第二話 神様から召喚されました
神様から召喚されてチュートリアルを受けます。
5/2 改稿2回目
体にスイッチが入った。昼寝から目が覚めたようだ。目を開けてみると昼寝する直前迄見ていた天井が無く、見えるのは真っ白な風景だった。
――あれ、俺どこで寝たんだっけ――
体を起こして見たのだが、そこは何も無かった。昼寝する前に有った炬燵やノートパソコンどころかアパートすらなく、ただただ、真っ白な空間がひたすら広がっていた。目は覚ましたとおもうのだが、まだ寝惚けているのだろうか。夢にしては意識がはっきりしていると思うのだが…。
「お目覚めかな? 黒木 啓司君。」
目が覚めかけてきた頃、白い空間に誰かの声が軽く響く様に発せられた。やや穏やかに感じられる男性の声だった。しかしながら、辺りを見渡しても自分の他に人の姿は無く、声を発した人物は確認出来ない。日頃よく読む小説でありがちなパターン。これってもしかして――。
「ご明察。これが異世界転移だよ、黒木 啓司君。」
――本当かよ――
まさか異世界転移小説とか書いている本人が転移するとは思わなかったな。しかもエタりそうになって絶望していた奴が。
こういうのって世界に影響があるからとか言って、ダンプに轢かれて死にそうな人間しか対象にしないんじゃないのか?
「私に関してはその様な縛りはないよ。そんな事言っていたら希望する人材を得る事が出来ないからね。」
ああ、成程。幾ら神様に時間があるとは言っても、何時までも待っていられないって訳か。俺だって欲しい物を得るのに何十年も待っていられない。会社の給料をやりくりしたり、ローンを組んで手に入れるからな。手に入れたい物を、興味を無くす前に手に入れるのは基本だと言えよう。
――っていうか、普通に心を読んでくるんだな。神様と思っていたけど、本当に神様なのかな?
「君のいる世界の神ではないけどね。私は別の世界に存在する創造神、サトリアーニだ。会話出来るのはこの場所だけだが、宜しく頼むよ。」
おおう…、なんかどっかのギタリストみたいな名前来たわ。まあ、そんな事はどうでもいい。それよりも異世界へ転移するのであれば、もっと重要な事を聞かなければいけない。それは――、
「勿論、チートもあげるよ? 私の能力に関する物だがね。」
ちょ、神様心を読むだけでなく、先読みしてきたんですけど。
「あまり時間もないしね。この後チュートリアルもしなければならないから。」
チュートリアルですか…、ちょっとベタだがワクワクしてきたよ。それで神様の能力に関するチートとは一体?
「先程も伝えたが、私は創造神だ。つまり創造を行う事に関するチートを君に与えよう。ただし、君自身が創造を行うのではない。私が君の要求に答え、様々な創造した物を君に手渡す形になる。」
ほほう、それで? どんな形になるのですかね?
