第八話
あれからしばらく、特にトレントや他の魔物が出てくることもなく、順調に森を進み、遂に滝壺に到着することができた。
ベグ剛とベグ郎は、滝壺がある広場の入り口を見つけたとたん、待ちきれないのか滝壺めがけて掛けていってしまったが、二人の戦闘力から考えても、放っておいても問題ないだろう。
おれは、ゆっくりとした足取りで滝壺がある広場に足を踏み入れた。
そして、そこには綺麗な滝壺が―――――――――
【べ、ベアー・・・・】
【こ、こりゃいっだい・・・・】
「・・・・なんだこれは」
俺たちは、目の前に広がっている光景に立ち尽くしてしまった。
それは、賢者様から聞かされていた滝壺があるにはある。
だが、驚いたのはその大きさである。
滝壺は、まるで巨大なすり鉢のような形をしており、手前の湖のそこも真っ暗で何も見えない。
滝の規模も半端じゃなく、横幅が40メートルはあるように見える。
滝の長さも凄まじく、ここからでも滝口が全く見えないほど高かった。
あまりの光景に、俺たちはしばらく固まったまま動けずにいたが、いち早く我に帰ったのはベグ朗だった。
【こ、こりゃ~立派な滝だべぇ
それに、これだけの滝なら、滝の裏に洞でもありそうな雰囲気だんな?】
「ん?・・・あ、ああ、そうだな
少々危険だが、調べてみるか?」
【お、おいどん。危険なやからが来ないかここで見張ってるでゴワス!!
あ、安心して探してくるでゴワスよ!!!】
【・・・・相変わらずだんなぁ、ベグ剛
別に、滅多なことねぇと溺れたりしねど?】
【わ、わかってるでゴワス!
い、いいから行ってくるでゴワス!!!】
ベグ剛が一声吠えて探索を拒否したことに、ベグ朗はため息をつきつつ、俺と一緒に滝壺の方へ前進を開始した。
念のため、ベグ剛には連絡を出来るように、賢者様特製の“水人形”を渡しておいた。
これは、水人形同士で会話が可能になるものらしく、使い方は、人形と会話をするように人形に話しかければ、そのまま会話が可能になるそうだ
まだ試したことがないため、本当に会話できるか不安だが、ないよりはましだろうと渡しておいた。
そんなこんなで、俺とベグ朗の二人で滝のすぐ近くの泉の縁まで来たのだが、ここまで来てようやく気がつくことができた。
「・・・滝の裏、あるか?」
【・・・なさそうだんなぁ】
滝の裏には、ごつごつとした岩壁があるだけで、滝と壁の間に隙間すらなかった。
そもそも、滝付近まで通じる足場がなく、今ももっとも近い湖の縁から滝の横を覗き込んでいるだけなのである。
【こりゃ、どしても住むなら、ここらに棲み家作ってみねとダメだなぁ】
「・・・いいのか?一応、他の場所もあるにはあるんだが?」
【うんや、ずいぶん広ぇとこだし、湖にも魚さぎょうさんいるべ。
オラ、魚好きだから、ちょっくら水んなか見たらここでええ。
・・・まあ、いなぐても、木の実食えばええかんな?】
「そうか・・・・じゃあ、これから湖の中を調べてみ―――――」
【いいべいいべ、オラが直接みてくるだ】
そういうと、ベガ朗はノシノシと湖に近付くと、そのままピョンッと水の中へ飛び込んでしまった。
結構な水しぶきをあげて入っていったので、俺はあわてて湖に近付いたが、湖面にベグ朗の背中が出ていたので、一先ず安心した。
ベグ朗は、何度か水中に潜っては鼻先を出し、また潜っては出しをしばらく繰り返し、プカプカと湖の中心の方へ進んでいった。
おれは、見失わないように注意しながらベグ朗の背中を追っていたのだが、不意に、ベグ朗の背中が完全に水中に潜った時、妙なことに気がついた。
心なしか、湖事態が明るくなったような・・・・
「・・・そういえば、この湖。
最初から “湖底が白かった” っけか?」
俺がそう呟いた途端、突然湖面に大量の水泡がブクブクと湧き始めた。
しかも、先ほどベグ朗が潜ったと思われる地点から、だ!!
