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五話:レナ姫と魔力の属性について学ぶ

 神官ケートーに連れられ、大神殿の中へと入っていく。

 

「すごい! きれい!」


「ああ、すごいな」


 カラフルなステンドグラス、鮮やかな壁画と天井画、

 魔法だろうか、神殿内を照らす光の球体、そして、それがもたらす明るい雰囲気。

 前世では見たことのない、見ているだけで圧倒されるほどの絶景だ。

 唯一比較できるものがあるとしたら、ヴァチカンにあったシスティーナ礼拝堂だろう。

 いや、たとえあのミケランジェロが仕上げた礼拝堂であっても、この大神殿が放つ雰囲気には到底敵わない。


 大神殿のメインホールの絶景にレナ姫と俺は圧倒される。


 俺たちの後について入ってきた両親たちも息を呑む。


「何度見てもすごいな」


 どうやら圧倒されるのは初めて来る者たちだけではないようだ。


 天井画をもう少し眺めていたかったが、ケートーを待たしても悪いので、彼の後を追い、メインホールの脇にある部屋へと入っていく。


 この部屋は長方形であるメインホールとは違い、正五角形の形をしている。

 壁画や天井画はないが、部屋への入口がある壁以外には何かを表すシンボルを模ったタイルがはめ込まれている。

 部屋の中央には台座があり、その上に大きな水晶玉が置かれている。


 ケートーはその台座の横に立つと、水晶玉を指す。


「こちらになります」


 それが何か当ててやろうか?

 その水晶玉に魔力を流し込むと、それが光って魔力の量と属性がわかるんだろ?


「この水晶玉は、流し込まれるエーテル、すなわち魔力、を鑑定し、流し込んだ者の属性適正を光を放つことで示します」


 ほーら、大当たりー。

 あー、でも、テンプレならこういうのは冒険者ギルドに置いてあるんだけどな。


 そこで一つ疑問に思うことがある。何故これをやるのが3歳なのだろう?

 教育方針を決めるのならもう少し早くてもいいのではないだろうか?

 適性があるのに剣士に育てても能力の無駄だし、適性がないのに魔術師に育てようとしてしまっても時間の無駄だ。


「なんで、3歳なんですか?」


「あ! それ私知ってる!」


 レナ姫がここぞとばかりに元気良く叫ぶ。


「歩けるようになるのは1歳で、喋れるようになるのは2歳で、エーテルが使えるようになるのは3歳なんだよ」


 エッヘンと胸を張りながらレナ姫が説明する。


「その通りです、レナ様。水晶玉にエーテルを流し込むには、まず自分の中に漂うエーテルを認識し、操れなければいけません。魔法学者の方々によると、遅くとも3歳までにはこれができるというのが理由です」


「レナ、さすがだな」


 威張っている姿が可愛かったので、思わず頭をなでてしまった。

 最初はキョトンとしていたが、すぐにもっとしてとねだってくるようになった。

 レナは王女だ。父である国王以外から頭を撫でられることなんてないだろう。国のトップというのは忙しい。つまり、愛情を受ける機会が少ないのだ。

 欲求不満ともいう。


「ブルーフィールド、お前の屋敷には女たらしの執事でもいるのか?」


 と、国王が呟いたのが聞こえたが無視する。


 3歳までに操れるというと、魔力のコントロールは水泳や運転のような学習・経験によって育まれる技術ではなく、肺呼吸や二足歩行のように本能的な能力ということか。


 そういえば、属性魔法を使うにはその属性の適性が必要だとは聞いていたが、どんな属性があるのかは聞いてなかったな。


「壁を見てお気づきかもしれませんが、属性は基本四つあります。左から火、風、水、土です」


 ケートーが俺の疑問を察したのか、壁にあるシンボルを指しながら説明する。

 ここでもう一つ疑問を投げかけてみよう。


「適正はひとつだけですか?」


「ちがうよー」


 またレナ姫が知識を発揮してくる。


「いえ、決してそんなことはありません。国王陛下はすべての適性をお持ちですし、王妃様、ブルーフィールド侯爵御夫妻は適性を三つ適性を持っておられます」


 ケートーもすぐに答える。


 なるほど。

 四大元素が属性か。これが基本というからには他にもレアな属性があるのだろうか。


「説明もそろそろにしてさっさとやってみないか?」


「そうですね。ではレナ様からでよろしいでしょうか?」


「ああ、レディーファースト」


「じゃ、じゃあやってみます」


 国王の提案でこれ以上の説明は後回しで、さっさと水晶玉に魔力を流してみることになった。

 先に魔力を鑑定してもらうことになったレナ姫は、水晶玉に手を伸ばし、ウーンとうねりだす。

 水晶玉が3歳児にも届くように、台座は低くなっている。気が利く神殿だ。

 というわけでもなく、使う奴が三歳児ばかりだから高い所に置くだけ無駄、ってことだろう。


 すると水晶玉が発光しだし、赤、緑、水色、茶色の順で点滅した。


「「おー」」


 部屋にいた全員が歓声を上げる。


「さすがレナ様、全属性の適性をお持ちです」


「じゃあ、次は俺な」


 レナ姫の鑑定が終わったので、レナ姫と交代で今度は俺が水晶玉に近づく。

 すれ違いざまに頭をなでてやるのも忘れない。


 よし来い! 異世界転生物テンプレの俺TUEEEチート級能力!

