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八話:魔法と剣術を学ぶ

 大神殿へ行った翌日、なんとレナが一緒に魔法を学ぼうと屋敷にやってきたのだ。

 俺もレナも、早くカッコイイ魔法をぶっ放すことに取り掛かりたがったが、母さんがエーテルの基礎知識もないのに魔法を覚えることなどできないと言うので、まずはエーテルの操り方を覚えることから始めた。


 大神殿の水晶で出来たようにエーテルを体外に放出するというのは簡単に出来る。だが魔法を発動させるうえで重要なのはその放出したエーテルを体のすぐ外に留めておくことだ。

 母さんが選んだ訓練の方法が、エーテルを手の平に留めて、宙に舞うコンフェティを床に落ちる前に全てキャッチするというものだ。もちろん、手は広げたままで、エーテルのみを使ってだ。

 これがまたとんでもなく難しいのだ。しかも訓練は二重になっている。

 例え上手く放出したエーテルを手の平に保てたとしても、エーテルの量が少なければコンフェティはくっ付かず、逆に多すぎれば吹き飛んでしまう。


 ……この訓練、NA〇UTOを思い出してしまうのは気のせいだろうか。


 これをマスターするのになんと一か月もかかってしまった。

 だがその一か月間、コンフェティ以外の物もくっ付ける訓練をしていたので、様々な物をくっ付けるために必要なエーテルの量が見るだけで分かるようになった。


 一か月間の訓練が終わると、やっと魔法を覚えることを母さんがOKしてくれた。

 もちろん、母さんの指導のもとだが。


 初級魔法で、属性系の魔法じゃないとなると、一番最初に覚える魔法は『ヒール』かと思いきや、母さんが選んだのは『デトックス』という魔法だった。

 『デトックス』も『ヒール』と同じく回復系の魔法で、一般的なら『ヒール』先に取得するのだが、俺たちが貴族と王族という立場であるため『デトックス』を優先するらしい。


 『デトックス』とは名前の通りに解毒魔法だ。

 主に体内に入ってしまった毒物を浄化するのに使う魔法で、肌が触れていれば自分以外にも、さらに動物や植物相手でも使える。

 さらに、体内に入っていなくても使うことができ、料理に掛けることで毒見係を雇わなくて済むそうだ。

 しかも、毒物ならどんなものにも効果があり、理論上なら砒素やシアン化物にも効果がある。もちろん、試さないが。

 ただし、おかしなことに、料理には掛けられるが、元々毒を持った動物や植物には効果がない。つまり、マッシュルームスープを無毒することはできるが、調理前の毒キノコから毒を抜くことはできない。


 これを取得するには三か月かかった。

 その間、俺とレナ、共に30回以上腹を壊し、ひどい下痢に見舞われた。


 次に習いだしたのが『ヒール』だ。

 レナが持ってきた魔導書によると、これは外傷を治したり出血を止めたりする時に使用する魔法らしい。

 砒素やシアン化物を飲み込むより危険度はないので、手を切って試してみた。

 すると、傷は治ったが、傷跡が残った。つまり、『ヒール』は傷をなかったかのように治す魔法ではなく、自然治癒の過程を加速させる魔法のようだ。

 もう数回試そうと思ったが、母さんにこっぴどく叱られ、ポケットナイフを取り上げられてしまった。レナにも叱られてしまった。

 『ヒール』の上級魔法で『ハイ・ヒール』という魔法があるらしいが、母さんによるとその二つは使われるエーテルの量が違うだけの同じ魔法で、『ハイ・ヒール』と言う人は格好をつけたいだけらしい。


 レナは毎日昼過ぎに屋敷に来て、夕食前に王城へと帰ってしまう。

 そのため、レナがいない時間にも魔法を習えるようにと魔導書を貸してもらうことにした。

 レナは喜んで貸してくれた。どうやら、王城にいる間は属性魔法を習っているようだ。

 そこで、俺はレナが帰った後、母さんの指導の下、あまり人気がないといわれる工学系の魔法を習うことにした。


 その一つが『コンバイン』だ。

 この魔法は複数の素材を一つに混ぜ合わせるための魔法だ。

 この魔法をどう試そうかと迷っていると、俺は母さんにキッチンへと連れていかれた。

 キッチンにつくと、小麦粉、バター、砂糖、と卵が用意されてあった。

 早速、『コンバイン』を使ってみると、工学魔法が不人気な理由がよく分かった。

 綺麗な生地が作れたのはよいが、成果に見合わないとんでもない量のエーテルを消費してしまった。

 消費したエーテルを回復する時間と手で生地を混ぜ合わせるのにかかる時間を比べてみれば、誰も『コンバイン』を料理に使わない理由が分かる。


 レナが屋敷に来る前、つまり午前中に何をしているのかというと、それは剣の稽古だ。

 魔法の勉強と同じくこちらも大神殿に行った翌日から始めたわけではない。

 まずは筋トレから。

 腕立て伏せ100回、上体起こし100回、スクワット100回、そしてランニング10㎞、これを毎日……やってない。ヒーローになるつもりもないし、ハゲるつもりもないからな。

