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第五十二話「追抗」

 白銀の世界が我々を包む。熱気を奪うその山は、赤子の命を奪ったあの雪山と似た感覚を覚える。


「……いや」


 しかし、その少年と化した赤子は向き合わなければならない。自らの事件とそれを引き起こした元凶に。


「―――――いや、イヤだ。 ここに……いたくない」


「……ダメだ、向き合うんだ。 でなければ、私たちはここで終わる」


「でも……でも!」


 少年の肩をガッシリと掴む……ああ、早いとこ、こんな事を終わらせないと。彼は巻き込まれた側だ、もちろん責任を持って私が帰すさ。じゃなきゃ、この世界の本来の役割を再開できない。


「……まずこの寒さを何とかしよう」


 寒い、非常に寒い。当然のごとく、マイナスに突入しているこの気温で何かをする前に我々が終わってしまう。


「ルシファー、何か暖かくなる方法はないか?」


「そんな無茶を言われてもですね……オペの召喚で何とか……あのカバン使えば良いじゃないんですかね?」


 ―――――――ああ、すっかり忘れてた。というか、この堕天使、少し記憶が戻ってないか? 様子見は続けるが、その前に取り出そう。


 マール・ボルカトフはカバンを漁り、防寒着を取り出した。全員が揃いも揃って、分厚くなり謎の一体感を生み出していた。


「……写真撮影とかしてみたいですね」


「こんな状況でするか」


 そんなことを言いつつも、彼らは進んだ。途中、オペとハロルドはお互いにちょっかいを出し、じゃれあう。その光景は……ホントに兄弟だな、あいつら。少し殴り合っているように喧嘩に見えるのは気のせいだろうか。


「グルゥゥ……」


「……待ってろ」


 カバンから狼用……の防寒着はそもそもないので、犬用のを代わりに生成する。


「グゥ……ルゥ」


 ―――――――この狼、フェンリルもこの世界の影響のをモロに受けているようだ。次元エネルギーを帯びていることから、創獣だろうがそれでもここまで人に懐くのは珍しい。絶滅寸前の種故に尚更だ。この個体が単に……かもしれないが。


「―――――――アウッ! ウウゥッ!!!」


 フェンリルは過剰な反応を示し、雪山を横断し始めた。


「今度は何……!?」


 フェンリルの行き先の空間は鏡のように割れ、次第にヒビは大きくなっていった。


「これまた、異常事態が……」


「………」


「……あれ、なに?」


「―――――――恐らく、外だ。 ここではない、本来の世界……誰かが無理矢理、こじ開けている」


 一時的にそのヒビは進行を止めた。しかし、同時にヒビの先には爆音が響く渡る。マール・ボルカトフはこれから起こる出来事に細心の注意を払いながらも、フェンリルの後を追う。













「………」


 黒き道化師は赤子の遺体から発する異常なエネルギーの原因に興味を抱き、戻ってきては彼の精神世界なかへ侵入しようと試みていた。


 世界への侵入自体は、様々世界へと不法侵入していた彼にとって造作もない。だからこそ、この事態は不味かった。それはその空間も一つの世界という事、創無に侵入されるという事は。一度、繋がりが出来てしまえば、出入りが容易になる。


 問題はその世界がオペの精神であることだ。もし、仮に成功されたらオペは本当に死んでしまう。その前に自我を保っていられるかも心配だ。


「……!!!」


 徐々に穴は広がっていき、侵入間近……だった。


「―――――――!?」


 道化師は咄嗟に避けて、ナイフを構える。


「……チッ」


 その男は黒の戦闘服を身に纏い、銃口の付いた二つの穂先の槍を右手に持ち、同じく銃口が備えられている長方型の前腕と同様サイズの盾が彼の存在感をさらに増加させている。


「……!」


 危機を感じ取った道化師は本気で殺しに掛かる。刃物のリーチ差をものともせず、果敢に接近し、その斬撃を浴びせる。


「………」


 男は防ぎつつも、少しずつ後ろへと下がり、機を熟した瞬間にナイフを受け止め腹部へと強烈な蹴りを味わわせる。


「……!!」


「……ふぅ」


 槍を構え、赤く染まったそれは確実に目の前の獲物を殺すという合図のようである。瞳は道化師を見据えて、今かとばかりに勢いよく走ってくるではないか。


「!!!」


 危機を察した道化師は、黒きエネルギーを壁代わりに前に放出し、さらに数多のナイフを宙に展開する。


「ハァ……チッ」


 強力な一撃を放つも、壁とナイフによって拡散され、その隙にこの雪山のどこかへと逃げられてしまった。


「―――――――おい、聞こえるか。 オペレーター、情報通りに創無を発見し交戦した。 逃走につき、後を追う……死亡した赤ん坊を狙っていた」


 理由は知らないが、それでも奴を殺すことには変わりない。これが俺の仕事だ。なら、やることは一つ。


(……奴を探し出すか。 遺体は回収班に任せる)


 かくして、二つの世界に起きた事件は一つの終息を見せようとしていた。その結果が決して当事者にとって、最良であるかは定かではないが……。














 という事で、ここらで黒絶草本編との繋がりを見せておこうかと。

 ハッキリと明言しますと、この話は黒絶草・第1話より前の話です。1話時点だと1年半前に該当します。

 最後に出てきた男は黒絶草に出てきている「賀霧雅哉」です。1年半前なので、ちょうど人事異動で各地を転々としている時期です。

 次回から、本格的に終盤に向けた準備を進めるかと。正直、ラストをどのエンドにするか迷ってます。今後、黒絶草と関係するので慎重に決めていきますが。

 残り18話、夏が終わることには完結出来ていると思います。今後ともよろしくお願いします。

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