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ケリーと帰らずの森   作者: 蛇炉
2/8

第二話

二話目です!!

誤字・脱字・誤変換等があるかもしれませんが、ご了承ください

“帰らずの森”


そこは、この世界屈指のダンジョンであり、未だ冒険者で制覇した者が一人として居ない魔境

ただ森を生きて出るだけでも困難であり、そこに生息している魔物は恐ろしいほどに強力な個体ばかり

もし、この森に何の備えも無く迷い込めば、森の中で一生を終えるだろう―――――――







===========







「―――――って、言われるくらいの所に・・・・俺は居るんだよな?」




誰言う訳でも無く、俺はそう呟く。

そう、俺は今現在その “帰らずの森” に居る。

“セオール”への馬車移動の途中、居眠りをしている間になぜかこの森のど真ん中で目が覚めたのだ。

そして、その恐ろしいはずの森の中、俺はとあるものに導かれ、森の奥へ奥へと向かっているのだ。

そのものというのが――――――




{ ↑ 森の賢者ちゃんのお家

(あと少しだからがんばれっ!!) }




このふざけた内容の看板である。

この森を抜けようと歩いている間に見つけたのだが、どうやらこの看板は “森の賢者”とかいうやつが立てているようで、どういうわけかポンポンこれが現れるのだ。

普通なら気味悪がるだろうが、書かれている内容が内容なので、素直に気味悪く思えないのだ。



(本当に、どうやってこの看板立ててるんだ?・・・・さっきから、突然現れてるようにしか見えないんだが・・・・・)



俺は、目の前に立っている看板をジッと見つめ、軽くトントンとたたいてみたり、看板の周りを確認して見たりもしたが、これと言っておかしな所は見られない。

すると、またもや目の前に看板が現れ、俺は素直にその内容を読んでみた。




{あんまりジロジロ見ないでよ、バカッ///} 


「やかましいわっ!!!」




なんだ「///」って!!

何で照れてるんだ森の賢者!!


俺は思わずその看板を軽くど突いてやった。


このように、“森の賢者”というやつが、看板を使って俺を誘導しているようなのだ。

もっとも、そいつの姿は一度も見ていないのだが、看板には何度も“森の賢者”と“私”というワードが書かれているので、書いているのは“森の賢者”で間違いが無いだろう。


それに、この看板から森の賢者がどんな人物なのかがある程度推測出来る。

未知の相手の情報を、こういう形で得られりというのは、かなりのアドバンテージである。

あらかじめその人物の人柄や性格を把握していれば、交渉や戦闘になっても優位に立てる可能性も増える。

それに、何かしらの危機や罠をある程度推察することだって出来る。

もし、万が一にもこれが罠であるならば、警戒して進む必要もあり、場合によっては引き返した方が良いだろう。



まあ、少なくとも―――――――




{ ↑ 森の賢者の家まで、残り1Km!!!

 (フレー、フレー、あ・な・た・ッ! フレー、フレー、そこの君ッ!!!) }




目の前に再び現れた看板には、そんな事が書かれていた。

後ろを振り返ってみると、そこには、一定間隔で一直線にズラリと並んでいる看板が目に入った。 



(これだけ頻繁に、しかも似たような内容だったら・・・・警戒するなって言われても、警戒するわな)



俺は、背後に広がる異様な看板の列から目を離し、再び看板に導かれ、森の奥へと進んでいった。

進んでいる途中、わざわざ言う必要も無い事を看板に書いてよこす事もあったが、それでも俺は看板の通りに、どんどん森の賢者の家とやらを目指して進んだのだった。

そして、とうとう看板の文面に嬉しい変化が現れた。




{ → 森の賢者の泉&家

 (おめでとうっ!!) }




その看板を見て、俺は看板から矢印の方向へ顔を向けると、乱雑に生えている木々の間

さらにその奥の方で微かに光が見えていることに気がついた。

それは、本当に微かなもので、いくらこの森が暗いと言っても、この看板が無ければ気づかないほどだった。

そして、この内容から察するにあの光の先は森の外では無く、件の賢者がいる泉や家があるのだろう。

俺は、木々の隙間を抜け、どんどんその光に向かって進んでいったのだが、ここでフッと考えた。



(今更だが、本当にあそこに向かって良いのか?

 もしかすると、かなり知能が高い魔物が、俺をおびき出しただけなのでは?)



