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六話:何故転生したのか考える

 立場が逆転してしまった。


「ジュリアス、落ち込まないで」


 レナ姫が俺を優しく慰めながら、俺の頭を撫でてくる。


「うう。レナ、俺の分まで頑張って魔法の勉強をするんだぞ」


「わかった。ジュリアスの分まで頑張って世界一の魔道士になる!」


 よし、とてもいい心掛けだ。


 屈辱的にも、3歳の女の子に励まされてしまったので、気を取り直して神官ケートーを質問攻めすることにする。


「ケートーさん、神殿って適性を調べる以外に何かしているんですか?」


「魔力の鑑定による適性判定以外には、主にエーテルの調和とその維持を仕事としています」


「エーテルの調和?」


「はい、その前にジュリアス様はエテリアスについてご存知でしょうか?」


 知らないけど想像はできる。


「魔素?」


「おや、ご存知でしたか」


 ケートーは俺の答えに驚く。母さんも驚いている。

 どうやら俺の答えは正しかったようだ。


「その通りです。レンガを作るのに粘土が必要なように、エーテルを作るのにはエテリアスが必要なのです」


「つまり、エテリアスが原料で、エーテルが中間財で、魔法が完成品ってこと? レンガの例えでいうなら、人は窯で、魔法は家みたいなもの? 下手な例えですね」


 いや、本当に。

 俺がわかりやすく解釈するまで、レナ姫の頭の上に大っきなクエスチョンマークがくるくると回っていたぞ。


「ははっ……、その通りです。ですが、レンガが日干しでも造れるように、エーテルも体外で生成されてしまうことがあるのです」


 なるほど、案外下手な例えじゃなかったかもしれない。


「自然にできたエーテルが危険ということですか?」


「はい、エテリアスと違って、エーテルには属性があります。体内で生成されたエーテルは体という容器に入っているため、害をなしません。ですが、自然で生成されたエーテルにはそれを受け止める容器がないため、周辺に様々な影響、主に属性に基づいた自然災害、を及ぼします」


「じゃあ、神官さんたちはエーテルが自然発生しないようにしているのですか?」


「いいえ、残念ながらその手段は見つかっていません。ですが、自然発生したエーテルが環境に影響を及ぼさない条件がもう一つあります。それがエーテルエクイリブリウム、すなわちエーテルの調和です。一つの属性に対し、適量の全他属性エーテルが存在すれば、属性によって及ぼされる影響どうしが相殺され、エーテルが無いことと同じになります」


 なるほど、船の片方に穴が開いたら、もう片方を意図的に浸水させて船が傾くを防ぐのと同じ理論か。


「じゃあ、神官さんたちは一つの属性が多くなりすぎないようにしてるんだ……どうやって?」


「ご名答です。調和の保ち方についてですが、ジュリアス様は魔物についてお聞きですか?」


「ああ、トイレにいた」


「エーテルは主に魔法の燃料とされていますが、魔法を使いすぎると、過度の疲労、身体能力の低下、酷い場合には死にいたることから、生き物の生命力だとも考えられています。この推論を裏付けるように、自然発生したエーテルは生物の形を取るのです。このようにして現れた生物を他の生物と区別し、魔物とよびます」


 おお、でたよ、魔物の定義。

 ファンタジーノベルやRPGやっててつくづく思ったんだよね、

 普通の生物と魔物の違いって何? なんで魔物って存在するの? ってね。

 イマージョンを重要視するゲーマーである俺にとってその辺説明してくれないとなんかむしゃくしゃするんだよね。

 

「生きたエーテルのかたまり?」


「ええ、その通りですレナ様。幸いにも魔物は倒すことによってエテリアスに戻るので、調和を保てるのです」


 そう説明しながら、ケートーは大神殿の正面口、冒険者地区に向いた入口、のほうへと案内する。


「ジュリアス様、あちらをご覧ください」


 ケートーはたった今大神殿に入ってきた男を指した。男は皮の鎧を着ており、腰には剣を挿したテンプレな冒険者である。


「あそこにおられる男性は、冒険者という職業を営む者です。我々神官は、エーテルエクイリブリウムの変化を感じることに常時身を費やしているため、魔物達を倒すすべを持ち合わせていません。そこで我々は、彼のような冒険者に魔物の討伐を依頼するのです」


「神官さんたちは戦えないの?」


「ええ、もちろん弱い魔物なら対処はできます。ですが、蓄積したエテリアスの量が多ければ、より強力な魔物が生まれます。その場合はやはり戦闘のプロフェッショナルが必要になります」