「べ、ベグ朗ッ!!!」
おれは、あわてて湖に飛び込もうと駆け出したが、それよりも早く、異変が起きた。
なんと、水泡の湧く範囲がとてつもない早さで広がり、仕舞いには10メートルほどの範囲まで拡大した。
そして、しばらくすると、湖面が徐々に盛り上がっていき、警戒を強めたその瞬間――――――――――
【ベーーーーーーーーアーーーーーーーッッ!!!!】
「なっ?!」
猛々しい声と共に、湖からベグ朗が飛び出してきたのだった。
おれは、思わず声をあげて驚いてしまったが、それよりも驚くべき事態が起こっていた。
飛び出したベグ朗を追うかのように、巨大な蛇のような生き物が、湖面から飛び出していたのだ。
しかも、でできた白いそれは、その巨大な口をいっぱいに広げ、ベグ朗に向かっていっているのだ。
おれは、すぐに腰回りから短剣を抜き、素早くそれを投てきした。
だが、俺の短剣は真っ白な鱗に弾かれ、傷つけるどころか軌道をずらすことすら出来なかった。
悪態をつきつつ、俺はなんとかベグ朗を助けるために考えを巡らせたのだが、それよりも早くドスドスという奇妙な音が近付いてきていることに気がついた。
(この音は・・・・・まさかっ?!)
おれは、音のしている方をみようと思ったら、凄まじい速度でそれは通りすぎていった。
そして、それが何なのか理解したのとほぼ同時に――――――――
【失せろでゴワスッッ!!!】
その声と共に、腹のそこに響くような咆哮をあげて、ベグ剛が白い蛇めがけて飛んでいき、その長い体めがけて体当たりをかましたのである。
白蛇は、さすがにダメージがあったのか、苦しそうにシャーッと声をあげ、そのままくの字になって湖面を滑っていき、しばらくして巨大な水柱を作りながら湖面に叩きつけられていた。
ベグ剛は、体当たりした反動で空中クルクルと回転し、そのまま
俺の近くにドシンッと重圧な音を響かせて着地した
それとほぼ同時に、ベグ朗が湖の縁に落下してきて、苦しそうに呻いた。
【べ、ベアァ~…………ひ、ビドい目にあっただぁ…………】
【ベグ朗ッッ!!】
ベグ剛が名を叫んだ瞬間、背後の湖面がザバーンッと大きな音をたてて弾け、ベグ朗を湖付近から一気にこちらへと吹き飛ばした。
先ほど同様、何かが襲ってくると考え、慌てて構えたのだが、湖面から出てきていたのは、大きなアザを体につくり、涙目でこちらを睨み付けている先程のは白い大蛇だった。
【い、いったいなんなのよあなたたち!!!
いきなり吹っ飛ばすなんて、どういう思考回路をしていたらそういう行動に出られるのよ!!!】
聞こえてきたのは、シャーッという鳴き声と透き通るような女性の声であった。
もうはや慣れてしまい始めたのだが、おそらくこの白い大蛇が声の主だろう。
俺はそう直感して、警戒はまだ解かず、ベグ朗とべぐ剛の様子を横目で確認した。
二人は、まだ吹っ飛ばされた余韻でバタバタしているようなので、援護は難しいだろう。
俺一人では、おそらくこの大蛇に勝つことは難しいだろう
くわえて、向こうは大変ご立腹の様子である。
いつ襲いかかられてもおかしくはない。
ここは、何かあった場合、全滅もあり得る状況である
そうならないためには、とりあえず二人が復帰するまでの時間稼ぎが必要だ。
そこまで考えると、再び白い大蛇がシャーッと威嚇音をならしながら喋り始めた。
【あなた!!!どうしていきなり体当たりなんて仕掛けてきたのよ?!
あやくう気を失うところだったわ!!
それに、そこのあなた!!!
いきなり湖に飛び込むなんて、なんて危ないことをしてるのよ!!!
溺れてるか心配になって出てきちゃったじゃない!!!
しかも、私の姿を見るなり逃げるってどうなのかしら!!!】
白い大蛇は、それぞれベグ剛とベグ朗をの方を向きながら、シャーッシャーッと激しく音をならしながら大きな口を何度も開け閉めしていた。
そのようすに、なんだが緊張感を削がれてしまった
白い大蛇は、一頻り二人に対して文句を言うと、落ちついたのか今度は俺の方を見た
そして、ズイッと顔を近付けてきて、眼を何度もパチクリさせた。
【・・・あなた、もしかして賢者様が仰っていた “森の守り手” の “ケリス”さんかしら?】
白い大蛇の言葉に、俺は若干驚いたが、すぐに肯定すると、嬉しそうに何度がうなずいた。
【そう、そうなのね!!!
ああ、賢者様にも、やっとパートナーが見つかったのね!!!
よかった、よかったわ!!
お祝いよ!!!
やっぱり、人間のお祝いと言ったら宴かしら?
