第一話 「回想」
「フレゴ! フレゴー! お願い!出てきて!!!」
女性は必死にその名を叫び、吹雪の降る雪山を歩き続ける。
「ジャスミン! フレゴは見つかったか!?」
「それがまだ見つからないの! ああ、ホントにどこ行っちゃったのよ……」
ジャスミンはそこで泣き崩れてしまう。
「落ち着いて! 冷静に考えてフレゴが行ける場所を絞って探そう!」
「……わかったわ、エド。」
その様子を見つめている『子供』がいた。7歳ぐらいの少年だろうか、その少年は今起きている状況を薄っすらとではあるが理解していた。だが、身体が動こうとしない。身体に何かあり動けないのだろうか、はたまた自分自身が無意識に身体を動かないようにしているのか。
どちらにせよ少年には何もできない。あの夫婦が探す赤子を探すことは……いや、探すことはできた、というより見つけたのだ。
「………」
夫婦から離れギリギリ雪に埋もれかかっている赤ん坊、泣くこともなく凍りかかっていた。
直ぐに助け出さなければあの小さき尊い命は失われてしまう。
少年の心臓に衝動が走る。助けなければならない。その衝動に駆られるも身体が動かないどころか声も出ない。
「ジャスミンは先に家に帰ってハロルドの面倒を頼む、街の方に助けを既に呼んである。」
「わ、わかったわ。……お願いフレゴ。無事でいてね……」
そこで少年の意識は途絶えた。
「……!?」
目を覚ました少年は驚いた。先ほどの光景とはかけ離れた場所に居たのだ。
薄気味悪く全体が黒くなっている森の中でいつ何が出てきてもおかしくない場所であった。
少年は地面を見る。そこには珍妙な模様が描かれていた。それは上手く言葉にできない模様だ。
少年はその模様に夢中になり、考えを巡らす、これを例えるなら……髑髏?
髑髏っぽいが、それが魔法陣のような円形になっており、より何が何だかわからなくなってくる。
少年は気づいたら身体が動いていることを自覚する。だが、声は出なかった。
少年はさらに考えを巡らす。
「………」
難しい事であるが、少年は根気よく考える。
「……!」
自分はあの雪山にいたということはあそこであの赤ん坊と同じ状態に陥り、それが原因で声が出なくなってしまったのではないか?と考えた。
それはいい。問題は意識を失った後に、全く知らないこの森にいることだ。
誰かが助けた?ってことでいいのだろうか?だがなぜこんな森の中に少年を置いていく必要があるのだろうか?
そして少年は重要な事実に気付く。
「……!?」
手や足を見る。これは確かに自分の身体だ。だがこの身体に違和感を感じた。そして何より、自身に関して記憶が一切ないのだ。自分がなぜあの雪山にいたのか、そして赤ん坊がなぜ一人であの吹雪の中、移動できたのか。全てが謎だった。
「………」
その事実に気付いた少年は今後どうすればいいか困り果てる。
だが何もしないわけにはいかない。
すると、地面に描かれていた模様はまるで役目を果たしたように綺麗に消えていった。
「………」
ここにいても仕方がない。そう思い、歩くことにした。
森の中を臆病ながらも進む、やはり子供が暗い森の中を一人で歩くのは大変か、少年は一気に疲労を感じ同時に恐怖を感じる。
誰とも会えずたった一人でこの状況を変えようとしてるが少年はまだ子供、恐がるのも無理もない。
するとどこからか足音が聞こえてくる。
「!?」
恐怖するがそれと一緒に助けが来たと期待する。
だがこの足音は人間にしては随分早いテンポであった。
現れたのは、狼だった。
「………」
少年は狼を睨みながら後ろへ下がる。
だが狼は近づいてくる。
そして狼は吠えた。
「!!!」
咄嗟に少年は逃げようとしたが、直ぐに狼に回り込まれた。
もうダメかと思った。けど。
近付いてきた狼は少年の頬を舐めた。
「………」
良いやつなのか?っと思ってみた。
しばらくして狼は付いてこいと言いたそうにこちらを見ながら、移動する。