 という期待はおいといて、手を水晶玉にゆっくりとおく。


 魔力か……

 テンプレならここはイメージが大切だ。

 だが神官は「魔力コントロールは本能」的なことを言っていた。

 でもな、自我を取り戻してから一度も魔力みたいなものを感じたことがないんだよな……

 不安だ。


 とりあえず、手のひらからエネルギーを放出するイメージをする。

 おいおい、後ろから「ジュリーはいくつ適性を持っているのかしら」とか「お前の水が受け継がれているといいな」だとか聞こえてくる。

 やめてくれ、いらないよ、そういうプレッシャー。


 うまくいったのか水晶玉が光りだす。

 数秒光ったのち光が消える。

 そして次は……


 何も起こらない。


 えっ!?

 あれれ?

 テンプレならレナ姫の時のように次々と点滅するんじゃないの?

 

 ケートーに確認しようと振り返ってみると、大当たり。


 お母さんを見てみるとすげえ悲しげな顔してる。

 お父さんは神妙な顔をしてお母さんの背中をさすっている。

 ケートーときたら「お悔やみ申し上げます」なんて言ってるよ。


「あの、俺の適性は?」


 うん、もうわかってるよ。

 ないんでしょ、適性一つも。


「ジュ、ジュリアス様、大変お伝えしにくいのですが…… 適性は一つも確認できませんでした」


 あー、ほーらやっぱり。

 なんかもう吹っ切れちゃったよ。

 いや、確かにね、最初はめっちゃ驚いたよ。「えー、これって定番の俺TUEEEの最強魔法で異世界無双じゃないのー」ってね。

 でもさ、最初っからこの世界ってテンプレそうでテンプレじゃないところ一杯だったじゃん。

 だからさ、驚いたのは一瞬だよ。

 だってさ、後から冷静になってみると、驚くなんて今更じゃん。

 

 だから、いい加減やめてくれない?

 このお通夜みたいな空気。


 そんな中、俺は一つ確認する必要がある。


「えっ!じゃあ、魔法つかえないんですか?」


 これ、今一番気になる。

 わざわざ属性魔法というならば無属性魔法もあると思うのだが、

 無属性も属性の一つなんてこともあるかもしれない。

 最悪の場合無属性なんてものはなくてすべての魔法がどれかの属性に分類されるなんてこともあるかもしれない。


「いえ、そんなことはありません。あくまで『属性魔法』が使えないというだけなので、無属性の魔法ならば使うことができます。」


 ケートーは慌てて説明してくれる。


 ふー、安心安心。

 異世界来たのに魔法使えないなんてことになったらシャレにならなかったぜ。


「無属性の魔法ってなんですか?」

「属性に当てはまらず、誰もが使える魔法をまとめて無属性と言います。主に、傷を治したりする魔法や、体や物を強化する魔法、時間や空間を操る魔法などが無属性に分類されています」


 なるほど、

 回復魔法、強化魔法、付属魔法、地空間魔法といったところか。

 ……あれ?

 なんだ、結構チート無双できる範囲じゃねぇか。

 いやー焦ったよ、そうだよなー、こんだけ便利な魔法が使えるってぇなら、属性魔法が使えないってハンデが付かねえとおもしろくねえよな。


「大丈夫だジュリアス。俺は属性は持っているが、魔法はあまり使わん。お前も父さんみたいな立派な剣士にしてやるから安心しろ」

「ああ、俺だって使わんさ。今の時代、属性の多さは関係ない」


 俺が落ち込んでると思ったのか父さんと国王、いや、国王陛下が励ましてくれる。

 剣士か。

 うむ、ここは剣と魔法の世界、剣術も学ばないともったいない。


「うん。おねがいします」

「ううう……」


 ああ、でもな、前世では銃剣術を習ったことあるし、仕事上の都合で銃剣突撃もしたことあるけど、やっぱり遠距離攻撃の方が俺には向いていると思うんだよな。


 それにしてもさっきから母さんが唸っている。

 どうしたのだろうか。


「ああ、気にするなジュリアス。ほら、ガストには俺が剣術を教えているだろ、母さんはお前に魔法を教えようと浮かれてたんだ、が……」


 俺の疑問を察した父さんが説明してくれた。

 そうか、次期当主になる長男の兄さんには現当主である父さんが剣術やら政治がメインの教育をする必要があるもんな。

 だから、やっと魔法メインの教育を二男の俺にできると母さんは期待していたということか。

 で、なんと俺には適性がない。

 そりゃー、落ち込むよな。


「ごめんなさい」

「ううん、ジュリーは何も悪くないわ。謝るべきなのは私の方よ、もっと無属性魔法も勉強しておくべきだったわ。ごめんなさいね、ジュリー」


 おお、できそこないの息子だと言われるのかと思ったが、いい母親をもったものだ。


「大丈夫だクラウディア、俺たちもまだ若いんだ。これからも機会はあるさ」

「そうね。でも、早いに越したことはないと言いますからね、今夜もお願いしますわよ」

「え、ああ」


 落ち込んだ母さんを励ます父さん。

 父さんの言葉に眼をギラギラと輝かし、意味ありげに微笑みかける母さん。

 おや、父さんの顔が一瞬こわばって、今は苦笑いをしている。

 なるほど、凄腕の剣士である父さんも夜の戦では防戦一方のようらしい。

 近々、弟か妹ができるかもしれない。


 それにしても、大人っって驚くぐらい子供の前で下半身トークをするんだよな……

 あのデ○ズニーでさえ下ネタを平然とぶっ込んでくるんだからなぁ……

 子供なら聞かれてもわからないから大丈夫、って感じなんだろうけど、

 普通子供ってわからないことがあったらバンバン聞くよね?

 それを気付かせずスルーさせるって、子を持つ親の誘導力恐るべし。

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