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二話:異世界のトイレには魔物が住んでいる

 3歳の誕生日までちょうど一週間だとわかった。


 まだ俺が使える魔法の属性が分からないため魔法を習えず、貴族の子ってことで誘拐される危険性があるため外の探検は出来ない。

 だが、一週間たてばこの状況も変わる。

 この世界には、3歳になった子供を神殿へ連れて行き、どの属性の魔法が使えるか判定してもらうという習慣がある。

 属性さえ解れば魔法を習いだせるし、神殿へ行けば探検は出来ないが屋敷の外が存分に観られる。


 神殿について懸念がないといえば、嘘になる。

 神殿というからには、宗教活動の場なのだろう。異世界ファンタジーの宗教なんて禄なものがない。

 決めた。3歳らしく行動しよう。

 無駄に大人っぽさをアピールして、何かに取り憑かれているとは思われたくない。

 異端審問なんてゴメンだ。


 一週間後に何をするかは決まったが、この一週間何をするかという小さな問題がまだ残っている。


 屋敷内の探検は確実に今日か明日で終わる。

 異世界転生物のテンプレどおり現代知識を発揮しようかと思ったが断念した。

 一旦魔法を学べるようになってしまえば、それに夢中で、どの現代知識を再現するかを考えたり、それを再現する時間などないと思う。もし、現代知識を再現するなら、一週間で再現できるものが必要なのだが、2歳児が魔法の手助け無しに再現出来そうなものは一つも思いつかなかった。


 そんなわけで、まだ何をするか決まっていないのだが……今の俺にとってそんなのどうでもいいことだ。


 俺は今、トイレの前に突っ立っている。


 父さんから誕生日まであと一週間だと聞かされてから、屋敷の探検に戻った俺は、突如尿意にかられた。

 俺は探検を一時中断し、一階にあるトイレへと向かった。

 

 中世西洋では排尿・排便はおまるのようなものにしていたようだが、この世界にはちゃんとトイレ用の個室という文化があるようだ。

 一つ驚いたのが、その個室が屋内にあるということだ。貴族の屋敷にもかかわらず庭が存在しないことが原因だろう。

 庭がないことから、この屋敷がある街はかなり人口密度が高いということも推測できる。


 トイレ自体は西洋らしく座れる形になっているが、おまるとは違い直下管があり、ぽっとんトイレのようになっている。


 トイレについて最初に気付いたのが臭いだ。いや、正確には臭いの無さだ。

 それで気になって、どういう仕組みで消臭されているか気になって、トイレの中を覗いてしまった俺を殴ってやりたい。

 俺は見てしまったのだ、汚物がたまっているべき場所にいたプニプニブヨブヨした何かを。

 あまりの気持ち悪さに尿意を完全無視してトイレを飛び出した。


「あれ? ジュリアス、どうしたんだトイレの前なんかで突っ立って」


 プニプニブヨブヨに構わず排尿をしようかと考えていると、2階から降りてきた兄さんに声を掛けられる。


「兄さん、あれ何?」


 俺は震える指でトイレを指して問う。


「何って、泥スライムのことか?」


「ス、スライム?」


 なんだ、スライムか。てっきり汚物がとんでもない化学反応起こしたのかと思った。

 ってスライム?!


「そうだ、うんちとかしっことか食べっちまうんだ」


 なるほど、汚物を吸収するモンスターを住まわすことで衛生を維持しているのか。

 って感心している場合じゃねぇ。小便したかったんだ。


 股を抱えながら慌ててトイレに飛び込むと、外から兄さんがゲラゲラと爆笑するのが聞こえてきた。

 恥ずかしいが有意義な情報を聞き出せた。どうやら、ここはモンスターがいる異世界のようだ。

 また一つこの世界のことが分かった。


――――――――――


 トイレに行き尿意も収まったので、屋敷内探検を続行する。


 一瞬、図書室に戻ってモンスターについての本がないか探そうと思ったが、トイレと同じようにほかの場所でもモンスターが活用されているのではないかと推測し、それらを探すことにした。