俺はしばしその場にとどまってそんなことを考えたが、すぐにその考えを頭から追い出した。

もし、これが魔物の罠であれば、もっと早くにおそってきているはずだ。

現に、看板を見つける前、ベルノーム達に襲われているのだ

気にするだけ無駄だろう・・・・


俺は、そう結論づけて再び光に向かって進み始めた。

そして、木々の間を抜け、とうとう光の先へ抜けることが出来た。

あまりのまぶしさに、両手で庇いつつ少し目を細め。

そして、目が慣れ始めた頃にようやく手をどけて前を見ると、飛び込んできた光景に俺は息をのんだ。


まず飛び込んできたのは、なんだか懐かしく感じる晴天だった。

今まで、隙間無いほど葉を生い茂らせて木々が、ここだけ生えておらず、円形の広場を作っていた。

当然、木が生えていないので、空を隠すものが無く、清々しいほどまぶしい太陽と綺麗にすんだ青空が天窓のように広場から見えていた。

次に目に入ったのは、広場の大きな泉だった。

泉は、透き通るように綺麗な水のようで、その水面は太陽の光を受けキラキラと輝いていた。




「すげー・・・・」




俺は、口をあんぐりと開けたまま、感嘆の声を上げていた。

冒険者になって、様々な景色やダンジョンを見てきたが、これほど綺麗なものは見たことがない。

人の手が入った様子はないが、自然に出来たと言うにはあまりに美しすぎた。

気がつくと俺は、泉のほとりに立っていた。

なぜか分からないが、視線を泉の真ん中に固定したまま近づいていたのだ。

すると、また近くでザクッともう聞き慣れてしまった音がした。

音のした方を見てみると、そこにはやはり看板が一つ立っていた。

俺は少し身体をかがめ、その看板を読んでみた。




{ちょちょちょ、ちょっと待っててね!!}




・・・・・・うーん、なんだろうな

こう・・・色々ぶちこわされた気分だな。


看板を見ながら、げんなりしつつ、俺はまだ見ぬ“森の賢者”の登場を待った。

まあ、人が来る機会も少ないからな

なにか・・・こう・・・身なりを整えてるんだろうな、たぶん



両腕を組んでそんなことを考えながら、俺は“森の賢者”が姿を現すのをジッと待った。

幸い、目の前には今まで見たこともないような美しい景色があるのだ。

待つこと自体に苦はなかった。


だが、俺は“森の賢者”の登場を待つ間、とてつもなく不安な事が一つあった。

それは・・・・“森の賢者は人なのかどうか”ということだ。


直接姿を見せず、声も出さない。意思疎通は看板のみである。

ここは、冒険者が生きて帰るのは不可能と言われている “帰らずの森” だ。

そもそも、この森に人が居るのかすら怪しい。

“魔濃度” が高いことから、人が住めるような環境でもない。

“魔”にさらされすぎて、身体のキャパを超えるか、下手をすれば理性のない魔物の仲間入りだ。


よって、森の賢者の正体の可能性としては・・・・高位の魔物 “魔人” の可能性がある


“魔人”とは、高濃度の“魔”の魔物が変異し、人に近い知能を備えた存在だ。


魔物の持っている動物的かつ暴力的な力

相手や自分自身を分析する力

それらを併せ持つのが、“魔人”である。


具体的に言えば、今まで体当たりやひっかくと言った単純な動きしかしなかった魔物

それが、徒党を組み、罠を仕掛け、連携をとって攻めてくる。

そういった行動をするのだ。


もし、森の賢者が“魔人”だった場合、高確率で殺されてしまう。

ここは、慎重に事を運ばなければ――――――



その時だった






              ブクブクッ







「ん・・・?」




突然、俺の立っている水面で泡がたった。

俺は、泉をのぞき込んでみるが生き物がいる気配はない。

気のせいかと思いつつ、ジッと泉を見つめていると再びブクブクと気泡がはじけた。

それを皮切りに、激しく湖が泡立ち始めた。




「な、なんだっ!?」




思わず腰にある短剣を抜き、飛び退くように水面から距離をとった。

すると、泡立っている水面が盛り上がっていき、その先端がまるで蛇の頭の様に俺を見下ろしていた。

その蛇は、泉の水で出来ているらしく、その身体の向こうがぼんやりと透けてみえていた。

俺は、いつでも戦闘に移れるように体勢を保ちつつ、その奇妙な水蛇を睨み付けていた。

すると、そいつはその頭を俺の目の前に下ろし、何をするのかと思えばそのまま制止してしまった。



(な、なんだ・・・?)



