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第五十三話「交蝕」

「……なに、あれ」


 空間のヒビ割れは悪化していく。しかし、先ほどよりは進行が遅く、今は誰も触れていないが恐らく破壊されたこと自体が原因で自然に崩壊を始めているのだろう。にしても……。


(あの槍の男……能力者か)


 フェンリルを追いながらも、ヒビの中を注意深くマール・ボルカトフは観察した……過去に能力者とは会った事がある。いや、訂正しよう。現在いまもだ。


 勿論、これのことではない。彼が世界を創る発明と至った原因である、次元研究……そんなものが学問で普通に存在している筈がない。そう、創無を全滅するために、能力者を管理する組織“ディノープ”によって設立された学科であった。


 その中でも、マール・ボルカトフという男の才能は秀でており、そこでディノープからの接触により巨大なバックの元に研究を進めた。


 そこであの男……少年を見た覚えがある。少し前だが……数えるなら今は13歳くらいか。変わらずか、あの殺意しか満たさない瞳は私でも恐怖を覚える。


「―――――――ここって……!?」


 オペは不安を感じるように思い出す。ここが……ここが……自分が死んだ場所ではないかと。


「なんで――――――――なんで!?」


「落ち着け! そこの狼、この場所に意味があってここに来たんだよな?」


 フェンリルは自身があの世界で赤ん坊を隠した木の元へと向かう、が……。


「――――――!?」


 何もない代わりに穴が開いており、そこからヒビが広がっているようにも見えた。そして……。


「なんだ、あの化け物!?」


「ヒッ……おにいちゃん」


「僕も……怖い」


 







「おい。 おい! 聞こえてんのか、オペレーター!? もう一体、創無が出た。 蜥蜴とかげのダバーソンタイプだ、指示を仰ぐ」


 出てきた回答はあの赤ん坊の死体を最優先で守れ……ハァ、正直守る気はないが仕事だ。先にあの蜥蜴か。


 蜥蜴の怪人はその爪を使い、道化師のこじ開けたヒビをさらに悪化させていた。偶然か、それともこの特異な状況に吸い寄せられるように呼び出されたか。いずれにせよ、これらを殺すことに変わりない。


「……ハァ」


 ショルダーバッグから赤マフラーを取り出し、首に巻き付ける。少しの深呼吸をおき、雅哉は槍に赤の次元エネルギーをチャージし、怪人を一撃でぶち殺そうとしていた。


「………」


 あちらの世界へと侵入しようと必死の様子で怪人は気付いていなかった。


 しめた、赤ん坊の事はどうでもいい彼は迷うことなく怪人ごとやる勢いで突き刺した……だが、それは阻止された。


「………」


 ニヤリと笑った道化師はナイフを突き、受け身を取りづらい態勢で無理に回避させて。さらに別方向からのナイフの嵐で大打撃を与える。


「……チッ」


 若干イラつくも受けた傷など、意に介さず彼は立ち上がる。あの道化師は蜥蜴の怪人の勢いに乗じて、戻ってきたようだ……しかし、そのせいで事態はさらに混乱を極めた。


 怪人の咆哮がその山を覆うように震わせ、それは奴の行っていた事が成功した合図にも聞こえた。


「――――――――――!!!!!」


 音のない聞こえる筈のない咆哮は辺りを震わせた後、赤ん坊の遺体は鏡のように裂け目ができ、そこへ蜥蜴の怪人は入り込んでしまった。


「……!」


(……流石に予想外だ)


 それに引き続いて、道化師もその裂け目へと入り込まれてしまった。そもそも、何故あんな裂け目が赤ん坊に出てくるのかが全く以て理解不能だ。


「……オペレーター、能力者をもう一人を寄越せ。 説明は省く、しばらく連絡は取れない」


 彼はそう言い残し、同じくして裂け目の中へと侵入していった。







「……は?」


 マール・ボルカトフは一瞬思考が凍り付いた。何かの冗談だろうか。確かに一体くらいの侵入は覚悟していた。逃げればいいだけの話だ。だが何だ、なんで全員こっちの世界に来る。やめてくれ、私の負担がマッハで加速してしまう。


「……え? 何、本当にこっちに来れるの?」


「あの変なの、なに」


「ぼくも……わからない」


 オペとハロルドは震えながら、ルシファーにしがみつく。


「おい、フェンリル! お前は何をしようとしていた!」


「………」


 沈黙が続く。手詰まりという事か。本来ならここに何かがあって、何もなかったか。それともあの怪人が世界の壁を盛大にぶち壊したことが原因か……ああ、考えている時間が惜しいくらいに状況が切迫している。


「―――――――また逃げるぞ」




「おい! 逃げるな……!」




(もし、ここが特別な場所なら。 他にも手掛かりはあるはずだ)


 とヒビの中から聞こえる私たちに言っているのか化け物に言っているのか定かではない声を無視し、一行はその場から離れ、さらに雪山の上へと逃げていった。








 








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