お酒は飲めるわよね?
お肉もその辺りでとれるし、山菜だってとれる、あと、魚介類もこの湖にたくさんいるわ!!
あーどうしましょう!!私、久方ぶりに忙しいかもしれないわ!!!】
怒涛のように喋りだした白い大蛇は、世話しなく顔を動かして、何度もこちらを確認するような素振りを見せた。
そのようすに、俺含め三人は、事態がコロコロ変わりすぎて唖然としてしまった。
だが、いち早く正気にもどった俺は、慌てて大蛇に待ったをかけた。
「ままま、待ってくれ!!
・・・・・あ、あなたはいったい??」
俺がそういうと、白い大蛇はようやくしゃべるのをやめ、こちらをまると、ゴホンッと咳払いをした。
そして、先ほどとはうってかわって、落ち着き払った雰囲気で喋りだした。
【失礼、取り乱してしまいました。
改めて、自己紹介をさせていただきます
私、この “賢者の滝” を “守護・管理” している
“白大蛇龍”の“ラファシャ・ロエンシナ” と申しますの。
賢者様からは、“シーナ” を呼ばれておりますの。
―――――――以後、お見知りおきを】
丁寧にそういうと、頭をゆったりと下げ、こちらにお辞儀してきた。
その様子に、ベグ剛とベグ朗は驚いたのか少し警戒しながらお辞儀を返していた。
俺も、お辞儀をすると、シーナはチロチロと舌を出しながら、眼を細めた。
【意外とそちらの二匹は、礼儀をご存じでしたのね?
出会い頭に “逃走” と “攻撃” をそれぞれしてきたのに、少しだけ安心しましたわ】
【【ぐぅっ・・・・・・すまないでゴワス】だぁ】
シーナに皮肉を言われ、しょんぼりとうなだれながら謝罪をした二人に、彼女は首をコクリと振るだけでこの件に関しては水に流してくれるようだ。
俺は、苦笑いを浮かべながら彼女らのやりとりとみていたが、シーナがこちらを見ている事に気がつき、首をかしげてみせると、彼女はズイッと顔を近づけてきた。
【そういうえば、わざわざこんな所へ来られて、一体どういった用向きですの???】
シーナは、チラチラとベグ剛達を見ながらひそひそ話すようにそう聞いてきた。
俺は、今回の目的であるベグ朗の住処探しに来た旨を伝えると、彼女は目に見えて嫌そうな雰囲気で舌をチロチロと出しながら口をへの字に曲げた。
【べ、ベグ朗というのは・・・・・・・どちらのベグアですの?
ま、まさか・・・私に体当たりしてきた方かしら・・・・】
「いや、湖に入って君から逃げ出した方がベグ朗だ。」
俺がそう伝えると、シーナは目に見えてホッとした様子で息を吐き出した。
そして、俺から顔をはなし、再び首をもたげて周囲を睥睨するように見回し始めた。
何をしているのか聞こうとしたそのとき、彼女は丁度首を下ろし、俺たち全員に向かって話し始めた。
【事情は分かりましたわ。結論からいってしまいますと、“湖の周辺に住むこと自体は可能” ですの。
ただ、見ての通りこのあたりには手頃な穴や小屋なんてありませんの。
住むとしたら、どのようにしようとお考えなのかしら?】
そういって、ズイッとベグ朗の方へ顔を近づけたシーナに、若干及び腰になりながらもベグ朗は周囲の木々を使って小屋を建てると答えると、シーナは納得したようにコクリと頷き、首を引っ込めて再び話し始めた。
【それでしたら、私にも手伝えそうですの。
それに、隣人が出来るのは喜ばしい事ですの。
よろしくおねがいしますね、ベグ朗さん】
そこまで言うと、シーナはニヤリと笑みを浮かべた。
だが、その顔は完璧に捕食者のような顔をしており、隣で見ていた俺やベグ剛ですらヒヤリとした身の危険を感じた。
大丈夫かベグ朗の様子を見てみると、彼は口を半分だけ開き、白目をむいて立ったまま気絶していた。
・・・・・・・どうやら、ご近所付き合いに関しては、前途多難の様だ
=============
「―――――――な、なるほど・・・・・・・シーナも元気そうで何よりです。
それに、彼らの棲みかは無事に決まったと考えていいんですね?」
しばらくして泉に戻ってきた俺は、ある程度の事情を説明し終え、賢者様からそのように聞かれたので、俺は頷くことで返事とした。
すると、彼女もとりあえず安心したのかホッと息を吐き出していた。
そして、再び俺の方を見ると静かに微笑んだ。
「ケリスさん、ありがとうございます。
お陰で無事に “魔毒騒ぎ” を解決することができました。
――――それと、久しぶりにシーナの安否も確認することができて、なんとお礼を言っていいか。」
その言葉に、俺は自然と表情が緩んでしまう。
正直、彼女から笑顔でお礼を言われてしまうと、何処かむず痒い気分になってしまう。
それに、俺がチラリと視線を向ければ、返事をするように笑顔を浮かべて首をかしげるのだ。
・・・ああ、可憐だ。
このまま、しばらく眺めていたくなってしまう。
【さすがケリス殿でござる!!!
