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第十五話「天使」

「もうやだー! 暑い! 早く他のところ行こうよ!」


「って言ってもなぁ」


 帰ってきた神とオペと合流して改めて何処へ行くか決めかねていた。さっきは変な黒くて人みたいな化物と対話してみたがやっぱり全ては教えてくれなかった。だがこの旅は試練になっているという事は分かった。これだけでも収穫できたと言えるだろう。


 もう一つの収穫と言えば、“創無そうむ”という種族の化物が存在し、その中でも恐らく上位の位置に居るであろう先ほどの人型の“ヴァーザー”と接触できたことだ。


 今まで同一人物である俺達三人以外に言葉を発せる生命体と出会えなかった中で確実に人間ではないだろうがそれでも会話が可能な存在に会えたのは奇跡に近い出来事だった。


 だってこの世界は人間が存在せず奇妙な生き物ばかりが生息している。街や遺跡、研究所などを発見し探索してみたが人の気配も感じられず、誰一人として見つけられなかった。


 考えられる可能性としては、一つ目は元々人が居たが何か特別な理由でこの世界から居なくなった、二つ目はこの世界の変な生き物たちによって絶滅させられた、三つめはそもそもこの世界に最初から人がおらずただ人が建造したと思われる建造物が何らかの形でそこにあるだけ、最後に……世界の全てを見てきたわけではないのでどこかの隅っこでひっそりと生存している可能性がある事だ。


 一つ目は可能性としては十分にある。二つ目は可能性としてはあるがどちらかというと否定で世界中にいる人間達をバラバラの生き物たちが何故滅ぼす必要があるのかだ。三つ目は俺達を転生させた“第三者”によって意図的に置かれたかだ。


 最後の四つ目は確かにそう考えられるがそれでも少し引っ掛かる部分がある。


 二つの大陸を見てきたがそもそも人が暮らせる環境があったか? という疑問だ。


 俺が意識を取り戻した大陸では街は確かにあった。街の中は綺麗であったが何故人がいないのかは疑問だった。建物の中は全てが汚く埃まみれだった。だが、街の外観は恐ろしいほど清潔で埃一つ見当たらない状態だ。壁も新品同様でまるで毎日手入れされているように……。


(……!?)


「守ー、どうしたの?」


「何か……あったんですか?」


「ヌパー……?」


「……二人とも、あの大蛇に襲われた街の事を覚えているか?」


 二人ともそろってはいと返事をした。そう、この時、守は戦慄した。何故なら、可能性の範囲ではあるが人か怪物か分からない得体の知れない何かが毎日のようにあの街に向かい掃除している事になってしまう。屋根まで隅々に“外側”だけ綺麗に清掃出来ているといるということは人型である事は確実だが。


 この世界に住んでいる生物にあまり期待をしてはいけない。全てが敵だと思った方が良い。あのヴァーザーも同様にだ。


 俺達は下手していたらあの街でその得体の知れない何かに遭遇して殺されていたかもしれない。恐らく生きていた可能性はない。実際、あの街の建物は全て探索しているし何より……街の周辺には人が住めるような環境はまるでなかった。そもそも街の中に大蛇が普通に居る時点で人間だったら必要な物だけを持って逃げているはずだ。人のいない街なら尚更だ。


「……俺達は運はあるのかもしれないな、現に生きているし」


「何の話ー?」


「いや……ちょっと考え事をな」


「……教えてください」


 少し怒っているような顔でそう言ってきた。だが7歳の少年のその顔は少し頬を膨らませているようにしか見えなかった。


「隠し事はなしです。 僕たちは元は一人の人間とはいえ今は分離して三人です。 考えがバラバラになっている今は少しでも情報を共有してこの旅を早く終わらせるべきです」


 おお……オペよ、少し前までは喋る事も困難だった君がこの少しの時間でこれほどまでに流調に話す事はできるとは……凄く嬉しいぞ俺は。


「……守さん!」


「悪い悪い! 今話すよ!」


 先ほどの考えをまとめた上で打ち明けた。


「ヒッ……思い返せば確かにその可能性もありますね…………」


「オペ……?」


 言うのを躊躇っていたが勇気を出して彼は言った。


「……今夜は……僕と一緒に寝てください……」


「お、おう……そんな怖かったか? まぁ、仕方ないか」


「べ、別に怖くなんか……!」


「ボッ……!」


「うわああああああああああ!!!!!」


 後ろから奇襲をかけられたオペは驚きのあまり全力で逃走してしまった……というかこれからどこ行くか決めるはずだったのにいつも通りに長話になっているなぁ……どうにかしないと。


