第二十七話「不安」
「……!? 何だ今のは……?」
過去の記憶かと思われる複数の人物の回想を彼等は見てしまった。だが……どういう事だ。情報を整理しよう。
「みなさん! 何があったのですか!?」
「ヌパ! ヌパヌパ!」
「うっ……ここって、さっきまで居た場所……?」
「……ねぇ、さっきの変なのって何?」
それは俺が聞きたいぐらいだ。ともかく、オペと神と俺とであの出来事の整理をしつつ、ルシファーとヌパーにそれについて分かる事は全て話した。
「あの赤ん坊に関しての出来事……それにこの世界を作った張本人が居たという事ですか?」
「正確にはその装置を作った人が何者かに盗まれたらしいんだけど。 多分、その盗んだ人物が“第三者”かな」
そして、この世界を作れる装置を作ったマール・ボルカトフはまだ生きていて未だに研究を続けておりその中でメイベー君の兄のハロルド君はバーチャルなる技術を用いて作られた眼鏡で世界を体験して、その後に気絶……。
「その眼鏡って……」
「ああ、恐らくこの世界だ。俺達が覚えのある地形の事も言っているし間違いない。 後は何故気絶したかだ」
そう、それが気掛かりだ。嫌な事態しか想像できないが、それしかないのだろう。
「……つまり、その眼鏡を使ってこの世界に来ている可能性があると?」
あの眼鏡に不備があり、ハロルドに相当の負担が掛かって本当にあの場に倒れただけかもしれないが状況を考えるとこちらに来ている可能性が高い。
「ねぇ、一つ良い?」
そこで神くんが守に向かって単純な疑問をぶつける。
「なんで身体はそのままなのにこの世界に来れるの?」
――――――ああ。この世界の異常に慣れ過ぎて、そんな些細な事を気にしていないなんて……少しは視点を変えて物事を見なくてはいけないかもしれないな。
「んー、改めて言われてみるとどうしてなんだろうなぁ」
「……私から一つ。 精神だけこちらに飛ばされて来たのではないでしょうか?」
なるほど。そういう事なのだろうか。正直、言ってこういう状況においてまともに推測出来る奴は凄いと思う。異常だと俺は思っている。何せ、当の俺達が何も分からないんだもん。自分たちの記憶が全くないってのが問題なのは明白だが。
「? 精神だけってどういう事ですか?」
「んー、つまりなんだオペ。 心だけが出ちゃった感じだ……ああ! そう! 幽霊だよ! 幽霊! 何かあるだろ!? 魂だけの変な炎みたいなアレ!?」
なんとなくイメージを膨らませて言いたい事は分かったので、渋々納得した。
「へぇー、心だけがこっちに来るんだね」
と、神は呟いた。
「まぁ、異常な事態じゃないか? 俺達もこの遺跡から出たら探さないとな」
そうに違いない。だったら、今はハロルドを見つけるのが優先だ。
「ん~、でも」
僕たちがこうしてる間にもハロルドに何かあるかもしれない。早く行かなければ。
「思うんだけどね、精神だけで入ってくるのがこの世界に存在する上で普通じゃないの?」
――――――!? 彼は何を言っている。この世界に精神だけで入ってくるのが普通……?
「……一体、君は何を考えて言ってるんだい? 旅をしていれば分かるだろう? 確かに肉体はあるし、君も死にかけるような体験をしただろう? 精神だけの状態だけってのが異常じゃないのかい?」
ふむ、やはり通常では気付かないか。私の発明も大した物だ……さてと。茶番と行こうか。
「ふふっ、気付かないなんて滑稽だね。 それでも堕天使かい?」
!!!……こいつ、あの時の偉そうな奴か!
「お前、また神の身体を乗っ取ってるのか……!?」
「!……何でまた出てきたんだよ!」
「待て待て、今回は君たちと喧嘩するために来たのではないんだよ――――――今度は、僕も居るよ!!!」
神くん……ああ! もう訳が分からん!
