剣闘士〜初めての戦い〜
僕の名前はディオニス。ここは剣闘士同士が戦うコロシアム。何故僕がこんな所にいるのかだって?僕には両親がいない。否、いるのかもしれないが僕は両親の事を知らない――捨てられたからだ。
今日で僕はここの主であるサギ・ペテンに拾われてから、十二年が経つ。デビュー戦があるのだ。相手は【聡慧の魔童士】アレキス君だ。
アレキス君はまだ十歳になったばかりなのに魔法の扱いに長けているからコロシアムに出場する事になった。アキレス君には悪いが僕も負けなれない。十連勝出来れば晴れて自由の身なのだ。物心ついたときには、剣闘士育成所で毎日血の滲む努力を毎日してきた。僕だって外に出たいのだ。だから僕のために負けてくれアキレス君。いや、戦いになるんだ。これからはアキレスと呼ぼう。
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いよいよ戦いの時がやってきた。
「東コーナー! 【光剣】ディオニス!」
僕からの入場だ。司会の人の声が聞こえた。続いてアキレスの入場だ。
「西コーナー! 【聡慧の魔童士】アキレス!」
【光剣】や【聡慧の魔童士】といった二つ名のようなものは『称号』と呼ばれ、神から授けられると言われる。本人には本能的に理解出来るのだ。戦う職についていない人――例えば料理人。その場合は【料理人】【店営者】といった称号が与えられるらしい。基本的には称号はただの名称だが、稀に効果を持つ称号もあるという。尤も僕の知識は過労で死んだ教官の受け売りだが。
僕は光属性のみ扱え、武器に纏うことが出来るため光剣である。
僕の身体にはまだ大きいスクトゥムとグラディウスを構える。相手は魔法使いであるアキレスであるため防具は付けていない。その代わり魔力伝導基率が高い木製の杖を構えている。基本的に魔法使いは接近戦に持ち込まれたら負けだ。だから、魔法使いに防具は不要なのだ。僕もスクトゥムで防ぐながら接近するつもりなので防具はスクトゥムの他には無い。
「それでは! 試合開始!」
僕は開始の合図と共に駆け出すッ――アキレスの魔法の火の玉が飛んでくるのをスクトゥムで防ぐ。アキレスは何度か火の玉を防ぐと無理だと悟ったのか風の刃を何度も放ってくる。範囲が小さい分風の刃は手数で火の玉に勝る。僕はそれもスクトゥムで防ぎながら近づいていくが大きいスクトゥムでも全て受け切ることは出来なかった。スクトゥムで防ぎ切れなかった分が被弾する。アキレスも後退しながら魔法を放っており、僕もグラディウスとスクトゥムの重量があり、あまり速くは走ることが出来ないため差は少しづつしか縮まらない。何度も被弾し、風の刃により僕の腕が切り裂かれ血が出てくる。
このままでは、埒が明かない。アキレスは使える魔法こそあまり強くはないが、魔力は通常の魔法使いの何倍もあるらしい。防戦一方の僕はこのままでは負けると思い、特攻を仕掛けようとした。その時僕の称号に【王の素質】が発芽する。僕には理解できた。この称号こそが今の僕が求めていた物だと。
先の称号の効果《王の威圧》を発動する。
「うぉぉおおおおおおお!! 」
叫びながらアキレスに突撃する。アキレスは《王の威圧により竦んで魔法を打つことも逃げることすらままならない。勢いのまま光を纏い強化したグラディウスでアキレスの杖を叩き切る。
「それまで! 勝者ディオニス!」
これで試合終了だ。
通常剣闘士は敗者には死をといった考え方だ。例外として激戦を繰り広げるか、十二歳未満は殺されない。十二歳未満で剣闘士として出られる者は優秀であるからだ。
新たな称号があれば勝てるか分からなかった。こんな戦いをあと九回。無謀にも程が有るだろう。それでも僕は外に出たい。
自由になり沢山の経験を積める傭兵になり冒険に出かけるんだ。
だから、僕は次も、次もそのまた次も勝つ。勝ち続けるんだ。この【光剣】と【王の素質】を駆使して。