第七話
※誤字、脱字、誤変換等々あるかもしれませんが、ご了承ください。
それと、方言のようなものが出てきますが、実際の方言とは全く異なり、関係もありません、ご了承ください
大熊
ランク:D~A+
主に、温暖な気候の地域に住み
生き物の屍肉や木の実、木の皮などを主要な食べ物として生きる魔物である。
個体差は大きいが、特に他の生き物の死骸や、滅多にないが動物を食べることを好んでいる。
比較的に好戦的な性格の個体が多いが、まれに、温厚な性格の個体も存在する
だが、その本質は変わらず、一度暴れ出せばその巨体と圧倒的な力を発揮する。
身体は筋肉の鎧に包まれ、腕を一振りすれば、自らの身体よりも太い木々すらなぎ倒す。
故に、ここまで大きなランク差があるのだ。
早期決着に成功すれば、そこまで危険な個体ではないため、ランク “D”
だが、一度暴れさせ、それを倒すとなれば ランクは “A+” に跳ね上がる
彼らを決して怒らせてはいけない
彼らを決して暴れさせてはならない
ただひたすらに、ベグアを見かけたならば息を殺し、その場を立ち去るのを待つか自らその場を離れるのだ。
さもなければ、その身を粉々に粉砕されてしまうのだから
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「―――――と、南部出身の冒険者から聞いたことはあったが・・・・まさかこれほどとはな」
俺は、周囲に視線を巡らせながらそう言った。
俺の周囲というのは、先ほどまで敵のベグアが暴れ回っていた場所である。
周囲にある木々が、乱雑にへし折られ、そこかしこに無残な切り株が何十もあったのだ。
もはや、ただの森の一部が、広げられ、広場とかしていた。
広場のワキには、へし折られた数本の樹木が横積みに置かれており、そのすべてが俺の胴よりも太いものばかりだった。
人の胴よりも太い木々を、これほどバキバキにへし折れるのだ。
もし人間がこの攻撃をくらえば、ひとたまりも無いだろう
(まあ、同程度の攻撃を、こいつは無防備な身体に受けたって事だけどな?)
俺は、そう思いながら未だに倒れ伏しているベグアを見た。
死んでこそ居ないが、眼を回しながら口をだらしなく半開きにして気を失っている。
おそらく、しばらくは起きたりしないだろう。
一方、攻撃を加えたベグアの方だが――――――
【べぐあどのぉ~~~~~~!!!!!よぐぞ、よぐぞぶじでいでぐれだでござるぅ~~~~~~~!!】
【べあぁ~~・・・・・頭が痛いでごわす~、ハクどんも泣き止むでごわすよぉ~】
涙を流しながら鼻先で、グイグイと身体を押し続けるハク
それを、自らの頭をさすりながら、少し困った様子で受け入れているベグア
二匹のそんな姿に、少し笑みがこぼれそうになったが、すぐに表情を引き締め、足下に居るベグアに再び視線を落とした。
・・・・さて、こいつをどうするか
まだ起きないだろうが、いずれは目を覚ましてまた暴れ出すだろう。
拘束しても良いが・・・・・おそらくこれ程の力があれば、あまり意味をなさないだろうなぁ
ベグアは好戦的な個体が多い
説得も難しいだろうし・・・・・どうするか
「なるほど、こちらのベグアが、ケリスさんのおっしゃっていたベグアでしたか」
「はい、ですがこいつはとても獰猛で、どう処置をすればいいか・・・・・・なんでここに居るんですかね?」
自然と返事をしてしまったが、いつの間にか賢者様が俺の隣に立っていた。
いや、本当にいつの間に現れたんだこの人?
【賢者様!!!ケリス殿のお手柄でござるよ~。見事な作戦がちでござる~!!!!】
【賢者様!!!あの獰猛なベグアを見事成敗したのじゃ~、まっこと頭のきれる方なのじゃ~!!!】
賢者様の姿を見つけるやいなや、駆けつけてきた二匹は、興奮した様子で口々にそう言うと、フゴフゴと詰め寄ってきた。
少し困った顔で二匹を押しのけつつ、賢者様はゆっくりとした足取りで未だ頭を押さえてうなっているベグアの元まで近寄った。
「今回は、お力添えありがとうございます。
私は、この森に居を構える賢者です。」
【べあぁ~・・・・・・んん??、賢者どんでごわすか~??
