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十六話:冒険者になる

「おーい、降りてこい」


 受付係は、カウンターに水晶版とカード二枚を出して、さっさと手続きを済ませろという雰囲気を漂わせる。

 いや、待て。普通、冒険者ギルドへ入会しに来た新人に絡んでくる奴ってのは弱い者いじめが趣味の酔っ払いだろう。途中まで、テンプレ通りに絡んできたと思っていたのに、副ギルドマスターによる採用試験かよ! とんだ拍子抜けだわ。


 仕方がない。折角ここまで登ってきたんだ、この機会を最大限に活用させてもらおう。


「ユータ、俺がどうやって天井を逆さまに歩けるか、分かるか?」


 俺は受付係を完全無視して、ユータに出題する。

 この問題を解こうと、ユータが顎に手を当てる仕草をしながら考えていると、ギルド内は異様な静けさに包まれていく。

 冒険者もギルド従業員も、ユータと共に考えているか、ユータの答えとそれに続く俺の解説を聞き逃すまいと音をたてないようにしているのだ。


「って、おい待て! 無視すんなよ。問題なら水晶版にエーテル流しながらでも出せるだろ」


 他の冒険者と共に考えていた受付係だが、自分が無視されたことに気づき、俺に文句を言ってくる。

 今の受付係の言葉で答えが分かったのか、ユータの顔が明るくなる。


「あ! コンフェティを使ったエーテル・コントロールの訓練の応用ですね。コンフェティをエーテル・コントロールだけでキャッチするのと同じで、天井が手の平で、ジュリアス様がコンフェティですね」


 正解だけどさ、最後なんか失礼なことを言ったぞ。

 ユータもそれに気づいたのか、手を口に当てている。


「その通りだ。魔法を発動するには一定量のエーテルを体外に保たなければいけない。保つには体の表面に対して垂直にエーテルを回転させる必要があり、その過程で吸引力が生まれる。あとは、重力の力と方向を計算してエーテルの量を調整すればいいだけだ」


 ユータに解説し終わったので、俺は天井への吸引を解き、一回転して床に戻る。

 俺が床に着地すると、奥のほうに座っていた、これはまたテンプレ魔法使いのような格好をした男が、ガタッと音を立てて席から立ち上がる。

 そして彼は、苦笑いを浮かべながら言う。


「一体どこのどいつだ。あいつを無能なんて呼んだのは。この街で、コンフェティを手にくっつけるエーテルコントロールの訓練をする奴なんて邪水クラウディアしかいねぇ!」


 おい待て、なんだそのあだ名は。クラウディアって俺の母さんの名前ですけど? 聖水の間違いだろ!? 間違いじゃなかったら、なんかすげー気になる。

 魔法使いっぽくない喋り方の魔法使いが続ける。


「それに、お前今ジュリアス様って呼ばれたよな。お前はクラウディアの二男、ジュリアス・ブルーフィールドだろ。でもよ、あのクラウディアでも天井を歩くなんて聞いたことねぇよ」


「いいえ、ただのジュリアスです」


 魔法使いの話を聞いて、受付係が「ジュリアス・ブルーフィールド」とギルドカードに刻み込みそうだったので、俺の名前はただのジュリアスだと、強調する。

 だが、母さんの二男だということも否定するつもりはないので、水晶版にエーテルを流し込む。

 俺が得た情報によると、冒険者ギルドの水晶版は、神殿の水晶玉と商業ギルドの水晶版両方の機能を備えている。

 商業ギルドの水晶版がエーテルデータを登録するだけに対し、冒険者ギルドの水晶版はエーテルデータに加え属性情報も登録する。さらに、あまり業務的利点はないが、神殿の水晶玉のように光を放つ。


