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一話:2歳児に転生したようだ

「不愉快だ」


 俺は、今俺が置かれているこの現状に対して、怒りと不満を込めた言葉を呟いた。

 極めて不愉快である。


 なぜ俺が不機嫌なのか、今すぐに長々と愚痴ってやりたいが、まずは俺が今置かれている現状についてを説明した方がいいだろう。


 俺はついさっきまで、ごく普通の日本人であり、国家公務員の仲間達と共に、ウラジオストク付近の森にいたはずだ。

 なぜごく普通の日本人がウラジオストクにいたのかは聞かないでほしい。


 だが、俺は今、西洋風の部屋に一人で閉じ込められている。

 部屋には子供用のベッドがおいてあり、絨毯が敷かれた床には絵本や木馬のおもちゃが散らばっている。 

 そして160センチ以上あった俺の身長は、50センチほどに縮み、黒かった髪は青みがかった銀色になっていた。


 俺はすぐに何が起きたか理解できた。


 俺は転生した!


 もちろん他の可能性も考えた。ただの夢またはフルダイブVR。

 だが、夢はない。

 俺は、そばにあった絵本を持ち上げ、落とす。絵本は普通に落ちる。

 俺がこんな物理法則に忠実な夢を見るとは思えない。

 フルダイブVRもないな。

 あのニ○テンドーでさえ、そんな技術は持ってないのに、ロシアが持っているとは思えない。

 それに、前世で最後に覚えているのは激痛だ。


 つまり、俺は覚醒型の転生をしたというわけだ。


 ではなぜ俺が不機嫌なのかを説明しよう。


 異世界転生物の定番といえば、「死んだ」と思って、気づけば美人女性の腕の中、「えっ、なんでこうも簡単に持ち上げられてるの!?」とビックリ、自分の手を見て「なんじゃこら〜!!」と叫ぶ。

 その後、顔が、きれいな女性のきれいな胸に近づけられるなか、主人公は転生したのだと知る。

 ってのがテンプレだろう!


 だが、俺はどうだ?

 確かに、前世の記憶が蘇って、これまでの今世の記憶が消えたわけではないが、

 手を見てビックリ? きれいでもっちりした胸にしゃぶりついて飲乳?

 そんなことまで覚えてねーよ!

 生後直後に自我を持てるわけねーだろ。

 必需スキル:肺呼吸を取得直後に「美人に持ち上げられてる」、「美人の胸にありつける」なんて冷静な分析できるわけねーだろ。

 吸って吐いて、栄養ドリンク飲むことに必死なんだよ。


 そして、気づけば、もうすぐ3歳。

 呪うぞ、本能め!


 さらに、覚醒前の俺の記憶が正しければ、この世界には魔法がある。

 2歳という年は、テンプレならもう魔法が使えていい年だぞ。

 本能に支配されて無駄にした時間が将来のハーレムライフにどう響くかわかったもんじゃない。


 まあ、悪いことだけではない。

 これまでの俺は本当にただの赤ん坊だったゆえ、気味悪がられることはなかった。

 この世界の言葉もナチュラルに覚えられた。

 第二言語を覚える苦労はゴメンだったし、変なアクセントが残っても困る。

 これまで、俺がどのような口調で話、どのような行動を取っていたかなどもわかる。

 これは非常に重要だ。

 これまで普通だったのに、急に言動が豹変して、悪霊に取り憑かれたと思われても嫌だからな。


ーーーーーーーーーー


 さて、現状は把握できたので覚醒以前の記憶を整理するとしよう。


 現世の俺はジュリアス・ブルーフィールドという。

 現在2歳。

 前世の俺と同じく、読書が好みのようだ。あと、閉じ込められるのが嫌いで、しょっちゅうベビーベッドから抜け出していた。


 そう、俺は閉じ込められるのが嫌いなのだ。というわけで、部屋から出るとしよう。

 閉じ込められていると言っても、鍵を駆けられているわけではなく、ただドアノブに手が届かないだけなのだが。


 ジャンプしてドアノブを回す。ドアノブに掴まったまま、壁を蹴ってドアを開ける。


 名探偵のあの子の気持ちがわかった気がする。


 部屋から出られたので、屋敷の中を探検することにする。覚醒前の俺にとってはもう数十回も探検したが、転生した俺にとっては初めてだ。中々わくわくする。


 まずは、俺の部屋から廊下を挟んで反対側にある部屋。俺の姉、クルティア・ブルーフィールドの部屋だ。

 部屋の中に姉さんの気配はない。この時間帯だから、多分、お嬢様学校にいるのだろう。


 次はガスト兄さんの部屋へ向かう。

 ちなみにガストはニックネームで、他にもオーガストとも呼ばれている。本名はアウグスタス・ブルーフィールド。

 ブルーフィールド家の長男で、俺との年の差は5歳ほどだ。

 部屋の前につくと、人がいる気配を感じたので、中へ入ってみる。


「やあジュリー。ゴメンな、いま兄さん勉強で忙しいから遊んであげられないや」


 兄さんは机の上で突っ伏しながら読んでいた本から顔を上げ、俺に謝る。


「だいじょうぶ、たんけんしてるから」


「また? メイドさんたちがヒステリックにならないように晩ごはんの時までに戻ってくるんだよ」


 覚醒前の俺が一度、深夜遅くまで探検をして家中がパニックになったのを思い出し、ほくそ笑む。


 部屋にいるのは兄だけではなく、兄の家庭教師、ミリアンヌ先生もいる。

 さっさと探検に戻りたいが、さすがに無視はよくない。将来、俺の家庭教師にもなるかもしれないしな。


「ミリーせんせい、今日は何をおしえてるの?」


「掛け算ですよ、ジュリアス様」


「12掛ける14……うう、紙さえあれば」


 ミリー先生に今日の授業内容を聞くと、よくぞ聞いてくれましたとばかりに、満面の笑みで答えてくれた。

 その横で、兄さんが唸る。


 12掛ける14か。まずは、12掛ける10と12掛ける4に分ける。10を掛けると位が一つ上がるから120、12掛ける4は考える必要もない、48だ。前世の一日が12の倍数だったせいだろうか、12段の掛け算は得意だ。最後に、120と48を足して、168。