初めましてでごわす~。おいどん、迷い込んだベグアでごわす~
暴れてたやつと同じ種族故、怖いと思うでごわすが、危害を加える気はないでごわすよ~?】
自らをそう名乗ったベグアは、あいている方の手をおもむろに頭上にあげ、そのままドスンッと身体を横に倒した。
そして、丁度顔が賢者様の方に向くように身体を回し、うつぶせになった。
・・・・・一連の動きからして、敵意なしの意味合いが込められている動作だろうか?
すると、賢者様もそう受け取ったのか、小さく両手を挙げた。
「私も、今は貴方に危害を加えないと約束しましょう。
それで、こちらから一つお聞きしたいのですが・・・・・・貴方とこちらのベグアは、どうやってこの森の中へ??」
そう言って、賢者様は後ろを振り返り、伸びているベグア手で指し、説明を求めた。
すると、ベグアは少しこまった様子で頭を掻くと、答えた。
【べあ~・・・・ベグアはお互いの話し方で個体を識別してるでごわす~。
話してみないと分からないでごわすよ~・・・・。
それと、ここへどうやって来たかでごわすが・・・・おいどんにも分からないでごわすよ~
気がついてみれば、ここに居て・・・・・樹が降ってきたと思ったらここでひどい頭痛に襲われてたでごわす~
べあ~・・・まだ痛いでごわす~・・・・】
そういって、頭をさすったベグアは、情けない顔でグデンッとのびをした。
その様子に、賢者様は少しだけ困った顔をして、俺の方を見た。
俺は、何を言いたいか察して、素早く首を横に振った。
「嘘は言ってないですよ。
でも、こいつの住処から考えて、常識的に考えられないような現象が起こったとしか言えないですね」
「・・・・そうですね。最南端から、最北端であるここまで、ですからね」
どうやら、賢者様はベグアの基本的な情報を知っているようだ。
そして、本人にも分からないうえに、賢者様でもわからないとなれば、この場に居る誰にも分からないだろう。
【賢者様、ケリス殿・・・・・まさか、ベグア殿に何か問題があるのでござるか?】
【ハクよ、話を聞く限り、ベグア殿はここより遙か南方から来られたのじゃ。
しかも、おそらく本人の意思を無視してなのじゃ・・・・・・】
【な、なんと!!!・・・・・帰れないのでござるか?】
【・・・・お二人の様子を見る限りでは・・・・おそらく】
【な、なんと・・・・・】
ハクとシロも、どうやら状況を飲み込めたようで、心配そうな顔でベグアを見ていた。
一方ベグアは、全員がこちらを見ていることに気がつき、暢気な顔でキョトンとしていた。
【ベア??、どうしたでごわすか~??
おいどん、敵意はないでごわすよ~??】
「・・・・・・賢者様、何とかなりませんか?」
「この森の外に出すくらいしか、私には出来ません
その後の事までとなると・・・・・」
「・・・・そうですか」
俺と賢者様は、お互いに顔を伏せてしまった。
そんな様子に、ベグアは少しおどおどした様子で近づいてきた。
【お二方、そんなに落ち込まないで欲しいでごわす~。
おいどん、こう見えてかなり体力も力もあるでごわすよ~?
先に教えて貰った、“ひゃくまんきろ”とやらも必ず超えられるでごわすよぉ~】
「・・・・・どうしますか?」
「・・・・・どうしましょう」
楽観的すぎるベグアの答えに、俺と賢者様は再び頭を抱えてしまった。
すると――――――――
【べ、べあ~~~・・・・・腹が痛いどぉ~、何が起ごっただ?】
【【「「・・・・!?」」】】
俺と賢者様のすぐ近く、足下から聞き覚えのない言葉遣いの声が聞こえ、ベグア以外の全員が臨戦態勢に入った。
声の正体など、考えなくても分かる
それは、先ほどまで伸びていたベグア以外に考えられないのだ。
俺たちが飛び退いて距離をとると、伸びていたベグアはノソリと起き上がり、両手で腹のあたりを押さえてキョロキョロとあたりを見回し始めた。
そして、俺たちとキョトンとしているベグアを見て、少し慌てた様子で声を上げた。
【べ、べあっ!?・・・・だ、誰だぁあんだら??
