第二十五話「過誤」
理解したくない事態だ。本当に何でこんな武器を作ったんだルシファーは……。
「私に聞かれても困る。 ヌパーに言ってくれ」
と、ヌパーへと視線をやる。だが、ヌパーはこちらから視線を逸らした……まさか、予め分かっててやったのか!? ヨーヨーにブーメラン、極めつけにピコピコハンマーという構成。ブーメランはともかく他二つは何をしたら武器と判断されるんだ……。
「ねぇ、守。 なんで僕はこの玩具のハンマーなの?」
「僕は僕で鉄から木のブーメランが出てきたしね。 不思議だね!」
頭痛が痛い。そんな更に痛そうな感じに頭が酷く痛い。何で明らかな金属から金属が欠片も使われてない物が出来るんだ……。
「ヌパー、このミョルニルというハンマーは鉄を加工する時に用いる物ですか?」
ヌパーは全身を使い、木であるその身体を横に揺らし否定した。という事はミョルニルも本来は武器として使用される物か……何故、本来の用途と違う使い道をしたのかは定かではないが今はそれよりこの三つの武器を作った意味だ。ただの身を守るものにしては心細いのは明白だ。
「ヌパー、さらに聞きます。 これはただの武器ですか?」
先ほどと同じように否定した……正直ホッとした。これで肯定でもされてもしたら完全に時間の無駄だった。だからこそ、武器に何かが施されているかもしれない。それを早く突き止め、ものにするためにも。
「ただの武器じゃない……って事は見た目に反してなんか強い効果でもあるのか?」
「ヌパ、ヌパヌパヌパッヌパパッ!!!」
「えー、翻訳いたしますと……前にあった創無に対してのみ有効だよ! ただ、今の状態では使えないよ、だって能力者じゃないから。 能力者にはなれないけどその武器の性能を発揮できる方法はあるよ!!!……らしい」
「明らかにそんなに言ってないだろ?」
実は言っている。というのも、彼はそもそも人間でも動物でもない。木本植物だ。可能性としては木に擬態した未知の生物である事もあるかもしれないが時間がある時にみんなから聞いた話からすると、その可能性は低い。
話を戻すと、ヌパーは言葉を発す時に一つのワードを重ねているのだ。つまり、言葉が同じ“ヌパー”でも微妙にアクセントやニュアンスなどが違い、それを彼は、異常進化した自身に口に当たる樹洞の中でそれぞれの意味の違う同じワードを一度に発し、重ねて喋る事で一つの文章を作っている。いくつかは明らかに喚いているようにしか聞こえない物もあるが。
本当に微妙な変化かつ全てを聞き取ることは普通では困難なので意味はない。だから彼は、時折ジェスチャーなどを優先して僕たちに伝えようとしている。
「そうだったのか……お前も苦労して伝えてくれてたんだな。 その何だ……すまん」
それを聞いたヌパーは嬉しそうに跳ねた……もう少し彼を理解しようと努力した方が良いかもしれない。勿論、今までも出来る限りではしたつもりだ。だがこれからはそれ以上に頑張ろう。俺はそう決めた。
と、そこでヌパーは再び動き始めた。今度は何やら細い道を進んでいる。あそこの奥には……遠目だが見た所では何もなさそうだが……?
続いて俺達も付いて行った。この先に何があるかは分からないが少なくとも新しい何かである事は確かだ。
進んだ先にはやはり行き止まりだった。俺達が追いついたところでヌパーはその行き止まりの土の壁を探り始めた。何かの仕掛けが?