 まず向かうのはキッチンだ。


 俺の家族は料理をしない。その代わりに、シェフやコックを雇って食事を作らせている。

 皆キッチンと呼んでいるが、キッチンというよりは厨房といったほうが正確だろう。


 キッチンに入ると、クッキーと紅茶を持ってキッチンから出てくる執事にぶつかりそうになった。

 キッチンではシェフやコック以外にも、彼のような食事を部屋に運んでくれる執事やメイドが働いている。


 この世界がテンプレ通りの中世時代だという推測は正しいようだ。

 オーブンはレンガ造りの窯で、冷蔵庫はなく冷蔵室のような地下室につながる階段がある。電化製品は一つも見当たらない。


 だが一つ妙な点がある。何故かキッチンに勝手口が存在するのだ。

 そして、今まさに、そこで猟師らしき格好をした男とコックの一人が取引をしようとしている。


「まいどー」


 猟師は片手で小銭を確認しながら、カモを3羽コックに手渡す。

 どうやら、今夜はカモのようだ。


 勝手口って……何故ここだけ日本風……


 キッチンを一通り見て回ったがモンスターは見つからなかった。

 窯の中に炎をまとったモンスターがいるんじゃないかと見てみたが、単に薪を使っていた。

 冷蔵室には氷系のモンスターがいるのではないかと思ったが、ただ自然に涼しいだけだった。


「モンスターいねぇーな」


「モンスターですか?」


 ガッカリしながらキッチンを出ようとすると、俺のつぶやきが聞こえたのかコックの一人が聞き返してくる。


「うん、トイレにいるやつみたいの」


「あー、たしか風呂場に似たようなのがいますよ」


「マジで? ありがと」


 コックからモンスターの居場所を聞き出せたので、次の探検場所を風呂場に決める。


 中世西洋風の世界だが、幸いなことに風呂という習慣はある。逆に、こっちの世界では香水の技術が発展していない。

 まあ、あるのは習慣だけで毎日は浸かれないというのが悲しい事実だ。


 庭がないため、井戸もない。水路はあるが、屋敷に直接つながっているわけではない。

 街の住民には一定量配給されるらしいが、貴族はそれ以上の量が必要だ。

 従って、その分は買わなければいけない。限られた必需品ということもあって値段はかなり高い。しかも、配給と違って、タダでは運んできてくれないため、運搬料も支払わなければならない。


 大金をはたいて手に入れた水のほとんどは、俺たちや召使たちの飲料水になるか調理用として使われる。

 結果、バスタブはあるが水が入っておらず、体は濡れたタオルでゴシゴシし、バケツ一杯だけの水をかぶって汚れを流す、という状況になっている。


 言われるがままに風呂場に来てみたが、ここでモンスターを見たことは一度もないことを思い出す。


「うーむ、俺は見たことがないが、使用人は見たことがある。なるほど、清掃用具を入れてあるクローゼットだな」


 俺の知っている事実とコックの発言を照らし合わせ、結論を出してみる。


 クローゼットを開け中をのぞくと、モップが数本タオルが数枚とバケツが一個あった。

 コックはトイレのと似たようなのと言っていた。つまり、ここにいるのもスライムだろう。

 そして、スライムがいるならバケツの中だろうと思い、恐る恐る中を覗いてみた。


「いたー!」


 バケツの中に青いプニプニブヨブヨを見つけ、興奮のあまり思わず叫んでしまった。


 トイレのは汚くて触れなかったがこいつなら大丈夫だろう。

 そう考えながら、スライムに触れてみるため、バケツに手を突っ込む。

 すると、大人しかったスライムが、急に、俺の手を噛り付くように飛び掛かってきた。


「うおおー!」


 あまりの不意打ちに驚き、また思わず叫んでしまった。


「おいジュリアス、なんだ今度は」


 手にくっついたスライムを引き剥がそうと手をブンブン振り回していると、後ろから兄さんが声をかけてきた。


「手がー!手が食われるー!」


「っぷ」


 俺の手が溶かされているというのにこのクソ兄貴笑いやがった!


「わるい、でも安心しろ。そいつは掃除用に調教されているから手は食われない」


 俺が兄さんの態度に絶句していると、笑いをこらえながら説明してくる。


 なんだ、びっくりした。心配するだけ損したじゃないか。


 俺が手を振り回すのをやめると、兄さんは今度はニヤニヤと笑い出す。


「お前の手が汚かったんだろ」


 うるせーよ。一言よけいだ。


 兄さんが言った通り、スライムは俺の手から汚れを落とすと、そのまま手から離れバケツの中へと戻っていった。

 ついでなのでもう片方の手もバケツの中に突っ込んできれいにしてもらう。


ーーーーーーーーーー


 モンスターを見つけることができたので、兄さんと一緒に風呂場を出る。


「なあ、俺とミリー先生の授業受けないか?」


「えっ?」


 さっきまでの人を馬鹿にしたような態度とは正反対、真剣な顔をしていきなり授業をオファーをしてきた。


 どうせ、さっき俺がミスって数学問題答えちゃったから、俺が頭いいと思って手伝ってほしいのだろう。

 俺は嫌だよ。

 俺は前世でもう義務教育・高校・大学と16年間も授業と課題の地獄を潜り抜けてきたのだ。

 こっちの世界の言語は既に完璧に読み書きできるし、数学も化学もこっちの世界のだれよりもできる自信がある。

 それに俺には様々の豆知識や雑学が身についている。伊達に何時間もクイズバラエティ番組を見たりウ〇キペディアを読み漁っていたわけではないのでね。

 また数学だったらさらに嫌だ。得意ではあるが好きではない。


「数学は今日の分終わったから次は地理なんだ。地理の授業一緒に受けてみないか?」


 あったよ、この世界でしか得られない知識。


「受ける!」


 速攻オッケーする。

 地理ってことはつまり、この街の位置や町が所属する国とその隣国のことなんかも習えるんだろう。楽しみだ。俺は前世でも社会科の授業は好きだった。


「あ、でも地理と歴史だけね。ってことで早く行こう」


 俺が前世で既にやった科目まで付き合ってやるつもりはない。兄さんが反論する前にさっさと兄さんの手を引いて兄さんの部屋へと向かう。

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