第一話
※これは、作者が気まぐれで作ったものです
時間に余裕のない人は、時間を無駄に消費する恐れがありますので、ご注意ください
“帰らずの森”
この世界でも屈指のダンジョンであり、難攻不落の自然の要塞
この森を形成している樹木は、様々な種類の葉や果実を実らせ、そのすべてが不規則に地に根を下ろしていた。
木々の一本一本が天を覆い尽くさんばかりに葉を茂らせ、真っ昼間でも日の光が一切差さず、常に夜のように暗かった。
それらの幹にまとわりつくのは、光を求め、その屈強な身体に絡みつくように天へと蔓を伸ばす草花
光や乾燥を嫌い、その巨大な頭の陰でひっそりと自らをはぐくむコケやキノコ
人にとって利用可能なものも多いのだが、見た目も似たようなものが多く、常人では見分けることも難しい。
この様なこの場所に人が迷い込んでしまえば、数分も経たずに方向を見失ってしまうだろう。
自然への知識の乏しい冒険者では、突破が大変困難だろう
だが、これだけがこの森を“帰らずの森”と呼ばせ、“世界屈指のダンジョン”としての地位を確立している訳ではない。
真に恐ろしいのは、この森に住み着いている“魔物達”である
この森には、どういう理由か不明だが、この世界の中で“最も魔濃度が高い”のだ
“魔濃度”というのは、簡単に言ってしまえば魔法を使う際に使う燃料が多いか少ないかを指している。
これは、人から見たときの解釈なのだが、魔物はこの魔濃度が高ければ高いほど出現しやすく、強い個体が多いのだ。
一部の人間は、魔物はその燃料が変異し生き物へと昇華したものだという奴らもいる。
そして、先ほども言った様に魔濃度が高いということは、魔物が多くそして強いということだ。
簡単な例を挙げてみよう
この世界には、コウモリ型の魔物 “バリチュラ” というのがいる
大きさとしては、大体子供の頭くらいで、翼を広げても大人の片腕程度だ。
攻撃方法も、かみついてくるか体当たり以外なく、知性も低ければ機動力もない。
とても弱いことで有名で、主に初心者や駆け出しの冒険者が素手でも討伐可能な魔物だ。
だが、この森に出る“バリチュラ”は全く違う。
身体の大きさは、一般的な “バリチュラ” より大きく、翼を広げれば5メートルほどの巨大な個体も確認されている。
攻撃パターンも豊富で賢く、鬱蒼と茂る木々の間を縦横無尽に飛び回るのだ。
さらに、ここの“バリチュラ”は集団行動をするため、最低でも1匹見れば近くに9匹は潜んでいる。
これは、並の冒険者では太刀打ちできず、中堅の冒険者パーティーでも、命を落としてしまう事があるほど手強くなっているのだ。
このような変化を森にいるすべての魔物にもたらすところが、この森の恐ろしいところなのだ。
だが、そんな魔物や緑を採取し、無事に帰還した者へは多大な利益をもたらす。
先ほども言った様に、魔物は強力な個体へと変貌し、数も多い
帰還するだけでも一苦労なのだが、その手に入る素材や草花は桁違いに品質が良いのだ。
薬草一つとっても、普通なら擦り傷程度を直す効能しかないのだが、この森の薬草を使えば致命傷でなければ治してしまうほどの効力を持つ
これは、一人の冒険者が偶然生き残り、持ち帰った薬草だ。
その冒険者のおかげで、この森はとてつもない宝の山であると世の冒険者達に伝わったのである。
故に、この森には多くの冒険者が一攫千金や技術の向上などを目的に訪れる者が後を絶たない
だが、その冒険者以外、無事に帰ってきた者は誰一人として居なかった。
結果、この森は “帰らずの森” と呼ばれ、 “難攻不落のダンジョン” として名を馳せたのである
==============
「―――って、今時赤ん坊でも知ってる話なんだけどなぁ・・・・・」
帰らずの森の中で、一人の男がボソリッと呟いた。
男の声に反応する者はおらず、ただ、不気味に漂う静寂と深い緑だけが男の目の前にあった。
男は、自らが持っている “魔力方位指針” を取り出してかざしてみる。
だが、コンパスの針はデタラメな方向を指し、数秒後にはまったく別の方向を指すを繰り返していた。
とても正しい方向を指しているとは思えない。
男は “コンパス” を仕舞い、軽く周りを見渡してみたが、目に映るものは立派な樹木と緑、上を見上げてみても光すら届かないほど葉が茂っていた。
腰に下げている短剣の一つを頭上に茂る葉のカーテンへ投げ、切れ間を作れないかと思ったのだが、結果はガサリッと大きな音を立てただけで、短剣を一つ失うというものだった。
風を読もうにも、森の奥に入り込みすぎているらしく、風が吹き込んでは来てなかった。
「・・・・・・はぁ、こりゃもうお手上げでしょ」
男は、両手を頭より高い位置に持って行き、だらんと頭と両手を垂らすポーズをとった。
