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第四話 「決心」

「……ん~」


 眠りから目が覚める。


「……!?」


 「今、自分は声が出なかったか?」と思った。


「……!」


 そういえばあのまま眠ってしまったことを思い出した。


「……??」


 九尾が来たのは砂がたくさんあるところで目の前に一面に広がった物凄く青い水の溜まり場であった……海?


「………」


 広い海、九尾が見守ってくれている。だから背中から降り、思いっきり叫ぶことにした。


「……ああ!!!」


「……!!」


 確かに喋れた。これは彼にとって最重要な事であった。


「あ……! あ……! ……あい!!!」


 何が起こったのか自分では理解が進まなかった。でも嬉しかった。だから他に何か喋れるか試してみた。


「……む! た! う! ……!!!!!」


 これ以上は無理だった。けどこれだけでもかなり前進したと言って良いだろう。


 九尾は依然とメイベーを見つめていた。


「……?」


 不思議に思ったメイベーは周りを見渡す。


「……!」


 近くの岩に紐で繋がれていて海に浮かんでいる木のボートを発見した。


「んー?」


 見てみると、古びてはいるがそこまで酷く傷んでいるわけではなく、子供を一人乗るには十分な状態であった。


「……!」


 九尾は尻尾を使い、メイベーを巻き付けボートに乗せる。


「……!?」


 突然に乗せられたメイベーは驚いたが、深呼吸をし心を落ち着かせる。


「!?!?」


 床板の中心が突如として光りはじめたのだ。


「……?」


 少し埃が被っていたので手で払う。


「……あ!」


 そこには模様があった。それは何かの虫が中心におり、それの周りに小さな粒々が散らばっていた。


 光が収まるとボートは少しずつ動き始めた。


「!?」


 慌ててボートから出ようとしたが既に九尾が尻尾で紐を解いており、戻るには少し距離が足りなかった。


「………」


 少年に多少濡れてでも戻るという選択肢を持ち合わせていなかった。それ以前に自身が泳げるか疑問であったが。


「うぅ……」


 涙目になりながら九尾に訴えるが、九尾は微笑むような表情をするだけだった。


「………」


 そして九尾はその場から消えた。役目を果たしたからだろうか。


「あう……」


 ボートの中で体育座りで落ち込んだ。ボートは勝手に動いてはいるが具体的にどこを向かうのかわからない上にどこかに着いたとしてもそこで何をすればいいか全く以てわからなかった。


「………」


 泣くことはなかったが頭の中でずっと考え込む。


 これから決めなければならない。狼や狐に頼ってはいるが今後力を貸してくれないかもしれない。そう思うと不安しか残らなかった。


 でもやらなければならない。与えられた困難を一人でも越えなければならなかった。


 でなければ死んじゃうし、あの赤ん坊を救うこともできない。


「……う……ん!」


 決心しよう。たとえ一人でも頑張ってみせるとそう決意した。これが自問自答した結果の答えだ。


 凄くシンプルな答えだが今の少年にはこれが一番ベストな答えだった。


「……?」


 ボートが先ほどと比べ揺れが激しくなっていた。


「………」


 海面を覗く。


 少し前と比べ、波が荒くなっていた。空も雲がかかり、雲行きが怪しくなってきた。

 

「……!」


 今冷たい物が当たった。雨であった。それを機に徐々に雨は強くなっていった。


「……!」


 ボートに一つだけ物があった。それは少し大きめのカバンであった。


 直ぐにカバンを開け、雨を防げるものがないか探す。すると。


「……!!!」


 フードの付いたローブを見つけた。


 取り出したが当たっても濡れず、雨を流していく。どうやら特別な物のようだ。


 透かさずローブを被る。


「……ふぇ~」


 不思議な事に冷たいどころか暖かった。サイズが大きく、この雨を凌ぐには十分だった。


 雨だったがそれは次第に激しくなり、天候が荒れていき、嵐と変わらぬものとなっていった。


「………」


 身体を丸め、じっと嵐が止むのを待とうとしたが。退屈どころかボートにしがみつきながら海に落とされないようにしなきゃいけなかったので余裕はない。


「……!」


 気合を入れ、ボートから引き剥がされないように頑張った。


 長く続いたが、それが永遠に続くわけではない。


 時間が経ち、嵐は少しずつ収まっていき、しばらくして完全に止んだ。そして。


「……!!! あ……れ!!!」


 陸が見えた。砂しか見えないがそれでもまともに動ける場所に着けるのは嬉しかった。


「………」


 嵐も止み、陸に着くにはまだ時間がかかるのでローブの入ってたカバンを探ってみた。


「……?」


 松明みたいのモノと少し焦げているような茶色っぽい何かといくつかの水筒があった。


 焦げた何かを手に取る、少しの力で割れそうなので割ってみた。用途がわからないので別に割っても問題なかった。


 中は少し白っぽく、触ったらふわふわしていた。


「……!」


 もしやと思い、食べてみた。


「!!!!!」


 美味しかった。やはり食べ物だった。


 水筒の中も確認する。やはり水だ。


「……!!」


 躊躇なく飲んだ。やっぱり美味しい。本物の水だ。


 この世界に来てからまだ5時間しか経っていないが、今までの経緯を考えれば食事を摂らなければならなった彼にとって最高の出来事であった。


 何かないか鞄の中を探す。


 他には魚を干したもの、一口サイズに切られ様々な野菜が詰め込まれた箱などがあった。野菜が新鮮なのはなんでなのだろうか?……誰かが用意した?……その可能性しか思いつかなかった。


「……!」


 そうしている間に陸に着いた。


「……」


 そこは完全な砂漠だった。遠くへ見渡しても砂ばかり他は何も見えなかった。


「……ふっ!」


 気合を引き締め。心を落ち着かせる。これからは一人でもやっていかなくちゃいけないかもしれないのだ。それを思い、表情を九尾と別れる前と違い、少し様になっていた。


「……ん!」


 カバンを背負い、少年は砂漠を歩き始めた。










「………」


 男は何枚もの紙に模様を描いていた。見慣れないものもあったが。3分の1が狼の模様であった。


 描き終えると、男はその全てをおもちゃ箱に入れ、また消えた。


「……これで最後だ」


 男はそう言い、特にその後何をするわけでもなく、また、じっと空を見つめていた。

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