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七話:先代が屋敷にやって来る

 大神殿に行った翌日、俺はベッドの上に突っ伏している。


 俺がなぜこんな非生産的なことをしているかというと、原因は今朝届いた一通の手紙にある。

 送り主は国王陛下だ。


 手紙には難しい言葉や堅っ苦しい表現がずらずらと並んでいたが、まとめるとこうだ。

ジュリアスの知能には感心した。3歳とは思えないほどに大人びていた。

ジュリアスの将来に期待している。

レナもジュリアスのことが気に入ったようなので、これからも娘をよろしく。


 俺、神殿に行く前、子供っぽく振舞おうとか言っていたよな。

 完全に忘れてたよ。なんか恥ずかしい。


 一ついやらしいと思ったのが、この手紙を父さん宛てではなく、わざわざ俺宛で送ってきたことだ。しかも、わざわざ封筒を二重にして王家の印璽を隠し、父さんが読まないようにしてだ。

 国王陛下に対して終始無礼な態度をとっていたことについては触れられていないが、昨日屋敷に戻ってから俺が両親にこっぴどく叱られたことを知っているのだろう。

 この手紙が父さんの目に触れれば、叱るのをやめるだろうからな、これは俺の無礼な態度に対する些細な復習なのだろう。


 そんなこんなで非生産性に浸っていると、一階が騒がしくなっていることに気づく。

 何を叫んでいるのかは聞き取れないが、怒鳴り声だということは分かる。

 騒がしさはどんどん大きくなる……というよりも、階段を上がりどんどん近づいてくる。


「ジュリアス様! ご両親が書斎にてお待ちです」


 突然扉がたたかれると、俺の返事も待たずに、俺の専属の執事であるチャドリックが要件を叫ぶ。


「分かった、すぐ行くよ」


 面倒ごととしか考えられないので、一応国王陛下からの手紙をポケットに突っ込み、部屋を出る。


「俺が何で呼ばれたかチャドリックは聞いてる?」


「いえ。ですが、先代公爵ご夫妻がお見えになっております」


「先代!?」


 なんでまた?


 書斎の前に着くと、中から先程と同じ怒鳴り声が聞こえてくる。


「さっさと次の男の子を作りなさい! このダメ女!」


「なんですって! 毎日毎日夜まで剣の稽古をしていて、肝心な時に股についた剣を振るえないのは貴女の息子じゃないですか」


「わたくしのガレリウスを不能とでも言いたいのですか! この醜女!」


 なにごと!?


