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第二十六話「加速」

「フレゴー! いないのか!?」


 エドは必死に吹雪の中、息子である赤ん坊のフレゴを探す。まだ探してから2分程しか経っていないがよりにもよって赤ん坊だ。この2分すら生命の危機になる。


(フレゴ……無事で居てくれ!)


 多少の寒さは止む無しに捜索を続ける。エドは後悔と疑問だけが常に頭の中で巡り続けた。30秒、たった30秒だ。ミルクを取りに行っただけだ。かごの中で眠らせたし窓も閉まっていた、ドアも鍵が掛かっていたし近くにはお兄ちゃんであるハロルドも居た。熱すぎないか確認して戻った。


 なのに……なのに……何で居なくなった!? 家中を探してもいなかった。探している最中に寒さを感じたと思ったら、玄関のドアが開いていた。ジャスミンもハロルドも見ていないと言う。


 フレゴに何かあった。これだけは確かだった。誘拐された……?


 その不安が一番に脳裏によぎった。心が今にもグチャグチャになりそうだったが、そんな時間も許されない。とにかく、目星の付きそうな場所を行くしかない。


 熊かもしれないが、それだと僕たちが気が付かない訳がない。よって、熊はありえない。誰かが玄関から忍び込んで、フレゴを誘拐したとしてもハロルドが傍で遊んでいたはず。そのハロルドが気付かない内にカゴの中からフレゴが居なくなったと言った。


 だからこそ、余計にパニックだ。原因が全くと言って良いほど特定出来ない……闇雲にしか探すしかない。それしかなかった。


 幸いにも吹雪が酷くなる前に救助隊も要請してあるし、もしもの為にジャスミンが警察も呼んであるはずだ。問題はこの吹雪だ。しばらくは動けないだろう。


 叫ぶのが無意味かもしれない。けど、もし僕の声に反応してフレゴが精一杯に泣いてくれたらと考え、今も呼び続けている。


 こうするしかない。こうするしかないんだ。


 彼は白く包まれた山の中を彷徨う……。










「出れないってどういう事ですか!?」


 ジャスミンは怒鳴った。吹雪が本格化する前に下山し、救助隊と警察に掛け合ってみたが返ってきた答えは同じだった。


「ジャスミンさん。 無理なんですよ。 こんな猛吹雪の中じゃ捜索は正直に言うと難しい所です」


「でも! でも……! 私は子どもはまだ生まれて間もないんです! 今じゃないと取り返すの付かない事になるんですよ!!?」


 殺気立っていた。それを見た、救助隊員と警察官は困り気味にも会話を続けた。


「……確かに事は急を要する事は分かっています。 ですが、むやみにこの中で救助を出してしまったら隊員たちも被害に遭うかもしれないんです。 そこはご理解していただきたい」


 ジャスミンは悔しそうにしながらもその目から息子を助けたい思いが消えることはなかった。


「……貴方の証言した情報を纏めますと、誘拐事件として扱われる可能性が高いです。 犯人に心当たりとかはございませんか?」


 あるわけがなかった。ましてやフレゴ個人を狙う人物なんて……。


 思い返してもやはりない。生まれてまだ2カ月の赤ん坊に人と会わせる理由がない。そんな赤ん坊が突如、いなくなったのだ。何の前触れもなく。


 完全な密室だった筈だ。ドアにも窓にも施錠は掛かっていた。誰かを招く予定もなく、本当に全てが謎だった。


 誰が何故? 何の為に? フレゴ自身が出て行くなんてありえない事だ。出来てもカゴの付近で終わる。それも泣く。だからこそ、今の事態はおかしいのだ。まるで超常的な……私たちでは理解出来ないような事態がフレゴには何か起こっている。


