第五十八話「強迫」
毎度の如く遅いですが58話です。
「おやおや、そんなに警戒しなくても」
心臓の鼓動は速くなっていき、今にも張り裂けそうだ。今、目の前にいるのは何もしなくても“全てを実行できる”存在だ。しかし……。
「そこまで怯えなくてもいいだろう? どうせ、私は何の攻撃もしない。 本当に話をしに来ただけなんだから」
「……あー! マールおじさんの過去の人だー!!!」
―――――――――!!??!?
「……かこの……ひと???」
「わかんない」
「正確には過去の記憶へ連れてったかな。 それに流石にマール・ボルカトフだけあって、徐々に知能も上がってるみたいだしね」
「―――――――そうだ。 聞きたいことはまだある。 オペから生まれたのが神くんと守くん……それは間違いないよね?」
「……うん」
「なら聞くよ。 なんで“マール・ボルカトフは二人居るの?”」
「……!?」
「だって、おかしくないかい? マール・ボルカトフと言う人物がいながらも、神というマール・ボルカトフも同時に存在する。 身体は一つだけど精神は二つ……これだけはどうしてなのか分からない」
「………」
……気付かなかった。そういえば、そうだよね。なんで僕二人も居るの。おかしいよ。
「ん~、僕10歳だから~……あっちのはもっと年取ってる気がする」
「……もっと詳しく話してもらえないかい?」
「……ふんふふんふふーん。 僕もわかりましぇーん」
「………」
ふむ、これはあの男に……頼らざるを得ない。
「それで私の出番と」
「―――――――心も読めて?」
「その思考している記録を私は持っている。 では通じないかな?」
「持っている……?」
「ふふっ、こうなると最低限の知識が必要になるね。 さて、一つ質問だけど。 君達は普通でなくなる、生物でなくなる……いや、神を超える覚悟はあるかい?」
―――――――!? 神を超える……?
「かみ、って何?」
「えとね……人じゃなくて……よくわかんないや」
オペとハロルドの会話を流しつつ、自身も考える。神……造られた物とはいえ私もルシファー。いや、私自身がこの中で一番に神に対して正しい認識がある。
「そう、君はある程度の覚悟は出来るだろう、フェンリルもね。 問題はそれ以外のオペ、ハロルド、神君なのは流石に把握できてるよね?」
「流石にそれは出来ています。 神が廃れ、宗教が風化したあの世界で神と言う存在は消えたも同然です。 一部のカルト的集団を除けば、オペたちの世界は神が不要……神の影響が及ばない」
「上出来です。 例え、オペたちに本物の神が現れ、その神々しさを見せても何の効果もないでしょう。 ただの派手な変人で終わってしまいます。 ですので、彼等には少し言い方を変えましょう。 そして、覚悟は出来ればあとは貴方たちの可笑しなセンスとどうしようもなく膨大な力次第です」
可笑しなセンスって……どの場面においても、何かしらのギャグのような発展にさせてしまうこと? しかも陳腐です。世界を終焉に導くコメディなど、つまらない以前に規模が大きすぎます。このセンスでどうしろと……。
「……守とヌパー、お父さんとお母さんを助けられなくなるよ」
「「「……!!?」」」
「待ってください。 私はそれを容認できません」
「これくらいは些細な事ですよ。 貴方方は覚醒しなければいけない。 あの男、ハートや創無に対抗するなら覚醒しても足りないぐらいです」
内心に焦りを隠せない。私達は彼の言い放つレールに切り替えられそうになっている。ハートと同じ存在なら、私達を陥れようとしている可能性もありです。
「―――――――――少し時間を―――――――」
「やりまーす!」
「ぼくも……」
「パパとママを助ける……!」
「………」
決まってしまった。最悪だ、オペたちは私の思っている以上に事の深刻さに気付いていないのか?
「……決まったようなので、これから真実を話します。 そして、これを君たちの冒険はより一層苛酷になる。 クライマックスに入るわけで。 君たちの物語のラストは本当に未知数であるが、是非頑張ってほしい」
「その前に……名前を教えてほしい」
「そうでしたね……リバーとでも名乗っておきましょう」
リバー。確かにその男はそう名乗った。ハート、リバー……関連性は今のところ不明だけれど、この男が情報提供者なのは間違いない。
「……リバー、話してくれ」
事はマール・ボルカトフが40という歳を超えた後。1980年代において全ての元凶が始まる。
次回で事の真相の殆どをリバーが話します。これにより、彼等は急がなければいけなくなります。
終盤は予想外の展開になるかもしれません。この作品にしてはですけど。
最終回辺りは文章長くなりそうですが、どうにか頑張ります。
では次は59話で。来月ですねこれは……。