第二話 「漸進」
「………」
綺麗に整備された街への街道を進んで行く。
やはり喋れない、誰かと会った時に意思疎通を取る時に不便だが頑張るしかない。
街道を抜け、街に到着するが……。
「………」
街は綺麗だ、だが一切の人の気配を感じられない。
街の中を進む。が、一人も見つけられなかった。
抱いていた期待は消えてしまった、けど挫折する時ではない。
悪いとは思っているが近くの民家へ入る。
「……!?」
街は綺麗だったが、民家の中は埃まみれだった。気になって辺りの建物に入ったが同様に埃だらけでここ最近使われた形跡は微塵もなかった。
「………」
心が沈んだ。本当に自分一人でこれからやっていかないと思うと希望は抱けなかった。
7歳の少年が何処かもわからない世界で一人やっていくのは無理と言えよう。
「……!」
狼、あの狼を探そう。いなくなってしまったが探せばいるかもしれない。この世界で唯一会った動物、あの狼を探せば何かできるかもしれない。そう思い、必死に探す。
やはりだろうか、見つからなかった。本当にあの時、消えてしまったのだろうか……?
その時、どこからか音が聞こえた。
「……!!」
狼がいるかもしれない。全速力で駆け寄る。だが。
「……!?」
そこにいたのは狼ではなく、6メートルもの大きさの蛇であった。
「………」
慎重に足を後ろへ下げる。
大蛇はそんなのお構いなしに猛スピードでこちらに近付く。
「……!!!」
全力で逃げた。今にも追いつかれそうだが、そこらへんに転がっている小石などを投げ、時間を稼ごうとする。
だが、効果はなく。距離は直ぐそこでだった。
メイベーは近くの民家の中に入り、扉を閉め、鍵を掛ける。
大蛇は入って来れなさそうだが、その巨体を使い、脆くなってる部分を壊し、入ろうとしていた。
慌てるメイベーは急いで扉から離れ、逃げられそうな出口を探す。
窓は錠が壊れていて開かなくなっていた。
「……!!」
必死に探す。だが出られるところも隠れるところもなかった。
諦めかけた。不意に窓を見る。窓を通して隣の民家の屋根に「何か」があった。
「……!!!」
森や遺跡で見た模様と似ていた、狼の顔に見えた。
もしかしてと思ったメイベーは気付かれるが窓を壊すことを決行した。
近くにあった埃を被った椅子を手に取り、大きく振り、窓にぶつけ、ガラスを粉々にした。
それと同時に大蛇は民家の中に侵入してきた。
「……!」
急いで窓からこの民家の屋根へよじ登っていく。
刻一刻と大蛇はこちらに迫る。
模様へ直接行くにしても民家同士での距離は4m、無理である。
別の民家の屋根に移り、そこからさらに別の民家の屋根へ行けば、どうにか模様へと行けそうだ。
勢いを付け、まずは横の屋根へ飛ぶ。
そして、そのまま次の屋根へ飛んだ。
「ハァ……ハァ……!?」
自身の口から呼吸音が出ていた。確かに息はしていた。けど、呼吸音すら出なかった彼にとってこれは喜ぶべきことであった。
だが今はその事より目の前の模様が大事だ。
すると、壁を上り、大蛇は直ぐ近くまで来ていた。
「……!!」
全速力で模様へ突っ込む。
大蛇はその行動に反応したのか、猛スピードでメイベーへ突っ込む。
その巨体を使い、見事なまでに距離を縮めてきた。
このままではやられてしまう。
目的の屋根まで着き、後は2mほどの距離。もう少しだ。
だが大蛇との距離は1m弱だ。
「……!!!!!」
勢い強く飛び、模様へ手を伸ばす。
大蛇はもうすぐそこだった。ギリギリまで手を伸ばし続ける。
「……!!!」
身体全体が屋根に打ち付けられる。
「………」
大蛇がこちらに来ることはなかった。
「ウォォォォォォン!!!!!」
「!!!」
手は模様に付けられており、それが要因で出てきてくれたのだろうか。狼は遠吠えを上げていた。
「……!」
大蛇は屋根から地面へと落ちており、怯んでいるようだ。
どうやら狼が体当たりをして落としてくれたようだ。
すると模様は消えていた。やはり役目を果たすと消えるようだ。
だが狼は消えていなかった。
狼は身体を座るように下へ下げる。乗れと言っているのだろうか?