「その前に確認したいのだが、この話は受けて貰えるのかね? 受けて貰えないのであれば、チート能力もあげられないのだが。」
む、確かにそうだ。受けなければチートは貰えない。それには今の生活を捨てなければいけないのか。まあ、あんな険悪な雰囲気の中で会社勤めをする日々はごめんだ。もうこれ以上続けたくない。
だが…、家族や元同級生達と別れる事になるのか。正直家族に何も言わずに別れるのもどうかな。両親との仲はそこそこではあるが。
友達は多い訳でもなく、交流も少ない。と言うか、仕事の関係で疲れて遊ぶどころじゃないから交流もへったくれもないが。
「転移後は、君と関わりがあった人物から君という存在が有ったという、記憶が消える事になっている。下手に記憶を残しても色々と問題が生じてくるのでね。そういった訳だから、それについては了承して貰えると助かる。」
うーん…、記憶の消去か。自分が異世界に行ったら、おそらくは帰っては来れないだろうから、それは妥当だとは思う。
友達もいないし、両親から離れて新天地へ旅立ちたくないという訳でもない。ここで異世界行きを諦めれば一生後悔するかもしれん。
だが貰っても、強いチートではないという可能性もあるのかな。そうでなければ転移しても苦労するだろう。それは正直避けたい。
「美少女も創造出来るよ?」
「行きます!行かせて下さい!」
ハハハ、即答してしまった。まあ、仕方ないか。元々異世界に興味があったからこそ小説を書こうとしていたのだ、自分が行けるなら本望だ。それに美少女には勝てん。異世界行きたい様な人間の事を、神様はよく分かってらっしゃる様だ。
――止むを得ん。今迄の生活や人間関係は諦めよう。では神様、話を進めましょうか。
「うむ、話を受けてくれた事を感謝しよう。では力を与えようか。」
神様がそう言うと俺の体が淡い水色で包まれた。どうやらチートである能力が与えられた様だ。
「ではチュートリアルを始めようか。先ずはメニューオープンと念じてくれ。」
頭で念じてみると腹の前辺りの空間に、タッチパネルの様な物が出てきた。そこには左側に、ステータス等の文字が縦に並んで表示されている。
「今表示された物から、出来る事を選ぶ事が出来る。ステータスと念じるか、アイコンをタッチしてくれ。」
それによって画面右側にステータスが表示された。
名前:ケイジ・クロダ
性別:男 年齢:23歳
HP :H【H】
MP :H【H】
STR:H【H】
AGI:H【H】
VIT:H【H】
INT:H【H】
DEX:H【H】
LUK:H
APR:D
スキル:クリエイトオーダー【H】
リセイプト【E】
ディメンジョンヤード【E】
ポイントイクスチェンジ【H】
アナザーランゲージ【G】
称号:創造神の使徒
クリエイトpt:10,000pt
なんか評価Hばっかりだな…、まあHなのは否定しないが。ところで他とは違って数字での表記ではないのですね。
「ステータスは大まかな能力毎に分けられる為、この様な表記になっている。各項目について説明するが、各項目についてはゲーム等で既にしっているだろう。STRは力、AGIは敏捷、VITは体力、INTは知力、DEXは器用、機敏、LUKは幸運を表している。最高であるLのレジェンド級からS、A、B、C、D、E、F、G、H、最低のI迄十一段階で表される。【 】の中は成長力だ。この中の文字評価が高ければそれだけ早く成長する。因みにHは一般人レベルだ。Iは君の世界における小学生以下を表している。幸運は環境等に影響される為、成長はしないから成長力は存在しない。
次にAPRは容姿だ。顔だけでなくスタイル等も考慮される。ここは知らないだろうから覚えておいてくれ。因みに容姿は成長、鍛錬、老化に寄っても変化するので、評価は状態によって常に変化する。」
なるほどね、容姿か。それもパラメーターとして反映されるのか。そういえばレベルが表示されてないけどどうしてですか?