“レンジャー”である冒険者の男に、無事生還できる考えは浮かんできてはくれなかった。
この男は、冒険者であり、レンジャーという役職についている。
名前は “ケリス・メイル”
愛称 “ケリー” で――――――
「――――ケリーって呼ぶなッッ!!!・・・・・・って、なんで俺突然叫んだんだ?」
・・・本人は気に入っていない。
話を戻そう
レンジャーというのは、主に自然や動物の知識に長けており、薬草学や魔物学(魔物についての学問)などを極める者が多い。
冒険者は、魔物と対峙する機会が多いため、大体パーティーに一人はレンジャーが組み込まれているところが多い。
もちろん、薬草学を極めている者をパーティーに組み込んで居ることもある。
そういう所は、主に回復に不安があったり採集を生業にしている冒険者たちだったりする。
ケリスは、薬草学の方が詳しい。
別に、魔物学がからっきしという訳では無く、主に行っているのが薬草学ということだ。
今回ケリスが受けた依頼も
{医者が居ないので、患者を診て欲しい}
といった内容のものだったのだ。
ケリスは、薬草学に明るいため、人の病気なのに聞く薬の生成が可能だった
さらに、魔物学の応用で簡単に人の診察も出来るのだ。
場所は、馬車で向かえば今日中に帰ってこられる “セオール” だった
報酬もかなりの額だったので、金欠気味だった自分にぴったりだと受けたのだ。
唯一の心配が、ここから “セオール” 向かう際に “帰らずの森” の近くを通る必要があることだった。
森に近くを通るのは少々嫌だったが、まあ、余程のことが無い限り迷い込んだり問題が起こることもないだろうと思い、早速馬車で出発したのだが・・・・・
まさか、移動の馬車で居眠りしてただけで・・・・・・こんな事になろうとは
一体どういう経緯でこうなったのか見当も付かないが、とにかく俺は、意図せずして
“帰らずの森”に迷い込んでしまったようだ。
「本当に、目が覚めて見たらこれって・・・・・・どうなってんだよ」
肩をがっくり落とし、もう一度身の回りに散らばっている持ち物を確認してみた。
幸い、目が覚めて見ると近くに俺の荷物だけが残されていたので、何か盗まれていないか確認しておかなくては。
もし、何か無くなっていたのなら、これは盗賊にでも襲われてそのまま捨てられた
と予測が立てられる。
何の理由も無くこんな所に寝ていたのでは、正直正気では居られない
俺は、自らが腰に付けているベルトバッグを外し、中の物をゴソゴソと混ぜっ返した。
バッグには、依頼に使うであろう様々な薬草の束・当て布・添え木・丸薬なんかを入れていた。
もう片方には、自分が使う薬草や携帯食料なんかを入れていた。
コンパスや依頼書の写しなんかもここに入れている。
あとは、先ほど投げた同じ短剣が二つ
後は、飲み水と武器として使う他の物よりも少し長めの短剣
そして、最近発売された携帯用簡易調合セット
これは、魔道具学の分野で最近販売を開始した物だ。
俺のような生産系の職業のやつが使う道具を、かなり小さな箱の様な物に圧縮し、備え付けのボタンを押すだけで道具が一式出てくる物だ。
これを買ったとき、おもしろくて何度も出したりしまったりして遊んでしまった。
まあ、これを買ったせいで金がなくなり、依頼を受ける羽目になり、今の状況になっているのだが・・・
と、とにかく、俺の持ち物は一つも欠けることなくすべてあり、一先ずほっとしたのだが、それと同時に落胆していた。
(せめて、盗賊の仕業であって欲しかった・・・・・そうしたら、そいつらの痕跡を追って外まで出られたかもしれないのに)
実は、この“帰らずの森”ではある奇妙な特徴が有るのだ。
この森は、冒険者含め人が迷い込めば、生きて森を抜けることは難しい
だが、例外が存在するのだ。
それが、 “犯罪者や盗賊” なのだ。
一部の該当する人が、何事も無く森を抜けることに何度も成功しているというのだ。
もちろん、すべての犯罪者・盗賊が助かる訳では無く、本当に一部の奴らが生還しているのだ。
どういう原理でそうなっているのかは知らないが、生き残ったやつから話を聞いた事があるから分かる。
なので、犯罪者や盗賊を生業としている奴らは、この森を “帰らずの森” とは呼ばず “生死の審判” と呼んでいるそうだ。
もし、これが盗賊の仕業で、無事に生還している場合、様々な痕跡を追って森を抜けられたかもしれないのだ。
これでも、ケリスはレンジャーなので、人の残す痕跡や行動パターンを予測することは得意なのだ。
だが、今回は本当にそういった物が近くに見当たらないし・・・・・・そもそも、人がこの近くに来た形跡すら見当たらないのだ。
なのに、なぜ俺はこんな森のど真ん中で寝てたんだ・・・・?