俺は、動かなくなったそれに恐る恐る近づいてみた。

その瞬間




「いーやっほおぃっっ!!!!!!!!!」


「なっ!?」




謎の叫び声と共に、水蛇の中を何かが移動してきた。

そして、そのままそれは地面に下ろされている蛇の頭まで到達し、そのまま地面へと降り立った。

それが地面に降り立つとほぼ同時に、水で出来た蛇は何かから解放されたかのように形を崩し、もとの水へと戻って泉や地面へ還っていた。

残されたのは、蛇の中を通って現れた一人の人物。

全身をすっぽりと覆う薄水色のローブを被り、ブカブカのフードを深く被っていた。

唯一、フードが隠していない薄紅色の口元だけがあらわになっていた。

そいつは、俺の姿を見て口元をニヤリと歪ませると、ゆらりと両手を上げ、それを勢いよく左右へ開いた。




「ようこそっ!!!

 ここが私の家にしてこの森の中心 “賢者の泉” で~すっ!!!!!」




妙にハイテンションでそう告げると、まるでその言葉が合図だったかの用意、泉の水がまるで噴水のように何本もの水柱を作り出した。




「・・・・・・ポカーン」


「あ、あれ?

 思ってたより反応うっすいなぁ~ せっかく張り切ったのに・・・」




あっけにとられて放心していた俺に、そいつはおもしろくなさそうにそう言うと、広げていた両手をやる気なさげに だらんっ と垂らした。

すると、先ほどまであった水柱がバチャバチャと音を立てて泉へと戻っていった。


な、なんだこれ?

俺は、今、一体どういう状況なんだ?


めまぐるしく変化する事態のせいで、俺の頭は入ってくる情報を遮断してしまっていた。

すると、ローブの人物が固まったままの俺を見て、フードの頭頂部をボリボリと掻いた。




「うーん、やっぱりインパクトが足りなかったのかなぁ・・・・・こういうのってあんまり慣れてないから、どんなことしたら良いかわかんないやっ!! あはははははっ」




そういって、そいつはまるで無邪気な子供のように腹を抱えて笑い始めた。

その声は、本当に楽しそうで、聞いているこっちまで自然と笑顔になりそうなものだった。


・・・・って、そんな場合じゃない!!


俺は、やっと我に返り再び短剣を構え直し、未だ笑っているローブの人物を睨み付けた。

すると、楽しそうに笑っているローブは、突然笑うのを止めてゆっくりと顔を上げた。

口元は未だ弧を描いていたまま、そいつは少し首を傾げた。




「どうしたの?、もしかして私、何か君の気に障るような事しちゃった?・・・・・あっ!

 もしかして、このローブ? ローブのせいで私の最高にキュートな顔が見えないから?」




被っているフードの端を両手で握りながら、そいつは俺に問いかけるようにそう言ってきた。

俺は眉をひそめ、妙な事を言い出したローブを見ていると、そいつはなぜか嬉しそうに身体をくねらせると、そのまま自分の身体を抱きしめた。




「も~う、しょうがないなぁ~・・・・・どうしても私のかわいい顔を見たいなんて、本当なら顔見せはしないんだけど、君にだけは特別に見せて、あ・げ・るっ

 きゃっ///」




・・・・・・なんだかよくわからないが、どうやら顔を見せてくれるようだ。


さてさて、人が出るか魔が出るか――――――



そいつは、被っていたフードに手を掛け、ゆっくりとした動きでフードを脱いで顔をさらした。

すると、フードの下からまるで水の様に髪の毛が流れ出てきた。

髪の毛は、軽くウェーブがかかった栗色で、腰の辺りまでの長さで、泉の様にキラキラと輝いているように見えた。

同じ色のまつげも長く、瞬きをする度に髪の毛と同じようにキラキラと輝いているように見えた。

翡翠色の瞳はつぶらで大きく、泉の水の様に澄んでいた。

肌も透き通るように白く、小さく開かれている薄紅色を際立たせていた。


俺は、フードの下から出てきたそれに、すっかり目を奪われていた。

そして、本人もほぼ無意識に思ったことをつぶやいていた。




「――――――女神だ」


「えっ」




言ってしまってから、ハッと我に返り、慌てて空いている方の手で自分の口を塞いだ。


待て待て、今俺は何を口走った!?

確かに、そこら辺の女よりは綺麗な顔立ちだ

だが、なんで俺はこいつは女神なんて言ったんだ!?