「………」
メイベーは慎重に近づき、狼の背中に跨る。
「……!」
それを確認した狼は起き上がり、歩き始める。
メイベーはぎゅっと狼を抱きしめる。
毛が暖かく、非常に心地が良く、心が落ち着いた。
そのまま狼は街を出た。
街から離れ、メイベーが来た道とはまた違う道を進む。
進んだ先はまた森であった。だが雰囲気は違った。じめじめしていて湿気っている。
そして規模があの森と段違いに広かった。
狼はここでメイベーを降ろした。
そしてこの樹海の中へと走り、消えて行った。
「………」
一緒には居てくれないようだ。
この中へ入れという事だろうか? 一人で入るのは不安しかないがやるしかない。
あの狼は一緒に居てくれない……もしかしたらホントに助けが必要な時に力を貸してくれるかもしれない。
二度も現れた。という事はあの模様はまだあるかもしれない。
だが模様が今後出る可能性もない事もある。
「………」
頼ってばかりはいられない。この状況を自分自身で何とかしなくちゃいけない。
「……!」
メイベーは一連の流れですっかり忘れていたが、あの街で自分は呼吸音が出ていたことを思い出した。
「……!! ……!!!」
何か声を上げようとしたが一言も出てきてくれなかった。
「……ハァ……」
どうやら呼吸音しかまだ出せないようだ。
「……?」
何が起きて出たのだろうか。それが一番の疑問だった。
考えたが結局わかるまでの材料が揃っていない事実に気付き、一旦置いておくことにした。
「………」
息を整える。一歩踏み出せばもう引き返せない。少しずつでも進むしかない。戻ったところで何もない。
………
緊張してきた。だがやるしかない。
「……!!!」
意を決して樹海の中を駆け抜ける。
「ハァ……ハァ……」
吹雪の中、必死に赤ん坊のフレゴを探すエド。だが一向に見つからない。
(クソッ……! 何で……何で……何でいなくなっちゃうんだよ……!)
そうそれは絶対に居なくなるはずのない状況であった。だがいなくなった、理由はわからない。問題はそんな事より、赤ん坊の生死が懸かっていることだ。
(救助隊はまだかよ……!! いなくなってから10分……そろそろヤバくなってきた……早く見つけないと!!!)
さらに吹雪は強くなる。
「………」
とても暖かく不思議な色合いな空間で一人、写真を見つめる「男」がいた。
その写真は、エド、ジャスミン、ハロルド、そしてジャスミンに抱きかかえられたフレゴが並んだ家族写真であった。
男は悟ったような顔で呟く。
「……“君”次第だぞ。」
その一言だけ真剣な表情だったが、直ぐに顔を緩め穏やかな表情に戻る。
そして自分の右手を見る。手を握り、何かの感触を確かめる。
「………」
その行為を止め、近くの赤いおもちゃ箱の中の蛇の人形を手に取る。
「……今回はこれだけだ。」
そうおもちゃ箱に語り掛ける。まるで誰かに伝えるかのように。
男は近くの丸いテーブルの上にある白紙に万年筆で何かを書き込む。
それはただの絵にしては奇妙であった。まるで魔法陣、だがそれとは違う模様であった。
「………」
さらに淡々と書き込み、出来たのは「狼」の顔であった。
「……ふぅ」
男は模様の書かれた紙をおもちゃ箱の中に落とす。
するとおもちゃ箱は独りでに閉まり、数秒経った後に開いた。
紙はあったが、書かれていた模様は消えていた。
「………」
男は紙を取りテーブルに置き、イスに座り、遠くの景色を眺め始めた。