少年は不安を感じながらも狼を信用しても良いと思い、付いていく。それ以外にやれる事がないのでこうするしかないが。
付いていった先は森の外であった、狼が出してくれた、助けてくれたのだ。
だが狼はまだ付いてこいと言っているようだ。
さらに付いていくとそこは遺跡だった。
少なくとも人がいたこと事は確かだ。今はわからないがそれだけでも貴重な情報だ。
狼はそのまま遺跡も中へ入る。それに続いて少年も入る。
すると、遺跡内の松明に火が付く。
「!?」
突然の出来事に驚きながらも狼に先導されながら進んでいき、奥へと進んだ。
奥の広がった空間の真ん中には森で見た、似たような模様が描かれていた。
それは髑髏ではなく、無数の歯車みたいなものであった。
狼は模様の目の前で座り、こちらを見つめる。この模様に行けという事か。
しばらく悩んだ末にやる事にした。
「………」
一呼吸おき。
「……!!!」
歯車の模様へ飛び込んだ。
「……!!?」
真ん中に着地した瞬間に頭に激痛が走った。ただの頭痛ではなく、明らかにこの模様を踏んだことが原因だ。
しばらくして、少年は立ち上がる。
「………」
異世界、転生、救え。その3つの言葉が頭の中に入り、何となくであるが理解できた。
あの模様が自身に何かしらしたのはわかった。何をされたかはわからないがそれでも模様に触れれば何かが起こる。この事実は少年にとって重要な事であった。恐らくさっきの髑髏の模様もそうなるのだろう。
……少年は頭に入って来た情報をまとめる。何らかの理由であの雪山で死に、それが原因で「転生」つまり、この肉体を授かった。転生した理由は……あの赤ん坊だろうか? 救えというワード……それはこの少年がこの世界でやるべきことなのだろう。
あの赤ん坊を救う、少なくともこの少年が今やり遂げなければいけない使命であり、少年がやりたい事であった。
模様は消えた、やはり役目を果たしたからなのだろうか。
狼も気付いたら姿を消していた。
「………」
少年は少し寂しかったが、それでも頑張らなければいけない。
「……?」
少年は消えた模様の床に新たに何かが記されているのを見つけた、そこには……。
『メイベー、君の無事を祈る』
メイベー?……自分の名前だろうか? だとしたらこれを書いた誰かが少年を見ていて、それがこの状況を作っているか知っているかもしれない。
もう一つやる事ができたメイベーは遺跡から出る。
遺跡の松明は消え暗闇へ戻り、遺跡の前に熊の銅像が出現し、熊の銅像の爪から光の線が出ていた。
それが示していたのは森とは正反対の方角を指し、その方角には薄っすらとではいっぱい建物が見えた。恐らく街だろう。
少年は希望を抱いた。誰かいるかもしれない、助けてくれるかもしれない。それと同時に悪い人じゃなければと思った。
光が指し示す方角へ足を踏み出す。不安はたくさんあれど色んな物が補助してくれたおかげで、頑張ろうと必死になれる。だからまずはあの街へ行く、そしてあの赤ん坊を救い出す。
……少年はふと大事な事に気付いた。
自分はどうなるんだろうと。確かに赤ん坊を救いたい、が自身がどうなるかは一切何も言われていない。
「………」
少年の不安は一気に膨れ上がる。
自分の事自体何物かわからないことがさらに不安を高める。
「………」
だが、今ここで何もしなければ何も変わらない。そんなことはわかってる。だからしばらくは生きることを優先する。
赤ん坊を救うことも大事だ。けど、その前に自分自身に何かあってしまったらそれもできない。だから生き延びる。
「……!」
顔を上げ、光の先を見据え、走り出す。
そして「メイベー」という名前、これが自分の名前なのだろう。ならこれからメイベーと名乗ろう。喋ることはできないが自分に対して何か重要なヒントかもしれない。そう思う。
だからこそこの異界を彷徨う。恐らくあるであろう赤子を救う道を探して。
異世界転生を書こうと思ってパッと思い付いたのがこれなので書きました。
他の小説も書いてるので投稿は1~2週間となります。