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十一話:ユータに出会う

 現在、俺は同年代だと思う男子を宙吊りにしているのだが……

 何故こうなったのか説明する前に、まず、この二年間にあった重要な出来事をまとめておこう。


 レナと俺が封蝋を作った数日後、レナは屋敷に来なくなった。

 「お父様がジュリーの家に行っちゃだめって言うの」って泣きつかれたときは、俺のペッ……幼馴染を泣かせたなと怒ったが、国王陛下が「王女としての教育を始めないといけない」と直々に謝りに来たので許すことにした。


 封蝋といえば、貴族の間で大ヒット商品となった。

 国王陛下がちゃんと金色の印璽を使ってくれたおかげだ。

 父さんは結局、商人と掛け合うのではなく、商業ギルドに封蝋の話を持っていき、利益をギルド6:俺3:レナ1で分ける話をつけた。

 ヒットしたおかげで、次に再現する現代品は顕微鏡で良さそうだ。


 俺以外の話になるが、弟ができた。俺とは8歳も年が離れていて、名前はカイウスだ。

 母さんの妊娠が発覚したときは、年のくせに二人とも頑張るなとジト目で見てやった。

 そしたら何を勘違いしたのか、「偶然だから、ジュリーは立派な二男だよ」と必死に俺を慰めようとしていた。おいおい、先代が言っていた俺が跡取りの予備には不足だとの話は無くなったんじゃなかったのか。

 でも、確かに自分の立場を、自分より下の存在に取って代わられるのはい気分ではないが、

 貴族の二男ってものは長男が結婚して跡継ぎを作るまで独立できず飼い殺される運命なんだよな。

 御免だわ。頼んだぞ弟よ。


 そして、俺はつい数日前10歳になった。

 その誕生日プレゼントとして、俺の専属執事チャドリックを連れてなら街に出ることを許された。

 まあ、誕生日プレゼントっていうのは時期が都合よかっただけで、父さんが言うには、剣の腕がその辺の破落戸なら対処できるくらいにまで上達したからで、母さんが言うには、大きな怪我をしても自分で治せるほどまで回復魔法が使えるようになったからだそうだ。


 そして三つ目、俺は今朝……財布をすられた!

 街の南側にある商業地区を探検していた時のことだ。

 犯人は分かっている。いや、正確には犯人の姿はちゃんと見て覚えている。

 俺と同年齢だと思われる茶髪のイケメ……男子だ。

 すられる寸前にチャドリックに注意するように言われていたというのに。

 しかも、すられる際に押し倒された。変な性癖に目覚めるかと思ったぞ。


 それで、何が何でもスリを見つけてやろうと一日中スラム街を探していた。

 日が暮れだしたころ、チャドリックが「すられたのはたった3アルゲンですから諦めて帰りましょう」とか言っていたが、そういう問題じゃない。

 精神年齢30近いこの俺が、10歳のガキに出し抜かれたんだぞ。

 まったく屈辱だ。


 結局スラム街では見つからず、日が暮れてしまった。

 そろそろ帰ろうかと考えていた時に、如何にもスラムに住んでいそうな子供が旧城壁を登っていたので、スリについて知らないか聞こうと思い、後を追った。

 ちなみに、帰ろ帰ろうるさいチャドリックは撒いてやった。

 やっと追いついたと思ったら、そのガキ、飛び降りやがったんだよ。


 で、現在、俺は同年代だと思う男子を宙吊りにしているというわけだ。


 とりあえず引き上げよう。腕が疲れてきた。

 ん?


「あー、お前は!」


「貴方は今朝の」


 スリだ。

 スリのことを聞こうと追っかけていた相手がスリだった。


「やっぱり。で、スリ君はこんなところから飛び降りて何をしようとしていたのかな?」


「死のうとしていたんです。見ればわかるでしょう」


「ほほー。じゃあ、俺からすった金は最後の晩餐にでも使ったのか?」


「違います。母と弟が生きていくためのお金です」


 無理だろ。3アルゲンだぞ。もって4日だわ。


「はぁ?母さんと弟の為に犯罪に手を染めてまで頑張ってるのに何で自殺なんか」


 そう俺が聞くと、ガキは待っていましたとばかりに語り始めた。

 彼がこれまでどういう暮らしをしていたか、彼の母が何をして稼いでいたか、どうやったら家族を貧困から救えるか彼なりに考えたこと、そして、自分が死ぬしかないという結論にたどり着いたこと。