という事で俺も探し始め、それに気づいたルシファーも同じく。神は不思議そうにアホ面でみんなを見つめ、オペはとりあえず見よう見まねでそれっぽい事をしている。うむ、ある意味これがいつもの感じだ。これが赤ん坊と俺たち自身を救うチームと言われると違和感しか残されていないが。
しばらくしてヌパーはその仕掛けを発見した。枝の腕でそこを叩き、スイッチのような物が出現した。
「ヌパ! ヌパッヌパッ!」
「ふむ……その為のミョルニルなのかな?」
ルシファーはミョルニルで雷を発生。その雷はスイッチに直撃し、動くと思いきや思いっきりに壊れた様子だった。
「え、私は彼に従っ――――――」
ルシファーが先手を打って言い逃れをしようとしたがそれより先に仕掛けは作動しスイッチの横は扉だったのか、綺麗に開いた。
「……ルシファー、今のは明らかに壊したよな?」
「はい、そのはずなんですが……何故開いたのか……まさか、これが正しい開け方というわけでもないと思いますし」
「ヌパヌパ!」
付いて来い!っと言わんばかりに扉の奥へ駆けて行った。暗かったが覗いてみると階段だった。また、階段か。あの変な馬鹿でかい顔のおかげで入る気分ではないぞ。
「わーい、あの階段の生物いるかなー」
「こ、今度はみんなで一緒に行くからね!」
それもそうだ。先ほどのような揉め事も何回も起こされては困る。ヌパーの姿を見失わないうちに残りのメンバーも階段を降りて行った。
「くらーい。 ねぇ、守。 何か明るい奴ないの?」
「でも、それでまたあの顔が出たらなぁ……」
あの顔の主の恐怖に怯えながら降りて行く。ま、まぁ、今度はルシファー氏もいるし何より全員で降りているから何かあった時も大丈夫の筈だ。何より効果は不明だが俺にはヨーヨーという武器がある……ちょっと待った。何の技術もない俺がどうやってヨーヨーで攻撃を当てる?
ここで重要な事に気付いてしまった。それは守だけでなく神にも当てはまる事だった。ヨーヨーとブーメラン……いずれもただやれば当たると言う話ではない。少なくとも基礎技術がなければ碌に扱えないだろう。戦闘武器として使用するなら尚更だ。
幸いしたのはオペかもしれない。ピコピコハンマーは比較的扱いやすい代物だ。問題は耐久性だが元の金属の塊はマジでどこにいったし。
理不尽な展開に悩まされながらも俺達はヌパーの目指す目的地に着いたようだ。
「ここは……」
「また妙な空間ですねぇ……」
「凄く……胡散臭い場所かなと」
「ふぁー、また面倒そう」
全体的に薄暗いが壁に掛けてある松明が完全なる暗闇を崩し、その真ん中にいつしか見た魔法陣のような“模様”があった。そう、守、神、オペという存在が分離する前に頻繁に助けてくれたあの模様だ。
「あれって、神話操作を自覚する前によく出てた奴だよな」
「はい。 そのはずですけど……何故、今になって。 そもそもあの研究所から全然見てませんね……」
「ばー」
と神くんは言い、模様に触るが変化は起きなかった。三人で触らないといけないのだろうか。
「……そこら辺の話も聞かせていただけませんか? 細かくは分からないので」
「オーケー」と守が代わりにルシファーを召喚する前の出来事を覚えている限りに話した。
「なるほど、大体は理解しました。 よくここまで来られましたね……一人で大蛇や猿の軍勢を助けがあったとはいえ下手をすれば既に死んでいたかもしれない。 恐い話ですね……」
「まぁ、過去の出来事だし今はルシファーとヌパーという頼もしい仲間もいて、自分が三人いるという状況だけど十分に良いと思えるよ」
「なら、不完全ではありますが私の召喚は正しかったと言えますね……」
「もう始めても良いか? この模様に何かあるか調べたいんだ」
「はい」と返事をし、神は既に模様に触れておりそれに続き、守、オペも触った。すると……。
「うお!?」
「え!?」
「なんで!?」
「ヌ、ヌパ!!!」
「どうかしたんですか!?」
この模様の形が何であるかは分からなかった。だが、意地でも判明させておくべきだった。その模様は複数の物を重ねた物であった。
“髑髏” “鍵” “狼” “血の垂れたナイフ” “異形の化物” “赤子”
彼等は選択肢を誤った。もう戻る事は出来ない。けれど、その誤った選択肢を進むしかない。失敗した彼等に残された手段はそれしかないのだから……。