 まあ、やろうとしても出来なかったのだがな。

 冗談は置いといて、まずは半年、筋トレとスタミナの上昇を父さんの指導の下に行なった。


 半年後からは、これまでのエクササイズに加えて、木剣の素振りを始めた。

 木刀ではなく木剣だ。

 前世で一度や二度は木刀をふるったことがあるからわかるんだが、この木製の西洋風片手剣は扱い悪い。

 素振りを加えたエクササイズをさらにもう半年行なった。


 父さんの指導を受け始めてからすでに一年たったが、まだ剣術は一つも教えられていない。

 兄さんに愚痴りに行ったら、基本を身に着けるのにそんなに掛かっているのかと驚かれてしまった。

 やはり接近戦関係は俺に向いていない。俺は離れたところから鉛球を高速で弾き飛ばすほうが好きだ。

 俺の頭に刻み込まれた雑学を駆使して火縄銃でも造ろうか……


 父さんによると剣術を習う前にやらなくてはいけないことがもう一つあるそうだ。

 それが、ロードアウトを選ぶことらしい。

 片手剣+盾と両手剣では剣術も剣術以前の戦い方の基本さえも全く違ってくる。

 もちろん、様々な武器と盾の組み合わせと、それらの扱い方を同時に習っていくことも出来るそうだが、貴族はまず護身を身に着けることを優先するべきらしい。

 そこで、今一番しっくりとくるロードアウトを選び、まずはそれで十分戦えるように訓練する。


 父さんは片手剣+盾と両手剣の両方を使えるそうで、片手剣+盾を進めてきたが……

 俺は敢えて、片手剣+片手剣の二刀流を選んだ。

 確かに、二本同時に使うなんて不可能で、剣より盾のほうが防衛面では優れているが、昔こじらせた中二病の後遺症が片手剣+盾を選ぶことを許さなかった。

 父さんは俺のチョイスに対して、何とも言えない苦笑いを浮かべていた。


 その理由はすぐに分かった。

 どうやら、盾の防御力を犠牲にして二刀流で格好をつける俺みたいなバカはそうそういないらしく、いたとしてもわざわざ二刀流の剣術を広める者もいないらしい。

 なので、父さんや兄さん相手にスパーリングをして、二刀流の我流を編み出さなければいけなかった。


 エーテルを操る訓練の後、中々NA〇UTOが頭から離れなかったので、木登りをエーテルで応用できないかと試してみた。

 身近に木がなかったので、仕方なく壁で代用することにした。

 もちろん、練習したのはレナがいなく、母さんが見ていない時だ。もし、失敗したらレナに格好悪いところを見られたくないし、母さんが見ていたら成功しても叱られるからな。

 すると、なんと、出来たんだよ。

 コンフェティとは違って、俺をくっ付けるわけだから、重力を相殺する分のエーテルも余分に必要だった。

 これがまた口で言うほど優しくはなくてな、重力のことに気付くまで何回か転がり落ちた。


 とまあ、朝から晩まで剣の稽古に魔法の勉強となかなかハードな毎日を過ごして、もう五年。

 俺とレナは8歳になった。

 五年前は8歳になるまで大人びた行動を避けようと考えていたが、これからも念のため8歳らしく行動しようと思う。

 だが、現代知識を発揮するのは別だ。

 この五年間、中世西洋風の環境を満喫していたが、やはりもともと現代人の俺には性が合わない。

 例え俺がフルで現代知識や現代技術を広めたとしても、俺の寿命が尽きるまでにこの世界が現代レベルまで発展することはないだろうが、せいぜい、産業革命後の19世紀末期レベルまでには上げられるだろう。


 そこで、まずどの現代知識か技術を広めるかだ。

 広めるからには、やっぱり金儲けがしたい。でも、人のためになるようなものも広めたい。

 アイデアはある。封蝋と顕微鏡だ。

 なぜ封蝋かというと、貴族相手に高く売りつけることができるからだ。儲けた金はその後の現代技術を再現する資金源になる。

 それに、現時点でこの世界には赤色の封蝋しかなく、俺は他の色の封蝋の原料も作り方も知っている。

 次に、なぜ顕微鏡かというと、前世の中世時代でもこの世界でも、病気が死因ナンバーワンだからだ。微生物が見えるほどの顕微鏡を作り、微生物と病気の関係性に気づかせれば、この世界の衛生観念は劇的に向上するのではないだろうか。


 そうと決まれば有言実行。

 早速父さんに材料を買ってもらうように掛け合ってみよう。

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