 ガキの話を長々と聞かされて、苦労な生活を送ってきたことは良く分かった。

 ここは、生きてさえいれば必ず幸せな時は来るとかなんとか優しく声をかけてやるべきなのだろうが……


「馬鹿か、お前は」


 としか言えなかった。


「なっ!」


「あのなぁ。お前の母さんが稼いだ殆どがお前の食費になるのはよくわかった。お前がいなくなれば、お前の母さんが一生懸命働かなくても良くなるってのも、多分正しいだろう。だからって一生懸命働かなくなるってのは考えが甘いぞ。収入ってのは多ければ多いほどいいからな。それに、お前が言うようにお前の母さんが子供思いなら、お前の弟により良い生活をさせようと、もっと一生懸命働くだろうしな」


「……」


「まあ、売春はやめるかもな。また子供ができてお前の弟がお前と同じことをしたら、彼女にとっちゃ堪ったもんじゃない、だろう?」


「そんな……、じゃあ僕はいったいどうすればよかったんですか」


 スリがだめなら、釣りをすればいいじゃないか。

 小銭をかき集めて食料買うより、食料を直接手に入れたほうが絶対ましだろう。

 そう言おうとした瞬間、


「確かに君の言ったとおり、13歳からの冒険者ギルドに童顔の君が年を偽って入会するのは無理です。ですが、商業ギルドなら5歳から入会可能で、お店のお手伝いなどの仕事ができたはずですよ」


 後ろから声がした。


「びっくりしたー。急に声出すなよチャドリック。っていうか、いつからいたんだよ」


「彼が今朝のスリだと判明したときからですね」


「結構最初のほうからじゃねぇか。ってか、お前、こいつが来たの気づいただろう。何で何も言わないんだよ」


「え、てっきり連れてきたのかと思っていました」


「てっきり撒いてやったと思ったのに」


 ちぇ、前世では隠密行動は得意だったんだけどな。


「商業ギルドですか」


「ええ、スリをするよりも安定した収入が得られるはずですよ」


 スリが会話を戻す。

 それにしても、商業ギルドは店のオーナーや商人が登録するものと思っていたが、タウ○ワークみたいなこともやっているのか。


「あ、でももうその必要はありませんね、えっと、ジュリアス様。もう僕の命はジュリアス様のものですから」


 スリはそう期待を込めた目で俺を見てくる。

 あー、そういえば助けるときに決め台詞を決めたような……


「そういえば、まだお前の名前聞いてなかったな」


「はい、ユータです」


「ユータか。もう知ってるかもしれないが、俺はジュリアス・ブルーフィールドだ」


 やっと名前が聞けた。いい加減スリやらガキって呼ぶのは疲れた。

 あと、俺の威厳を示すためにフルネームで自己紹介をした。


「さっき言ったのは格好付けの決め台詞に過ぎない。だから、再度言おう。

 ユータ、俺に仕えろ。お前の給料くらい俺の小遣いから楽に出せる。俺のために働き、家族に仕送りでもしな」


「はい!よろしくお願いします!」


 よしよし、ハーレム要員ナンバーワン……じゃねぇよ!

 あれ? おかしくない? 一番最初に仲間になるのって女で、将来のハーレム要員ってのがテンプレだよね。

 ユータ確実に男だよ。

 この世界ってテンプレに見せかけてテンプレじゃない状況にするの好きだよね。


「あれ、なんだか急に眠くなってきた」


 急にユータが倒れ込んできた。

 危ない危ない、また押し倒されるところだった。


「ジュリアス様のお言葉に安心して、今までの疲れが一気に出たのでしょう」


「はー、俺も疲れた。帰ろうか」


――――――――――


「ただいまー」


「ただ今戻りました」


 家についた。9時か10時頃だろうか、外はもう真っ暗だ。

 ユータはチャドリックが背負ってくれた。


「ジュリー? よかった、こんな時間までいったい何処をほっつき回っていたの?」


「チャドリック、お前がついていながら……誰だそれは?」


 母さんと父さんが勢い良く飛び出してきた。

 いやー、悪いね。心配かけちゃって。


「ユータです。レナが来なくなってから寂しかったので、下僕にしました。何処にいたかは話すと長くなるから、明日俺に聞くかチャドリックに聞いて。俺は疲れたからもう寝るよ」


 そう言って俺はとっとと階段を登り自分の部屋へと向かう。

 途中から口調が砕けたことは明日にでも謝ろう。今はもう疲れた。


「おい、待てジュリア……」


「申し訳ありません、ガレリウス様。我々はジュリアス様を過小評価していたようです」


 おや、チャドリックが俺を随分と褒めてくれているじゃないか。

 でもそんなこと言うと夜遅くまで今日一日のことを説明する羽目になるぞ。

 明日礼でも言っておこう。

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