またも、この森の大事件を見事に解決してしまったでござるよ!!!】
【全くなのじゃ!!
もはや、ケリス殿がおれば、この森も安泰なのじゃ!!!】
賢者様のことをぼんやりと見ていると、いつの間にか帰ってきたハクとシロが鼻息荒く俺の後で騒いでいた。
・・・いつの間に背後を取られてしまったのだろうか?
気配は常に探っていたはずだが、無意識に緩んでしまっていたのか?
振り返りながら、自分が気を抜いていたことを少し反省しつつ、背後にいる二匹を尻目に、俺は再び賢者様に向き直った。
「賢者様、実は、少々お訪ねしたいことがあります。
よろしいですか?」
俺が改めてそういうと、賢者様は少し不思議そうな顔でおれを見てからこくりとうなずいた。
それを確認した俺は、今回棲みか探しをしていたときに感じた違和感を何となくではあるが伝えることにした。
それは・・・
―――――滝壺へ向かう途中で遭遇した “擬態樹トレント”だ
実は、ベグ朗たちの棲みかの目星をつけていた際、賢者様から“トレント”について聞いていたことがあったのだ。
それは、主な生息地や数、対処法などの情報だ。
俺は、それを確かに記憶していたのだ。
たびたび使っているが、俺は
“一度覚えたことを、データベースとして整理しておく”
という、少々特殊な能力を有している。
これは、別にレンジャーだからとかではなく、俺個人の能力である。
ゆえに、俺はこの形であれば多少の動揺などの要因が絡まなければ、ほぼ確実に忘れたりしないし、間違えたりもしない。
だが、今回は妙なことが起こったのだ。
それは、事前に聞いていた生息地や数が “全く違っていた” のだ
俺もアホウではないので、わざわざ“トレント”なんて厄介な相手がいる場所を通り抜けようなんて考えない。
極力安全なルートを選定して滝壺を目指していたのだ。
だが、俺たちは見事に“トレント”たちの棲みかに入ってしまったのだ。
しかも、遭遇した彼らの数が圧倒的に“少ない”のである。
彼らの生態的に、個体ごとで動くことはほぼない。
そのほとんどが群れをつくり、最低でも十五体は固まって移動ないし攻撃を仕掛けてくるはずなのだ。
だが、今回は両手で足りる程度の個体しか固まっておらず、挙げ句少数の群れがいくつも点在しているような様子だった。
これは、群れのリーダーが居なくなった際にごく稀に起こる現象に近いが、今回のように短い距離でいくつもの群れが点在しているのは些か不自然であった。
それに、トレント達の配置が、明らかにこちらの行動を阻むような形になっていたりしていたのだ
それこそ、彼ら単体でそのような行動を取ることは極めて珍しい。
それらの情報により、俺はあるひとつの仮説を立てた。
それは
――――――この森に、魔物を操っているものがいる・・・と。
「・・・まさか、そんなはずは。
私の結界には、何も入ってきたような反応はありませんでしたし、そもそも、ここまで森に隠れることができるのはどう考えてもおかしいです。
監視も定期的に行ってますし、不振なもの立ちはすぐにハクとシロに追い出すか捕捉してもらっています。」
【そうでござるよ!!
拙者達は、怪しい者がいればすぐさま引っ捕らえているでござるよ!!】
【ハクの言うとおりなのじゃ!!!
万に一つも、わっちらは手を抜いて見回りはしていないのじゃ!!!】
俺の予測に、賢者様達は反論した。
だが、俺はだからこそこの話の危険性を三人に伝えた。
なぜなら、これは
“もし、敵がいた場合、我々に見つけることはできない”
と、暗に言っていることに他ならないからである。
俺の指摘に、三人はほぼ同時に息をのんだ。
そして、目に見えてハクとシロが興奮した様子でフゴフゴと鳴き始めた。
【い、今すぐ見つけ出して来るでござる!!!
草の根一本まで血眼で探すでござるよ!!!】
【ま、不味いのじゃ!!!