あり得ないだろ!!、現実的に考えろ!!!


俺は、自分がいった事が信じられず、必死に自分の行動を否定した。



女神とは、この世界で言う最も愛すべきものへ捧げる名称

これを捧げるのは、生涯を共にことを考えた相手やその愛の結晶――――すなわち、妻や子へ捧げるのだ。

つまり、女神とは一般的に、プロポーズの殺し文句のようなもので・・・・・

それが、無意識とはいえ、なぜ!!


俺はそこまで考えて、改めてローブの女をみた。

すると、彼女は俺をまっすぐ見たまま両目を見開いて固まっていた。

どうしたのかと口を開きかけたら、彼女の顔が瞬く間に真っ赤に色づいた。




「えっ、ちょっ、ふぇえっ!?、ちょちょちょ、ちょっと待ってね。いい、今のはえっと??どういうことかな?、うーんと、うーんと? 私と君って初対面だよね?、話もしたこと無いよね?、そもそも私の事何にも知らないよね????、あれ?、なんだろう?、どうして“女神”って言われちゃったの?。いや待て落ち着け、そうだ、もしかすると深い意味は無いかもしれない、単純に私を見た瞬間にそれくらいかわいいって思っただけかもしれにね??、いやそうに違いない!!!!

いやー私も罪な人だなぁ、一人の青年の心を一瞬で奪ってしまうなんてっ!!!

だから、そういうことで良いよね?

そういうことしてもらえないかなッッ!!!! じゃないとなんか色々持たないんだけど、お互い何も無かったって事で手打ちしてもらえないかな “ケリス青年” ッッッ!!!!」




大いに混乱しているらしく、手や頭を忙しなく振って俺にズイズイ近づいてきてそう言ってきた。

大慌てしているせいで、俺は慌てる暇も無く、不思議と冷静に今の状況を分析していた。


おそらく、この顔を真っ赤にしてかわいらしく慌てているのが “森の賢者” なのだろう。

だが、見た目確かに美しく可憐なのに、中身はかなり子供っぽいようだ。

それに、ナルシストなのかしきりに自分の容姿を褒めていた。

今暴走気味に喋っていた内容にも、自分をかわいいだの何だと言っていたしな。

余程の自信家なのか、それともただのブリッ子か?

まあ、確かにかわいいが・・・・・いや、いまはどうでもいい。


そんなことより、今のしゃべりの最後にこいつが “俺の名前を言い当てた事” の方が問題だ。

俺は、この森に入ってから一度も自分の名を口にしていない。

まあ、突発的に “ケリー” とは叫んだが、そこから俺の本名を推測するのは難しい。

そこまで有名でも無く、名も売れていないただの平冒険者である俺を誰かから聞いたとは思えないし、かといって、俺の知ってるやつにこんなやつは居ない。

一体こいつはどうやって??




「ねぇ!!、お願いだから何か言ってよ!!!。黙って見つめられたら、こっちもどうしたら良いか分からないんだけどっ!!!!」


「ん?・・・ああ、すまん。ちょっと考え事をして―――――」


「何でそんなに冷静でいらっしゃるの!?、まさか、私をどうやって襲うかの算段でも考えてたの?!

 君はそんな悪漢だというのか!?、もしかしてピンチ?、今私ピンチですか!?」


「いや、まて、少しは落ち着――――――」


「あー!!!、何だその手は!!!、乱暴するんだな、乱暴する気なんだな!!! その手に持ったナイフで私の服を裂こうって魂胆だったんだな!!! だからあんなに鋭い目つきで見てたんだ!!!ひぃーーー!!、屈しないぞ、私は屈しないぞ!!!

身体は自由に出来ても、心は自由に出来ないんだからなこの野郎ッッ!!!」


「落ち着けッ!!!!!」




思わず俺は目の前で騒ぎ立てる賢者の頭を スパーンッ と思いっきり叩いてやった。

そのせいで、余計パニックになった彼女をなだめるのに、たっぷり2時間ほど掛かったのだった。






















=========





「―――――ごめんね、もう大丈夫。落ち着いたから」




やっとのこと落ち着かせることに成功し、賢者はさっきまでの慌てっぷりが嘘のように消えていた。

その対価として、俺はぜーぜーと身体全体で息をしながら、後ろの地面に両手をついて地面に座り込んでいた。


なんなんだ全く

なんで俺が身動きしようとする度に叫び出すんだ

しかも、内容が内容なだけにこっちまで慌てそうになったわ!!!