お、オラはあんぶねぇそごらのベグアと違うだぁ!!!!
見逃しでくんろぉ~、見逃しでくんろぉ~・・・・・ん??】
バタバタと両手をばたつかせたベグアは、その場に伏せ、俺たちの後ろに居るベグアと同じ格好をとった。
・・・・・んん???
こいつ、本当にさっきのベグアか??
俺は、さっきとのあまりの違いに、眼を白黒させたが、さらに驚いたのは、後ろに居るベグアの行動だった。
【ベアベアッ!?、ベグ朗どんッ!!!ベグ朗どんでごわすかッ!?】
【おおっ??、そのしゃべりがた・・・・・ベグ剛だかッ!?】
ベグア同士が、ほぼ同時に首をもたげ、お互いの名前らしきものを呼び合ったのだ
そして、突然立ち上がると、互いに前足を持ち上げ、二足歩行になると、数歩近づいて、互いの手を合わせるようにバチンッと組み合ったのだ。
【ベアベア~!!お久しぶりでごわす~、ベグ朗どんッ!!!】
【ベ~アッアッ~!!!!ひさがたぶりだんなぁ~、ベグ剛ッ!!】
互いに大笑いしながら、押し相撲でもしているような様相で何度も手を打ち合わせて喜び合う。
その二匹の様子に、気圧されつつも俺は賢者様に耳打ちした。
「・・・どうします?どうやら、同郷のベグアのようですが?」
「・・・しかも、ベグ朗と呼ばれた個体、間違いなく“魔毒”なんですが?」
「「・・・・・・はぁ」」
喜び合う二匹を尻目に、俺と賢者様は、この二匹の今後の扱いに頭を悩ませるのだと、深いため息を吐いたのだった。
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しばらく俺と賢者様で話し合い、結果、ベグ朗とベグ剛の二匹を泉に招き入れることにした
二匹をこのまま森を抜けさせるにしろ、ここに残こらせるにしても、泉に来ることで森の中であれば何処にでも出られるので、その方がいいとの賢者様の意見だ。
俺としても、その意見に大いに賛成なので、二匹を伴って泉を目指して森をどんどん進んでいった。
その間に、俺と賢者様で二匹の様子を伺っていたが、どちらも害意のかけらもなく、懐かしそうに笑いあいながら話し込んでいた。
どうやら、互いに旧知の仲だったようだ。
だが、そんな様子を見て、賢者様は少し困ったような笑顔を浮かべていた。
というのも、彼女はおおよそどのような対処をしなければいけないか分かっているからだ。
俺も、先の話し合いで大まかな理由を聞いているので、二匹の様子を見て、少々心苦しいものを感じる。
その理由というのが、ベグ朗と名乗ったベグアのほうだ。
ベグ朗は、“魔毒”なのだ。
もともと、この魔毒自体、珍しい症状なのだが、この特殊環境下
かかってしまってもなんら不思議はないのだ。
今はまだ大丈夫だが、ベグ郎が “いつ、どこで、どのような被害” を出すかわからない以上、不用意にこの森からベグ朗を出すわけには行かない。
ベグ剛は、賢者様が見たところ魔毒ではないらしいので、問題なく森から出せるそうなのだが、どのみち生まれ故郷に帰れるのかは、本人しだいである。
結果として、二匹とも森から追い出してしまうと、かなり高い確率で死んでしまうのでは?