そもそも、俺はどうやってここに???
運ばれた形跡はないし、上から落ちてきたなら、枝や葉が落ちていても可笑しくないのだが・・・
俺は改めて上を見上げてみたり、自分の足下を確認して見たが、特にこれと言った物は見受けられない。
本当に不可解だ
まるで、突然ここに飛ばされたように、何も形跡が無い
それに、ここは “帰らずの森” なのだ。しかも、今は俺一人でパーティーなんて居ない
戦闘レベルも、中堅どころか素人に毛が生えた程度だ。
俺は、周りの緑が生い茂っている箇所や頭上に意識を分散させ、生き物の気配を探った。
これは、レンジャーになる上で身につけなければいけない能力だ。
簡単にいると、自分を中心に数メートル範囲の動く物を感知するのだ。
幸いにも、今は近くに何も居ないようだが、魔物が多く個体がかなり強いことで有名な場所なのだ。
「あー・・・・・これ、本当に困ったなぁ。もし今魔物にでも襲われたら――――――」
そう呟きつつ、背後へ意識を探っていて、何か動く物を感知し、俺はそこで口をつぐんだ。
もう少し意識を集中すると、ボンヤリと楕円形のシルエットが浮かんできた。
どうやら、四足歩行型のようだ。
しかもこの気配は・・・・・魔物だな
俺は、他にも居ないかもう少し感知する範囲を伸ばして見た。
すると案の定、最初に感知した物と同じ個体がもう一つあった
位置にして、最初のが6時の方角なら、もう一つは少し離れた10時の方角くらい
10時の方向のやつは、じりじりと俺の正面の方へ移動していた。
つまり、もう一体が前方に回り込んで、挟み撃ちにするようだ。
おそらく、シルエットや動きから見て、魔物はイノシシ型の “ベルノーム” だろう
俺は、魔物の正体におおよその見当を付け、少し抱け安堵する。
確かに強力な個体だが、ベルノームであるば、何とかなるかもしれない。
この手の魔物は、自らの巨体と突進力を生かし、獲物を轢き殺す傾向が高い。
実際、べルノームはそういう攻撃手段しか持ち得ない。
この森の魔物だけに、油断は出来ないが、それ以外の攻撃は考えにくい。
つまり、俺ばとるべき先方としては――――――
「ブルルルォォォオオオオ」
「プギィィィイイイイイイ」
俺は自らの身の振る舞いを確定しようとしたその刹那
二匹が同時に雄叫びを上げながら、突進してきたのだ。
姿を現したのは、やはりベルノーム
しかも、一般的に知られている茶色の毛では無く、真っ白で綺麗な毛だった。
二匹は、まるで荒れ狂う馬車のような早さで、凄まじい轟音をとどろかせながらどんどん俺に迫ってきていた。
通り道に生えていた草や枝、細めの木々は簡単に蹴散らしながら、本当に一直線に俺へと向かってくる。
これがもし不意打ちならば、多少動揺しただろうが、俺がレンジャーだったのが失敗だったな。
冷静に分析する時間もあったので、俺は当初の予定通りの行動することにした。
しばらく前後から迫ってくるベルノームの片方を見据えたまま、ある程度の距離まで迫ってくるのを待ち構えた。
そして、僅かではあるが、後方から来る個体の方が早く、そいつが勝ちどきのような鳴き声を上げ、勢いよく頭を振りかぶった。
それを待っていたッッ!!!!
俺は、勢いよく背後のベルノームに向けて掛けた。
そして、タイミングを合わせて足を思いっきり折り曲げ、右手をベルノームの頭に付いた。
ベルノームは、既に頭を振りかぶって、かなり低い位置に頭が下がっている
そのまま、付いた右手で軽くヒョイッとはじいてやる
すると、俺の身体はびっくりするくらい高く上がり、そのままベルノームの頭の上を通り過ぎ
背中の少し出っ張った部分に着地する事に成功した。
ベルノームは、突然俺が目の前から消えたことに驚き、戸惑うような声を上げていた。
いやいや、そんなことよりな?