 レナ姫の質問にケートーは苦笑いで答える。

 俺も魔物対処について疑問があるのだが、俺はそれを国王へとむける。


「騎士たちは?」


「対処出来ないことはないが、得意ではない。騎士の仕事は国境の警備、街や街道の治安維持、そして貴族の警護だ。彼らは人相手の戦闘は得意だが、魔物相手になるといまいちだ。それに彼らは忙しい」


「だから残念なことだが冒険者は必要不可欠な存在なのだ」


 国王が答え、父さんが付け足す。


「残念?」


「ああ、そうだ。奴らはエーテルエクイリブリウムの維持や国民の安全といった大義名分では動かない。奴らが動く理由はただ一つ、金だ」


 なるほど。


「ところで、クラウディアは?」


 父さんが、母さんがいつの間にかにいなくなっていることに気づく。


「クラウディア様なら魔道書をご購入に行かれましたわよ」


 俺たちが魔力鑑定をしてもらっている間、ずっと世間話を共にしていた王妃が答えると、父さんは大きくため息をつく。


「……長くなりそうだな」


――――――――――


 国王一家と別れた後、母さんの買い物も終わったので、今俺達は馬車にて帰路についている。

 尻が痛い。


 自我を取り戻してからいろいろと忙しかった。

 本能に支配されていた時間に得た知識の整理、

 この世界、今住んでいる街、そして大神殿に関する情報収集、

 大神殿での魔力属性適正テスト。

 今、この馬車で過ごしている時間がこれまでで一番落ち着いた時間だろう。


 落ち着けたことで必然的に今日聞いたことについて振り返ってしまう。

 神殿はエーテルエクイリブリウムの維持を目的とし、

 国の騎士は国境警備と治安維持などといった任務をこなすために存在する、

 そして貴族は神殿の収入源という地味だが重要な存在意義がある。

 そこで、一つ疑問が浮かぶ。

 俺は何故ここにいる?


 俺がこの世界に連れてこられたのには必ず理由があるはずだ。

 そもそも「転移」ではなく「転生」なのだから、上の存在が何らかの理由をもって俺に第二の人生を与えたと考えたほうが妥当だろう。

 偶然で転生したなどと非現実的で非科学的なことは俺は信じない。


 まず考えられるのが、前世の行いに対しての褒美だ。

 この仮説は……断定しよう、あり得ない。

 もちろん前世の俺は犯罪者でも悪党でもなかったが、善人と呼ばれるほど大層なことをしたこともない。

 それに、これが褒美ならば全属性の適性を持って、俺TUEEEのチート無双出来るのが筋だろう。


 次に考えられるのは、エーテルエクイリブリウムに関することだ。

 調和が崩れてしまったから、世界にバランスをもたらす勇者を召還したとか。

 だが、これもないだろう。

 この世界の魔法に関することで何らかの手助けが必要なら、わざわざ魔法のない世界の人間を連れてこなくても、この世界の人間に力を与えたほうが効率的だ。


 最後に考えられるのが、前世の世界には存在したが、この世界には存在しない何かのためだ。

 ならば、問題はその「何か」が何なのかだ。

 まあ、難しい問題のように行ってみたが、科学だろ。


 それにしても、科学技術向上がこの世界での俺の存在意義ならば、俺はそれに適任だろうか?

 俺は人一倍本を読んでいた。漫画、ラノベ、小説などだけではなく、教科書やら専門書なども好んで読んだ。

 テレビはバラエティばかりを見ていたがその中でも教育的なものが好みだったし、クイズ番組は参加者よりも早く答えを出せた。

 ウィキペディアや辞典をも読み漁り、専門学的知識さえ俺は雑学として覚えた。

 ああ、こうして思い返してみると俺は結構適任なのかもしれない。


 でも、何か勘違いしてない?

 まさか、俺がこの世界への貢献を親切心だけでやるとでも思ったのかな?

 確かにね、前世の俺は「人民の為の」国家公務員ではあったけどさ、

 国民のためなんて思ったことないよ……安定した給料が欲しかっただけだよ。

 

 まあいいや、俺の仮説があっていようがあってなかろうが、俺はスマホ中毒の現代人だ。

 中世の世界に住むことに馴染む自身もつもりもないし、ファンタジー要素に満足するつもりなどもない。

 現代知識フル活用して生活水準上げてやる。


 あれ、もしかしたらこれが狙いだった?

 ほかの奴呼んでも、中世ファンタジー世界に満足して「そんなことする義務はねぇー」とか言いそうだしな。

 特にコミュ障ヒキニートオタクとか。

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