第三話 異世界はいきなりハードモード?
三話目です。初めてブックマークがつきました。とても嬉しいです。
励みに頑張るので、今後とも宜しくお願いします。
神様がいた空間から異世界へ送還された時、視界が白くなり周囲が見えなくなったが、段々と視界が戻ってきた。さて、俺は何処へ転移されたのかな?定番だと森の中や小屋の中だと思うんだけどな。
そうやって期待に胸を膨らませていたのだが…、視界が晴れて周囲を目にした時、俺は絶句した。
送還された場所はおそらく平原だが――、周囲に広がるのは大量に転がっている兵士の死体だった。ある者は袈裟切りに切られ、ある者は槍で腹部を貫かれ、皆が一様に苦悶の表情を浮かべて絶命していた。そんな光景が俺の前にも後ろにも、遠く向こうの方まで続いているのだ。俺が言葉を失うのも無理はない。
「な…、なんだよこれ…。」
やっと絞り出した言葉がこれだ。今迄は意気揚々としていたのに、どん底に落とされた気分だ。正直、考えが全くまとまらない。
ふと、鼻を突く臭いを感じた。周囲に立ち込めている、兵士達から漂う血の臭いだ。臭いが鼻の奥を、喉を刺激して胃からこみ上げてくる。
「うううぉぉぉええええっ。」
我慢したが無理だった。あまり中身も入っていない胃の中身が全て吐き出され、目の前に転がっていた死体の顔にぶちまけられる。
「うぅ、くそぉっ」
神様、なんてところに送ってくれるんだよ!幾ら創造に必要な物が不足してるからって!
メニューを開いてペットボトル入りの水を出し、口の中をゆすぎ残りを飲み込む。そしてマスクを顔にかけて臭いを防ぎ、気持ちが落ち着くのを待つ。しばらく座り込んでいると頭が冷静になってきたが、送還されてから30分が経過していた。葬式で亡くなった遺体を見た事は何回かあるが、これだけ大量の、殺された遺体を見た事は初めてだ。やはりこの地で戦争があったのだろうか。神様は一体ここで何をしろというんだろうか。
「やっぱり…、こういうことだよな…。」
俺は目の前の死体に手を触れ、『収納』と念じた。目の前の死体が身に着けていた装備ごと消え、ディメンジョンヤードに一体の死体と、ヘルムやチェインメイル等の装備一式が収納された。これを材料に使えという事か…。
ここでぼさっとしていても仕方ない。今は大規模な戦闘が終わった後らしく、日は傾きかけている。幸いにして、周囲に生きている兵士や魔物はいないが、このまま夜になったら何が出てくるか分かったもんじゃない。兎に角、周囲に転がっている死体を手当たりしだいヤードへ取り込んだ。先ずは拠点作りだ。
兵士の死体を取り込みながら、どんな拠点が良いか考えてみる。テントはダメだ。ptの節約にはなるが、兵士や魔物がやってきたらあっという間に殺される。プレハブもまずいな。狼辺りなら問題ないが、ゴブリン辺りには通用しないだろう。そうなると生半可な防御力を持つ拠点ではまずい。ならば大量に鉄材を集めて出来る範囲で堅牢な拠点を作る他はないだろう。
一時間程経ったろうか。ヤードの中には1,000を超える死体とそれらの装備品が入っていた。正直、体はへとへとで足が前へ進まない。日も大分傾いて来たから、そろそろ頃合いだろう。さっさと拠点を用意しようか。
設計図を頭に描きながら、急ピッチでクリエイトのフォームに入力する。鉄材を集めるのに時間がかかっているから、早くしないと日が暮れる。
製作するのは鋼材で出来た二階建ての建物。柱は一階から二階まで鉄骨で作り、基礎はコンクリート。住居部分は二階のみで、二階の床面に開いた穴から一階へ梯子を行き来して移動する。梯子は取り外し出来る様にして、二階床面の穴は蓋が出来る様にしておく。
一階は壁が無い代わりに鉄格子で囲む。いざ魔物に囲まれたら内側から槍で突く寸法だ。玄関は無いが、一階の鉄格子の一部を扉にしておく。閂と南京錠を使えば、鉄格子を破らない限り入って来れないだろう。二階の窓は小窓にしておこう。二階から物を投下する為だ。ただ、鳥や虫は入って来れないように、普段は木材で蓋をしておこう。あとは拠点全体に錆び止め塗料を塗って完了だ。
早速創造依頼を出したら、神様から200万ptも請求された。当然だけどpt足りねえよ! やはり鉄材を鋼材に変更した事が原因かな。あとは基礎のコンクリートか。この世界にはモルタルは存在するだろうが、砂利を細かく砕いて混ぜ合わせたコンクリートはおそらく無いと思う。まあ、分かり切ってはいた事なので、兵士の装備をpt変換してなんとか間に合わせる。拠点はこれで完成だ。しかし、いざ拠点を置こうとしたのだが、まだ拠点を置く場所が整備してない事に気づいた。
遺体が転がって居ない場所の土地を収納して水平にし、更に基礎が埋められるだけの穴のサイズを指定して収納。こんなところか。
ヤードから物を取り出す方法を聞いていなかったので焦ったが、メニューの外へドラッグ&ドロップすれば取り出す事が出来た。しかも、拠点を置きたかった場所へ勝手に置かれたので、手間が省けて助かった。終わりに手抜き工事ではあるが、収納した土を基礎へ被せて、シャベルでならして完成。
完成した拠点は防錆剤の色で一面茶色だ。まあ、味気が無いが仕方ないだろう。妥協した点も多くあるが、ここに滞在する期間はおそらく短い。短期間、自分の身を集中的に守るならこんな感じで十分かなとも思う。
本当の事を言うと、こんな死体ばっかり転がっている場所で寝泊まりしたくない。臭いも酷いし、夜中寝ている時に絶対うなされる。早く町へ行って宿屋でぐっすりと眠りたい。だが、見渡す限り平原と遺体が転がっている状況では、それもままならない。今夜、今後の対策をしっかり練ろう。
俺は鉄格子の扉を開けて拠点入りした。前途多難ではあるが、異世界へ来てしまった以上、四の五の言ってられない。
この世界でのし上がっていくつもりでいるんだからな。