「前方注意だぞ、っと」
俺が真下のベルノームにそう声かけた瞬間、俺の前方から来ていた方のベルノームと俺の乗っているベルノームが勢いもそのままに、見事に衝突事故を起こしたのだった。
お互いに、勢いを緩めずぶつかったため、脳しんとうの様な物を起こしているのか、その場で足を折りたたんで、二匹とも目をグルグルと回していた。
俺は、今のうちに逃げてしまおうと、ヒョイッとベルノームから降りて、ちゃんと気絶していることを確認しようとした。
すると、二匹とも額辺り僅かに赤く染まっていることに気がついた。
近づいて確認して見ると、綺麗な白い毛の隙間から流血しており、血が出ている箇所がバックリ切れていたのだ。
うわっちゃー、これは痛いなぁ・・・
しかも、かなり大きく切れてるな
まっずいなぁ、これじゃすぐに血が足りなくなる
最悪、ここで死んじまうな・・・・・
俺は、しばらく目を回して伸びている二匹を交互に見て、どうするか悩んだ。
そして、さんざん悩んだ挙げ句、依頼で持ってきた薬を少し使い、傷の手当てをする事にした。
っと言っても、傷口を軽く水で流し、薬草を塗った当て布を巻いてやっただけだが
まあ、そのまま放置するよりいいだろ
一通り応急処置を終えた俺は、取り出した道具をしっかりしまい、そのままその場を去ったのだった。
とにかく、早くこの森を出なければ、俺に未来は無い!!!!
こうして俺は、自らのレンジャーとしての勘を信じ、深い森の中を進み始めたのだった。
森の中を疾走するその姿を、静かに観察している者が居ることにも気づかずに・・・・・
==============
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・あー、クソッ!!!また戻ってきちまったッ!!!!」
息を切らせながら悪態をつき、俺は再び同じ樹に傷を付けた。
ベルノーム達から離れた俺は、周りの景色を目印に森を抜けることを決意したのだが、レンジャーの知識を持ってしても区別が付かなかった。
なので、原始的で誰でも思いつきそうだが、手近にあった樹の幹にナイフで傷を刻み付けていき、俺が通った道を残していこうと考えたのだ。
こうすれば、仮に元の場所を堂々巡りしていたとしてもすぐに気がつく。
そう、気がつくのだが・・・・・
「これで七週目かよ!!!、何でどっちに行ってもここに戻ってくるんだよ!!」
そうなのだ、どんな方向へ進路をとっても、必ず行って良いほど最初に傷を付けた樹の場所へ戻ってきてしまうのだ。
もちろん、魔物が付けたものではなく、俺自身が付けた傷で間違いない
なにせ、確実に分かるようにわざわざ傷を「3」を向かい合わせにさせた様な形にしてるのだ。
そして、最初に来た樹には既に、今付けた傷も併せて七個も付いているのだ
既に、この樹を中心に七方位をつぶした事になっていた。
残るは、この樹を背にしてちょうど正面に樹のある方角だけだった。
行くしか無いのだが、どうもまた戻ってくるのでは無いかという不安が俺の中で渦巻いた。
だが、すぐにその考えを頭から追い出し、一度顔をたたいて気合いを入れ、残っている方へ歩き出した。
このとき、進行方向の樹にしっかり傷をつけておく。
また最初の樹に戻ってきたら今度こそお手上げなのだが、やらないよりはマシなのだ。
しばらく傷が付いていない樹をたどってどんどん進んでいると、嬉しいことに景色に変化が現れた。
「おっ、道に出たな・・・・・それに、あれは看板か?」
木々の間を縫って進んでいると、突然人が通るような道に抜けられた。
そして、左右をキョロキョロしていると、少し遠くの方に看板が一つ立てられているのが見えた。
もしかすると、森を抜けるためのヒントになっているかもしれにと思い、看板の元へ駆け寄った。
近づいてみると分かったのだが、看板が立てられているのは道の真ん中で、看板よりさらに先は、同じような道が二手に分かれていた。
一体誰がこんな物を・・・・?
もしかすると、盗賊達が仲間に道を伝えるために作ったのか?
