第五話 「危機」
灼熱の砂漠の中を歩き続ける。
確かにある程度の装備と食料は手に入れた。だがそれでもこの高熱の砂漠を越えるには不十分であった。
良かったことと言えば、この砂漠に来てから暖かかったローブは熱を失い、代わりにひんやりと気持ちの良い触り心地になっていた。起因は不明だが、あらゆる地を旅する自身としては自動で調節してくれるのは非常にありがたかった。
「あ……つ……い……」
以前より少し喋り方が良くなっているが、ローブの機能調節だけではこの砂漠の熱さを耐えるのは無理があり、気にしている余裕がなかった。
今のところ、動物がいないことも救いだ。仮に今襲われたら、逃げ切れる自信はなかった。
「ハァ……ハァ……」
目眩がしてきた。此処に来てから長く時間が経っているような感覚を味わった。実際は来てまだ40分ほどだが少年にとっては十分すぎるほど長い時間だった。
「……?」
ふと遠いが前方に何か見えた。木のような物と水色の何かが見えた。
「……!!!」
きっと水だ。そう確信した。
確かに水筒はあった。けどあれだけでは足りなかった。だからあそこで水分補給、水筒に水を汲み、ついでに身体を洗おうと思った。
縋る気持ちで今持てる力で全力疾走した。
あと少しだ。そうすれば休める。
そう信じ、走り続ける。
「……!!!!!」
オアシスへ着いたメイベーは直ぐに水に顔をつけた。
あまり汚れてはいなく凄く透明で口に含めても問題はなかった。
「……!?―――――――」
だが、その直後、彼は倒れてしまった。「水」に問題はなかったはずだ……。
周囲にあるのは木々だけだ。一体何を起因になったのだろう?
……木がするはずがない。彼等は植物ではあるが人間のような思考を持ち合わせていないし、動く術を持たない。原因を推測するとすれば、人間の知覚では感じ取れない物質なのだろう。そう思いたいが……。
「………」
そこらにいた“全て”の木々が一斉に動き出した。本来ならありえないが……やはり人間世界とは根本的に違う事という事だろうか。
木々たちは根っこを足のように使い、メイベーに近寄る。
「………」
樹洞の奥から目玉のような何かが見えかけてるがそれでも不気味な事に変わりない。
枝を腕のように動かし、メイベーに何かをしようとしていた。だが。
「……!!」
木々は奥から順に直ぐに元の位置へ戻っていった。
誰かが砂を踏み、歩いてくる音がしてきた。
「………」
黒いローブを身に纏い、杖を突き、少し老婆のようなものを思わせる。
老婆は杖をメイベーの頭をなぞるようにして回し、杖の先から粉の様なものがメイベーに降りかかる。
「………」
顔こそはわからなかったが、ニヤッと笑ったような素振りを見せた。
「う、うっ……」
彼は目を覚ました、が……。
「……ど……こ……?」
そこは黒や紫の色をしたよくはわからないがそれらがごちゃごちゃしてできたオーロラ?のような空間だった。
「……!?」
自分の身体を確認したら、オーロラと似たような波線が自身にも出ていた。
「………」
今一度、自分に何が起こったのか振り返ってみた。
砂漠で喉が枯れかけ、しばらくしてオアシスが見えたから向かい、その水を飲んで気付いたらここに居た……という事だが……。
「………」
熱で倒れた……でもそれでは何故この空間に居るのか説明がつかない。夢の可能性もあるがここまで意識がはっきりとした夢はないし、まだ喉は枯れかけていて水を欲している状況だ。
考えられる可能性は一つ、あの水だけだ。だとしたらあの水は普通ではなかったって事になる。
「……?」
でも、自分が飲んだがただの水だった。怪しい物は入ってないと思うが……実際の所はわからないが、かなりの確率であの水が原因だろう。
「……!」
すると、辺りの空間が歪み始める。
そして、辺り一帯を目映く光りはじめた。
「!?」
咄嗟に目を閉じ、腕で顔を隠す。
「………」
光が落ち着いたところでゆっくりと瞳孔を開く。
「!」
先ほどまでと違い、黒と紫を基調とした色から赤と白のオーロラへと変わっていた。
そして。
「……!!」
身体に妙な感覚を感じた。全身に何か触れられているような感じだった。
寒気を感じた。得体の知れない何かが自分を支配している。そういうイメージが頭の中を駆け巡る。
「………」
とりあえず、何か行動をしなければ何も始まらないので、動くことにした。
と言っても、周囲を見渡しても綺麗さっぱり何もないので、とりあえず走ることにした。
派手な事をすれば、何か起きるかもしれないが、如何せん現状は何も持っていないので、走るか、それに類ずる運動位をするしかないと判断した。
……それから30分ぐらい経過した。
だが一向に何も起こらない。
「………」
何をしようにも成長途中の少年には少し難関かもしれない。
だが何もしないわけにはいかないが……打開できる良いアイデアは中々思い浮かばなかった。
そうしている間にも時は刻一刻と過ぎていく。
「………」
目の前にも見えている白と赤のオーロラは今も常に動いている。
波のように動いてるそれをメイベーはただじっと眺めていた。
赤と白が絡み、混ざり合う。ただそれだけだが、彼はそれを興味ありげに見つめる。
「……?」
見つめていたら一瞬だが赤と白以外の色を見たような気がする……緑?
不思議に思ったメイベーは立ち上がった。流石にずっと何もしないわけにはいかない。
緑の見えた方角へ進む。何かあれば良いのだが……。
歩く速度を徐々に上げながら、どんどん歩く。
「……!」
しばらくして、緑の色がはっきりと見えてきた。
少しずつ駆け足から走り始める。
走っていくと、緑色は小さくはあるがさっきより大きく見えた。このまま近付けば何かあるかもしれない。
そう確信し、全力でダッシュした。
もう何回走っただろうか。砂漠に来てからずっと走ってばかりだ。疲れるけど、他にやるべきことがないのでこれをやるしかなかった。正直言って誰かに助けを求めたかった。
でも、その誰かすらこの世界にはいないかもしれない。あの森で目が覚めてからまだ一回も自分以外の人に会っていない……もしかして自分以外に人間はいないのではないか?という考えにまで至り始めた。
確かに、あの親と赤ん坊は記憶の中で見た。けど、あれはあくまで模様で触れたからであって自分だけでは思い出せなかった。
……だが、あの模様を用意してくれてる人がいるかもしれないという事実を思い出し、やはりいるのではないか?という事になった。
結局のところ、ハッキリとした事実は全くと言って良いほどなかった。全て推測の域でしかない。
とりあえず、この場所から抜け出さなくては。そうしなければ今抱えている謎の全てを解き明かせない。
すると緑色が直ぐそこまで迫ってきた。
「……!?」
突然な出来事に戸惑いながらも恐る恐る緑色の「光」を観察する。
特に異変は見られない。こちらに移動してきたがそれ以外のアクションはなかった。
「………」
凄く怖いが触れることにした。
少しずつ手を伸ばす。確実に。そして。
「!?」
メイベーはその場から姿を消してしまった。