というのが、話し合いの結果である。
二匹の了承が得られれば、この森でハクやシロ同様、俺とともに森を守る役目をしてもらうか、この森の住人として迎え入れようと考えているが、これも本人たちの意思を尊重しようと思っている。
「―――――――やはり、少々心苦しいですね」
「・・・ええ、そうですね」
二匹とは対照的に、重い空気の中、俺たちは泉に向けて進んでいったのだった。
そして、ついに泉についてしまった俺たちは、先の理由をゆっくり、かみ砕いて二匹に教え、本人達の意思を確認した。
二匹は、少しキョトンとした顔でお互いの顔を見て、すぐにこちらに向き直った。
【なら、おいどんは森を出ず、ここに残るでごわすよ~】
【オラみでぇな小心者でよがっだら、力にならしでもらいてぇだ】
二匹は、ニカッと牙をむき出し、笑顔でそう答えた。
俺と賢者様は、あまりにさっぱりした返答に、あっけにとられてしまった。
すると、その様子を見た二匹は、そのまま大きな笑い声をあげた。
【気遣いはありがたいでごわすが~、おいどんにできることがあって、住処まで貰えるんなら、わざわざここを出てく理由もないでごわすよ。ベグ郎どんも保護してくれる様子でごわすしなぁ~】
【んだんだ、さんざん迷惑かげた、オラみてぇな奴を殺すどころが住まわして、働かしでくれるっでんだ。オラとしては、こんなにありがてぇ話はねぇだよ。】
そういうと、二匹は先に見せたように、べったりとその場に体を伏せると、賢者様に「よろしく」という旨を伝えた。
賢者様は、少しほっとした様子でほほ笑むと、俺のほうを見た。
俺は、力強くうなずいて見せると、賢者様は嬉しそうにうなずき返し、再びベグアたちのほうを見た。
「では、ベグ郎さんにベグ剛さん・・・・・今後とも、よろしくお願いします。」
【ベ~アベアベア!!、こちらこそでごわす~】
【ベ~アベアベア!!、おねげぇしますだぁ~】
こうして、二匹のベグアは森の住人として、またハクやシロと同じように森を守る役目を快く受け入れてくれたのだった。
そして、俺はこの時まだ知らなかったのだ。
―――――――この二匹が、この後起こる出来事の “予兆” であったことを・・・・
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本人達の同意を得られたので、俺たちはさっそく住処となる場所を賢者様に調べてもらった。
当初、彼らの意見を参考に、いくつかの候補を挙げてもらい、そこに俺と当人たちをつれ、案内してもらうことにしたのだ。
だが、少々問題が起こったようで、賢者様は申し訳なさそうに何度か謝ると、調べてくれた場所を俺の地図に示し、そのままどこかへ行ってしまった。
何事かとハクとシロを見ると、二人は心配ないという言葉を残し、どこかへ走り去ってしまった。
残された俺とベグアの二匹は、仕方なく三人(一人と二匹)で、候補である地点を回ることにした。
「えーっ、最初に向かうのは・・・・・・こっちか」
俺は、地図を見ながらずんずん森の中を進んでいく、それに続いてノシノシとついてくる二匹
移動中も、彼らは楽しそうに話しながら、これから行く場所を楽しみにしているようで、お互いにああでもないこうでもないと笑っていた。
楽しそうな彼らの会話を聞き流しながら、ずんずん森の中を進んでいき、しばらくして目的の場所にたどり着くことが出来た。
そこは、他より少々どんよりとした雰囲気の場所で、目の前にはぽっかりと口を開けた洞窟があった。
大きさはさほどなく、奥行きはそこそこあり、高さが3メートルほどの横穴だ。
入り口から、中をのぞいてみると、洞窟の奥に向かってわずかに下っている。
(思っていたものよりだいぶ広い、これなら巨大なベグアでも問題なく過ごせる・・・・・か?)
