第五話 ドーピング
忙しくなる為、少し更新速度が落ちます。
目覚めると包まったピンクの毛布が目に映る。そして防錆剤である茶色の壁。
――ああ、そうか。俺は異世界に来たんだっけ――
寝ている間、少しうなされたかもしれない。いつもより多めに汗をかいている。流石に洗濯したいな。服に血や泥が付いたままなので、あまり気分は良くない。
だが今日外で資材を集めてpt変換すれば、予備の服も洗剤も手に入るだろう。それまでは我慢だ。
洗面器を出し、水で顔を洗って食事に移る。栄養が偏るが、創造時初回作成時にかかる大き目のptを警戒して、昨夜と同じ中華丼を創造してもらった。食べた後はちゃんと歯を磨いておく。
マスクをかけたら一階部分に降り、周囲を警戒する。相変わらず兵士の死体がゴロゴロしているが、狼などの獣や魔物は周囲にいない。あと、戦場の様子を見に斥候が来ていてもおかしく無い筈だが、今のところそれも見当たらない。警戒だけはしておこう。
「さて、あまり気が進まないけど今日も頑張りますか。」
一階部分にある鉄格子の外に出て、黙々と兵士の死体を収納していく。太陽が中天にかかる頃には二千七百人分の死体を収集していた。昨日と合わせて三千七百人収容したのだが、まだまだ死体がある。一体どれだけの規模の戦闘があったのだろうか?
昼食の為、拠点に戻る。昼食を出す前に残りptを見たが、二万を切っていた。だがptを追加する為の資材も手に入ったので、そろそろ中華丼以外の料理を創造依頼出しても問題ないだろう。このまま同じ料理を食べ続けるのは体に悪い。
慣れない場所を歩き回っているので、運動量は結構な物になっていると思う。だから炭水化物は必須だし、筋肉をつける為のたんぱく質も必要だ。だけどまだ肉は食いたくないな。
そんな訳で昼食はごはんと味噌汁、豆サラダにモズクの酢漬けにした。モズクはこの場所の臭いがきついので、酢でも飲めば気が引き締まるのではないかと思い注文したものだ。
食べてみると幾分気持ちが持ち直したので、頼んで正解だったのだろう。
午後は軽めに死体の収集をし、七百人分以上を集めたところで、蓄積した疲労が体の動きを鈍らせた。日が落ちる前にやっておきたい事もあるので拠点に戻った。
「いい加減、着替えたいんだよな。昼も夜も同じ格好だし。」
まず着替えを創造依頼する事にした。ただし見た目はこの地にあった服装だ。デザインはやや地味な物を神様にお願いする。上着やズボンについては表面上、仕立てが少し良い程度。ただし、擦れて痒くなると困るので、素材だけはコットン100%にする。シャツは襟や袖のゴムは無くしてこの世界に合う様に。下着は見られる事もないので日本と同じクオリティーの物を頼んだ。
着替えが完成したら、体を拭いて着替え、一階で今迄着ていた服を水で薄めた漂白剤へ漬け込む。服に付いた血の跡を消す為だ。
漂白している間手が空いたので、兵士の装備の大半をptへ変換する。今回は流石に回収した装備が多かった為、ptが二億六千万を超えた。うはっ、これは凄い。逆算してみたのだが、兵士一人当たりの装備が、武器を含めて十五kg前後らしい。現代のパレードなどで使われる軽い装備ではなく、ヘルメットに加え、薄手ではあるがチェインメイルも着込んでいる。
ふと思ったのだが、兵士がこれだけの物を装備しているという事は、相当な力のある国家の軍隊ではないだろうか? 兵士一人に十五kgもの鉄を使える国家というのはそう多くないと思うのだが。
あと、これも気になった事だが、兵士の装備が全て統一されているのだ。敵国と戦った場合、装備は二つ以上の種類が有る筈。それがほぼ一種類しかないのだ。これはもしかすると、強大な国家で内乱が起きたのかもしれない。何か強大な存在――、例えばドラゴン等と戦って敗れた事も考えたが、人間同士で争って死んでいるのでそれは無いだろう。
――という事は、その戦争に巻き込まれる事も考えられるのか。これは面倒だな。早急に対応出来る様に、仲間を創造してもらうか――、いや待てよ、強い仲間よりもまず自分が強くなった方が良くないか?
ステータスを開くと、ステータスの称号に死体収集家というものが追加されていた。不本意だ、別に好きで死体を集めているんじゃない。
能力値を見ると、そこには相変わらず評価Hばかりのステータスが並んでいた。昨夜構っていて分かったのだが、評価Hは一般成人と同じくらいの強さらしい。因みに兵士は評価Gだ。つまり油断するとあっという間に殺されてしまう可能性がある。つまり今、強力な仲間を作っても自分が足手纏いになってしまうのだ。それは今後の為には良くないだろう。ならば自分が手っ取り早く強くなる方法を模索した方が良いか。
この地でトレーニングをする訳にもいかないので、ドーピングが出来るか、クリエイトで模索する。シミュレートした結果、ステータスの一項目を評価HからGへ上げるポーションを作成するのが、コスト的に見て安く済みそうだ。単に一段階上げようとするとSからLへ上げる場合も有効になる為、その分高くなる。あれもこれも望むより、効果を限定する方が、クリエイトの賢い使い方の様だ。
ではその線でいこう。作成するのはSTR、AGI、DEXそれぞれのステータスをHからGへ上げるポーションだ。名称は適当に『STR上昇ポーション【G】』等と付けてみた。
あと今後の事を考えて、成長力を上げる物も作ってみる。こちらは『STR成長力上昇ポーション【G】』と銘打っておいた。
出来上がったポーションをヤードから取り出した。一本200~300ccくらいだ。瓶の蓋を開けて早速一口飲んでみる。
「まっ――――ずい!もう一杯!」
違う、そうじゃない。しかしあまりの不味さに噴きそうになった。なんと言うか、形容し難い不味さだ。甘くてしょっぱくて苦くてねっとりして生臭くて…おまけに飲んだ後、鼻の奥に男のアレの臭いが残る。何これ人間が飲む物じゃない。
いや、この不味さに心当たりはあるんだよ。味に関して不味いって入力したら、消費ptが安くなったから、調子に乗って凄く不味いって設定したんだ。お陰で消費ptが、上昇ポーションは一瓶5万、成長力上昇ポーションは10万ptで済んだからある意味助かったが。しかしこんなに不味い物を全部飲み切れるのか? まだ一口飲んだだけであと六本未満もあるのだが。
正直飲みたくはないのだが、ステータスを上げなければ殺される可能性は高いままだし、せっかく作った物を捨てる訳にもいかない。意を決してポーションを一気飲みしていく。何度も喉が拒否して吐き出しそうになるのだが、それを何とか抑え込んで胃の中へ流し込む。自分でも一口飲むだけで、SAN値がガンガン削られていくのが分かる。なんだか意識が朦朧としてきた。
そして六本飲み切った俺は、――その場で意識を失った――。