「どこ行くのー!? 僕だよ! 僕! 神! ゴッド!」


 ……やっぱりこいつの名前変えた方が良いんじゃないか? ここまで言われると流石に少しムカッと来るものがある。隣でずっと神やらゴッドやら言われ続けるのはもう嫌だ。


「……ハァ」


 と、また水が足りなくなっているヌパーに水の魔法で水をかけて上げる。


「ごめんなぁ、こんな事あるごとにとりあえずその場で問題しか起こさないバカ三人組で。 まぁ、付いてきてくれるのはありがたいからもう少しだけ我慢してくれ。 俺がちょっとだけマシなように教育してくるからな!」


「ヌパ……ヌパッ!」


 元気よく返事してくれた。


 うん! 少し気分が良くなった気がする。多分だけどな!


「オペー! そろそろ戻って来ーい!」


「で、でもさっきのは……?」


「だからそれ僕だってー。 ごめんってば」


「そ、そうなんだ……もう! 次やったら絶対に許さないからね!」


 と、延々と会話が続いていく。正直言ってこの三人に分離されて良かったと思う。ヌパーとの旅でも多少は頑張れると思うがそれでも精神的にきつい。だって下手したら一生動いてヌパーとしか言わない生き物とだけで過ごすには同種じゃないのでハッキリ言ってこの世界ではヤバい。可愛らしい仕草と行動があるので別に良いが。


 ともかく! そんな中で分離して神とオペと俺ができた。何故みんな16才と10才、7才に分かれているのかは分からないがこれでも何か理由があるのだろう。第三者が用意した道を真っ直ぐ行けばいずれは答えは出るだろう……さて、この火山地帯の何処に行くかだが――――――。


 その時、近くからドデカい爆発音がなった。


「……とりあえず様子を見に行くぞ。 あまり大きな音は立てるなよ?」


「了解ー」


「わ、分かりました!」


「ヌパッ!」


 隠して僕たちはその爆発音が起きた場所へと急行した。すると……。


「……なにこれ?」


「……気持ち悪いな」


「うえー。 もう見たくない」


 蜥蜴に似た形姿でありながらも全身はまるで皮という皮を剥がれて中の筋肉などが露出し、体中に粘着質の体液が溢れ出ていた。見るに堪えない光景を目の当たりにした彼等には動揺が見え隠れしていた。


 ……とりあえずここから退こう。下手に接触して痛い目を喰らうのは目に見えている――――――神?


「トカゲ……さん 今……行くよ……」


「!? おい何やってる!? 戻って来い!」


 守の制止を振り切り、徐々に走り始めながら蜥蜴へと突っ込んでいく。


「予定……調和?」


 不意にそのワードが頭の中を横切り、現状への対応を遮った。


 何を……!? クソッ、身体が動かない……!


「守さん! 何やってるんですか!?……僕がやるしか……!」


 蜥蜴が神に気付き、ゆっくりと近付いてくる。


 何とかしなくちゃ!


 召喚術のリストから召喚する生物を決めようとした。けれど正直言って記憶がないのでどれを選べば良いのか見当が付かなかった。


「トカゲさん……トカゲさん……ごめんなさい……」


 ええ、もういいよこれで! 少年は無作為にその名を呼んだ。


「“ルシファー”!!!」


 異変はその時起こった。その場に居た全員が動きを止め、その正体へと視線を向けた。


「あれって……」


「なんなの……?」


 決して白いとは言いきれない黒みを帯びた羽を持ち、その異様な存在感はこの場を瞬く間に支配してしまった。


 不味い……かも。


 この時、取り返しの付かないことをしてしまったかもしれないと後悔したオペは事の顛末が無事に乗り越えられるようにと祈るばかりだった。

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