第十八話「虚偽」
「って事であのドラゴンが何故現れたのか考えてみよう」
神くん、オペ、ルシファーと一緒にこの謎を解決することにした。後、ヌパーが居るはずなんだが……どうにもドラゴンが現れる直前から姿が見当たらない。
「ヌパーの奴、どこに行ったか誰か知らないか?」
「僕は知らないよ! だってあのドラゴンに夢中だったし!」
「アハハ……すいません、守さん。 僕もドラゴンの事で精一杯だったので細かい事を気にしている余裕がなくて……」
「……その事を含めて二つ言い忘れたことがある」
ルシファーは自分へと注目へ集めた。彼は騒ぎが起きる前は一つ言い忘れたことがあると言った。という事はヌパーが居なくなったことで何か重要な事が起きたのだろうか?
「まず一つ目はさっき言おうとして言えなかった事だけど。 真っ黒な奴には気を付けてくれ……いや、立ち向かう事はせずに逃げる選択を推奨する。 その時の状況次第によってだけど」
「真っ黒な奴……つまり創無の事か?」
「分かるのか?……いつ会った?」
「君を召喚する前にこの火山地帯で。 人型で会話が可能だった」
それを聞いたルシファーは凄く驚いた様子だった……この場所というより人型と会話が可能という点に驚いてるようだ。
「奴等はそれほどまでに……どんな会話を?」
その創無“ヴァーザー”との会話の内容を話した。ヴァーザー本人と俺達、そして、世界が未完成であると言ったこと。この旅を試練と呼んだこと。ヴァーザーは人を獲得して進化すると言ったこと。“嘘は君の中にある”と俺に伝えたこと。とりあえず話せる事全てを話した。
「進化が足りない……奴等はまだ上を行くつもりか……」
「……記憶がないんじゃなかったか?……いつから隠してた?」
「いや、記憶がなかったのは本当だ。 ただ神や創無関係を思い出して隠してたのは事実だけど」
やはり、自分たち以外を信用してはいけないんじゃないか。ヌパーはよく分からないが少なくとも召喚されたにも関わらず他の召喚された奴等と違い力のコントロールが曖昧で思考パターンが人間と同じだ。いつ“裏切り”が起こるか分かったもんじゃない。
それにルシファーは人じゃない、堕天使だ。人という存在ではない時点で疑われても仕方がない。この世界で生きていくなら尚更だ……だからといって彼を敵として認識するつもりはないが。
「……まぁ、良い。 隠し事は誰にでもある。 多分、ここに居る全員がそうだ。 俺達の場合は隠してると言うには違うと思うけど」
「ありがとう。 私からも言えることは言うつもりだ。 まずは……神についてだ」
そこで神というワードか……はっきり言って感覚的にしか分からない。神くんも自分の事を神と自称して仕方なく神と呼ぶことにしたがやはりここで一度聞いておいた方が良さそうだ。
「……話してくれ」
「ああ、そのつもりだよ。 神っていうのはまず宗教から成り立つモノなんだ。その宗教も恐らく君たちは分かってないだろうから説明するね」
僕達が旅をする上で今後の行方を左右する彼の解説が始まった。
「宗教と言うのは、絶対的……つまり逆らう事の出来ない存在、即ち神と呼ぶ者。 またはそれに類ずる神秘的な物、場所。 自分たちの上の存在を信仰する、信じ切ることを言うんだ。 それに伴ってその宗教で定められたルールに従うんだよ」
「……宗教という名に関しては妙に馴染みがないな」
「当たり前でしょ。 君たちの元の世界では宗教はないんだから」
ここで驚くべき発言が出た。宗教がない? ならそれが前提に成り立ってるはずの神というワードを何故俺達は知っている……?
「君の疑問も分かる。 だが私も分からないんだ。 一応、訂正しておくけど無くなったというより風化……君たちの世界ではほとんど消えたも同然なんだ。 だから不思議で仕方がない……君の時代じゃほとんどの人が知らない神という存在を何故知っているか……それも突き止めないといけない」
「あなたも分からないのか……この事は後で良い。 今度はこの旅の意味について知りたいんだ」
「と言うと?」
「では、単刀直入に。 俺達の正体は分かるか?」
「ふむ。 その答えは簡単だ……“嘘は君の中にある”だ」
またその言葉だ……俺の中に何の嘘があると言うんだ……?
「真実は知らないけど、この言葉の意味は分かるよ。 ただこの言葉の意味が本当なら……これについては自分自身で解決した方が良いかもしれない……にしてもオペはさっきからずっと神に弄られてるな」
「……神はああいう奴なんだ。 温かい目で見てやってくれ、そろそろヌパーも戻って来ないかなぁ」
「―――――二つ目も言わなきゃね……ヌパーについてだよ」
ヌパーについて? やはりこの世界に住んでる生物において彼のような存在は稀なのだろうか……ヌパーの同種族も一時的であるが協力してくれたが。
「ヌパーはそんなに特殊なのか?」
「ああ、本来この世界の性質的にヌパーが君たちに付いて行くのはおかしいんだ。 この世界は長い期間居ると凶暴性を増していくんだ。 通常の生物は特に」
ふむ。つまり、今の俺達はおかしいんだな。確かにそうだと言える。儀式により元は一人であったが俺、神、オペに分かれてしまったがそれでも同一人物だ。後は、生きている木であるヌパー、そして、召喚して時間がだいぶ経ったのにも関わらず自然消滅しないルシファー。
うん。改めて考えてみると凄いカオスな事になってるな、このメンツは。通常の人間が一人もいない。なるほど、いつもおかしな展開になるのも納得出来た。
何故かって? それは簡単な答えだ。 だってこの状況自体が今までの連続したおかしな出来事で構成されているからだ。
全てが自分たちの都合の良いように調整されている。 これだけは確信を持って言える。 何より第三者の存在がそれを証明してくれた。
「……もう一つ。 あなたは俺達をこの世界に転生させた第三者の存在について知っているか?」
否定の答えだけが返ってきた。 ……当然と言えば当然か。 わざわざこの世界に呼び出しておいて一向に姿を現さないのなら俺達に近付ける人物がその情報を持っているわけがない。 そういう事だ。
「守、私はヌパーを危険だとは思っていない。 むしろ、彼と交流を深めるべきだ。 そして、このメンバーはもっと話し合う必要があるのではないか? 行き当たりばったりで来ている感じだが何かあった時にお互いを信用できる関係でなければならないと私がは思っているが……」
「……ハハッ、ありがとうな。 多少は必要かもしれないけどそれでも他人じゃなくて元は同じ存在だしなぁ。 イマイチ、ピンと来ないんだよ」
「……私の考えすぎかな?……まぁ、とりあえず、あのドラゴンが来た方角へ進もう」
元気よく答え、神とオペを呼び戻す。ヌパーは……ルシファーが言うには大丈夫らしい。凄く心配だが。
ともかく、俺達は更なる冒険へと旅立った。