「それにしても、勿体ねぇよなあ。属性魔法使えたらどんだけ凄ぇことができるんだろうな、お前は」


 副ギルドマスターのケビンは、水晶版が四色のどれにも光らないのを見て、呟く。

 それを聞いていた冒険者たちは、ケビンに同意して頷く。


「冒険者の方々は、属性を持ってない人をけなしたりしないんですね」


「ん? 剣士に属性なんて関係ないだろ」


 ユータが俺に向って囁いたことに受付係が反応して、合理的なことを口にする。

 階級やら財産やらとステータスばかりが重要な貴族共とは違って、常に身を危険に晒す冒険者達は実力主義なんだよ。


「それに無能は弱点がないからな。属性を持つってのは、両方有利でもあり不利でもあるんだ」


 先ほどの魔法使いが、今度は魔法使いらしい穏やかな口調で、受付係をフォローする。


「不利?」


「例えばお前の連れが持つ水属性は、風には強いが土には負ける。属性にはそれぞれ優劣があるんだ。それに、属性を多く持つ人は、弱点も多くある」


「ってことは、つまり、水と土の属性を持っていても、土に対する不利は無くならないってことか? やべえじゃん、王族」


 魔法使いの解説を聞いてレナのことが心配になってきた。


「おーい、そろそろギルドの規定について説明していいか?」


 ギルド加入手続きをそっちのけで魔法使いと会話していたので、受付係がじれったそうにジト目で見てくる。


「あ、はい。どうぞ」


「まずはランクから説明するぞ。ランクは全部で5……7級ある。5が一番下で1が上だ。だが、上の2級は二つに分かれていて、下から準2級、2級、準1級、1級だ」


 英検かよ!

 俺はギルドカードを見てみると、名前の横に4級と刻まれていることに気づく。ちなみに、ユータは5級だ。


「4級?」


「合格つったろ」


 なんで俺だけ4級なのかという疑問を口にすると、ケビンが天井を指さしながら答える。

 なるほど、さっきの挑戦は入試じゃなくて昇進試験だったわけか。


「ランクアップについてだが、依頼の達成数と達成率、ギルド内外での評判で決まる。強ければ1級になると思ってるバカもいるようだが、ギルドは憲兵団じゃねえ、万屋だ。1級になれるのは依頼者を満足させられる奴だけだ。まあようするに、お前らはランクアップのことなんざ考えないで、依頼にベストを尽くせということだ」


 はは、「冒険者ギルドは万屋」か。

 ほとんどのファンタジー小説、ここ間違えるんだよな。ろくに依頼を達成していないのに、強いモンスターを倒しただけで、主人公のランクを上げたりと。

 強いだけじゃ1級になれないのは、そりゃそうだよなー。冒険者ギルドも商売しているんだからな。


「依頼にランク制限とかないんですか?」


「ないな。報酬金に目がくらんで、死ぬか達成率落としたきゃ好きにしろ」


 冒険者ギルドでのもう一つの定番、依頼のランク分けについて聞いてみると、随分とスパルタな答えが返ってきた。


「次に、強制退会についてだが、法を犯すな、達成率を二割以下にするな、だけだ」


 まあ、一つ目は常識だな。

 受けた依頼の八割も失敗してたら、自分に合った依頼を選んでないか、冒険者に向いてないかだ。退会させられるのは妥当だろう。


「最後は規定というよりアドバイスだが、魔物討伐の依頼があったら大神殿に顔を出すことをお勧めするぜ。同じ魔物倒すクエストがあったら魔石が手に入るからな」


 あー、エーテルの調和のために冒険者を雇ってるとか言ってたな。その報酬が魔石か。


「そいやぁお前、ジュリアスだけで登録したよな。なんでブルーフィールドつけねぇんだ?」


 受付係が規定の説明を終えたところで、ケビンが俺の名前について聞いてくる。


「ほら、俺無能だからさ。名前取り上げられて、家を追い出された」


「あの邪水がそんなことするとは思ってもみなかったな」


「いやいや、母さんは反対だったよ。でも先代夫婦がね」


「マジか、お前まだ13だろ。貴族、えげつねぇ」


 俺が置かれた状況について愚痴ると、ケビンや冒険者たちが同情してくれる。


「ジュリアス様、早速依頼を受けてみますか?」


 俺がせっかく感傷的なライフストーリーでギルドメンバーの好感度を得ようとしているというのに、ユータは興奮したように俺の袖を引っ張りながら依頼書が張り付けられた掲示板を指し、そう言う。

 うん、分かるよ。夢に見てきた冒険者になれたのだから興奮するのは分かる。でも、自分の姿見てみろよ、ユータ。


「おいおい、お前手ぶらで俺たち防具なしだろ。依頼を受けるのは装備を整えてからだ。でもまずその前に、昼めし食って今夜泊まる宿を抑える。依頼を受けるのは明日からになりそうだ。じゃあ、ケビンさん、また明日。何で母さんが邪水って呼ばれているか教えてくださいね」

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