俺は、後ろで洞窟周辺を軽く見て回っているベグ剛を見た。
身体の大きさを見て、再び洞窟の空間を見てみたが、おそらく問題はないだろう
あとは、本人の希望に添っているかなのだが・・・・・・
俺は、再びベグ剛の方を見た。
彼は、洞窟周辺の樹に前足をかけ、軽く揺すっては他の樹に同じような事をするのを繰り返している。
しばらくそうしていると、少し難しい顔で俺の方を見た。
【ケリスどん。ここいらの樹木、少々手を加えてもいいでごわすか?】
「ん?・・・・・・問題ないが、何をするんだ?」
俺が返答しながらそう聞き返すと、ベグ剛はむくりと前足を持ち上げ、後ろ足で立ち上がると、突然雄叫びを上げながら、振り下ろす右腕によってなぎ倒してしまった。
何事かと驚いていると、彼はノシノシと少し移動して隣にある樹も同じようになぎ倒した。
木々は、メキメキギシギシと重量感のある音を立てながら、ゆっくりと倒されていき、やがて、先ほどベグ剛が触れていた木がすべて倒された。
すると、突然薄暗かったこの場所の空から、心地よい光が差し込んできて、おれたちを照らし出した。
確認してみると、ほどよい間隔で木々の隙間から、太陽の光が差し込んできていた。
どうやら、彼は樹を確認しながら光が入ってくるように樹を間引いたようだ。
【おいどん、光を浴びてうたた寝するのが大好きでごわす。これなら、丁度いいでごわす・・・・・さらに――――――】
そういって、彼はなぎ倒した木の一つに近づくと、バキバキと数本の枝を折り、それを咥えて洞窟の中へと入っていった。
そして、咥えていた枝に付いている葉をガサガサと洞窟の奥にあるスペースに落としていった。
【これなら、寝床も作れるでごわす。
余った木材も、おいどんが何かしら工夫して使うでごわす。
―――――――おいどん、ここに住まわせて貰っていいでごわすか?】
「・・・・・・決まりだな」
ベグ剛の言葉に、そう言って返すと、彼は笑いながら枝だけになった樹を隅の方へ置くと、ノシノシと洞窟から出てきた。
そして、後ほど作業するということで、彼は一度中断して、このまま次の候補地に行くことにした。
次の目的地は、ズバリ “滝壺” である。
なんでも、ベグ朗本人が言うには、彼は元々ベグ剛と同じ地域に住んでいたようで、主に川の畔や水辺に居を構えていたようなのだ。
食料も、主に川でとれるようなものを食べていたようで、もしこの森にもそのような場所があればそこに住みたいとの事だ。
賢者様にお尋ねしたところ、幸いいくつか川が存在するようで、小規模な滝なんかもあるとのことなので、転々と水辺の箇所を記して貰っていた。
そして、ベグ朗の意見も加味して選定した結果、これから向かう滝壺に行き着いたのだ。
しばらく森の中を進んでいくと、わずかではあるが空気が涼しげになってきた。
それを、二匹も感じて居るようで、心なしか話し声もより嬉しそうな色をしていた。
そして、ついに深い木々のカーテンの奥に、うっすらではあるが開けているようなところが見え始めた。
【そろそろでごわすなぁ~。おいどんの自慢の鼻が、水の臭いを感じてるでごわす】
【ベアベアッ!!、随分気がはえぇだなベグ剛?・・・・まあ、オラの住処になるかもってところだからなぁ、わくわくしちまうだぁな?】
二匹の会話を聞き流しながら、俺は油断無く視界の先に見える空間に、敵性の魔物は居ないかを確認する。
ここに来るまでに、既に数度の魔物との接触があり、そのすべてを二匹が素早く撃退してきているのだ。
それも、俺が魔物の存在を感じ取り次第、おおよその位置と警戒を促していたおかげと、ベグアが元々備えている凄まじい膂力のおかげではあるのだが・・・・・
俺はそんなことを考えていると、不意に気の後ろに妙な気配を感じとり、俺はゆっくりと自然に足を止めた。
その様子に、二匹はこれまで通りとぼけた様子で首をかしげながらのそのそと俺を追い越して前に出た。
【どうしたでごわすか?目の前に前足と鼻の先に目的地はあるでごわすよ?】
【ベグ剛~、ケリスさんは人間だで、休憩しなきゃ大変だべぇ・・・・・ちょっくら休憩するだか?】
「・・・・・・・そうだな、目的地は前足の先だが、10・・・いや、20分ほど休憩させてもらおうか?」
【【了解だぁ】でごわす】
二匹の返事をきき、俺は手近にある木に手をかけ、そのまま背中を向け、次の瞬間には素早く身をかがめて勢いよく飛び上がった。