まあ、もう過ぎたことだ

やっとまともに喋ることが出来るんだ

色々聞きたいことはある。



俺は、息が整い始めたのを見計らって姿勢を正した。

すると、賢者先ほどとは打って変わってゆったりと余裕を持った動きで俺の方を向いた。

よし、これなら話しも通じるだろう。




「いくつか聞きたいことがあるんですが、よろしいか?」


「ええ、いいですよ」




お互い、少し堅い感じの喋りになってしまったが、まあ真面目な話しだし良いだろう。

それに、聞かなきゃいけないことがたくさんあるしな。

まず、最初に確認すべき事は―――――――




「念のために確認させていただくが・・・あなたが、“泉の賢者”様で間違いないですか?」


「ええ、その認識で間違っていません」


「では、看板で導いてくれていたのも―――――」


「私で間違いありません」




泉の賢者はそういって、首を少し傾げて満面の笑みを向けてきた。

それのせいで、長く美しい髪が肩や首を水の様に流れ、太陽の光を受けキラキラと輝いた


くっ、綺麗じゃねぇか・・・・

いや落ち着け、また余計なこと言ったら本題に入れない。


俺は、一度視界から賢者を外し、一度深呼吸してから再び質問を開始した。




「では、さらにお聞きします。ここは、“帰らずの森”のどの辺りでしょうか?」




これは結構重要だ。

ここが、“帰らずの森”であるのは今更聞くまでもない


最初に襲われたベルノームを思い出す。

ベルノームとは、本来人を襲うような魔物じゃない

せいぜい、農作物を荒らすくらいしかしない

ナワバリは持たず温厚な性格で、こちらから手を出したりしない限り襲っては来ない。

大きさも、せいぜい人の子供程度の大きさにしかならない。

それが、あのベルノームは明らかに俺より大きく、二頭で挟み撃ちを狙ってくる暗いの知恵もある。


そんな規格外な魔物が居る時点で、ほぼ間違いないだろう



重要なのは、ここが帰らずの森の一体どの辺りなのかということだ。

この森は、名前の通り帰ることがほぼ不可能に近いと言われる場所なのだ。

少しでも、情報がほしい。

仮に、どこか教えて貰えなくても方角さえ分かれば、後は俺のスキルでどうとでも出来る。


賢者は、眉を下げ少し困った様子で考え込んでいたが、しばらくしてとんでもない事を口にした。




「まず、貴方が勘違いしている事を正しましょう。ここは確かに“帰らずの森”ですが、厳密に言ってしまえば、“帰らずの森”ではありません」


「・・・・はぁ?」




思わず素の反応をしてしまった。


森であって森ではない?

どういうことだ?


俺は必死に頭を働かせ、賢者の言った意味を考察した。

持てる知識の中から、何か理解する糸口になるようなものを必死に探した。

だが、どれだけ考えても意味が分からなかった。




「理解できないのも無理はありません。ここの正確な位置を言えば、森の最奥です。ですが、外界から見てみても、このように日が差すような箇所はありませんし、ただ森の中を進んでもここへはたどり着くことは適いません。」


