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第三十五話「邂逅」

「おい、おい、聞いてるか? そこのガキ」


 あまりに場を弁えないその発言は民衆がざわめくのも仕方がない言動であった。


「聞いてるかって言ってるんだ。 昨日の夜に私とお前はすれ違ったな? 覚えているか?」


 少年は泣きながらもこっくりと頷いた。


「なら、聞く。 お前はこの死んだ両親を追い掛けて来たのか?」


 少年はさらに泣く勢いを増しながらも返事をした。


「う……ん……うっ……うっ……」


「ハァ……」


 期待をして損した。チョコに近寄らないボロボロの明らかに飢えていた子どもばかりに何か特別な事情があろうものと思っていたが、違うらしい。ただの親探しとはつまらない奴だ。


 そっぽを向いて、帰ろうとした瞬間。


「ちょっと、あんた!」


 不意の民衆の中の婆さんに呼ばれて、振り返ると……。


「あんた、何逃げようとしてるのよ。 知り合いなんでしょ? だったら、あんたがこの子を面倒見なさいよ」


「は? 私とその子の接点は皆無に等しいぞ。 昨日の夜にすれ違った程度だ。 そのガキの名前もどこに住んでいるかも分からん」


「そんな事、どうでもいいのよ。 もうすぐ、警察も来るし、あんたは立派な関係者だよ。 もうここに居るみんながそう証言できるよ」


「………」


 余計な事に巻き込まれてしまった。興味本位で話し掛けるんじゃなかった。本当に面倒くさい。


 無理矢理に去ろうとしたが少年に袖を引っ張られ、後には引けなくなった。そして、警察が着いてしまった。


(……後で色々と礼ぐらいは貰うぞ)


 そんな気持ちで事情聴取に臨んだ。1970年代と言う時代も後半に差し掛かっている。もう少しは科学技術は進歩してほしいものだ。何かの間違いで犯人に仕立て上げられては堪らない。


 暫しの後、やっと解放された。話は異様に長かった。そう、ただの殺人事件では済まされない遺体の状態でだったからである。


 事件現場の発見当時の状態ではただの人間にしか見えない。だが、ほんの少しでも動かせばどうだろうか。見えないところはすべて“消滅していた”。あまりにも不可解過ぎた。切り取られたわけでもなく消滅している。そんな現実を突きつけられれば、警察も通常の捜査手段ではなくなってくる。人間技では出来ない方法。消滅に面していた断面は綺麗に血液が抜かれていて、時間が経ってちょっとの量が漏れ出しているくらいだ。


 そんな情報を私に与えられた。何を思って与えたのかは不明だが、その翌日に明らかに警察関係者じゃない服装をした人間が現場に来ていた。腰に剣と拳銃がある時点で異常だ。拳銃だけなら納得はできるが、剣を持っている時点でこの異常な事件に関わりのある異常者なのは確かだ。そういう専門の署の者か?


 しかし、どれだけ考えても剣を所持する理由が浮かばない。こういった犯人はそれだけの狂気を帯びた奴なのか? 思考しながらも、自宅で本を読む。外へは出してもらえなかった。


 だが、警察は当てつけなのか知らないがうちにあのガキを送って来やがった。しかもうちに来て、私の顔を見た途端に安心した表情を見せてくる。止めてくれ。これ以上の深入りは迷惑だ。


 数日と言う時間が経った。現状維持と言う奴だ。何も変わらん。私に関しては。


 あのガキは違った。どんどん、私に心と言うものを開かせていっている。私を親戚か何かと勘違いしてんのか。


 嫌な日々が続いた。幸いだったのがこのガキがそこまでクソガキと言う点ではないという事だ。大人しい方ではあるが、元気で活発なところを見受けられ、どこか落ち着き払った表情をしてくる。


 本当に子どもか? 両親が殺されて一週間が経つぐらいだぞ。それでこのメンタルはおかしいと言わざるを得ない。


 そもそもと言えば、何で私の所にこのガキが来るんだ。親戚やらもうちょっと安全な所に置くべきだろう。


 






 また数日が経ち、警官同士の会話がわざとらしい声量で聞こえてきた。怪しげな研究をしている私を被疑者の一人として逮捕する動きがあるらしい。動機は前々から見かけたこのガキを狙って、前日にあったとだけ嘘を付いて両親を殺害した……色々滅茶苦茶だ。だが、警察としてがこれで良いのだろう。多少の理由を付けて、後は無理やりにでも圧力を掛けて終わらせたいだけだ。


 屈するつもりはないが、彼は是が非でも自分が児童ポルノではない事を証明されなければならなかった。屈辱だ。こんなことになるなら、放っておけば良かったのだ。あまり考えたくないが、自分が善意で動いたなどいう事実だけは否定する。他人を見下してここまで来たのだ。その可能性は低い。


 なら何故、声を掛けたのか。それだけは不明だ。おかしい、このガキの事は何とも思わん筈だ。なのに……何故に放って置けなかったのか。


 あの夜から自分はどこかおかしい。疲れているのかもしれない。研究のし過ぎで疲労が溜まってストレスとなり、何らかの影響を起こしているのだろう。その状態でただただ前を進むボロボロの少年を見れば、面白半分で接触しようとした。それだけだ。


 この男は気付いていなかった。どれだけ自分を不可思議な存在としようにも、何処まで行っても“人間”であると言う事を。心の奥底にある感情は他の人間と変わりない事を。だからこその現在の状況と。















 

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