第四十六話「悪魔」
今回は短いです。黒絶草本編を優先したいので、こちらは三週間以内にします。でも、二週間ぐらいで投稿するかもですね。
「……どういう事です!?」
「どういう事も何も。 あの惨状で存在している事すら珍しいんだよ? なら時間があるだけ、マシと言えるんじゃないかな? まだ消滅している訳ではないんだし」
「そうかもしれないですが……その事はいいでしょう。 守は今どんな状態なんだ……!?」
急かさないでくれとヴァーザーは言い、順序に沿って彼は話し始めた。
言うには、守の現在の環境はかなり特殊らしい。この世界の中心、それも深く、普通の者では立ち入れない場所。
マグマだ、その中に守は存在しているらしい。人としての形ではなく丸いクリスタルのような球体に姿を変えて。
「……細かい事はこの際、良いでしょう。 私では無理なのですか? 模造品とはいえ私もその……堕天使ルシファーだ」
「無理だよ。 あの男……ハートに支配されているし、それに君の不完全な身体では到達すら出来ない。 君自身がよく分かっているだろう?」
「………」
「でも、方法はあるよ。 本物になれば良い。 そう、本物のルシファーに」
「本……物……?」
「本物、つまり君は私の与える試練に乗り越え、その先にある実体を得るんだよ。 堕天使としてね」
時間も猶予も残されていない。砂時計のように戻らない焦燥感を心臓に感じたルシファーの取る選択肢は決まっていた。
「――――――分かりました。 貴方のその試練を受け入れましょう、時間はありません。 早急に」
「……了、解」
ニヤリと微笑んだヴァーザーはそっと彼の額に手を添える。そして、その“悪夢”は起こった。
「――――――うっ……!?」
「我が命により、この力を与える。 哀れな模造品に最愛なる神の祝福を」
ルシファーの身体に異変が起こる。全身が禍々しくなり、片翼だった背中には二つの翼が甦っていた。
「……ふふっ」
ルシファーの意識がはっきりしたところでヴァーザーは話し掛けた。
「調子はどうですか?」
「――――――貴方は誰だ?」
「僕は倒れた貴方様を介抱しようとしましたが、貴方様は一人で立ち上がりました。 その黒き翼……ルシファー様ですね?」
「ルシファー……」
今までに何をやってきたか、覚えてすらいない。しかし、ルシファー……馴染みのある名だ。
「しかし、貴方は何故こんなところに?」
「はい、この世界を救っていただきたいのです」
「救う……?」
聞くには、この世界は滅亡の危機に瀕している。三人の人間と一人の使い魔によって。内、使い魔と一人は封印できたらしいが残りの二人は逃げられたらしい。しかもその二人によって、人間のほとんどは存在しておらず、手で数える程しかいない最悪な状況だ。
「お願いです、助けてください……!」
そう言い、縋るように彼に飛びつく。
「……! 分かった、その願い、聞き届けた」
「ありがとうございます!」
足元に落ちてあるエクスカリバーを手にする。その剣をじっと彼は見つめた。
するとルシファーはその翼を広げ、悠々と飛び去って行った。
(そこまでの奴なら、特定は容易な筈だ)
「……ふふっ」
満面の笑みで彼を見送った。彼に跳び付いた時についでにオペやマール・ボルカトフと敵対するように脳を支配したのは正解かな。
「――――――光をもたらす者、君の幸運を期待しているよ。 良くも悪くも、この物語は君たち次第だ」
目覚めると、そこは吹雪の中だった。
室内からの急激な温度の変化に身体の感覚は完璧に覚ました。それにしても、ここはどこだろうと少年は考えた。しかし、それは目の前の生物の存在によって掻き消された。
「………」
狼だ、それも傷がある。相当な強者であろう。
少年はゆっくりと後退するが、運悪く枝を踏んでしまった。
「クルゥゥ……!」
「ヒッ……」
全力で逃げる前に捕捉され、走ろうとした瞬間に飛び掛かられ押し倒された。終わりだ。
「うっ……」
「クゥ……クゥ……」
食われると少年は思ったが、それとは真逆に頬を舐められ懐かれてしまった。
「……?」
よく分からない。けれど、敵ではないと言う事実は少年の心にじわじわと伝わってきていた。
「……狼さん?」
まるで犬のように狼は大きな声で返事をした。
「……狼さん!」
少年は勢いよく狼に抱き着いた。
「僕、ハロルド! ハロルド・メイベーって言うんだ! よろしくね、狼さん……!!!」
「………」
狼は抱き着かれたまま、その場を移動した。ハロルドは完全に狼に乗っかり、新たな試練を受ける者がこの世界へと降り立った。