それを合図に、二匹はそれぞれ左右にかけだし、俺は飛び上がった先にあった枝を掴み、クルリと体勢を立て直して、その上に着地した。
そして、そこから先ほど確認した方向を再度見て、二匹が問題なくそちらへ向かっているのを確認した。
タイミングを見計らい、俺はポーチからナイフを取り、素早く木の幹めがけてそれを投げつけた。
ナイフは、枝葉の隙間を縫うようにまっすぐ進んでいき、俺が狙った木の幹に突き刺さる寸前で、その木の枝が鞭のように動き、ナイフはあらぬ方向へと払われてしまった。
やはり、俺が見つけた木は、擬態していた “擬態樹” だったようだ。
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擬態樹
ランク:D~A+
生息地域:樹海、森、森林等
禍禍しく土気色の樹皮で身体を覆い隠している魔物
主に、周囲の木々や樹木の樹皮を剥ぎ取り、周りの風景と同化し、ジッとその場を動かず、獲物が近くに来たときのみ、その鋭く鈍器のような枝のひとつで打撃行動を行う。
各個体事態は、そこまでの戦闘力はなく、初撃を避ければ、後は動きの遅い木の化け物に成り下がる。
だが、トレントは群れをなしていることが多く、一体見つければ、その一体はほぼトレントであると疑うべし、トレントは、自ら動かない限り決して動かず、遠距離から討伐を行えば、他の木を破壊しているときと全く違いはない。
A+評価になった事例として、襲われた一体を倒した途端、倒した個体の死骸から次々とトレントが周囲の樹木に拡散
そのすべてが、トレントとなり、擬態をせず真っ先にその討伐集団を殲滅したことより、この評価がついている。
以上の事案以外でのランクは、一律にD~Bである
なお、トレントの苦手なもの――――――――――
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おっと、これ以上はいいか
俺は、他のトレントの個体を探しながら、情報を思い出していると、二人が最初のトレントをへし折った音が聞こえ、俺は声を張り上げた。
「ベグ剛は、右手・右足・右脇腹!一体ずつ、30先だ!!
ベグ朗はそのまま鼻先の一本をへし折れ!!」
【【応ッッ!!!!】】
俺の声を聞いて、二人はそれぞれの方向へ突進を開始した。
ちなみに、先ほどの前足や右手とは、ここまで来るまでに決めた、戦闘時の方向指示である。
この場合、右斜め前、右斜め後ろ、右側方
そして、前方すぐ近くである。
なぜ、そんなことをしているかと言うと、実は、彼らに時間による方向指示や、方向のみの指示が伝わらなかったからである。
道中にも戦闘があったが、その際上記の方法でやってみたところ、ものの見事に逆やとんちんかんな方向を攻撃したり走っていったりしていたのだ。
なので、三人で話ながら決めたのがこの方法なのだ。
一見、分かりづらい気もするが、戦闘記号として大変役に立ってくれている。
俺は、次々とトレントをへし折っていく二人をみて、他にいないことを確認してから、二人に河川敷に出るように指示し、俺も素早く彼らの元へ駆けつけた。
二人は、河川敷の草むらに両足を前に投げ出し、両手をその間にチョコンと置いた、テディベアのような可愛らしい格好で、楽しそうに笑い合っていた。
「お疲れ、この辺りにもうトレントはいないぞ」
【おお、的確な指示、ありがとうでごわす。
おいどん、どの樹が敵かさっぱりでごわした!!】
【んだんだ。ケリスさん、ながながいい目してんだなぁ~。
おらたち、おかげで思いっきり戦えただぁ】
二人はそろって笑い声をあげると、のそっと尻を持ち上げ、のしのしとこちらに近づいてきた。
【ケリスどん、そろそろ目的の場所でごわす。
このまま上流に向かうでごわす。】
【いやぁ、何とかたどり着けそうで、オラ一安心しただぁ】
【ベーアベアベア!、まだ着いとらんのに、随分気が早いでごわすな!ベグ朗!!】
【ベーアベアベア!、待ちきれねーだよ!こんなに良い川だ、上流の滝壺は、もっと期待できるだよ!!】
「はははっ、滝壺は逃げないぞ
・・・・・あと少しだ、気を抜かずにな?」
【【応ッッ!!!!】】
そろって声をあげると、二人はゆっくりとした足取りで俺の両脇に控えると、そのまま俺たちは順調に川岸を進んでいった。
もう少しベグア達と絡んでいきます