「チッ、二度目は通用しないか――――――ねぇ! 君は何の話をしに来たの!?」
「ふむ、先ほども話しただろう? 精神だけでこの世界に入って来るのが普通なんだよ」
何故、それを知っている……? こいつがやはりマール・ボルカトフか、だからこそ装置について詳しいと分かれば全ての納得が行く。
「貴様が知っているのはどうしてだ?」
「それは全ての元凶である私だからだよ」
「やっぱり……! お前がマール・ボルカトフか!?」
「で、そうだけど何か問題があるかな?」
「ああ! 大ありだ! 聞きたい事がたくさんあるんだ!」
しばしの沈黙の後、彼は答えた。
「答えても良いが今はダメだ。 つまらない。 だから、私の一方的な解答にするよ――――――えー、全部言ってくれても良い――――――黙ってろ。 ったく、さてと。 では、始めますよ」
マール・ボルカトフが何を言うか、神を除いたみんなは静かに聞いた。ただ……ただ、ヌパーだけ何かを知っているかのように悟ったような表情を見せていた。
「君たちが気付かないのも当たり前だろう。 だって、ここに居る全員が精神だけの存在だよ? まぁ、色々ツッコミたい事はあるだろうがそのまま聞け。 何故、精神だけかって? 簡単な答えだよ。 それはここが完全な異世界ではないからね。 確かに異世界と言えば異世界だけど、まだ世界として独立も何もない……精神世界と言えば言いかな? ここは誰の物か分からない精神を基に作られた世界なんだよ。 故に多少、私の過去も混じってはいるが基本的にその人物の見た物、記憶で構成されている。 そして、元の人物がこの世界に来た場合は思い通りにすることが出来る。 言わば、万能の存在になれるわけだね。 言ってしまえばここは夢の中だ。 通常なら、どんなありえない事も出来る。 君たちも色々体験してきただろう? つまりはそういう事だ」
「「「「「………」」」」」
4人は黙った。一度に色々な情報が入り込んできて混乱しているのもあるが、同時に今まで会った不安要素を一気に出された感じもあった。だが、一つだけ不可解な部分もあった。
「マール・ボルカトフ、貴様は“創無”については知っているかのかい?」
ボルカトフは少しの静寂を作った後に予想外の回答を寄越してきた。
「残念ながら、そんな存在は知らない。 知っているのは君たちが接触したヴァーザーという個体だけだ」
なら、あれは何だと言うんだ……? ルシファー以上に説明の付かない存在だぞ……創無が数ある不安の中でも上位に入るくらいには心配だ。こちらの攻撃が一切通じなかった、それも世界を滅ぼす魔法でだぞ……もう、神にはあの魔法を使わせないが、もう一度使ったら恐らくアウトだからな。
そんな相手故に今持っている自分たちの手段が全て通用しないとしたら? そう考えただけでも恐ろしい、まるで攻撃を無視……そもそも通用するのか? そんな疑問が生まれた。全身が真っ黒だし同じ生命体なのかも分からない。もしかしたら、幽霊とかの類かもしれない。色々と謎な点がお――――――オペ?
「……へ……へへ」
オペだけ明らかに挙動不審であり、何か思い当たる事でも見つけてしまったのだろうか。
「オペ! どうしたの!――――――果たして、いつまで自分を偽れるかな?」
その言葉にさらに動揺するオペ。お前に何があった……!?
「オペ……どうした? 何があった?」
「……え? だって、さっきこの世界が……思いのままだって」
「ああ……だから、あの赤ん坊に使用されている可能性が高い……」
「怖い、怖いんだ……」
「?……確かに怖いかもしれないがあの赤ん坊が死にかける前に助けるし何か問題あるか?」
「でもあの太陽だって僕たちの意思で動いたじゃん?」
「――――――赤ん坊の世界なんだしああいうのはあっても不自然じゃなくないか?」
「まぁ、そうですね。 だからこそこんな不思議な世界になってるかもしれませんし」
「………――――――だから、ルシ氏とかドラゴン居るの? 良いなぁ。 僕もやりたいよ」
「!?……みんな、おかしいよ」
オペはその場から出て、遺跡から一人で出ようとしていた。
「おい、オペ! ルシファー! 追い掛けられるか?」
「今やって―――――!!?……身体が動かなくなりました」
(何?……どういう事だ、何が起こってる……オペ、君は何を知った……)
みんな、みんな、おかしいよ。 なんであれだけのヒントをもらってへいぜんとしていられるの? なんで、なんで、あかんぼうがこのセカイを作ったの、やめてよ、やめてよ
ねぇ、ねぇ、おしえて。 なんでなにかあるたびにつごうよくたすけがくるの なんで“ぼく”のおもいどおりにことがすすむの。 ねぇ、てんせいするまえのぼくって“だれ”?
この子は進んでしまった。苛酷な試練が待っている。ここでくたばるか立ち上がるかはこの子次第だ。だが、一つだけ言えることがある。彼は信じなければならない。理屈も何もかも抜きで。今ある仲間を、今ある絆を……。