いや、いまはいいか・・・
それより、看板には何が書いてあるか――――――――
そうして、看板に目を向けて書いてあることを確認し、俺は絶句してしまった。
{ ← 森の賢者ちゃんの泉&お家
※注 (超絶美人で頭脳明晰!! あなたのハートもイチコロ☆ 遊びに来てね~)
こっちは “魔物の巣” だよ☆ →
※注 (死にたいならこっちだねw そんなことより、私に会いに来て~)}
な、な、なんだこの看板・・・・
誰かの悪ふざけか?
俺は、書かれていることに衝撃を受けてしまった。
注意書きや無駄な装飾はともかく、書かれていること自体はおそらく正しいのだろう。
しかし、見事に左以外の選択肢が無いな
左に行けば、この看板を立てたであろう“森の賢者”とか言うやつに会えるのだろう
右は論外だ、この看板がデタラメであればいいが、わざわざ忠告してくれているんだ
この森のことなので、夥しい数の恐ろしく強い魔物が居るに違いない。
「さて・・・・・どうするか。悪ふざけなら、どちらもモンスターの巣という可能性も考えられるぞ?
・・・・一度、引き返した方が――――――――」
そう思って踵を返して歩き始めようとしたら、なぜかそこには先ほどの看板と似たような物が立っていた。
・・・・・さっき立ってなかったよな、この看板
いつの間に・・・森の賢者ってやつの仕業か?
もしかして、今も近くで俺のことを観察でもしてるのか?
俺は、看板の前に立ったまま、周りの茂みに意識を集中させてみたり、看板の周りに何かの痕跡が無いか探してみた。
だが、これと言った物は無く、何の気配も感じられなかった。
(気味が悪いな・・・・看板にはなんて―――――)
得体の知れない存在に少々寒気を感じつつ、新しく出現した看板を見てみると、これまた何とも言えない言葉が書かれていた。
{私、ふざけてないもんっ!!!!!}
どうやら、森の賢者は怒っているらしい・・・
それに、もう一つ分かったことは、この看板は一見元々あった物の様に見えるが、よく見ると看板の板として使われている樹の組み方や大きさ、看板に施している塗装など、全く同じ物のようだ。
これは、おそらく森の賢者があらかじめ複数用意していた物なのだろう。
目的は分からないが、とにかく俺を自分の所へ誘導しようとしているらしい・・・・
俺は、最初の看板の方へ向き直り、再びどちらに行くか悩んでいるフリをした。
すこし、鎌を掛けてみようか?
俺は、さも悩み抜いて決めたような顔で、分かれ道の右に進んでみた。
すると、道のすぐ先に看板があり、俺は迷いなくその看板を読んでみた。
{ ※注 この先、魔物の巣!!!!
本当に死んじゃうよ?
どうなっても知らないよ?
悪い事言わないから引き返して? }
どうやら、森の賢者はどうしてもこちらに行って欲しくないようだ。
俺は、目の前の看板の脇を抜け、さらに進もうとしたのだが、3メートルも離れていない位置にもう一枚看板が立っていた。
それを読んでみると
{ =WARNING!!=
この先、最強の魔物の住処!!
いいから、今すぐ回れ右ッ!!
=WARNING!!= }
おお、本当にやばそうだなこれ・・・・
でも、もう少し確かめてみても――――――――
そう考えて歩き出そうとすると、突然俺の目の前に ザクッ という音とともに看板が出現した。
その看板には、今までとは違い真っ赤な文字でしかも少々殴り書きの様な感じでこう書かれていた。
{ いいから戻れッ!!!!
ここに魔物呼び出すぞコノヤローッ!!! }
「・・・・とりあえず、どっかで俺の様子を見ているのだけは分かったな」
俺はそう呟いて、最初の看板がある所まで戻ることにした。
だが、あれだけ頻繁に看板を立てられていたのに、気配どころかいつ置かれたのかすら分からなかった。
本当に、何者なのだろう・・・・森の賢者というのは
俺は未だ正体のしれない森の賢者の事を考えながら、そいつが居るという方へと進み始めた。
このとき、俺はまだ知らなかった
この、森の賢者との出会いが
俺の人生を大きく変える結果になるなんて・・・・・・
どうも、初めまして
作者の 蛇炉 と書いて ジャロ と言います
今回は、この作品を読んでいただき本当にありがとうございます
この作品は、いかがだったでしょうか?
楽しんでいただけたのであれば、嬉しいです。
一身上の都合で、更新が不定期でかなり遅れてしまうことがあるかもしれませんが、気長にお待ちください。
感想、意見、ご指摘等があれば是非ともお書きください
では、私はこの辺りで失礼します