「・・・・・どういうことだ?」




俺がそういうと、賢者は黙り込んでしまった。


どうやら、俺には話したくない内容らしい・・・・

いや、普通に考えるとそうか

今の話しからすると、ここに来るためには森の中を進むだけではダメらしい

それに、外から見えないと言うことは、何かしらの視覚妨害の手段があるのだろう。

俗に言う、“魔法”というやつだろうが・・・・魔術師でもないのに魔法について知るわけがない。


普通、魔法なんかは魔術師でないと知識はない。

それは、適正とか危険性を考えて魔術師達が昔取り決めた事らしい。

その辺のことは、暇なときに見た書物で頭に入っていた。

だが、所詮その程度だ。

魔法がなんなのか、どういう原理なのか、どのような事が出来るのか

そんなことは魔術師にでもならなければ知るよしもない


魔術師以外から見れば “人智を越えたことは全て魔法” とおおざっぱに認識するしかない。

そして、いま賢者が言い渋っているのも、おそらくそういった理由だろう。


俺は未だに黙り込んでいる賢者を見て、そんなことを考えていた。

なら仕方がない、こちらから違う話題を振るしかないだろう。




「言いづらいのであれば結構です、その代わり他のことをお聞きます。

 ・・・・・・俺に何のようですか?」


「!!!」




突然、ビクリッと身をはねさせた賢者

彼女は、両目を見開き、信じられないと言った顔で俺を見ていた。




「・・・・なぜ、貴方に用があると?」


「いやいや、大したことではありません。先ほどのあなたの発言・今までの行動・そして、今の反応

それらを含めて考察した結果です。」


「・・・・根拠を詳しく教えていただいても?」




そう言われたので、俺はどうしてそう思ったのかを説明し始めた。


ザックリ言うと、大きな要因は、この場所と看板だ。

さっきの話しだと、ここは普通の手段ではたどり着けない特殊な場所。

おそらくだが、この賢者の許可みたいな物がなければたどり着けないのではないだろうか?

そして、ここに来るまでひっきりなしに立てられていた看板

原理は知らないが、明らかに俺だけを誘導するためだけに作られていた。


これだけでも、俺に何か用があると分かる。

しかも、その場ではどうしても済ませられない様なことを・・・・・


さて、ここからは俺の推察だ。

俺に何の用があるのか・・・だ

この森に来て、俺がしたことはとても少ない

気に障るような事といえば、“この森に入ったこと”と“ベルノームを倒した”ことくらいだろうか?

前者は、不可抗力

後者に至っては、先に攻撃してきたのは向こうなので、正当防衛だといえる。

だが、正直どちらについて言われても反論できないだろう。

俺の失言からの乱れっぷりから、一度思い込んでしまえば話しは通じないだろう。


さてさて

侵入をとがめるのか、はたまた復習か・・・・


どう出てくる?


俺は、すぐに戦闘態勢に入れるように警戒しながら、賢者の言葉を待った。

そして、たっぷり沈黙した後、ついに賢者が口を開いた。




「実は、数時間前に私の所に伝言が来たんです。貴方も知ってると思いますが、“ハク”と“シロ”という番のベルノームからです。どうやら、その二体が少々貴方に用があるようだったので、ここへ貴方を導いたのです。今から、彼らを呼ぼうと思いますが、会ってもらえますか?」




おっと、後者の方だったか

これは、復習って線で間違いないかもしれないな。

・・・てか、ハクとシロって、名前あったのか

しかも安直な。


そんなバカな事を考えている間に、賢者は俺の返事も聞かずゆっくり手を上げ、パチンと指を鳴らした。

すると、音が木霊のように森の木々に反響した。

俺は、素早く意識を周囲に広げ、動態反応がないか探った。

しばらくすると、俺の後方から猛烈な速さで移動する二つの反応をキャッチした。



(どうやら、奴さん達がおいでのようだ)




そう心の中で呟いた瞬間、背後から何かが足音を轟かせて木々の隙間から二つの白い塊が飛び出してきた。

俺は、素早くサイドステップをしてその二つを躱す。

それでも、ゴウッと風を切って二つの塊は通り過ぎ、俺が立って居た空間を通り過ぎていった。

躱していなければ、今頃身体がバラバラになっていただろう

俺はヒヤッとしつつ、受け身をとって地面を転がり、素早く体勢を立て直した。

そして、通り過ぎた白い塊に目を向けると、そこには二頭のベルノームが賢者の目と鼻の先に停止して、こちらを向いていた。

額には、俺が応急措置をした後もある。

間違いなく、例の個体だ。



(やるしかねぇか?・・・・

 だが、賢者がどんな動きをするか分から――――――――)


「バカーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」




俺の思考は、賢者が突然叫んだ事によって打ち切られてしまった。


それも仕方ないだろう

なぜなら、俺の方を見ていたベルノームの内一頭が、賢者のアッパーを食らってひっくり返ったのだから。




「バカなの?、あなたたちバカなの?!

 今もう少しブレーキ遅かったら、ケリスさんどころか私までぶっ飛ばされてたよね!?

 なんなの!?、あなたたちはいつもいつもやり過ぎでホントに!!!」


「ブ、ブルゥゥゥ....」


「いや、「急いで辿り着かないと申し訳ない」って、そりゃそうだけど!!!

 その心意気だけは褒めるけど!!!!、どこ世界にお客さんもぶっ飛ばす奴がいるのよ!!

 私も危うくひかれそうになったし、狙ってやった訳じゃないでしょうね!!!」


「ブ、ブルッ!! フゴフゴゴッ!!!」


「言い訳は聞きたいないッ!!!本当にも~う!!!!」













・・・・・・何が起きてるんだ?

だれか、説明してくれ。












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