このままでは、わっちらはまだ見ぬ敵にやられてしまうのじゃぁー!!!!】
鼻息荒く、二人はバタバタと泉から森に出ていこうと駆け出したが、それを賢者様の水でできた巨大な手によって押さえられてしまった。
「落ち着きなさい。あくまでもケリスさんの予測です。
極めて信憑性が高いかもしれませんが、今の情報だけではまだ確証は得られません
あなた達には、しかるべき時に力を発揮してもらわないといけません。」
そういって、二人を解放すると、少しは落ち着いたのかこちらに戻ってきて、おれの方にズイッと顔を寄せてきた。
【ケリス殿!拙者達に出きることはなんでござろう?!】
【わっちらはどんなことでもやりとげて見せるのじゃ!!】
相変わらずの圧力に、俺は両手で二人の鼻頭を押し退けながら告げた。
「とにかく、今は敵に関する情報や、そもそも存在自体しているのか、その真偽を確かめる必要があるだろうな?」
そして、俺は賢者様の方へ顔だけを向け、質問した。
「――――――賢者様、この森にいる彼らのような魔物達の居場所、教えていただいてもいいですか?」
============
俺はハクとシロを引き連れ、森の中を突き進んでいた。
なぜなら、俺たちは今 “情報収集” を実施しようとしているからだ。
何でも、賢者様に確認すると、この森には会話が可能な魔物が何匹か居るようで
“シーナ” を含む、三匹の魔物が主にそれぞれの魔物達から情報を集められるようなのだ。
ちなみに、シーナには、既に会いに行って知っていることを教えて貰っていた。
彼女は、主に水棲の魔物達から情報を集めているようで、水源や川なんかの付近で起こっている事柄は大体把握しているそうなのだ。
そんな彼女からは、それらしい情報は得られなかったのだが、代わりに他の二匹の魔物に関しての情報を貰うことが出来た。
【私も最近会えていないので、正確なことは申し上げられませんのだけれど―――――
もし、この後会いに行くのなら、ここから近い “深緑の知恵者” と呼ばれている彼のもとへ向かうのがよろしいと思いますの】
「・・・・深緑の知恵者?」
【ええ、彼なら、ここから数キロ離れた所にある “寝床の大樹” にいるはずですわ
・・・・・むしろ、彼があそこからどこかへ移動して居る姿を私は見たことありませんの】
シーナは、深いため息をはき出しながらそう言うと、その深緑の知恵者の居る大まかな方向と距離を教えてくれると、忙しいから失礼しますと言い残し、早々に湖に引っ込んでしまった。
そして、俺たちはその話を信じて、いま森の中を駆け抜けている訳なのだ
移動間、トレントや他の魔物達が襲ってきたりもしたが、ハクとシロのサポートもあり、止まることなく目的地に到着することが出来た。
「・・・・・ここが、そうか?」
【そうでござる。この立派な大樹こそ、“寝床の大樹” でござる。】
【うぬ、相変わらずバカでかいのじゃ!!】
少し開けた所に足を踏み入れてみると、そこには、見事な巨木が青々と葉を茂らせ、その堂々とした佇まいを訪れた俺たちに見せつけていた。
枝の一本一本がそのあたりに生えている木々ほどあり、茂っている葉っぱも格段に大きい。
子供であれば、すっぽり頭からつま先まで覆い隠せてしまうほどだ。
それに、それらを支える木の幹
相当太く立派であり、まるで巨大な塔の一部のようにも見える。
一体、樹齢何年なんだこれは?
こんな巨木・・・・・初めて見たぞ??
あまりの大きさに、俺は惚けてしまったが、不意に巨木の影からノソノソと一匹のゴーレム姿を現した。
それは、えらくゆっくりとした動きでこちらに近づいてきた。
巨大な岩のような印象を受けるが、ノソノソと動かす四本の足がそれが生物であると示しており、よく見るとその岩のような身体の上方にポツンと小さな球体のような顔があった。
しばらくすると、小さな球体に二つの光がボンヤリとともり、やがてその舌に一筋の線が引かれ、それがこれまたゆっくりと開いた。
【ふわぁぁ~~~~~ぁっ・・・・・・・おはよう~ぅ。
僕に、いったい何の用事なんだいぃ?】
大きなあくびをしながらそう告げてきたのが、この “寝床の大樹” を住処にする魔物
魔物の種族は、“森の魔法使い”
“深緑の知恵者 モウロ”
・・・・・・・・・んんっ??
どっからどう見ても・・・・・・・ゴーレムなんだが????