙間からどんどん闇があふれ出している。


 このあふれる闇は……ノワールに近づいているのだろうか? この闇はノワールの闇のような美しさに近づけるのだろうか? 


 今の自分は弱いかもしれない。でも、この闇がよりノワールに近づければ……きっとビアンカを助けることができる。


 そう思い、ゆっくりと布の結び目をほどいた。それに伴い布の先端がはがれ、床に向かって落ちていく。それに引っ張られ、腕の肌が見え始めた。同時にそこからあふれ出してくるのは……闇。


「ん? おい、何をしている? 何をする気だ!」


 監視員がブランの右手からあふれ出す闇とブランの行動そのものに気が付いたのだろう。ブランが視線を監視員のほうへ自然と向ける。それとほぼ同時。手に巻かれていた布がすべて床に落ち、束縛から解放され闇がブランの意思とは関係なく波動として周囲に解き放たれた。


 ブランの髪を大きく上に吹き上げたその波動は当然監視委にまで伝わり、軽く吹き飛ばす。揺れる闇は果てしなく広がるが同時に右手に痛みが走り出した。壮大な闇に右手が付いていけないのか。

 その痛みは闇の力が大きくなるにつれて比例して増していく。その痛みは想像を絶するものでまるで腕がもげそうな勢い。


 だが、もはやそんなことにまで関心は向かなかった。ただ、夜空の闇が映し出される窓一点に見つめ、闇宿る右手をその窓に突きつける。


 それと同時に計り知れない規模の爆発が発生。強烈な痛みを超えた刺激が右手から脳の神経に突き刺さり思わず目を塞ぎたくなるほど。だが、それと同じくして闇が放たれた先にあった牢屋の壁なんてものはいとも簡単に破壊され、そこにはぽっかりと大穴が開いていた。


「もう、おれに残された道はひとつ。ギルドは裏切る、この街も裏切ろう。ただ、この闇を使って……ビアンカを助ける」


 ここにこれ以上いたとしても待っているのは無実を牢屋の中で訴える自分の姿だけだ。そんなことになるぐらいなら、裏切る方がマシだ。大体、牢屋になんかいたらビアンカを助けられない。ノワールを倒せない。


 右手の闇がどんどんあふれ出して止まらない。制御なんてまるでできない。いや制御なんてしない、する必要などないのだ。痛みなど関係ない。

ありのまま闇の力を爆発させ、この街から逃亡した。

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