「レベルの表記は現在のところ存在しない。昔は有ったが種族の違いやスキルが原因で、同じレベルでも強さが極端に違う事例があって調整し切れない部分が有ってね。あまり参考にならないから廃止したのだ。まあ、ステータス全体を見て判断して欲しい。」
そうですか。ではスキルと称号の説明をお願いします。
「スキルだが、これもレベルの表記は無い。ただし大体の強さを表すランクが存在する。これは使用を重ねたり自分が工夫を重ねたりする事により、ランクが上がる様になっている。それでは実際にスキルを使って、使い方を覚えてもらおう。」
神様がそう言うと、俺の足元に少し大きめな金属製のインゴットが現れた。
「それは鉄のインゴットだ。まずリセイプトのスキルを使って貰おうか。インゴットに直接手を触れ、収納と念じて欲しい。」
しゃがんで鉄のインゴットに右手を触れ、『収納』と念じると鉄のインゴットが消え去った。おお、何か凄い。
「消えたインゴットはスキル名でもある、ディメンジョンヤードに収納された。他で言う異次元倉庫だね。ではメニューからヤードを選択してくれ。」
メニューから選択すると、現れたウィンドウの中にインゴットのアイコンがあり、左下に1と表示されている。タップしてみると『鉄のインゴット 5kg』と注釈が出た。結構重い物だった様だ。
「確認出来たら、次はメニューのクリエイトを選択してくれ。」
クリエイトを選択すると、ウィンドウが幾つか出てきた。何々…?クリエイトpt 10,000ptと表示されている欄、創造依頼する物の種類、創造依頼する物の名称、詳細を入力するフォーム、『素材を使用する時はここへドラッグ&ドロップして下さい。』と書かれた欄がある。これを使って物を作って貰うのか。
「クリエイトptは創造をする際に消費する物だ。今現在作れる物の上限と思って貰って良い。創造依頼する物の種類は例えば生物なら犬とか、無機物ならナイフとかだね。創造依頼する物の名称は、分からないなら種類と被っても良い。人類を作るなら人名を入れてくれ。詳細は生まれや年齢、製造方法や扱い方等を入力するとかかるptが節約出来る。余裕があれば入力した方が良い。ただし、間違った製造方法等を入力すると余計にptがかかってしまう。気を付けてくれ。」
ふむ、じゃあ創造依頼する時は、暇な時を選んで行った方が良いな。土壇場で創造依頼していたら間に合わなくて、命の危険がありそうだ。それにpt消費が多くなって損する可能性も高くなる。これは重要だな。
「では異世界で使う物を、実際に作ってみようか、せっかくインゴットが有るのだから、それを使用して鉄製の道具を作ってみようか。まずは必要事項を入力してくれ。あと、君は知識をスマホと言われている端末に入力していたね。ポケットに入っているから参考にしてくれ給え。」
あ、本当だ。スマホがジーパンの前ポケットに入っていた。これで異世界ライフがはかどる。
じゃあ、さっき神様もナイフとか言っていたし、ナイフを作ってみようか。長さも刃渡りがあまり長いと重くて扱い辛そうだ。取りあえず、10cmくらいのペティナイフにしよう。
早速フォームに入力していく。材質は鉄…いや、待て。ただの鉄だとすぐ曲がったり錆びたりしそうだ。先ずはテストとして包丁によく使われる、ステンレス製のナイフにしようか。固く、錆びにくい物にしたいな。サバイバルナイフに使われる高炭素鋼も有るけど、手入れが面倒そう。特に転移後はどんな状況下に置かれるか分からないから、サバイバルナイフを作っても、結局槍等の武器を作って使わずじまいって事もある。ならば今は作らない方が良いだろう。
では錆びにくさで定評のある440C鋼にしよう。材料は鉄を50%以上、クロムを17~18%、カーボンを1%、モリブデンを0.45%を混ぜ合わせた状態にすれば何とかなるかな?ニッケルの配合率は分からないから、記述は無しで。あとは全体を鍛造して強度を上げるか。
「詳細まで入力出来たら、ヤードのインゴットを『素材を使用する時は~』の欄へドラッグ&ドロップだ。終わったら下にあるクリエイトのボタンを押してくれ。」
ボタンを押すと、『ptを3,000pt消費します。宜しいですか?』と表示される。
鉄は用意してあるのに結構高い!
