晩餐会の夜
国王の謁見から数時間が経ち、俺達勇者一行は晩餐会の会場に案内された。その際、せめて女性達だけでもという事で用意されたドレスなどに身を包みつつ、俺達男子は制服のままだが特に不満の声は出なかった。
王国側の出席者には、国王のダニエルに第一王子のディーン・第二王子のデリックと第一王女のアレクシア・第三王女のシルヴィアが出席するみたいだ。
あと他には王国にいる貴族などが来るらしい。
ちなみに第二王女はカーラと言うらしいのだが、その子は少し病弱でなかなか外に出る事はないらしい、王妃は国の政治で忙しい国王に代わって他国で外交をしている相当行動派の王妃のようだ。
そして晩餐会が始まり国の貴族や大臣などが長々と挨拶をしている時に俺達は用意された豪華な料理を目の前にまったく話を聞いていなかった。
特にエリナが目を輝かせながら料理を見ていた。
国王はその事を分かっていたのか、早々に挨拶を終わらせて晩餐会が始まった。
その後一行は思い思いの場所で、豪華な料理と飲み物を味わっていた。そんな光景を眺めながら壁際で料理を食べていた俺は隣にいた鈴に話しかけていた。
「そういえば、姉さん達はどうしているんだ?さっきから姿が見当たらないんだが・・・。」
「秀さんは「僕は人ごみは苦手だから。」って言って料理を持って部屋から出て行ってよ、エリナちゃんは用意された料理を食べ尽くすって張り切っていたよ、お姉ちゃんは国王様と今後について話をするらしいよ。」
「そうか、まったく秀はいつも通りだな。エリナも食べ過ぎないよう言いつけておくか、姉さんは後で聞くか。」
「そうだね。お姉ちゃんは私達のために頑張ってるしね。」
「ああ、俺達も出来る限りの事はしような。」
「うん!」
俺達はそんな事を話しながら料理を食べていた。
「それにしてもこの国の貴族はすごいな。」
「そうだね。さっきからお兄ちゃんのクラスメイトに次々と話しかけているね。」
俺達は周りを見ると、貴族の人達が必死で勇者に取り入れるために話しかけている光景が目に入っていた。
俺達の所にも一応話は来たがあんまり期待はしてない感じだった。
他のクラスメイトも、普段見慣れていない女子のドレス姿にいつもは話をしない人にも話しかけている姿があった。
姉さんもドレスを着ている為か、普段と違った雰囲気があった。
鈴にも話しかけたい奴が多そうだった。
「それよりもお兄ちゃんこのドレスどう?鈴に似合ってるかな?」
「似合っているぞ。普段はドレスなんて着れないから新鮮味はあるな。」
「ほんと?ありがとうお兄ちゃん。」
そんな中、この国の王子であるディーン王子が笑顔でこっちに向って来た。
鈴の方をジロジロと見ながら、鈴に話しかけてきた。
「失礼ですが、私はこの国の王子でディーンと申します。貴女のお名前を伺っても?」
「天野鈴と言います。」
「スズさんですか、良い名前ですね。よろしければあちらでお話しませんか?」
王子はそう言うとバルコニーの方を指さした。鈴はそちらの方を見てから俺の後ろに隠れて
「ごめんなさい。結構です。」
「そ、そうですか・・・失礼しました。気が変わりましたら声をかけてください。」
王子はそう言うと立ち去っていった。去り際に物凄い顔で睨まれた。
その後王子は他の女生徒に声を掛けていたがことごとく撃沈していた。
「鈴なんか悪い事しちゃったかな?」
「他の生徒にも声を掛けているみたいだし、別にいいと思うぞ。」
「そうみたいだね。」
辺りを見てみるとどうやら男子生徒の中では有馬達が人気のようだった。
第一王女もしきりに話しかけているみたいだった。
女生徒の中では、やはり星野さん達が人気があるようだった。
そんな事を思っていると皿に大量の料理を盛り付けているエリナが寄って来た。
「あ!ソラとスズちゃんこんな所に居た!」
「おうエリナどうした?それよりもお前そんなに食えるのか?」
「大丈夫だよ私って食べてもあんまり太らないから。それでね、みんながスズちゃんに会ってお話がしたいって言われたから探してたんだよ。」
「委員長が?良いと思うぞ。行って来いよ鈴、エリナも一緒だし大丈夫だろ?」
「うん。分かった、行って来るねお兄ちゃん。」
「ああ、行って来い。」
俺は鈴をエリナに任せて料理を食べようとしていたらシルヴィア王女が話しかけてきた。
「楽しんで頂けていますかアマノ様。」
(アマノ・・・様?)
「ええ、楽しんでいますよ。」
「あの・・・いつも一緒に居る恋人さんはどうしました?」
(恋人?鈴かエリナの事か?)
「鈴とエリナの事ですか?鈴は俺の妹でエリナは幼なじみですよ。」
「そうでしたか。」
なぜか安堵する王女様だった。
「ところでアマノ様は召喚について詳しそうでしたね。」
「そんな事は無いですよ。ただ自分の親友がその手の話に詳しくて自分もその影響を受けて色々と質問してしまいました。不快に思っているのでしたらすいません。」
「いえ滅相もございません。ただ皆様が固まっている中でいち早く立ち直したのが印象に残っただけです。」
「そうでしたか。なら良かったです。」
俺はその言葉で少し安堵した。
「ですがあれだけ頭が良いのでしたら、きっと良い称号が得られるかもしれませんね。」
「どうですかね、自分はただ物語を読んでただけですから、あんまり役に立つとは思えません。」
「そう謙遜しなくても良いですよ。」
「謙遜なんてしていませんよ。それに戦いで役に立つのはきっと有馬達辺りだと思いますよ。」
「そうですね。あの方はきっとステータスが良かったら勇者の称号を得るかもしれませんね。」
(勇者ねえ・・・まあ物語でも勇者って真っ直ぐな性格をしているのが多いからあり得るのかもな)
「しかし、戦争は戦うだけではございませんのでアマノ様には期待していますよ。」
「出来る限り期待に応えれるようにします。」
「お願いしますね。ではこの後も楽しんで下さい。」
王女様と話した後、料理を食べていると今度は星野さん達が話しかけてきた。
「天野君、さっきシルヴィアちゃんと話してたね。どんな話してたの?」
なぜか少し機嫌が悪いみたいだ。
「ただ挨拶をしただけだよ。あと俺が色々質問したからその事について聞かれてたんだ。」
「ああ、あの時だね。でも私が見ても凄かったから、しょうがないかな。」
「そんな事は無いと思うよ。誰でも出来る質問だと思うよ。」
「でも、あの状況の中で質問が出来た天野君はやっぱり凄いと思うよ。」
「まああの時は、妹の鈴が震えていたから、すぐに立ち直れたんだけどね。」
「妹さんの為か・・・何か羨ましいな。」
星野さんは寂しそうにそう言った。
(う~ん、これはまた柱真達に絡まれそうだな。)
「まあ俺は質問しただけで、良い能力があるとは思えないからな。出来て後方支援だけだと思う。」
「そうね。私達も後方支援の方が良いよね。」
「それとシルヴィア王女が有馬には勇者の称号を得るかもしれないって言ってたな。」
「優輝君が勇者かー。確かに真っ直ぐな性格だから得ちゃうかもしれないね。」
(まあ、真っ直ぐすぎるのも考えものだけどな。)
俺はそんな事を思いながら晩餐会を楽しむのだった。
アドバイスや感想など待っています。