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第三十七話「誤認」

「……分かった」


 マール・ボルカトフはヌヴァーからのチョコレートを受け取り口にした。


 苦かった。当然だ、甘いものは基本的に好まない。彼は塩気のあるものか、酸味のある食べ物を好む。辛い物もいけるがそこは程々に。甘味に関しては駄目らしい。どうやらあの独特のとろけた感じが嫌いらしい。


 中途半端な甘ったるさよりハッキリとした味の方が彼の味覚には合うようだ。


「……うぇ」


 ヌヴァーは苦しそうな表情を見せながらチョコレートを食べ続ける。子どもには苦みが強すぎるようだ。けれどもヌヴァーは黙々と食べ続けた。そして、完食。


「うぇ……うぅ……」


 終止、本当に苦しそうだった。


「……ちょっと待ってろ」


 と、彼は台所へと行き、調理をし始めた。時々ではあるが食材を買って自炊する時がある。理由は簡単だ。適当に捕まえた昆虫などを入れて食べるためだ。それが小さい時からの彼の得意な事である。だが今回はそんなことはしてはいけない。少し気合というものを入れて、彼は野菜を切り始めた。


 今回は単純に野菜スープだ。ウインナーを少し加えとけば、あのガキも満足するだろう。マール・ボルカトフはそう思った。ニンジンにキャベツ、玉葱やブロッコリーにジャガイモを切り分け、スープの味は面倒なので適当に塩を少々入れ、順当に野菜を煮立てた。後は味見をしながら、足りなければ……まぁ、料理に関しては分からんわけではないが、専門知識はあまりないので適当だ。ベーコン、ぶっこめば油っぽくなるでしょ。と言った感じに彼はベーコンを焼き始めた。


 ヌヴァーは打って変わって、満面の笑顔でマール・ボルカトフの隣でこちらを観察していた。


「……皿二つ、用意しておけ」


「……! うん! 分かった!」


 急ぐなと注意して、ヌヴァーは食器棚からお皿を二つを取り出してそのまま食卓テーブルへと置く。スプーンなども用意して整えていく。


「……妥当だな」


 ベーコンを投入したから時間が経ち、ベーコンの脂がスープに溶け込んでいる。肉が好きな子どもにとってはさぞかしベストマッチなものだろう。


「出来たぞ、席に着け」


 明らかに楽しみに腹を空かせているその姿は本当の無邪気な子どものようだ。つい数日前までの出来事を含めなければ、ただの子どもだ。だがアレがあってこの様子じゃただのガキではない……しかし、今は食事の時間だ。思考するのは後にしよう。スープが冷める前に。冷めて味が損なえば私が無駄に身体を動かして作った意味がなくなってしまう。


 皿に野菜スープを入れ、パンをいくつか用意し飲み物は面倒なので市販の炭酸飲料だ。


「!!!」


まるで物珍しいかのように炭酸飲料をじろじろ観察してきた。彼は今までどんなものを食べてきたのだろうか。それが少し気掛かりだ。アレルギーも持っているかまだ私は知らない。後で調べなければ。


色々あったが我々は食事を開始した。ヌヴァーは行儀よい食べ方ではないが、それでも美味しそうに頬張っていた。少し考えれば、ヌヴァーはチョコレートは大丈夫だ。後は何だろうか、昨日食べたオートミールは微妙な反応をしていた。一昨日のホットドッグは興奮気味にムシャクシャ喰っていたことを考えると……ただのガキだ。今日の野菜スープはお気に召したようだ。


「……さて。 面倒だが野菜ジュースでも作るか」


「……!?」


 ヌヴァーの手はそこで止まった。余程の事態のようだ。


「―――――好き嫌い多いな。 ホントに作ってやるから、嫌が―――――私からの褒美みたいなものだぞ。 存分に味わいたまえ」









 ――――――マールさん、嫌がらせって言おうとしたよね? うぅ、こんな少年に嫌がらせをするなんて……僕のパパとママも死んじゃったけど、全然大丈夫だなぁ。何でだろう。結構、優しくしてもらったのに、家族として幸せな日々を過ごしてきた筈なのに。何故、悲しくならない。自分でも疑問だ。思考回路のどこかがおかしいのか。悲しむと言ったものがほとんど彼には表れなかった。


 ヌヴァー自身も不思議に感じた。富裕と言える層の人間ではないが、それでもそれなりの生活はしていた。衣食住にも困らずに恵まれたままに彼は過ごした。だからこそのおかしなことなのだ。


 目の前で両親の死体を見れば、泣き喚いたり、他人を信用できずに一人になりたかったりするだろう。この少年はそんな行動を—―――――。











「……!?……ハァ」


 過去を語っていた神くん……もといマール・ボルカトフは語るのを止めた。


「……?」


「―――――記憶の混同……いや、あの男の仕業だろう。 一部に不自然な点が見られた……」


 そんな言い訳をして思い返す。事件現場の発見当時、少年は泣いていたはずだ。何故、過去のマール・ボルカトフはそれを平然としている少年と判断した。単に私の中で本当に記憶の混同があったのかもしれない、だがそれにしては……自分の記憶だからか、妙な信憑性を感じた。


 確かな事はこの過去が私をここまで導いた事だ。狂いに狂い、特殊な方法とはいえ人類が棲む世界とは異なる世界を作った。


 知りたい事は山ほどあるが、今気になるのは……。


(……あの男、何の目的でこんな事をしでかした。 メリットも何もないだろう。 それにあの発明は私以外は完成したことを知らない筈だ……)


 思い返し、知れば知るほど謎は奥底へと沈んでいく。今の彼等では試練を突破できない。突破するには……保有する力を“本物”へと昇華し、三人の“仲間”を救い出さねばならない。

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