 ジャスミンは少しでも早く動いてくれるように説得を続けた。今はそれしか方法がなかった。


 絶望的な状況の中、彼女はただ自分の赤ん坊が無事である事を祈っていた。









「……寒い。 フレゴ、どこに行ったの」


 ハロルドはジャスミンに連れられ、休憩室に待たされた。そこそこ熱いココアを飲んではいるが全然温まらなかった。やっぱり、外が寒いよ。雪でいっぱいだもん。


(フレゴは何で消えちゃったんだろう。 もしかして、かくれんぼかな? でも、かくれんぼなら何でこんな所に居るんだろう。 謎だ)


 3歳の頭脳で思考するが、結局、行きついたのがどこに隠れたというとても簡素な答えだった。


(外に居る……訳ないよね。 あんな小さいのにこの中で居たら凍え死んじゃうよ! にしても暇だぁ。 フレゴが帰って来るまでに何しようかな)


 そこで休憩室の扉が開いた。入ってきたのは老人だった。


「おや、一人なのかい?」


「ううん。 ママが居るよ」


 「……ああ」とこの部屋より奥の部屋を見て、納得した様子だった。


 老人を杖を突き、椅子まで向かって座った。


「退屈はしないのかい?」


「全然、退屈! つまんない!」


 と、少し駄々気味になり始めてきた。子どもというのはいつもはこういう物だ。


「ふむ……なら、簡単なゲームをやろう」


 ゲームと聞いた途端にハロルドの眼は光り輝いていた。分かりやすい。


「ねぇねぇ! どんなゲームなん!!!」


 興味津々に聞いてきたので老人は自身のポケットから眼鏡を取り出した。


「眼鏡がどうしたの?」


 だが、普通の眼鏡ではないと老人は言う。


「じゃあ、何なんですか?」


「バーチャルとかって分かるかな?」


 ばーちゃる? なにそれ、ぼくわかんないよ 


 ハロルドは聞き返した。


「う~ん。 分からないかぁ……目の前にハンバーガー出るかもしれないよ?」


「やる!」


 ハンバーガーという単語に釣られて、ハロルドは流されるままに眼鏡を装着した。


「うおおおお!!!」


 目の前に広大な世界があった。太陽が踊ってるという大変な事になっているのは気のせいだろうか。とにかく自然も豊かで偉く高い所に島が浮いてるし、遠くには砂漠、別の方向には火山、雪山などがあった。


「わー、すごー」


 すると、突然に意識が遠のいてくる。何だろうか、感覚がおかしい。妙に風が強くてまるで本当の世界のように……。


 次の瞬間には彼はそのまま眠るように倒れ掛かったが、老人に支えられ近くのソファに寝かされた。


(……私の発明もここまで来たか。 あの男に装置を盗られた以上、今起こっている騒動の赤ん坊が対象になっている可能性がある……事件になって私に全ての濡れ衣を着せられては堪ったもんではない)


「マールさん。 外の吹雪も酷いようですのでしばらくここに居る事になってしまいますが……」


「構わん。 例の盗難の件は無事に解決するんじゃろうな?」


「は、はい。 今すぐには出来ませんが止み次第に……」


 そう言って、職員は退室した。いや、追い出させたと言った方が良いだろう。


(さてと、ガキは嫌いだが貴様が兄というなら容易に見つかるはずだ。 そろそろ始まるか。 後、7分……あの世界では7日と言った所か。 消滅する前に事なきを得たいが……あの男が何をするかは分からないが、私の発明品を盗んだ時点で許しはしない。 見つけたら、金をすべて奪うか、殺すかだ)


 いや、人体実験もありか……? だが、あんな現象を起こすとなると人かすら怪しくなってくるな……だが、私に不可能はない。この“マール・ボルカトフ”には……!


 全ては誰も知らない“第三者”という存在に踊らされていた。目的も何もかもが分からぬまま事は進んで行く。だが忘れてはならない。自分自信を信じると言う事を、仲間を信じると言う事を、決して相手の虚言に惑わされずに突き進まなければならない事を。

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