「まあ、落ち着けネリー」


「稽古は疲れない程度に控えるよ」


 どら声の男性と父さんが怒鳴りあっている二人を宥めるように声をかかける。


「だがガレリウス、三男は必要だぞ。万が一アウグスタスに何かあったら、無能にブルーフィールド家を任せるわけにはいかん」


「ジュリーはとても有能です、御父様!」


「貴族であろうに適性を一つも持っていないなんて。それも、国王陛下の御前で。あんな無能はブルーフィールド家の恥ですわ!」


 へー、適性を持たない人間は無能と呼ばれているのか。

 前世では魔法なんてこれっぽっちも使えなかったからな、黄色いサルと呼ばれるよりはムッとはしないが……

 差別ってのはどの世界にもあるんだな。


 っと、盗み聞きはこの辺にしといて、そろそろ入るとしよう。


「入れ」


 扉をたたくと、すぐ父さんが答える。


「母様、股に付いているのは剣じゃなくて槍ですよ」


 書斎に入った途端に先代夫人のババアが俺に向かって叫び散らしそうだったので、黙らせるために爆弾を落としておく。


「ジュ、ジュリアス。お前、一体いつから聞いていたんだ」


「男の子作りなさいのところからです」


 父さんは究極の苦笑いで聞いてくるが、俺はただぶっきらぼうに答える。


「そんなことはどうでもいいわ。ジュリー、剣とか槍とか、一体どこでそんなこと覚えたの?」


「姉さんがギシギシって音をたてるポルターガイストがマスターベッドルームにでるって言うから探検したんです。その時、父さんは槍のように刺したり抜いたりしてましたよ」


 俺の言葉に書斎にいた四人は真っ赤になる。

 父さんと母さんは恥ずかしさから。先代は息子夫婦の夜の営みの話に興奮して。そして、先代夫人は3歳の俺に夜の営みをうっかり見せてしまった息子夫婦への激怒から。


「まあ、その話は置いといてだ。ジュリアス、ガレリアスからお前の才能については聞いている。お前なら何故弟が必要かわかるよな」


 あーあ、たった一日子供っぽくない行動をしただけで会う人みんなが俺を大人扱いしやがる。

 普通聞くか? そんな質問、3歳児に。


「大人も格好をつけないといけないってことですよね」


「ええ、その通りです。分かったならこれ以上ブルーフィールド家の顔に泥を塗らないように部屋から出ないことですわ」


 先代夫人が見下したように言う。


 冗談じゃない。引篭もりっていうのは他人に言われてなるものじゃない、自分からなるものだ。

 それに、俺、結構国王にうけたと思うぞ。


「またなんてこと言うんで……」


 母さんが俺をかばおうとして先代夫人へ罵倒しだそうとすると、荒々しく書斎のドアが開かれる。


「大変です!」


 そして、血相を変えたチャドリックが飛び込んでくる。


「チャドリックか! どうした」


「王女様が! レナ姫様がお越しです」


 チャドリックは上がった息を整えながら状況を述べる。


 手紙を持ってきて正解だったかもしれない。


「はっ!?」「え?」「何?」「なんですって!」


「おいおい。これからもよろしくって書いてあったけどさ、その挨拶が届いたの、今朝だぞ。いくら王家でも流石に図々しいだろこれは」


 書斎にいる四人がそれぞれの驚きを表す中、俺は思わず呆れを口にしてしまった。

 突然のことに固まったままの四人を書斎に置いといておき、俺はレナに会うために書斎を後にする。

 一階へと降りていくと、階段の上り口で分厚い本を抱えたレナが待っていた。

 彼女に対して俺は昨日と同じく、キザな態度で挨拶する。


「もう俺が恋しくなったのか、レナ?」


「えへへ、一緒に魔法の勉強しようと思って来ちゃった」


 レナは満面の笑みを浮かべながら、『無属性 初級』と書かれた魔道書を前に突き出す。

 笑顔がめちゃくちゃかわいかったので頭を撫でてあげる。


「何たることをしているのですか!」


 せっかく、お互いに癒されているというのに、それに水を差すかのように階段の上からババアの怒声が響いてきた。

 その声に驚いたレナはとっさに俺の後ろに隠れる。


「おい、やめろよ。レナが怖がってるだろ」


「うっ……」


 よしよし、レナの前に体を張って、怒声を発した者を諫める俺の姿は、レナの目にはまるで勇者のように映るだろう。


 そうこうしていると、残りの三人も階段の上に集まっていた。


「いったい何事だ」


 先代は夫人に対して怒鳴った理由を尋ねる。


「あの無能ったら王女様の頭をなでるなどと恐れ多いことを」


「またか」


 先代夫人の言葉に父さんは呆れた表情をする。

 父さんも先代夫人と同じく説教モードに入ったが、先代がそれを制した。


「待て。ジュリアス、国王陛下から手紙をもらったと言ったな。見せてくれるか」


「ええ、これですよ」


 俺はポケットから手紙を取り出し、レナを連れてまた階段を上がり、それを先代に手渡す。


「確かにこれは国王陛下の印璽だ。それにガレリウス宛てではなくお前に宛てられている」


 先代がそう言うと、他の三人も手紙の内容に興味津々で覗き込む。

 先代は数秒後、手紙を閉じ、真剣な顔で続ける。


「ジュリアス、儂らから今日聞いたことはすべて忘れろ」


「仰せの通りに。じゃあ、レナ、どこで勉強する? 図書室か、それとも俺の部屋でもいいよ」


「じゃあ、ジュリアスの部屋がいい」


「分かった。こっちだよ」


 俺はレナに手を差し伸べて、俺の部屋へとエスコートする。


「ジュリーったらどうしちゃったのかしら? つい最近までちゃんと子供らしかったのに」


 ……やばい! 流石に大人っぽく振舞いすぎたか。


 聞こえてきた母さんの一言に、転生して初めての危機感を感じた。


「あまり心配する必要はないと思うぞ。ジュリアスを見ているとガレリウスの幼少期を思い出す。親子揃って女にはナチュラルなんだろう。流石に槍のコメントには驚いたがな。ガレリウスでも5歳まではそんなことは言わなかったぞ」


「親父……」


 後方から聞こえてくる先代の言葉に俺は大きく息を吐き、胸をなでおろす。


 今回は偶然に救われたが、次もそう幸運とは限らない。

 これからはレナ以外の人間の前では大人びた行動は控えるとしよう。少なくとも6歳までは、いや、念のために8歳まで待つか。

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