「まあ、高くなるのは仕方ない。ステンレス鋼の製造は初めてなのでね。製造するなら君の世界から知識を得てこよう。次回からその440C鋼を製造する時はもっと安くなるから安心してくれ。」
そうですか…。440C以外にも種類があるのですが。全部開発していたらptの消費がとんでもない事になりそうだ。まあ、いい。ではOKをポチッとな。
ヤードの中にペティナイフが一本表示された。小型の、いわゆる果物ナイフだ。インゴットは5kgから4kgになっている。ptは残り7,000だ。この辺りは端数が無く、キリのいい数字になるみたいだな。分かり易くて良いが、端数が出ない分、損している気になるが仕方が無さそうだ。
「次だ。ポイントイクスチェンジはヤードに有る物をポイントに変換出来る。選択して現れたウィンドウへ、ヤードからインゴットをドラッグ&ドロップしてくれ。あとは好きな量だけptへ変換してくれ。」
言う通りにすると、『鉄のインゴット4kgを20,000ptに変換します』と表示される。4の部分だけは数値が上下出来る様になっていたので、タップして1kgまで減らし、鉄のインゴット1kgを5,000ptに変換した。ptは残り12,000だ。それにしても鉄1kgあたりの価値が高い様に思える。
「それはこちらの世界が、人力で鉄を採掘しているからだね。埋蔵量は有るのだけどコストがかかる為、希少性も増して価値が加算されているのだ。君の世界の様に、機械で全部やってしまう事は不可能だからね。因みに騎士の鎧は君たちで言う、自動車と同じ様な価値があるよ?お金の無い騎士の家系は鎧を受け継いで、手直しをしながら何代も継承していくのだよ。」
車と一緒とか出鱈目だな。それだけコストが高いならば、武器を買う時は高くつきそうだ、覚えておこう。
「最後にアナザーランゲージだが、これは普通に異世界言語の読み書きが出来るものだ。成長していけば古代魔法言語も読める様になるので、色々使えると思う。」
うん、それはとても重要ですね。どんなに強くてもそれが無いと非常に困る。気を使って貰ってありがたいです。
「さて、大方説明は終えた。長い時間お疲れ様。何か質問はあるかね?」
うーん、割と丁寧に説明して貰ったから特に…。いや、待てよ。
「神様の目的は何でしょうか?」
「――ん? ああ、そう来たか。」
神様は意外な事を聞かれたのか、少し戸惑った様だ。
「実はもう一つ、別の世界を作りたくなってね。それに異世界の知識を混ぜ込んだらどうなるか、検証してみたいのだよ。物の製造方法だけでなく、思想といった物も含めて。ただ、私だけではどうすれば良いのか分からないから、異世界人を自分の作った世界で活動をさせ、それを観察して良い所取りをしたいのだ。君は自分の世界にある、様々な事について色々調べていたね?ならば適任かと思うのだが、どうかな?」
そうでしたか、実は何かとんでもない事を企んでいて、世界を恐怖のズンドコ…、じゃない、どん底に突き落とそうとか考えているかと思いましたが杞憂だったようです。
まあ、参考になるかどうかは分かりませんが、頑張ってはみようかと思います。ただ、とんでもない物を開発して、グチャグチャになりそうですが。
「ま、まあ、あまり無茶な事はしないで欲しいが、君の立場が悪くなりそうなら適度に力を振るう事も許可はしよう。人間社会が根幹から崩壊したりしなければ、その辺りは仕方ないと思っている。」
ならば、あとは現場で判断して必要な物を作っていけば良いか。身体能力においては、今は上がらないようだから心配しても杞憂だし。あ、創造に必要な材料が無いか。どうしよう?
「その辺りは何とかしよう。転移先に、回収出来そうな物が多くある場所を選んでおくよ。ただし、転移した直後は問題無いが、向こうへ着いたら出来る限り早い段階で、身の安全を確保する事をお勧めする。向こうは君の世界より危険だからね。」
まあ、その辺は仕方ないですね。転移しても、すぐに危険が無いなら大丈夫です。
「そうか、では君を異世界へ送ろう。宜しく頼むよ。」
神様がそう言うと俺の足元に、青い色の魔法陣が浮かび上がった。おそらくだが、転移が始まったのだろう。オラ、ワクワクしてきたぞ。
向こうではどんな人種がいるのか? エルフはいるのかな? ああ、神様に聞くのを忘れていた。現地で探してみるか。
他にはオリハルコンやミスリルとかも有れば面白いな。『僕が考えた最強の武器』が現実に出来るからな。
あとは……、初戦闘は多分ゴブリンじゃないかな? 定番だし。
目の前に魔法陣の光が溢れ、あまりの光量に目を瞑ってしまう。見えないのは不安だが、この先には俺が夢見た世界が待っている。
――これから楽しみだ――