第四話 シミュレート
第一話 加筆しました
拠点の二階に上った俺は、床に空いている穴の上で水、石鹸を出して手を洗い、タオルで拭いた。流石に死体に触れて回ったので、手は血と泥でかなり汚くなっていて、洗い流すのに苦労した。
手を洗ったあとは、最低限の住環境を整える事にした。何しろ殺風景だし、断熱材すら入っていない。今は拠点が夕日を受けて、室温が徐々に暖かくなってきているのだが、夜になれば予想以上に冷えるだろう。金属は熱を放出する性質があるので、そういった意味では住居にはあまり向かない。
「さてと…、あと幾らあるのかな?」
千人もの兵士の装備を取り込んだのだから、さぞ大量の物資とptが残っているかと思っていたのだが――、残りのptを確認したら、あと五万ptぐらいしか残ってない。インゴットも装備も全部使い切っていた。
残っているのは兵士の死体ぐらいだ。ヤードに入れっぱなしも嫌だが、その辺に放置しても邪魔だ。そのままにしておこう。ちなみに装備をpt交換する時に死体まで突っ込もうとしたら拒否され、死体だけ突っ返された。そんな訳で死体は全てすっぽんぽんだ。全裸ですよ全裸。男兵士の裸とか見たくない。
あとは騎士達が持っていた金貨が3枚、銀貨が12枚、銅貨が18枚だ。これは町に行った時使うかもしれない。とっておこう。金額が分からないので少ないかもしれないが、物資はまだ外に一杯転がっている。敵さえいなければ明日も回収出来るだろう。
床が冷える為、俺はスマホに書き溜められた情報を調べ、残りのptを使って、クリエイトでキャンピングマットを2枚創造依頼した。日本で買えば一枚千円で買えるのだが、ここでは技術が無い為、結構お高い。二枚で六千ptも使った。アルミやポリエステル、ポリエチレンが使われているから仕方ない。
それから布団替わりに厚めの毛布を四枚、こちらは大きさに比べ、まだ安いほうだ。四枚で二万ptだった。さっき頼んだキャンピングマットには、わずかだが毛布の材質であるポリエステルが使われている。ポリエステル素材が二回目の依頼だったから安くなったのだろう。
あ、じゃあ、さっきのキャンピングマットを頼む時に、まず一枚だけ頼んで、二枚目から安く作って貰えば良かったのか。地味に損をした。
明かりはLEDランタンが欲しかったのだが、かなり技術が高いのか、十五万ptも請求された。とてもptが足りない為、ラベンダーの香りがするアロマキャンドルと、マッチで代用した。火を点けてしばらくすると、ラベンダーの鎮静作用で気持ちが幾分落ち着いてきた。異世界へ来て気分が高揚してはいるが、大量の死体に触れて回ったので気が滅入っていたところだ。これは地味に助かる。
あとは…、飯だな。正直食欲は無いが、食べなければ明日からの活動に差し支える。無理をしてでも食べなければいけない。ただし、今日は肉塊を散々見たので、ハンバーグやステーキはご免被る。口にした途端にまた吐きそうだ。
あまり肉を使って無い料理か…、中華丼にでもするか。胃へ流し込めるから、これなら食べられそうだ。使用している材料と調理法をクリエイトへ入力し、料理に付属する皿とスプーンは木製にした。発泡スチロールの皿なんか出したら、またptがかかるので今回は止めておいた。
出てきた中華丼は、レトルトパウチの物とは味が違うが、美味しく頂けた。分量や炒める時間はきっちり入力していたので、大丈夫だろうと思ってはいたが、これで不味かったらブチ切れていたかもしれない。食べ終わったらちゃんと歯を磨いておく。異世界で虫歯になっても誰も治してくれないからな。異世界人は歯が命!
あとやる事を考えてみたが、風呂は当然無理だ。水とタオルで体だけ拭いておく。他は武器防具を作っておきたいが――、こちらもptが足りなくてどうにもならない。他にやる事はなさそうだな。止むをえない。スマホの電源を切って、毛布にくるまって、お休みなさーい。
――って、待て待て! 肝心な事を忘れてる!
元々神様に『美少女も創造出来るよ?』と、言われたから異世界へ来たんだ。だから、今はpt足りなくて無理ではあっても、どれだけのptを消費すれば、美少女が創造出来るか確認しておかねば!
早速メニューを開き、何を作ろうか考える。やっぱりハイエルフとか良いよね。美人だし、魔法も強そうだし。能力はやっぱり強い方が良いな。好感度も高いと嬉しい。何か欲望に塗れているが、男とはそういう生き物なのだ。これは仕方ない。妄想している分にはタダだから問題ないのだ、ぐへへ。
…等と自分を無理やり肯定しつつ、創造依頼する種類へハイエルフと入力する。すると、別のウィンドウが出てきた。そこには年齢やステータスの欄が並んでいて、各項目毎にスライドバーがあり、ステータスを最小値から最大値まで細かく設定出来る様になっている。設定した数値で各ランクがL級からI級迄項目が沢山有り、結構細かい部分まで設定出来るようだ。これは嬉しい。
早速、入力してみる事にした。やっぱり最初はお約束で、全ステータスをL級に全振りですよ。皆キャラクター設定でこういう事するよね? ね?ね?
ではこれでpt幾らになるか確認してみよう。えーっと…、桁が一、十、百、千、万、十万――。
――必要pt およそ三兆――
ですよねー…。しかし、分かってはいたけどこれほどとは…。一生かかっても無理じゃね?種族を変更したり能力を下げなければダメだな。まあ、それは良いんだ、それは。一番問題なのは見た目。設定するウィンドウとは別に、創造する人物の見た目をシミュレートした映像が表示されているのだが――、そこには顔が出鱈目な程に美しいけれど、頭身が高く、筋肉ムキムキで乳房と臀部がやたら大きく、胴回りが極端に細い女性ハイエルフが映っていた。
――無ぇーわ、流石にこれは無ぇーわ――
シミュレートされたデータを見てみたが、身長2m80cmとか、もうエルフでも何でもないのだが。何この化け物。しかも成長力までL級なので、これよりも見た目が大きくなる可能性がある。何でもL級に極振りしてはいけないって事か。良い教訓になりました。
その後色々構ってみて、幾つか分かった事がある。好感度をL級にすると、対象が好き過ぎてヤンデレ化するとか、顔の美しさをL級にすると傾国の美女クラスになり、大半の異性が魅了されて争いが起こるとか…。さっきの例で行くと、長身ガチムチハイエルフがヤンデレ化して迫って来る訳か。しかも自分も他人も魅了され、果てし無き争いが起きると。嫌過ぎる。
あと、やはりハイエルフはコストが高すぎる様だ。どうやってもコストが高くなる。
そこで人間に設定してみたら、コスト的には大分安くなった。ただそれでも強い部類になると、軽く一千万は超えているので今日は無理だ。
「うーん…、早く異世界嫁が欲しい。」
嫁かどうかは別にしても、早く話相手が欲しい。異世界へ来てまだ誰とも会話をしていないし、発する言葉は全て独り言だ。見かけた人間は全部死んでるから会話出来ない。あ、いかん、考えると脳裏に死体がチラついて気が滅入る。もういいから寝てしまおう。
――明日はもう少し世界が優しく有りますように――