第七話 「逃走」
ヌパーの後を付いて行き、水があるのをメイベーは期待していた。
水を飲めば少し良くなるし多少マシな考えを思い付き、ここを出られるかもしれない。
と思いつつ、ヌパーは突然止まった。
「……?」
何かあったんだろうと前を見た。
「………」
そこには虫がいた……赤くて少し長い……ムカデ?
もう一回観察してもムカデにしか見えなかった。サイズは普通で特別何かある見た目ではなかった。
「………」
やはりヌパーはムカデを見て動かない。苦手なのだろうか?かと言うメイベー自身も苦手なのだが。
だが1匹だけなので避けて通れば良いのだが……ヌパーは硬直した状態で動く気配がない……重そうだけど持ち上げて運ぼうとした。
だがそれどころじゃない事態が起こる。
「……?」
ムカデが動く音は聞こえて来るのだが……おかしい、重なって聞こえる、そしてその音は時間が経つにつれ音は増えていく。
「……!?」
理解した。音が増えているのではない。ムカデ自体が増えている。
それも1匹や2匹どころの数ではない。100、200……最悪な光景だ。
「ヌ……パー!!!」
「……!?……ヌパ!」
メイベーの声に我を取り戻したヌパーは目の前の状況をなんとなくだが理解し、二人とも恐らく今まで生きてきた中で一度も出したことのない速度で全力疾走した。
ただ走る、今はそれだけに集中しなければならない。でなければあのムカデの中に入ることになってしまう。
一刻も早くここから出たいがその方法も分からない。お腹が減った。喉が渇いた。そして何よりヌパーの走るスピードが遅い。ヌパー自身が木そのものなので仕方はないと思うがそれでももう少し早ければムカデの群れとの距離が離せられるのだが……。
そしてもう一つ最悪な事態に直面する。
「ヌパ!?」
「……!?……なん、で?」
前方に二つの道が見える。
左の方には何もなかったが右が問題だった。
大量に蠢く怪しい物体。身体はドス黒く、頭には2本の触覚が不気味に動き、動き時に必ず、「カサカサ」と言う音が出た。そう、その正体は……。
「ゴキ……ブリ?」
しかもその数はムカデとは比較にならなかった。500、600……地獄を経験するより悍ましい事とはこういう事を言うのだろうか。それに加え、ムカデの群れ……メイベーは涙を抑えながらヌパーの枝を掴みながら左の道を突き進んだ。
だがここで救いが起きた。
「「……!?」」
ムカデの大半がゴキブリの群れに突撃し、捕食して行った。
……だからあんなにいるのだろうか?流石に多すぎる気がするが。
だが全部と言うわけにはいかず、ゴキブリとムカデの何匹かはこちらに向かって来る。
「イ……ヤ!!!」
少しずつだが、ヌパーの走る速度も上がってきている。
脱出は……まだ方法は不明なので無理として、とにかくまずはあのゴキブリとムカデの群れを上手く撒く事が重要だ。
何か良い案はないのだろうか? 今すぐにでも考えたいが、ゴキブリとムカデがそうさせてくれない。逃げるのに夢中でそれどころではなかった。
「……!? ヌ、ヌパ!」
「ん……?!」
ヌパーは声を出し、メイベーはヌパーが向いた方向に目を向け、その瞬間、足を止めた。
「こ……れ!」
そこには大きなバケツがあり、その中に満杯になっている水を発見した……今すぐにでも飲みたいがそれよりこれを使ってあの群れを撃退することを考えた。
「ヌパー!……てつだっ、て!」
「ヌパ!」
バケツの後ろに回り込み、ヌパーと協力し、押し倒す。
「ふっ……ぬっ!!!」
「ヌパッ!!」
あの2種から逃げたい一心で押したせいか、いつもよりも何倍もパワーを発揮し、ヌパーも居たこともあるがいとも簡単に押し倒してしまった。
バケツから大量の「液体」が放出される。
それはあの2種の群れに直撃する。液体の中に入ったゴキブリとムカデは次々と溺れていき、撃退するどころか殲滅してしまってではないか……ただ溺死するだけでなく、少しずつその体は液体によって溶けていた。
……飲まなくて正解かもしれない。さっきの得体の知れない液体を飲んでいたらと思うとゾッとする
「……ハァ~」
「ヌパ~」
二人とも溜息をついた。この短い時間にゴキブリとムカデの大群に追い回されてるとなれば仕方がない事だとは思うが……。
そしてこの間にメイベーはいつもより大分、喋った。 ヌパーと会ったからだろうか? それともさっきの地獄が関係しているのだろうか?……真実は分からないままであったが、それでもヌパーと会えたのは幸運と言って良いだろう。
「……ヌパ!」
すると、ヌパーは立ち上がり、再び付いて来いと言っているように見えたので付いて行くことにした。
だけど、その前に。
「……ごめん、なさい」
さっきのムカデとゴキブリの方向へ向かって謝った。確かに自分たちを襲っていたのは事実だ。だけどあくまで撃退するつもりだった。なのに殺してしまった。この出来事はこの少年に罪悪感を与えた。
でも、今の方法でやらなきゃ僕たちはもっと酷い目に遭っていたかもしれない。けど殺したくはなかった……今までだって色々あったけど、ここまでは行かなかった。
「……うん!!」
気持ちを切り替えていこう。出なければ今度は自分が持たない……今のは殺したいから殺したんじゃない、生きるためにやったんだ。そう思うことにした。
気持ちを整えたメイベーはヌパーに付いて行った。
……しばらくしてとある場所に着いた。
「……!」
そこは湖であった。とても綺麗で汚れは一切なく、飲み水としてはこれ以上ない物であった。
けど、とりあえず、近くにあったふにゃふにゃの木の棒を入れてみる。
「……!!」
特に何も起きなかった。安全を確認したメイベーは水を飲んでしまった。ヌパーも飲んでいた。
「!?――――――」
「ヌ、パ――――――」
彼らは眠り、そこから消えた。
そして、彼らは元の世界へと帰って行く。