「168だよ」


 言った瞬間、過ちに気づいた。それと同時に、二人の視線が俺にロックオンした。

 やべえ、2歳児が2桁の掛け算の暗算なんかできるわけないよな。つい、俺の自慢癖が出てしまった。


「はは、じゃあ僕はたんけんに戻るね」


 視線が気まずいので、さっさと部屋を出る。


 俺のや兄さんの部屋に似た寝室は他にもあるが、ほとんどが使われていないか、ゲストルームになっている。

 廊下の奥には他の部屋より一回り大きな寝室、マスターベッドルームがあり、父さんと母さんが使っている。

 姉さんはその部屋にはお化けがいると気味悪がって近づこうとはしない。何やら夜になると、そこからギシギシといった音が聞こえてくるらしい。


 屋敷は西洋風らしく左右対称で、普通の部屋より一回り大きい部屋はマスターベッドルームの反対側にも存在する。そっちの部屋は図書室になっており、小説から専門書、さらには魔導書まで置かれている。

 覚醒前の俺は魔導書なんかには目もくれなかったが、魔法のない世界から転生してきた俺にとっては一早く目を通したい代物だ。


 だがその前に、父さんの仕事場である書斎へと向かう。


 父さんはガレリウス・ブルーフィールド侯爵という。

 つまり、俺は貴族ということだ。テンプレだな。


 書斎のドアを開けると、風を切る音が聞こえた。


「ん? なんだ、ジュリアスか。危ないから離れていなさい」


 父さんは俺が書斎へ入ってくるのを見ると、持っていた剣をおろして注意する。


 父さんは元騎士団員で、引退しても剣の腕を磨くことは止めず、 貴族としての仕事がないときは、よくこうして剣をふりまわしている。

 そう、ここ……書斎で。


 まるでベランダでゴルフクラブぶ振り回すサラリーマンの親父だな。


 書斎には長居せず、図書室へと向かう。

 

 大きめの部屋が図書室として使われているが、本の数は少ない。

 その代わりに、本自体がでかい。

 本に使われている紙は木質紙ではなく羊皮紙で、文字はすべて手書きだ。

 そのため、一ページは大きく、分厚い。それが何枚も重なり合うため、本が大きくなってしまう。


 まるでヨーロッパのカトリック教会に置いてある聖書みたいだ。


 そう思いながら本を一つ持ち上げようとしていると、腕の下を掴まれ持ち上げられる。

 そして、そのまま図書室の中央にある机へと連れていかれる。


「ジュリー。また探検しているの?」


 この家で俺をジュリーと呼ぶのは一人しかいない、母さんだ。


 名はクラウディア・ブルーフィールド。

 母さんは、魔法研究者という職業柄、一日のほとんどを図書室で魔導書を読んだり論文を書いたりしながら過ごしている。


 そういえば、俺が魔法の存在を知ったのは、母さんが剣の素振りで事故った親父に回復魔法をかけた時だったな。

 ……ふむ、剣士と魔術師のカップルか。これまたテンプレだな。

 あれか、ナイチンゲール症候群というやつか。


「うん! でも、魔法のほうがおもしろそう。おしえて!」


 以前深夜まで探検したときに一番ヒステリックになったのが母さんだと記憶している。

 なので、探検してほしくなかったら魔法教えてと、子供っぽく、脅す。


「ごめんね、ジュリー。でも、3歳になるまでは魔法は教えられないわ」


「なんで?」


「3歳にならないと使える属性がわからないの」


 脅しが通用しなかった。だが、教えないのではなく、教えられないのであれば仕方ない。

 ふむ、使える魔法に制限があるのはいいとして、何故3歳なのだろう?

 もっと情報が必要だ。ちょうどいい、俺には子供っぽく情報を聞き出す方法を知っている。


「なんで?」


「3歳になったらね、神殿に行って、どの属性が使えるか見てもらえるのよ」


「へー」


「ほら、ジュリー、お母さん忙しいから遊んできなさい。でも、ディナーには戻ってくるのよ」


「はーい」


 神殿とは何か、3歳になる前に神殿に行くことはできないのか、母さんが使える属性はなにか、等々聞きたいことはまだまだあったが、図書室を追い出されてしまった。

 仕方ない、忙しいなら邪魔するのは悪い。


 図書室を出ると、父さんがこっちに向ってくるのが見えた。


「ジュリアス、また探検しているようだから言っておくが、外に出ちゃだめだぞ。あと、夕飯には戻ってこい。わかったな」


 どうやら探検をしている俺に注意をしに追っかけてきたようだ。


「えー」


 いや、外出禁止に文句があるわけではない。

 中世レベルだと思われる西洋世界が日本ほど治安が良いとは思えない。それに、日本でも金持ちの2歳の子供が一人で外ふらついてたら誘拐されてもおかしくない。

 確かに外も探検してみたいがハイリスク・ローリターンすぎる。


「まあ、あと一週間すれば神殿に行くことになるからな、外ならその時に見れる」


 そう言い残すと、父さんは書斎へと戻っていった。


 そうか、あと一週間か。ならば大人しく待つとしよう。

 だが困った。

 異世界転生物のテンプレならば、転生した主人公が自由に動き回れるようになって即取り掛かるのが魔法の訓練なのだが、一週間もそれができないとなると……

 さて、どうしたものか。

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