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第三十二話「再開」

 狼を追って道のない道を歩く少年。目指す場所はあの研究所。居なくなった仲間を助け出す。その為に自分が元が赤ん坊であろうが関係ない。今は一人の少年。身体を動かせて、考える事も出来る、素晴らしい事だ。


 だから、今できる事を精一杯に頑張ろう。何度も言い聞かせ、狼に付いて行き。無事に研究所に着いた。


「………」


 再び見るこの建物。電気は通ってはいるが、人が居る気配はない。前と変わらずだ。


 深呼吸。怖れる事はない。ただ、大切な人を救い出すだけだ。意を決して少年と狼は中へと入って行った。


「……!」


 中は変わっていた。以前より荒れ方が酷くなっている。まるで誰かが暴れたような、それもただ暴れたのではない。ここからは悲しみを感じた。大事な何かを失くしたように。


 さらに先を進む。狼を警戒しながら後ろから付いてくれている。勇気を振り絞って前進するだけだ。


 二階へと上がる。目の前にはガラスの破片やそれに付着している血痕が沢山あった。見てるだけで気が滅入りそうになる。


 避けて歩けば歩くほど身体が重くなる。あまり自由が効かなくなる。心が苦しい。何度も同じ思いが自分の中に入り込んでくる。


「……! ……!!!」


 苦しみながら次の階、さらに次の階へと上がり、屋上へと到達した。


「か……み……くん?」


 ポツンと佇み椅子の背もたれに寄りかかり、虚ろな目をしたその顔は下を向いていた。


「……! ……!!!」


 動揺しながらも彼の前まで急いで近付いて、その肩を揺らす。


「……くん! かみ……くん!!!!!」


 応答はない。身体が動いて、頭で隠れていた首が見えた。


「……!?」


 切り傷があり、そこから出血していた。混乱しながらも何とかしようと探る。服の中の腹部まで垂れている。まさか、二階のガラス……?


 どうしよう、どうしようと思考する少年。カバンの中を探り、手当て出来る道具がないか探す。


 すると、狼が自分のローブを引っ張ってきた。


「……?」


 分からなそうな表情をしていると、狼は再度ローブを引っ張り、神くんの首に吠えた。


「……!」


 ローブを首に巻く? そんな考えが浮かんだ。ともかく、やってみよう。


 ローブを引き千切ろうにも無理だった。特別な素材で出来ていると思っていたが、ここまでとは思わなかった。


 ひたすら考え、袖の部分を首に巻き付けた。


 これで少しはマシになっているか。


 ローブの袖から黒の靄みたいなものが発生して首を覆った。


「!?……!?」


 本当に大丈夫なのか心配になってきた。あわわと言いたそうな顔をしていた。


 狼は少年の目の前でお座りをした。大丈夫だと言いたいのだろうか。


「………」


 けれど、安心をしている場合ではない。これで治ると決めつけるのは早計だ。なにか、なにかできる事をしなければ。


 あとは……包帯!


 思い立った彼は研究所内を探し回った。今の彼に神くんの傷を治す手段はない。だから、できる事、血を止める事を目的とするのみだ。


 ない、ない、ない。研究所なら緊急時の為に救急箱ぐらいはあるはずだ。助けなきゃ、救わなきゃ、元はと言えば僕が原因だ。理由なんか付けずに自分を信じれば良かった。あんなおじさんの言う事なんかこれ以上、聞くもんか。


 今の僕なら、どんな真実でも受け入れられるさ。守さんの思いも無駄にできない。


 一階へと降りた。目をキョロキョロしながら周りを見てみると。


「……!!」


 テーブルやロッカーが邪魔しており、見えにくくなってはいるがその奥に長方形……扉のような物が見えた。


「……!!! ……!!!」


 テーブルをどかして、ロッカーは必死に押し続けて扉の前はスッキリになった。


 ドアノブをガチャガチャやるが開かない。八つ当たり気味にバンと叩いたら開いた、と言うよりそのまま後ろへと倒れて行った。もうドアとして機能していなかった。よく見てみたら横から見ると思いっきりに壁に大穴が開いていた。子どもなら入れるサイズだ。損した気分だし、何だか恥ずかしくなってきた。


 付いて来ている狼はお座りのまま、まるで温かく見守っているかのような瞳でこちらを見つめていた。


 こっちを見るな! と言いたそうにしながらも部屋に突入。お薬などがいっぱいあった。医務室だ。


 薬品などが入った棚を見る。自身の見当は当たった。その中にも救急箱はあった。そして、普通に包帯が置いてあった。


「……!!!」


 とりあえず、急いでいたので包帯を持って駆け上がった。今の彼は頭がそれほど回っていない。余裕がないとも言えた。


 屋上へと戻って来た少年は首の傷の様子を見た。恐る恐るローブを外してみる。


 出血自体は止まっていないものの、一滴が垂れるか垂れないかの違いであった。


 知識のない彼は包帯で首をグルグル巻きにした。それも十回、二十回と巻いていった。


 三十回目に差しかかろうとした時に、彼の手は動いた。


「!……!!」


 割ときつめに縛ったのでそれが影響してしまっていた。


「ゲホッ! ゲホッ!!!」


 少年をより一層に肩を揺らした。


「……め……ろ」


「!!!」


「止めろ……!」


 とそこで少年は止めた。嬉しかった、目の前に居る人にまた会えるなんて。


「俺は神じゃない。 マール――――――」


 少年は抱き着いた。そして、泣く。また会えた、会えたんだ。


「うっ……うっ……」


「……ふん」


 マールはしばしその状態を受け入れていた。子どもは嫌いだが、彼の少年に対して見つめるその眼には優しさを感じられた。














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