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第四十四話「再創」

 なんだか意識が遠い。きっと、ここは私の知らない未知の領域なのだろう。死んでいるのか生きているのかすら判別できていない。


 寒い、冷たい何かが身体中を打ち付ける。冷たく、すぐに氷のように溶けていく……雪だ。


 吹雪の舞う音が聞こえる中、フェンリルは目を覚ました。


「クゥゥ……」


 あの出来事を今思い返しても恐怖を覚える。全身が黒く周囲に光をオーロラを発生させる謎の人型、何をしでかしたか、こんな場所まで連れて行くなんて。一体なにを考えているんだ?


 ここは……あの雪山と同じ状況だ。しかし、先ほどまでとは景色が違う。少なくともこの狼が戦闘していた場所ではない。あの赤ん坊もいない。身体の感覚からするに死んだという訳でもない。


 どうすればいい。フェンリルは考える。死ぬことを望んでいた彼にとって、生存している事実は良い事ではなかった。だが赤ん坊を置いて死ぬわけにもいかない。


 ひとまず、あの赤ん坊の件を片付けよう。全てはそこからだ。不気味な黒人間が仕掛けたという事は何かしらの異常事態は起こるはずだ。


 己の感に頼り、フェンリルは探索を開始した。









「ゔぅ……ッ!?」


 腹部に矢の一撃を受ける。身体の限界が近づいている。元が人でない存在とはいえ、深手を負っての戦闘は無理であった。たとえエクスカリバーを持っていてもそれは変わらなかった。


 逃げようにもまだ弓兵は複数残っている。僅かに出っ張った岩の後ろに隠れながら、やり過ごしてはいるがそれも時間の問題だろう。


「ハァ……ハァ……。 さてと……」


 必死に思考する。この状況を乗り越える方法を。残り少ない魔力、使い物にならない私とエクスカリバー、そして、複数の弓兵。後はこの岩場。移動する弓兵に合わせて、こちらも上手く他の岩に移動する。


 岩場を利用する考えもあるが、あの包囲網の中をどうやって潜り抜けるか。これが問題だ。身動きが自由に取れなければ、どうにもならない。


(……また体力がなくなりそうだが……やるか)








「……?」


 弓兵たちはより一層に警戒し、困惑した。あの岩の後ろにルシファーが居る。だがおかしな音がする。機械的でもなく、ただの環境音でもない。生理的に受け付けない音だ。そう、何かを引き千切るような。気持ち悪くなる音だ。


 と、その音が止んだ間際。事態は動いた。


 ルシファーは臆することなく、こちらへと飛び込んできた。弓兵たちは構えるも更に動揺する。


「――――――!?」


 ルシファーのその手には自身の背中にあったはずの左の翼が握られていた。あの黒く汚された白き翼を。


 矢の嵐が繰り出されてるも堕天使は引き千切った翼を宙へと投げ、その翼は堕天使の残った魔力により小さな爆発を起こした。小さくはあるが、それは事を動かすにあたって十分すぎる程に強力であった。


 その爆発は翼を散り散りにし、弓兵たちの元へと何個か飛んでいき付着した。その羽根に触れた弓兵は突如として目眩に襲われて十分な身動きが取れなくなっていた。


「――――――ッ!!!」


 ルシファーはふらふらしている弓兵のローブを掴み、こちらに弓を向けられた瞬間にその弓兵を盾にして攻撃できない状態へと一瞬ではあるが成功した。


 すぐさま、ルシファーは弓兵から弓と矢を奪い取り。構えた弓で他のふらついている弓兵を射抜いた。


 倒れるのを確認したら肉壁にしていた弓兵を蹴り倒し、注意をそれに逸らして他のふらついた弓兵の後ろへと駆け込んだ。


「ハァ……ハァ……」


 これ以上の無茶な移動は身体が持たない。数こそ少ないが、こちらの方が消耗している。死に物狂いで奴等を殺さなければ。


 矢をセットし、死体の隅から敵を覗くがすぐに矢が飛んできた。このままではいい的だ。何か、良い秘策を導き出さなければ—――――――!?


 しかし、状況は一変した。黒いローブを羽織った誰かが素手で弓兵を瞬く間に“消し去った”。


「………」


 その者はこちらへと視線を真っ直ぐに見据えていた。隠れる理由が無くなったルシファーは堂々とその姿を現した。


 全身の傷から漏れ出た血痕の後が酷く、背中の引き千切った痕も痛々しく片翼も弱々しくその形を維持していた。


「……随分と無茶をしたものだね。 模造品ルシファー


「……もしかして、貴方が……ヴァーザーですか?」


 以前に聞いた特徴からの質問だが、ほぼ間違いないだろう。だが今になって何故こんなところに?


「キミが思っている事はごもっともだ。 あの時から私は一度も姿を現していない。 では、今になって何故、現れたか。 簡単な答えだ。 今だからだよ」


 さて、私の思考も読まれ完璧に相手のペースだ。今はその方が良いかもしれないが。


「キミたちは惜しくもハッピーエンドを逃した。 これは残念な事実だ。 彼等には言ったんだけどな、“嘘は君の中にある”ってね」


 ――――――ああ、この世界とオペたちの正体か。彼は忠告をしてくれていたんだ。


「んー、そうかもしれないけど善意ではないかな。 まぁ、言っちゃえばね、ささやかな妨害……かな?」


「妨害……貴方はあの男と何か関係が? それとも似たような存在なのですか?」


「私と彼は似ている……否定はしない。 けれど、もう袂を分かったさ。 面倒くさい説明を省くと、これは壮大なお遊びと言う訳さ」


「………」


「おっと、言葉は選ぶべきだね。 こんな血生臭い場所では話すのも何だろう。 外へ出よう」


 ヴァーザーが無理矢理に開通させた道を二人は進んだ。


(……本格的に動いて正解かな)


 ヴァーザーは心の中でそう呟いた。彼とあの男にとって、これはとても重要な事である。しかし、それを遊戯にしてしまっているのがあの男だ。ヴァーザーも変わらぬところだ。


 この世界での出来事は下手をすれば、これから起こるあらゆる世界に影響を及ぼすことになる。それを知っているのは……。


(……キミたちがどんな選択をするか観察させてもらうよ)


















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